「朝、起きるのがつらい」「仕事のことを考えると気分が沈む」「以前は楽しかったはずなのに、今は何も感じない」。そんなふうに、仕事へのやる気を失ってしまうことは誰にでも起こり得ます。特に、障害や病気を抱えながら働いている方にとっては、決して珍しいことではありません。
こうした状態を、「自分の甘えだ」「もっと頑張らなくては」と一人で責めてしまう方が多くいらっしゃいます。しかし、それは心身が発している限界のサインかもしれません。無理を続けると、バーンアウト(燃え尽き症候群)や症状の悪化につながる可能性もあります。
私たち就労移行支援事業所は、そうした悩みを抱える方々が、自分を責めることなく、原因を正しく理解し、自分に合った働き方を見つけるためのお手伝いをする専門機関です。この記事では、なぜ仕事のやる気が出なくなってしまうのか、そして、どうすればその状況を乗り越えられるのかを、専門的な視点から解説していきます。
「障害があると、良い仕事に就けないのでは」「どうせ続かないだろう」といった不安を耳にすることがあります。しかし、実際のデータは、適切なサポートがあれば、安定して働き続けることが十分可能であることを示しています。まずは、障害者雇用の現状を客観的なデータで見ていきましょう。
「就労移行支援を使っても、結局就職できないのでは?」という不安は、最も大きな壁の一つです。しかし、厚生労働省の最新の調査によれば、就労移行支援事業所を利用した方の一般企業への就職率は56.2%に達します。これは、利用者のおよそ2人に1人が希望の就職を実現していることを意味します。
さらに重要なのは、就職後の「定着率」です。同じ調査で、就職して半年後の職場定着率は89.5%という非常に高い数値が報告されています。これは、単に就職するだけでなく、その職場で長く働き続けられている人が大多数であることを示しています。適切なマッチングと就職後のサポートがいかに重要か、この数字が物語っています。
では、具体的にどのような仕事に就いているのでしょうか。厚生労働省の調査によると、就労移行支援を経て就職する方の人気の職種は以下の通りです。特に事務職が最も多く、PCスキルを活かせる仕事が中心となっています。
近年では、企業のDX化に伴い、在宅で可能なデータ入力やWebサイト更新、プログラマーといったIT関連の専門職への就職も増加傾向にあります。就労移行支援事業所では、こうした時代のニーズに合わせたPCスキルや専門技術を学ぶことも可能です。
安定した雇用を望む上で、「正社員になれるかどうか」は大きな関心事です。障害者雇用の求人は契約社員からスタートすることが多いのは事実ですが、正社員への道が閉ざされているわけではありません。
ある調査では、障害者雇用で働く人のうち、現在の雇用形態が正社員である割合は45.6%でした。一方で、今後の希望として正社員を挙げた人は78.1%にのぼり、希望と現実の間にギャップがあることがわかります。
しかし、悲観する必要はありません。別の調査では、障害者雇用の求人のうち、「入社時から正社員」が18.6%、「正社員登用制度あり」が49.5%と、合わせると約7割の求人が正社員になれる可能性を示しています。実際に、最初は契約社員でも、入社5年以内に78%の方が正社員に登用されたというデータもあります。安定した勤務実績を積むことで、キャリアアップは十分に可能です。
仕事へのモチベーションが低下する背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。私たち専門家は、その原因を丁寧に紐解くことから支援を始めます。
「思っていた仕事と違った」「職場の雰囲気が合わない」といったミスマッチは、やる気を削ぐ最大の原因の一つです。特に、障害特性によって生じる「得意なこと」「苦手なこと」が考慮されていない場合、能力を発揮できずにストレスだけが溜まっていきます。
企業側は障害者雇用において、必要な配慮を提供したいと考えています。しかし、本人から「どのような配慮が必要か」を具体的に伝えてもらえなければ、適切なサポートは困難です。採用面接で重要視されるのは、まさにこの点です。
「自分の障害特性を正しく理解し、どのような配使慮があれば能力を発揮できるかを、自分の言葉で説明できること」
例えば、「疲れやすいので1時間に5分程度の休憩をいただきたい」「口頭での指示は忘れてしまうことがあるので、メモでいただけると助かります」といった具体的な要望を伝えるスキルは、安定して働く上で不可欠です。この「自己理解」と「伝える力」が不足していると、職場で無理を重ねてしまい、結果的にモチベーションの低下につながります。
新しい環境での仕事は、誰にとっても大きなエネルギーを消耗します。特に、障害や病気を抱えている場合、通院との両立や日々の体調管理が大きな課題となります。生活リズムが崩れると、気分の浮き沈みが激しくなったり、集中力が続かなくなったりします。
「休むことへの罪悪感」から無理をして出勤し、結果的に欠勤が増えてしまうという悪循環に陥るケースも少なくありません。まずは安定して通い続けるための体力と生活習慣を身につけることが、やる気を維持する土台となります。
では、失われたモチベーションを取り戻し、自分らしく働き続けるためにはどうすればよいのでしょうか。就労移行支援事業所では、一人ひとりの状況に合わせて、以下の4つのステップであなたの再スタートをサポートします。
支援の第一歩は、専門のスタッフとの面談を通じて、自分自身を深く知ることから始まります。これまでの経験を振り返り、自分の得意なこと、苦手なこと、ストレスを感じる状況、そしてどのような配慮があればパフォーマンスを発揮できるのかを一緒に整理していきます。これは、いわば自分自身の「取扱説明書(トリセツ)」を作る作業です。このトリセツが、今後の就職活動や職場で配慮を求める際の強力な武器になります。
「自分にはスキルがないから…」という不安は、やる気を阻害する大きな要因です。就労移行支援では、個々の目標に合わせた様々な職業訓練プログラムを提供しています。
小さな「できた」を積み重ねることで、失っていた自信を取り戻し、「やってみたい」という前向きな気持ちを育てます。
自己分析とスキルアップができたら、いよいよ就職活動です。一人での就職活動は孤独で、何から手をつけていいか分からなくなりがちです。就労移行支援では、専門の支援員があなたと企業との「橋渡し役」となります。
内定はゴールではなく、新しいスタートです。就労移行支援の真価は、就職後の「定着支援」にあると言っても過言ではありません。就職後6ヶ月間、支援員が定期的に職場を訪問したり面談を行ったりして、あなたが新しい環境にスムーズに適応できるようサポートします。
仕事の悩みや人間関係、体調管理など、上司には直接言いにくいことも、支援員が間に入って企業側と調整します。このサポートがあるからこそ、89.5%という高い定着率が実現できているのです。もし6ヶ月後も支援が必要な場合は、「就労定着支援事業」という別のサービスを利用して、最長3年間サポートを延長することも可能です。
障害のある方の「働く」を取り巻く環境は、今まさに大きな変革期を迎えています。その象徴となるのが、2025年10月から本格的にスタートする新制度「就労選択支援」です。
この制度は、就労移行支援などの福祉サービスを利用する前に、「自分にはどのような働き方が合っているのか」を客観的に評価(アセスメント)し、多様な選択肢の中から最適な進路を選ぶことを目的としています。これまでは、まず事業所を決めてから適性を評価することが一般的でしたが、今後は中立的な立場の専門員が短期間の作業体験などを通じて本人の強みや課題を整理し、本人・家族・関係機関と一緒に最適な働き方を考えていくプロセスが導入されます。
「就労選択支援」は、就職におけるミスマッチを根本から減らし、一人ひとりが納得してキャリアの第一歩を踏み出すための、いわば「働き方のナビゲーター」です。この制度の導入により、障害のある方が自分の能力を最大限に発揮できる職場環境が、これまで以上に整っていくことが期待されています。
私たち就労移行支援事業所も、この新しい枠組みと連携し、利用者の皆様がより良い選択をするためのサポート体制を強化していきます。
「仕事にやる気が出ない」という悩みは、決して特別なことでも、あなたの弱さのせいでもありません。それは、働き方を見直すための大切なサインです。障害者雇用を取り巻く環境は、法定雇用率の引き上げ(2026年7月には2.7%へ)や「就労選択支援」の開始など、国を挙げて改善が進められています。
この記事で見てきたように、
もしあなたが今、一人で悩んでいるなら、ぜひ一度、お近くの就労移行支援事業所に相談してみてください。専門の支援員が、あなたの「やってみたい」という気持ちに寄り添い、自信を持って社会で活躍するための一歩を、共に歩んでくれます。その小さな一歩が、あなたの未来を大きく変えるきっかけになるはずです。