コラム 2026年1月27日

精神・発達障害者の復職を成功に導く「就労移行支援」活用完全ガイド

なぜ今、精神・発達障害者の「復職支援」が重要なのか?

近年、日本の労働市場において、障害者雇用は大きな変革期を迎えています。特に、精神障害者および発達障害者の雇用は、法整備の進展や社会的な理解の深まりを背景に、著しい増加傾向にあります。厚生労働省の発表によると、民間企業に雇用されている精神障害者の数は、2013年(平成25年)の約8.2万人から2024年(令和6年)には約18.6万人へと、この10年余りで2倍以上に増加しました。。これは、障害者全体の雇用者数に占める精神障害者の割合が約27.8%に達することを意味し、企業にとって重要な労働力となっている現状を浮き彫りにしています。

しかし、この「量的拡大」の裏側で、看過できない「質的課題」が顕在化しています。それが、職場定着率の低さです。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センターの調査研究によれば、就職後1年時点での職場定着率は、身体障害者が60.8%、知的障害者が68.0%であるのに対し、精神障害者は49.3%と半数を下回っています。発達障害者も71.5%と比較的高いものの、精神障害との併存(重複)も多く、依然として定着には困難が伴います。。このデータは、採用された精神障害者のうち、2人に1人が1年以内に離職しているという厳しい現実を示しています。

では、なぜ精神・障害を持つ人々の職場定着は難しいのでしょうか。その原因は、単に病状の再燃や障害特性そのものに帰結するわけではありません。離職理由の上位には、「職場の雰囲気・人間関係」「賃金・労働条件」そして「仕事内容が合わない」といった項目が並びます。。これは、本人と職場環境との間の「ミスマッチ」が、離職の大きな引き金となっていることを示唆しています。具体的には、曖昧な指示による混乱、感覚過敏による疲弊、対人関係のストレス、業務量の過多などが、本人のパフォーマンスを低下させ、最終的に休職や離職につながるケースが少なくありません。

この課題は、裏を返せば「適切な支援と環境調整があれば、多くの離職は防げる可能性がある」という希望の光でもあります。特に、一度は職場を離れざるを得なかった「休職者」が、再び同じ職場で、あるいは新しい職場で輝くためには、単なる根性論や個人の努力だけでは限界があります。そこには、科学的根拠に基づいた体系的な「復職支援」が不可欠です。本記事では、この複雑で重要な課題に対する強力な解決策として、障害者総合支援法に基づく福祉サービス「就労移行支援」に焦点を当てます。従来、主に新規就職を目指す人々が利用するイメージの強かったこのサービスが、実は「復職(リワーク)」のプロセスにおいて、いかに絶大な効果を発揮するのか。その具体的な活用法、プログラム内容、成功事例、そして関連する国の制度までを網羅的に解説します。本稿が、休職からの再起を目指す当事者、支えるご家族、そして受け入れる企業担当者の皆様にとって、確かな一歩を踏み出すための羅針盤となることを目指します。

【基本理解】就労移行支援と復職(リワーク)支援:違いと最適な選び方

精神・発達障害のある方が休職から職場復帰を目指す際、「就労移行支援」と「リワーク支援」という二つの言葉を耳にすることが多いでしょう。これらは似ているようで、その目的や提供されるサービス内容には明確な違いがあります。自分にとって最適な支援を選択するためには、まず両者の本質を正確に理解することが不可欠です。この章では、それぞれの定義、特徴、そして両者の関係性を整理し、あなたがどちらの支援を活用すべきかの判断基準を提示します。

就労移行支援とは?

就労移行支援は、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスの一つです。一言で言えば、一般企業への就職を目指す障害のある方のための「公的な職業訓練校」のような存在です。。単に仕事のスキルを教えるだけでなく、就職活動の準備から就職後の職場定着まで、一貫したサポートを提供するのが大きな特徴です。

  • 目的:障害のある方が、自身の適性や能力に合った職に就き、安定して働き続けることを目指します。新規就職だけでなく、休職からの復職や転職も支援対象となります。
  • サービス内容:支援は、利用者一人ひとりの状況や目標に合わせて作成される「個別支援計画」に基づいて行われます。具体的には、以下のような多岐にわたるプログラムが提供されます。
    • 自己理解プログラム:自身の障害特性(得意なこと・苦手なこと)を客観的に把握し、対処法を学びます。
    • 職業準備訓練:ビジネスマナー、コミュニケーションスキル(報告・連絡・相談など)、PCスキル(Word, Excelなど)といった基礎的なビジネススキルを習得します。
    • 職場実習(インターンシップ):協力企業での実習を通じて、実際の職場環境を体験し、自身との相性や課題を確認します。
    • 就職活動サポート:履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接、求人情報の提供、企業とのマッチング支援などを行います。
    • 職場定着支援:就職後も、支援員が定期的に本人や企業担当者と面談を行い、課題解決や環境調整をサポートします(就職後6ヶ月間)。
  • 特徴:
    • 利用期間:原則として最長24ヶ月(2年間)利用できます。。この期間内で、自分のペースでじっくりと準備を進めることが可能です。
    • 事業所の多様性:全国に約3,000ヶ所以上の事業所があり、NPO法人や民間企業など様々な主体が運営しています。そのため、「IT・プログラミング」「Webデザイン」「事務職」「軽作業」など、特定の分野に特化したプログラムを持つ事業所も多く、自分の目指すキャリアに合わせた選択が可能です。

復職(リワーク)支援とは?

復職(リワーク)支援は、うつ病などのメンタルヘルス不調により休職した方が、元の職場へスムーズに復帰(リワーク)し、再休職を防ぐことを目的としたリハビリテーションプログラムの総称です。。提供する機関によって、その内容や特徴が異なります。

リワーク支援は、主に以下の4種類に大別されます。

  1. 医療リワーク:
    • 提供機関:病院やクリニックなどの医療機関。
    • 目的:治療の一環として、病状の回復と安定、再発防止に主眼を置きます。集団精神療法や心理教育プログラムなどが中心です。
    • 特徴:健康保険が適用され、自立支援医療制度を利用すれば費用負担を軽減できます。主治医の指示のもとで行われるため、医学的な観点からのサポートが手厚いのが特徴です。
  2. 職リハリワーク(職業リハビリテーションリワーク):
    • 提供機関:各都道府県に設置されている地域障害者職業センター。
    • 目的:職場復帰に向けた本人と企業、主治医の三者間のコーディネートを行います。
    • 特徴:無料で利用できます。生活リズムの再構築、ストレス対処、コミュニケーションスキルの向上など、職場適応に焦点を当てたプログラムが提供されます。
  3. 福祉リワーク:
    • 提供機関:就労移行支援事業所などが提供する復職支援プログラム。
    • 目的:就労移行支援の枠組みを活用し、より実践的な職場復帰準備を行います。
    • 特徴:PC訓練や模擬業務など、実務に近い訓練が豊富な点が特徴です。障害福祉サービスとして提供されるため、所得に応じて費用負担が軽減されます。本記事で中心的に解説するのは、この「福祉リワーク」です。
  4. 職場リワーク:
    • 提供機関:休職者本人が所属する企業。
    • 目的:社内の制度として、試し出勤や短時間勤務などを通じて、段階的に職場復帰を進めます。
    • 特徴:産業医や人事部が中心となって進められます。企業の規模や体制によって内容が大きく異なります。

あなたに合うのはどっち?違いと関係性を整理

「就労移行支援」と「リワーク支援」、どちらを選ぶべきか。その答えは、あなたの現在の状況と将来の目標によって変わります。以下の表で、両者の違いを明確に整理してみましょう。

項目 就労移行支援 リワーク支援(主に医療・職リハ)
主な目的 一般企業への就職・転職・復職 元の職場への復帰(再休職予防)
対象者 就職・復職を目指す障害のある方全般 主にメンタル不調で休職中の方
プログラムの焦点 自己理解、職業スキル、就職活動、職場定着など包括的 病状回復、再発防止、ストレス対処など治療・リハビリ的
利用期間 原則2年 3ヶ月〜1年程度が多い(機関による)
法的根拠 障害者総合支援法 医療保険法、障害者雇用促進法など(機関による)
費用 所得に応じた負担(約9割が無料) 保険適用(医療リワーク)、無料(職リハリワーク)など

この整理から、以下のような判断基準が見えてきます。

  • 「元の職場への復帰」を第一に考え、まずは心身の回復と再発防止に集中したい方は、主治医と相談の上で「医療リワーク」「職リハリワーク」が適しているでしょう。
  • 一方で、「休職を機に、自分の特性を見つめ直し、新しい働き方や別の職場(転職)も視野に入れたい」、あるいは「より実践的なビジネススキルを身につけてから復帰したい」と考える方には、「就労移行支援」が非常に有効な選択肢となります。

重要な接点:「福祉リワーク」という選択肢

ここで最も重要な点は、就労移行支援事業所が提供する「福祉リワーク」が、両者の強みを併せ持つハイブリッドな選択肢であるということです。

厚生労働省のQ&Aによれば、休職中の方が就労移行支援を利用することは、以下の3つの条件を満たす場合に認められています。

  1. 企業や医療機関による復職支援の実施が見込めない、または困難である場合。
  2. 本人、企業、主治医の三者が、就労移行支援の利用による復職が適当であると判断している場合。
  3. 市区町村が、就労移行支援の利用がより効果的かつ確実に復職に繋がると判断した場合。

この制度により、休職者は就労移行支援事業所という「安全なリハビリの場」で、自己理解を深め、実践的なスキルを学び、専門家のサポートを受けながら、万全の体制で職場復帰を目指すことが可能になります。次の章では、この「復職特化型」の就労移行支援の活用法について、さらに深く掘り下げていきます。

【核心解説】精神・発達障害者のための「復職特化型」就労移行支援活用ガイド

休職からの復帰は、単に「職場に戻る」ことだけがゴールではありません。真の成功とは、「再休職することなく、安定して働き続ける」ことです。特に、対人関係の困難さや感覚過敏、注意・集中の課題などを抱える精神・発達障害のある方にとって、復職の道のりは決して平坦ではありません。この章では、なぜ「就労移行支援」がその険しい道のりを乗り越えるための強力な武器となるのか、その核心に迫ります。

なぜ復職準備に就労移行支援が有効なのか?

休職者が一人で、あるいは会社の限定的なサポートだけで復職を目指す場合、多くの壁に直面します。体力が戻らない、再発への不安が拭えない、職場の人間関係が怖い、自分のどこをどう改善すれば良いか分からない――。就労移行支援は、こうした課題を解決するための3つの重要な機能を提供します。

1. 客観的な自己分析の場:自分を「知る」専門的サポート

休職に至った原因の多くは、自分自身の特性と職場環境とのミスマッチにあります。就労移行支援事業所は、このミスマッチの正体を突き止めるための「分析ラボ」の役割を果たします。専門的な知識を持つ支援員(精神保健福祉士、臨床心理士など)との面談や、体系化されたプログラムを通じて、自分を客観的に見つめ直すことができます。

  • 障害特性の言語化:例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある方が「なぜか人と話すと疲れる」と感じていた場合、支援員との対話を通じて「相手の意図を読み取ろうと過剰にエネルギーを使っている」「暗黙のルールが分からず不安になる」といった具体的な要因を言語化できます。
  • 具体的な対処法の習得:ADHD(注意欠如・多動症)の傾向でマルチタスクが苦手な方には、「電話は録音して後でメモする」「タスクは付箋で可視化し、一つずつ処理する」といった、すぐに実践できる具体的なセルフケア技術を一緒に考え、練習することができます。

このように、一人では気づけなかった自分の「取扱説明書」を作成するプロセスは、復職後の困難を乗り越えるための土台となります。

2. 安全な環境での段階的トレーニング:「できる」を積み重ねるリハビリの場

休職期間が長引くと、体力や集中力は低下し、働くこと自体への自信も失われがちです。いきなり元の職場に戻るのは、準備運動なしでフルマラソンを走るようなもの。就労移行支援事業所は、心身を慣らしていくための「安全なトレーニングジム」です。

  • 生活リズムの再構築:まずは「決まった時間に家を出て、事業所に通う」ことから始めます。週2日、半日だけの利用からスタートし、体調に合わせて徐々に日数や時間を増やしていくことで、無理なく通勤に必要な体力を回復できます。
  • 模擬業務による負荷テスト:実際の職場ではないため、失敗を恐れずに様々な課題に挑戦できます。簡単なデータ入力から始め、徐々に複雑な事務作業やグループでのプロジェクトに取り組むことで、自分がどの程度の業務負荷に耐えられるのか、どんな状況でストレスを感じやすいのかを安全に試すことができます。

「今日も通えた」「この作業は集中してできた」という小さな成功体験の積み重ねが、失われた自信を取り戻し、復職への意欲を高めてくれます。

3. 「企業・主治医・本人」をつなぐハブ機能:円滑な連携の調整役

復職を成功させるには、本人の努力だけでなく、企業側の理解と協力、そして主治医の医学的判断が不可欠です。しかし、この三者の連携は容易ではありません。本人は「配慮をお願いしたいが、わがままと思われないか」と不安に思い、企業は「どんな配慮をすれば良いか分からない」と戸惑い、主治医は「職場の具体的な状況が分からない」というジレンマを抱えがちです。就労移行支援事業所は、この三者をつなぐ「中立的なハブ(拠点)」として機能します。

  • 情報の翻訳と伝達:支援員は、主治医の「一度に多くの情報を処理するのが苦手」という医学的見解を、「指示は一つずつ、口頭だけでなくチャットでも残してください」といった具体的な職場での配慮事項に「翻訳」して企業に伝えます。
  • 調整と交渉:本人の希望(例:短時間勤務からの開始)と企業の意向を調整し、現実的な復職プラン(リワークプラン)を共に作成します。支援員が間に入ることで、本人が直接言いにくいことも伝えやすくなり、円滑な合意形成が可能になります。

このハブ機能により、関係者全員が同じ目標に向かって協力する体制が築かれ、復職の成功確率が飛躍的に高まります。

復職を成功させるための具体的なプログラム内容

就労移行支援事業所が提供する復職支援プログラムは、画一的なものではありません。利用者の状態や目標に応じて、様々なプログラムが組み合わされます。ここでは、特に精神・発達障害のある方の復職に効果的な代表的プログラムを紹介します。

1. 自己理解とストレスマネジメント

再休職を防ぐ上で最も重要なのが、セルフケア能力の向上です。自分の特性を知り、ストレスに適切に対処する方法を学びます。

  • 障害特性理解プログラム:ASDやADHDなどの発達障害、うつ病や双極性障害などの精神障害の特性について学びます。自分の困りごとが「怠け」や「性格」の問題ではなく、障害特性に起因するものであると理解することで、自己肯定感を回復し、具体的な対策を立てる第一歩となります。
  • 認知行動療法(CBT):自分の思考の「癖」に気づき、より現実的で柔軟な考え方ができるように練習します。例えば、「一度のミスで全てが終わりだ」という極端な思考を、「ミスは誰にでもある。次にどう活かすかが重要だ」という考え方に修正していくトレーニングを行います。
  • ストレスマネジメント:自分がどんな時にストレスを感じるか(ストレス要因)、その時にどんな反応が起きるか(ストレス反応)を記録し、パターンを把握します。そして、リラクゼーション法(深呼吸、瞑想)やアンガーマネジメント(怒りのコントロール法)など、自分に合ったストレス解消法を身につけます。

2. コミュニケーションスキルの再構築

職場での人間関係は、離職の大きな要因の一つです。孤立を防ぎ、円滑な協業関係を築くためのスキルを実践的に学びます。

  • ソーシャルスキルトレーニング(SST):「上司への報告・連絡・相談」「同僚への仕事の依頼・断り方」「雑談への入り方」など、職場で想定される具体的な場面を設定し、ロールプレイング形式で繰り返し練習します。他の利用者からのフィードバックも得られ、客観的に自分の振る舞いを見直すことができます。
  • アサーティブコミュニケーション:自分の意見や気持ちを押し殺すのでも、一方的に主張するのでもなく、相手を尊重しながら誠実に伝えるためのコミュニケーション技術です。例えば、「できません」と断るだけでなく、「その仕事は今日中には難しいですが、明日の午前中までなら対応可能です」といった代替案を添える伝え方を学びます。

3. ビジネススキルの向上と実践

休職によるブランクを取り戻し、業務遂行能力への自信を回復させるための訓練です。

  • PCスキル訓練:多くの事業所で、Word、Excel、PowerPointといった基本的なOfficeソフトの講座が用意されています。IT特化型の事業所では、HTML/CSS、プログラミング言語など、より専門的なスキルを学ぶことも可能です。
  • 模擬業務訓練:実際の職場を想定した環境で、データ入力、書類作成、電話応対などの模擬業務を行います。これにより、作業の正確性やスピード、集中力の持続時間などを客観的に評価し、課題を把握することができます。
  • タスク管理・時間管理:複数の業務を抱えた際に、優先順位をつけて計画的に進める訓練をします。タイムマネジメントツールを使ったり、一日のスケジュールを立てて実行したりすることで、ADHDの特性がある方が苦手としがちな計画実行能力を高めます。

復職までの標準的なステップ

就労移行支援を活用した復職は、計画的かつ段階的に進められます。以下に、相談から復職後の定着支援までの標準的な流れを7つのステップで示します。

  1. 相談と情報収集:まず、主治医に復職の意向を伝え、就労移行支援の利用について相談します。同時に、会社の人事部や上司にも相談し、復職支援制度の利用について理解を得ます。Webサイトや自治体の窓口で情報を集め、いくつかの就労移行支援事業所の見学や体験利用に参加し、雰囲気やプログラム内容が自分に合うかを確認します。
  2. 利用申請:利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で「障害福祉サービス受給者証」の申請手続きを行います。申請には、医師の診断書や意見書、サービス等利用計画案などが必要となります。申請から交付まで1〜2ヶ月程度かかることもあるため、早めの行動が重要です。
  3. 個別支援計画の策定:受給者証が交付されたら、事業所と正式に利用契約を結びます。その後、担当の支援員と詳細な面談を行い、休職に至った経緯、現在の心身の状態、復職に向けた目標や課題、希望する配慮事項などを共有し、具体的な訓練内容を盛り込んだ「個別支援計画」を作成します。
  4. 訓練開始(リハビリ期):通所を開始します。最初の1〜3ヶ月は、主に生活リズムを整え、事業所の環境に慣れることが目標です。週2〜3日の短時間利用から始め、自己理解やストレスマネジメントなどの基礎的なプログラムに参加します。
  5. 三者連携による調整(準備期):心身の状態が安定してきたら、復職に向けた具体的な調整に入ります。3ヶ月に1回程度の頻度で、本人、支援員、企業担当者(人事・上司)、そして必要に応じて主治医も交えた三者(四者)面談を実施します。この場で、復職のタイミング、復帰後の業務内容、勤務時間(短時間勤務からの開始など)、必要な配慮事項(例:指示の明確化、定期的な面談の実施)などを具体的にすり合わせ、合意形成を図ります。
  6. 職場復帰(移行期):正式な復職に先立ち、通勤訓練や、数時間だけ会社で過ごす「試し出勤」などを行うこともあります。そして、三者で合意したプランに基づき、正式に職場復帰します。最初は契約社員や短時間勤務として復帰し、徐々に正社員やフルタイム勤務に移行するケースも多く見られます。
  7. 復職後の定着支援:復職はゴールではなく、新たなスタートです。就労移行支援のサービスには、復職後6ヶ月間の「職場定着支援」が含まれています。この期間、支援員は最低でも月1回は本人と面談し、職場を訪問して企業担当者とも連携します。困りごとがあれば早期に介入し、問題が大きくなる前に対処します。さらに、この6ヶ月が終了した後も、希望すれば「就労定着支援」という別のサービスに切り替えることで、最長3年間、継続的なサポートを受けることが可能です。

【事例紹介】就労移行支援で復職・定着に成功したケース

理論だけでなく、実際の成功事例を知ることは、復職への具体的なイメージを掴む上で非常に役立ちます。ここでは、就労移行支援を活用して見事に復職・定着を果たした2つの典型的なケースを紹介します。

ケース1:発達障害(ASD)・ITエンジニア・30代男性

背景:高いプログラミングスキルを持つAさん。しかし、職場での曖昧な指示や急な仕様変更、雑談などのマルチタスク環境が極度のストレスとなり、上司との関係も悪化。適応障害と診断され休職に至る。

就労移行支援での取り組み:

  • 自己特性の理解:専門プログラムを通じて、自身のASD特性(構造化された環境を好む、言葉の裏を読むのが苦手、シングルタスクが得意)を客観的に理解。「自分の能力不足ではなかった」と認識を改める。
  • 対処法の習得:支援員とのロールプレイングで、「指示は文書やタスク管理ツールでお願いできますか?」「急な変更の際は、一度持ち帰って整理する時間をください」といった具体的な依頼方法(アサーティブコミュニケーション)を練習。
  • 三者連携:支援員が企業との面談に同席。Aさんの特性と強み(高い集中力、正確性)を説明し、「チャットでの指示の徹底」「週1回の1on1での進捗確認とタスク整理」といった具体的な配慮事項を提案。企業側もAさんの専門性を高く評価しており、環境調整に合意。

 

結果:短時間勤務から復職。明確な指示のもとで専門性を発揮できる環境が整ったことで、パフォーマンスが向上。自信を取り戻し、現在はフルタイムでチームに不可欠な戦力として活躍している。

ケース2:精神障害(うつ病)・事務職・20代女性

背景:真面目で責任感が強いBさん。業務量の増加とプレッシャーからうつ病を発症し休職。復職への意欲はあるものの、体力・気力の低下と「また同じことになったらどうしよう」という再発への強い不安を抱えていた。

就労移行支援での取り組み:

  • 生活リズムと体力の回復:週3日・午前のみの通所からスタート。事業所に「通う」ことで生活リズムを整え、軽作業やPC訓練を通じて徐々に活動時間を延ばし、フルタイム勤務に耐えうる体力を回復。
  • ストレスマネジメント:認知行動療法プログラムに参加し、完璧主義的な思考パターンに気づく。「80点で良い」「人に頼っても良い」という新しい考え方を身につける。また、自身のストレスサイン(頭痛、不眠)を早期に察知し、休息を取るなどのセルフケアを習得。
  • 段階的な復職プラン:支援員が企業・主治医と連携し、「復職後3ヶ月は残業なし」「週報で業務量と体調を上司と共有する」といった詳細な復職プランを作成。Bさんの不安を軽減し、企業側も受け入れ体制を整えやすくなった。

 

結果:計画通りに復職を果たし、半年が経過。定着支援サービスを利用し、月1回の支援員との面談で心境を整理。体調の波はあるものの、学んだセルフケアを実践し、大きな不調なく安定して勤務を継続している。

【関連知識】多様化する国の就労支援サービス

精神・発達障害のある方の「働く」を支える仕組みは、就労移行支援だけではありません。国は、個々の状況やニーズに合わせて選択できるよう、多様なサービスを整備しています。また、これらのサービスを適切に利用するためには、身近な相談窓口を知っておくことも重要です。この章では、就労移行支援と合わせて知っておきたい関連サービスと公的機関について解説します。

就労移行支援以外の選択肢

障害者総合支援法に基づく就労系福祉サービスは、利用者の状態や目指すゴールに応じて、いくつかの種類に分かれています。これらのサービスは互いに連携しており、ステップアップしていくことも可能です。

就労継続支援(A型・B型)

一般企業で働くことが現時点では難しい方に対して、支援を受けながら働く機会を提供するサービスです。

  • A型(雇用型):事業所と利用者が雇用契約を結び、労働者として働きます。そのため、最低賃金が保障され、社会保険の適用もあります。比較的、一般就労に近い形での就労経験を積むことができます。
  • B型(非雇用型):事業所と雇用契約を結ばずに、本人の体調やペースに合わせて軽作業などの生産活動を行います。作業対価として「工賃」が支払われますが、最低賃金の保障はありません。まずは日中の居場所や活動の場として、社会とのつながりを持ちたい方に適しています。

就労継続支援は、一般就労へのステップアップを目指す訓練の場として、あるいは長期的に安定して働き続けるための場として、重要な役割を担っています。

就労定着支援

就労移行支援などを利用して一般企業に就職した方が、その職場で長く働き続けられるようにサポートするサービスです。2018年に新設されました。

  • 対象者:就労移行支援等の利用を経て一般就労し、就職から6ヶ月が経過した方。
  • サービス内容:就職後の環境変化に伴って生じる、仕事上または生活上の課題について相談に乗り、解決を支援します。例えば、「上司との関係に悩んでいる」「給料の管理がうまくいかない」「休日の過ごし方が分からない」といった相談に対し、支援員が本人と企業の間に入って調整したり、具体的なアドバイスを行ったりします。
  • 利用期間:最長3年間。就労移行支援の卒業後も、切れ目のないサポートを受けられる体制が整っています。就労定着支援の利用率はまだ48.7%に留まりますが、この支援を利用することで定着率が大幅に向上することが期待されています。

就労選択支援(2025年10月1日施行予定)

2022年の障害者総合支援法改正により創設された、最も新しいサービスです。 これまでの課題であった「どの支援サービスが自分に合っているか分からない」というミスマッチを防ぐことを目的としています。

  • 目的:本格的な就労支援サービスを利用する前に、短期間の作業体験などを通じて本人の就労能力や適性、希望を客観的に評価(アセスメント)し、本人に最も合ったサービスや働き方を一緒に考えるプロセスです。
  • プロセス:利用者は就労選択支援事業所で、1〜2ヶ月程度の期間、模擬作業や面談を通じてアセスメントを受けます。その結果は「アセスメントシート」としてまとめられ、本人、ハローワーク、相談支援事業所などで共有されます。
  • 期待される効果:このアセスメント結果を基に、本人は「自分にはITスキルを学べる就労移行支援が合っている」「まずはB型で体力をつけよう」といった、根拠のある意思決定ができるようになります。これにより、支援のミスマッチが減り、より効果的な就労と定着に繋がることが期待されています。

相談できる公的機関

これらの福祉サービスを利用するにあたり、どこに相談すればよいか分からない場合も多いでしょう。以下に挙げる公的機関は、すべて無料で相談でき、適切な支援につないでくれる重要な窓口です。

  • 地域障害者職業センター:各都道府県に設置されている、障害者雇用の専門機関です。
    • 職業評価:専門的な検査を通じて、職業的な強みや課題を詳細に評価してくれます。
    • 職業準備支援:センター内で、作業体験やコミュニケーション講座などのプログラムを提供します。
    • ジョブコーチ支援:就職後の職場に専門の支援員(ジョブコーチ)を派遣し、本人と企業の双方をサポートします。
    • リワーク支援:前述の「職リハリワーク」を提供しており、休職者の復職支援も行っています。

     

  • 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):より地域に密着した形で、就職と生活の両面を一体的に支援する機関です。「なかぽつ」や「しゅうぽつ」という愛称で呼ばれています。
    • 就業支援:職場実習のあっせん、就職活動のサポート、就職後の相談など、実践的な支援を行います。
    • 生活支援:金銭管理、健康管理、住居に関する相談など、安定した職業生活を送るための基盤となる生活面のサポートも行います。
    • 就労パスポートの作成支援:自身の障害特性や希望する配慮などをまとめた「就労パスポート」の作成を支援し、企業との円滑なコミュニケーションを助けます。
  • ハローワーク(公共職業安定所):全国に設置されており、障害のある方向けの専門窓口(専門援助部門)があります。
    • 求人紹介:障害者雇用枠の求人情報を豊富に持っており、専門の相談員がマッチングを支援します。
    • 相談・情報提供:仕事の探し方や履歴書の書き方などの相談に応じるほか、前述の就労移行支援事業所や各種支援機関の情報提供も行います。
    • 採用面接への同行:必要に応じて、企業の採用面接に同行し、本人に代わって必要な配慮などを説明してくれる場合もあります。

どこに相談すれば良いか迷ったら、まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口か、上記のいずれかの機関に連絡してみることをお勧めします。そこから、あなたの状況に最適な支援の道筋が見えてくるはずです。

【実践情報】就労移行支援の利用手続き・費用・Q&A

就労移行支援が復職に有効であると理解しても、実際に利用するとなると「自分は対象になるのか」「手続きが複雑そう」「費用はどのくらいかかるのか」といった実践的な疑問が湧いてくるでしょう。この章では、利用を具体的に検討するための手続き、費用、そしてよくある質問について、分かりやすく解説します。

利用対象者

就労移行支援を利用できるのは、以下の条件を満たす方です。

  • 年齢:原則として18歳以上65歳未満の方。サービス利用開始時に65歳未満であれば、その後も継続して利用可能です。
  • 対象となる障害や疾病:
    • 精神障害:うつ病、双極性障害、統合失調症、適応障害、不安障害、てんかんなど。
    • 発達障害:自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)など。
    • 身体障害、知的障害。
    • 難病:障害者総合支援法の対象となる369疾病(2024年4月時点)など。
  • 意欲:一般企業への就職や復職を目指しており、訓練を通じて就労が可能と見込まれる方。
  • 障害者手帳の有無:障害者手帳を持っていなくても利用可能です。その場合、医師の診断書や意見書、あるいは自立支援医療受給者証など、障害や疾病により支援が必要であることが客観的に証明できる書類があれば申請できます。 これは非常に重要なポイントで、手帳の取得に抵抗がある方や、診断は受けているが手帳は申請していない「グレーゾーン」の方も支援の対象となり得ます。

利用手続きの簡単ステップ

手続きは複雑に思えるかもしれませんが、一つ一つのステップを順番に進めれば大丈夫です。多くの事業所が手続きのサポートもしてくれます。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 事業所を探し、見学・体験する:まずは、インターネットや自治体の窓口で情報を集め、興味のある事業所をいくつかリストアップします。ほとんどの事業所で見学や体験利用が可能です。実際に足を運び、事業所の雰囲気、プログラムの内容、スタッフとの相性などを自分の目で確かめることが、最適な事業所選びの鍵となります。
  2. 自治体に相談する:通いたい事業所がおおよそ決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口(名称は自治体により異なります)に「就労移行支援を利用したい」と相談します。ここで、申請に必要な書類や今後の流れについて説明を受けます。
  3. 「障害福祉サービス受給者証」を申請する:窓口で受け取った申請書に必要事項を記入し、必要書類(医師の診断書、収入を証明する書類、マイナンバーカードなど)を添えて提出します。この証明書がなければサービスは利用できません。申請後、自治体の職員によるヒアリング(認定調査)が行われます。
  4. サービス等利用計画案を作成・提出する:受給者証の申請と並行して、「サービス等利用計画案」を作成します。これは、どのような支援をどのくらいの頻度で利用したいかを記す計画書です。通常は自治体が紹介する「指定特定相談支援事業所」の相談支援専門員が本人から聞き取りを行って作成しますが、自分で作成する「セルフプラン」が認められる場合もあります。
  5. 契約・利用開始:申請から1〜2ヶ月後、審査を経て「障害福祉サービス受給者証」が自宅に郵送されます。この受給者証を持って事業所に行き、正式な利用契約を結ぶと、いよいよ通所がスタートします。

ポイント:受給者証の発行には時間がかかるため、復職の希望時期から逆算して、早めに手続きを開始することが重要です。

気になる費用は?

公的な福祉サービスであるため、費用負担は大幅に軽減されています。多くの人が無料で利用しており、経済的な不安を抱える方でも安心して利用できる仕組みになっています。

自己負担額の仕組み

利用料の9割は国と自治体が負担し、自己負担は原則1割です。しかし、所得に応じて月ごとの負担上限額が定められており、それを超える費用はかかりません。

重要なのは、この所得計算の対象となる「世帯」の定義です。18歳以上の場合、利用者本人とその配偶者の所得のみで判断されます。たとえ親と同居していても、親の収入は合算されません。そのため、休職中などで本人に収入がない場合は、無料で利用できるケースがほとんどです。

所得区分ごとの負担上限月額

具体的な負担上限額は、以下の4区分に分かれています。

区分 世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)
※年収おおむね670万円以下の世帯が該当
9,300円
一般2 上記以外(一般1に該当しない課税世帯) 37,200円

ある事業所の実績データでは、利用者の84.2%が自己負担0円(生活保護・低所得)、14.1%が上限9,300円(一般1)で利用しており、全体の約98%が月額9,300円以下でサービスを受けていることが分かります。

その他の費用

  • 交通費:原則として自己負担ですが、自治体によっては通所にかかる交通費の助成制度を設けている場合があります。お住まいの市区町村の窓口に確認してみましょう。
  • 昼食代:こちらも原則自己負担ですが、事業所によっては無料または低価格で提供している場合があります。「食事提供体制加算」という制度を活用している事業所では、栄養バランスの取れた食事が提供されることもあります。

よくある質問(Q&A)

Q. 休職中でも本当に利用できますか?

A. はい、一定の条件を満たせば可能です。
前述の通り、①企業や医療機関等による他の復職支援が困難な場合、②本人・企業・主治医の三者が利用に同意している場合、③自治体が利用を適当と判断した場合、に利用が認められます。 多くの事業所で休職者の復職支援(リワーク)の実績がありますので、まずは諦めずに事業所に相談してみてください。

Q. 毎日通うのが不安です。

A. 心配ありません。ご自身のペースで始められます。
多くの事業所では、週1〜2日、1日数時間といった短時間の利用からスタートすることを認めています。支援員と相談しながら、体調や体力に合わせて徐々に通所日数や時間を増やしていくことができます。大切なのは無理なく「継続すること」です。あなたの状態に合わせた柔軟な利用プランを一緒に考えてくれます。

Q. どんな専門スタッフがいますか?

A. 多様な専門性を持つスタッフがチームでサポートします。
事業所には、以下のような専門職が配置されていることが多く、多角的な視点からあなたを支えます。

  • 精神保健福祉士:精神障害に関する専門知識を持ち、医療機関との連携や生活上の相談に応じます。
  • 臨床心理士/公認心理師:カウンセリングや心理検査を通じて、心の課題にアプローチします。
  • キャリアコンサルタント:職業選択やキャリアプランに関する専門的なアドバイスを行います。
  • 社会福祉士:利用できる社会資源や制度について情報提供し、生活全般をサポートします。
  • 就労支援員、職業指導員、生活支援員:日々の訓練や就職活動、生活面の相談など、最も身近な立場で伴走します。

「この人になら相談できる」と思えるスタッフとの出会いが、支援の効果を大きく左右します。

まとめ:一人で抱え込まず、専門家の支援で「働き続ける未来」へ

本稿では、精神・発達障害のある方が休職から職場復帰を目指す上で、「就労移行支援」がいかに強力なツールとなり得るかを多角的に解説してきました。改めて、その核心を振り返ります。

精神・発達障害のある方の雇用は増加する一方で、その定着率の低さは深刻な課題です。しかし、その原因は個人の能力不足ではなく、多くが「本人特性と職場環境のミスマッチ」に起因します。これは、適切な準備と支援があれば、安定して働き続ける未来は十分に実現可能であることを意味します。

休職からの復帰という道のりは、孤独な闘いになりがちです。体力や自信の低下、再発への不安、複雑な人間関係など、一人で乗り越えるにはあまりにも多くの困難が伴います。ここで重要なのが、一人で抱え込まないことです。

就労移行支援は、単なる職業訓練の場ではありません。それは、

  • 専門家の客観的な視点から「自分自身を深く知る」ための分析ラボであり、
  • 失敗を恐れずに心身を慣らしていく「安全なリハビリテーションの場」であり、
  • 本人・企業・医療機関という異なる立場をつなぎ、円滑な連携を実現する「復職の戦略的ハブ」です。

 

自己理解を深め、具体的なストレス対処法を身につけ、専門家という「伴走者」と共に復職プランを練り上げる。このプロセスこそが、単なる「職場復帰」ではなく、その先にある「持続可能な就労」を実現するための最も確かな道筋です。

もしあなたが今、休職からの復帰に漠然とした不安を感じているのなら、あるいはご家族や部下のことで心を痛めているのなら、ぜひ最初の一歩を踏み出してみてください。お近くの就労移行支援事業所のドアを叩き、「相談したい」と伝えること。その小さな行動が、専門家との出会いを生み、あなたに合った復帰への道筋を照らし、確かな「働き続ける未来」へとつながる、最も重要な第一歩となるはずです。

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