コラム 2026年2月10日

「間違い探しが苦手…」は仕事のサイン? 発達障害の特性とミスの関係を就労移行支援事業所が徹底解説

その「苦手」は、あなたのせいではないかもしれません

「2つの絵を見比べる『間違い探し』が、なぜか昔から苦手だった…」
「書類のチェックや商品の検品作業で、他の人がすぐに気づくようなミスを自分だけが見逃してしまう…」「データ入力で、元資料と何度も見比べているはずなのに、なぜか数字が違っている…」

このような経験に、深く悩んでいる方はいらっしゃらないでしょうか。周囲からは「不注意だ」「集中力がない」「確認を怠っている」などと指摘され、自分でも「もっと頑張らなければ」と責め続けているかもしれません。しかし、その「苦手」や「ミス」は、単なる不注意や努力不足ではなく、あなたの脳の特性、特に発達障害の特性と深く関係している可能性があります。

この記事は、私たち就労移行支援事業所の視点から、その長年の悩みの根源を専門的に解き明かすことを目的としています。就労移行支援事業所とは、障害のある方が自分に合った仕事を見つけ、長く働き続けるために必要なスキル訓練や就職活動のサポートを行う専門機関です。私たちは日々、発達障害の特性を持つ多くの方々と向き合い、その「苦手」の背景にあるメカニズムを理解し、具体的な対策を一緒に考え、実践しています。

本稿では、「間違い探しが苦手」という一見些細な現象を入り口に、それがどのような認知特性に基づいているのか、仕事のどのような場面で困難として現れるのかを徹底的に解説します。そして何より重要なのは、その困難を乗り越えるための具体的な方法です。専門的なアセスメント、個別化されたトレーニング、そして職場で実践できるセルフケアや「合理的配慮」の求め方まで、私たちが現場で培ってきた知見を余すことなくお伝えします。

この記事を読み終える頃には、あなたが抱えてきた自己否定の感情が和らぎ、「自分のせいではなかったのかもしれない」という安堵と共に、「自分に合ったやり方があるはずだ」という希望を見出せるはずです。これは、あなた自身の「取扱説明書」を作成し、前向きなキャリアを築くための第一歩です。さあ、一緒にその扉を開けていきましょう。

なぜ「間違い探し」が苦手?その背景にある発達障害の特性

「間違い探し」が苦手なのは、決してあなたの注意力が散漫だから、あるいは根気がないから、という単純な話ではありません。このタスクは、私たちの脳が持つ複数の高度な認知機能を同時に、かつ連携させて使うことを要求します。そのいずれかの機能に特性(得意・不得意の偏り)があると、タスク全体のパフォーマンスが低下するのです。ここでは、「間違い探し」という行為を分解し、どの認知機能が関わっているのか、そしてそれが発達障害の特性とどう結びつくのかを科学的根拠に基づいて解説します。

「間違い探し」に必要な3つの認知能力

一見シンプルな「間違い探し」ですが、成功させるためには、脳内で以下の3つの主要な能力が複雑に連携しています。

1. ワーキングメモリ(作業記憶)

ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持し、同時に処理するための能力です。「脳のメモ帳」や「作業台」に例えられます。「間違い探し」では、まず一方の絵(例:左の絵)の特定の部分(例:猫の首輪の色)を記憶し、その情報を保持したまま、もう一方の絵(右の絵)の同じ部分に視線を移して比較します。この「覚えておきながら、比べる」という一連の作業で、ワーキングメモリはフル活用されます。

ワーキングメモリの制限は、複数の図形の特徴を同時に保持し、それらを比較・組み合わせる作業を難しくします。例えば、複数の図形から特定のパターンを見つけ出す問題では、必要な情報を一時的に保持することが困難になります。

ワーキングメモリの容量に課題があると、左の絵の情報を覚えておく段階で情報が抜け落ちてしまったり、右の絵を見ている間に忘れてしまったりします。その結果、「さっき見たはずなのに、どこが違ったか思い出せない」という状況に陥り、何度も両方の絵を行き来する必要が生じ、効率が著しく低下するのです。学研キッズネットの記事でも指摘されているように、「間違い探し」はワーキングメモリを盛んに使うため、この能力のトレーニングとしても知られています。

2. 視覚情報処理(視機能)

「見る」という行為は、単に網膜に像が映ること(視力)だけを指すのではありません。映った情報を脳が理解し、意味のあるものとして処理する能力、すなわち「視機能」が極めて重要です。ヒロクリニックの記事では、「読み書きが苦手」といった行動の裏に、この視機能の問題が隠れている可能性が指摘されています。「間違い探し」においても、以下の視機能が不可欠です。

  • 視覚的注意(Visual Attention): ごちゃごちゃした絵の中から、比較すべき特定の箇所にスッと注意を向ける能力です。この機能が弱いと、どこから見ていいか分からなくなったり、関係のない部分に気を取られたりします。
  • 空間認識(Spatial Recognition): 図形や物体の位置関係、向き、大きさ、そして全体と部分の関係を正確に把握する能力です。リハビリ専門家向けサイトの情報によると、空間認識能力の弱さは、図形問題の苦手さや身体の不器用さにも繋がります。「間違い探し」では、「犬の位置が少し右にずれている」「建物の窓の数が一つ少ない」といった違いを認識するために、この能力が必須となります。
  • 眼球運動(Eye Movement): 2つの絵の間をスムーズかつ正確に目を動かし、効率的に情報をスキャンする能力です。眼球運動がぎこちないと、視線が飛び飛びになったり、同じ場所を何度も見てしまったりして、見落としの原因となります。

3. 注意機能(Attention)

地道な比較作業を続けるためには、集中力を持続させる能力(持続性注意)と、一つの違いを見つけた後、また別の箇所を探すために注意を切り替える能力(転換性注意)が必要です。注意が散漫になりやすい、あるいは一度気になった部分から注意を切り替えにくいといった特性があると、「間違い探し」を最後までやり遂げることが困難になります。

発達障害の特性が「間違い探し」に与える影響

前述した認知機能の課題は、特に発達障害のある方において顕著に現れることがあります。それぞれの障害特性が、「間違い探し」のどの部分に影響を与えるのかを見ていきましょう。

ADHD(注意欠如・多動症)の場合

ADHDの主な特性である「不注意」「多動性」「衝動性」は、「間違い探し」の苦手さに直結します。

  • 不注意特性: ケアレスミスや見落としが多くなる原因です。集中力が持続しにくいため、細かい部分まで注意深く見続けることが困難です。大人の発達障害ナビでも、「注意力が散漫、うっかりミスが多い」ことが特性として挙げられています。ワーキングメモリの弱さも併せ持つことが多く、情報を一時的に保持することが苦手なため、比較作業で混乱しやすくなります。
  • 衝動性特性: 全体をじっくり見る前に、「これだ!」と早とちりしてしまう傾向があります。確認作業を飛ばしてしまい、結果的に間違いを見逃すことに繋がります。LITALICOジュニアのコラムでは、衝動性による早とちりや確認不足が指摘されています。

ASD(自閉スペクトラム症)の場合

ASDの特性である「社会性の困難」や「こだわりの強さ」の背景には、特有の情報処理スタイルがあります。

      • シングルフォーカス(木を見て森を見ず): ASDのある方は、物事の全体像を捉えるよりも、特定の細部に強く注意が向く傾向があります。これを「シングルフォーカス」や「細部へのこだわり」と呼びます。「間違い探し」では、絵の中の非常に細かいディテール(例:キャラクターの服の模様の一つ)に意識が集中するあまり、もっと大きな違い(例:キャラクターが一人増えている)に気づけないことがあります。全体を俯瞰して比較することが苦手なのです。
      • 感覚過敏: 特に視覚的な情報に過敏な場合、カラフルで情報量の多い絵を見ること自体が大きなストレスとなり、脳が疲弊して集中できなくなることがあります。

暗黙のルールの理解困難:

    「間違い探し」には、「絵の基本的な構成は同じで、細かい部分だけが違う」という暗黙の前提があります。この前提をうまく理解できず、どこをどう比較すれば良いのか戸惑うこともあります。

LD/SLD(限局性学習症)の場合

LD/SLDは、知的な遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」といった特定の能力に困難を示す障害です。この中には、視覚的な情報処理に困難を抱えるタイプも含まれます。

  • 視覚認知の困難: 図形や記号の形を正確に認識したり、似た形の中から違いを見分けたりすることが苦手な場合があります。例えば、「b」と「d」を混同するように、間違い探しの絵の中でも左右反転しただけの違いや、微妙な形の変化に気づきにくいことがあります。
  • 空間認知の困難: 前述の通り、物の位置関係や方向を把握するのが苦手なため、「位置がずれている」といった空間的な違いを見つけることに困難を感じます。
この章のキーポイント
  • 「間違い探し」の苦手さは、単なる不注意ではなく、ワーキングメモリ、視覚情報処理、注意機能といった複数の認知機能の課題が関係している。
  • ADHDの不注意や衝動性、ASDのシングルフォーカス(細部へのこだわり)、LD/SLDの視覚認知の困難さなどが、それぞれ異なる形で「間違い探し」のパフォーマンスに影響を与える。
  • 自分の「苦手」の背景にあるメカニズムを理解することは、自己否定から脱却し、具体的な対策を考えるための第一歩となる。

「間違い探しの苦手さ」が仕事で引き起こす具体的な困りごと

前章で解説した「間違い探し」の背景にある認知特性は、遊びの世界だけに留まらず、実際の仕事の現場で様々な「困りごと」として表面化します。特に、正確性や注意深さが求められる業務において、これらの特性は「ケアレスミスが多い」「仕事が雑」といった評価に繋がりやすく、本人の自信喪失やキャリア形成の障壁となることがあります。ここでは、その具体的なつまずきの場面と、なぜミスが繰り返されてしまうのか、その構造を深掘りします。

「比較・照合」が求められる業務でのつまずき

私たちの仕事の多くは、何らかの形で「基準となる情報」と「目の前の対象」を比較・照合する作業を含んでいます。「間違い探し」が苦手な方が困難を感じやすいのは、まさにこの種の業務です。

1. 検品・品質管理

製造業や物流業における検品作業は、「間違い探し」そのものと言えます。良品の見本と製品を見比べ、傷、汚れ、数量の間違い、仕様の違いなどを見つけ出す必要があります。 物流関連の解説サイトでも指摘されているように、検品作業におけるヒューマンエラーは大きな課題です。発達障害の特性を持つ方の場合、

  • ワーキングメモリの課題から、見本の細かい仕様を覚えきれず、何度も見本と製品を行き来してしまう。
  • 視覚的注意の偏りから、特定の部分ばかりに目が行き、他の部分の傷を見逃してしまう。
  • 集中力の持続が難しく、長時間の単純作業で注意力が低下し、後半になるほどミスが増える。

といった状況が起こりやすくなります。

2. 事務作業

オフィスワークは、一見すると身体的な作業は少ないですが、情報と情報を比較・照合するタスクの連続です。就労支援センターのコラムでも、発達障害のある方が事務作業でミスを繰り返しやすい悩みが挙げられています。

  • データ入力・転記: 紙の伝票やアンケートを見ながらExcelや専用システムに入力する作業。元資料の数字「123」を、画面に「132」と打ち込んでしまうような転記ミスや、項目自体の入力漏れが発生しやすくなります。別の支援機関の記事でも、「資料を見ながらデータを入力するとき、数字や文字を一時的に覚えておくことが難しく、見間違いや入力ミスが多くなる」という具体例が示されています。
  • 書類校正・チェック: 契約書、報告書、プレゼン資料などの誤字脱字や数値の間違いを見つける作業です。文章を「文字の連なり」としてではなく、意味の塊として読んでしまうため、細かい誤字を見逃しがちです。また、ASDの特性で細部に目が行き過ぎる場合、文章の論理的な矛盾には気づけても、単純な「てにをは」の間違いには気づけない、といったことも起こります。
  • 伝票処理・経費精算: 請求書と納品書の内容が一致しているか、領収書の金額と申請額が合っているかなどを確認する作業。複数の書類を突き合わせる必要があるため、ワーキングメモリへの負荷が大きく、見落としが発生しやすくなります。

3. 指示の理解と実行

マニュアルや手順書を読みながら作業を進めることも、一種の比較・照合タスクです。「マニュアルに書かれている指示」と「自分の現在の作業」を照らし合わせる必要があるからです。 ワーキングメモリの課題があると、マニュアルの数行を読んでも内容を保持できず、一行読むごとに作業をし、またマニュアルに戻る、という非効率な動きになりがちです。また、不注意特性により、重要な注意書きや手順の一部を読み飛ばしてしまい、結果的に大きなミスに繋がることもあります。

なぜミスが繰り返されるのか?努力不足という誤解の構造

「一度注意されたのだから、次からは気をつけるだろう」——多くの職場ではそう期待されます。しかし、発達障害の特性に起因するミスは、本人の「気をつけよう」という意志の力だけでは、なかなか防ぐことができません。そこには、誤解と悪循環を生む根深い構造が存在します。

1. 「努力不足」「やる気がない」という周囲からの誤解

ミスが繰り返されると、上司や同僚は「本人の努力が足りない」「仕事に対する責任感がない」と判断しがちです。しかし、就労支援企業Kaienのコラムが指摘するように、発達障害のある方が職場で最も心を痛めるのは、この「努力不足と決めつけられること」です。本人は誰よりもミスをなくしたいと願い、人一倍努力しているにも関わらず、脳の特性によって結果が伴わないのです。このギャップが、本人を孤立させ、自己肯定感を著しく低下させる悪循環を生み出します。

発達障害の方が職場で最も心を痛めるのは、「努力不足と決めつけられること」です。しかしそれは誤解であることが多く、大抵の場合は、「努力が不足している」のではなく、「人一倍努力しているけど、努力が成果につながらない」のです。

2. 「見えている」≠「認識できている」という根本的な問題

「ちゃんと見ればわかるでしょ!」という指摘は、最も本人を追い詰める言葉の一つです。なぜなら、本人は「ちゃんと見ている」つもりだからです。問題は、視力(見えているか)ではなく、前章で述べた**視機能(見た情報を脳がどう処理しているか)**にあります。ヒロクリニックの記事で示されているように、目と脳の連携がスムーズでないと、文字や図形は意味のある情報として処理されません。書類の文字は目に入っていても、脳がそれを「間違い」として認識できていないのです。この根本的な問題を理解しない限り、精神論での指導は効果がなく、双方のストレスを増大させるだけです。

3. マルチタスクによる認知負荷の増大

現代の職場は、常にマルチタスクを要求します。「電話応対をしながら、PCで顧客情報を検索する」「複数の案件のメールをチェックしながら、報告書を作成する」などです。予防医療界のウェブサイトでは、ADHDのある人にとってマルチタスクが特に難しい課題であることが解説されています。ワーキングメモリに課題のある人にとって、複数の情報を同時に処理しようとすることは、作業台の上に許容量を超える荷物を一度に乗せるようなものです。結果、全ての荷物が崩れ落ちるように、全てのタスクでミスが頻発します。本人は一つ一つのタスクに集中したいのに、次々と割り込みが入る環境が、ミスを誘発しているのです。

この章のキーポイント
  • 「間違い探しの苦手さ」は、検品、データ入力、書類校正など、「比較・照合」を要する多くの業務でのミスに直結する。
  • ミスが繰り返されるのは本人の努力不足ではなく、周囲の誤解、視機能の問題、マルチタスク環境による認知負荷といった構造的な問題が原因である。
  • 「頑張っているのにできない」という本人の苦しみを理解し、精神論ではなく、特性に基づいた具体的な対策を考える必要がある。

【就労移行支援の専門的アプローチ】「苦手」を客観的に知り、乗り越える

「自分の苦手は、どうやら脳の特性に原因がありそうだ。でも、じゃあどうすればいいのか?」——そう感じている方にとって、私たち就労移行支援事業所は、その答えを一緒に見つけるための専門的なパートナーです。私たちは、単に「頑張れ」と励ますのではなく、科学的なアプローチを用いて一人ひとりの「苦手」の正体を客観的に突き止め、それを乗り越えるための具体的なスキルと戦略を提供します。ここでは、その専門的なアプローチを2つのステップに分けてご紹介します。

ステップ1:アセスメントで「自分の取扱説明書」を作る

支援の第一歩は、「知る」ことから始まります。何を、どのように、どの程度苦手としているのか。逆に、得意なことは何か。どのような環境や工夫があれば、力を発揮できるのか。これを明らかにするのが「アセスメント(評価)」です。

アセスメントの目的:可能性を広げるための羅針盤

ここで強調したいのは、アセスメントは「できないこと」を証明したり、就労の可否を判断したりするためのものではない、ということです。厚生労働省の資料でも明確に述べられているように、アセスメントの真の目的は「就労の可能性を広げていくもの」です。

アセスメントは就労の可能性を判断するものではなく、就労の可能性を広げていくものと捉えています。そのためにもアセスメントした情報を本人と担当支援員だけで共有するのではなく、本人の支援に関わる全ての人が共有できる仕組みが重要になります。

アセスメントを通じて得られた客観的なデータは、あなただけの「取扱説明書」の基礎となります。それは、自分自身が自分の特性を理解し、他者に必要な配慮を的確に伝えるための、そして、私たち支援者が最適な支援計画を立てるための、不可欠な羅針盤なのです。

具体的なアセスメントツール

就労移行支援事業所では、多角的な視点から評価を行うために、様々なツールを組み合わせて使用します。

  • ワークサンプル(模擬作業): これが最も実践的なアセスメントです。実際の仕事を模した様々な作業課題(ワークサンプル)に取り組んでいただきます。例えば、厚生労働省の資料で紹介されている事業所では、200種類以上の手作りワークサンプルが用意されています。
    • 事務系作業: 書類仕分け、データ入力、ファイリング、封入作業など。
    • 軽作業: 部品の組み立て、ピッキング、計量、袋詰めなど。

    これらの作業を通じて、私たちは「正確性」「作業スピード」「集中力の持続時間」「手順の理解力」「報告・連絡・相談ができるか」といった点を客観的に観察・記録します。例えば、「データ入力のワークサンプルでは、15分経過すると入力ミスが急増する」というデータが得られれば、「長時間の集中が課題であり、こまめな休憩が必要」という具体的な対策が見えてきます。

  • 各種職業評価ツール:
    • TTAP (TEACCH Transition Assessment Profile): ASD(自閉スペクトラム症)のある方の特性を評価するために開発されたツールですが、他の発達障害のある方にも応用されます。作業スキル(ハードスキル)だけでなく、コミュニケーションや職業行動といったソフトスキルも含めて、家庭や事業所など複数の場面での様子を評価し、強みと課題を網羅的に把握します。
    • その他: 感覚の特性を調べるシートや、簡単な読み書きの課題などを通じて、ご本人が気づいていない特性を発見することもあります。

自己理解の促進:Aさんの事例から

アセスメントの結果は、専門家が持っているだけでは意味がありません。最も重要なのは、ご本人に分かりやすくフィードバックし、自己理解を深めてもらうことです。前述の厚生労働省の資料に登場するAさん(30代男性、軽度知的障害とASD)の事例は、その好例です。支援者はTTAPの結果をAさん用にまとめた資料(図)を見せながら、Aさん自身の強み、弱み、必要な工夫、今後の目標を共有しました。これにより、Aさんは「自分は口頭指示だけでは抜け漏れが起きやすいから、手順書が必要なんだ」といった自己理解を深め、主体的に対策に取り組むことができるようになったのです。

ステップ2:個別支援計画に基づくスキルトレーニング

アセスメントで明らかになった課題に基づき、一人ひとりに合わせた「個別支援計画」を作成し、具体的なトレーニングを開始します。目標は、苦手を克服することだけではありません。苦手を補う「代替スキル」を身につけ、同時に「得意」をさらに伸ばすことです。

1. 認知機能のトレーニング

ワーキングメモリや注意力といった、ミスの背景にある認知機能そのものに働きかけるトレーニングを行います。多くの事業所では、専用のPCソフトやタブレットアプリを導入しており、ゲーム感覚で楽しみながら、注意の持続・配分・転換といった能力を鍛えることができます。皮肉なことに、まさに「間違い探し」そのものが、視覚的注意力を高める優れたトレーニングツールとして活用されることもあります。

2. 実践的な職業訓練

アセスメントで使ったワークサンプルを、今度は訓練のツールとして活用します。

  • 模擬業務による流暢性の向上: 同じデータ入力作業を繰り返し行うことで、徐々に正確性とスピード(これを「流暢性」と呼びます)を高めていきます。タイムを計り、自分の成長をグラフなどで可視化することで、モチベーションを維持しやすくなります。
  • 代替スキルの習得: ミスをしないように「気をつける」のではなく、ミスが起きにくい「仕組み」を使うスキルを学びます。例えば、
    • チェックリストの活用: 作業手順をリスト化し、一つ終わるごとにチェックを入れる習慣を徹底します。
    • 手順書の作成・活用: 複雑な作業では、自分で写真や図入りの手順書を作成する練習も行います。他者が作った手順書を正確に読み解く訓練も重要です。
    • ツールの活用: スマートフォンのリマインダー機能や、タスク管理アプリ(Trello, Notionなど)の使い方を学び、自己管理能力を高めます。
  • PCスキル訓練: 事務職を目指す場合、Word, Excel, PowerPointなどの基本的な操作はもちろん、データ入力の効率を上げるショートカットキーや関数など、より実践的なスキルを習得します。

3. ストレス対処・コミュニケーション訓練(ソフトスキル)

仕事でつまずいた時、その状況をどう乗り越えるかは非常に重要です。

      • 報告・連絡・相談: ミスをしてしまった時に、隠さずに速やかに報告するにはどう伝えれば良いか。分からないことがある時に、どのタイミングで、誰に、どのように質問すれば良いか。ロールプレイング形式で実践的に学びます。

ストレスマネジメント:

    仕事でストレスを感じた時の対処法(アンガーマネジメント、リラクゼーション法など)を学び、セルフケア能力を高めます。

  • 自己理解の表現: 自分の得意・不得意や、必要な配慮について、相手に分かりやすく伝える練習(自己紹介や模擬面接など)を行います。

このように、就労移行支援事業所では、個々の特性という「根」の部分を深く理解し、そこから生じる仕事上の「幹」や「枝葉」の問題に対して、体系的かつ多角的なアプローチで支援を行っています。一人で闇雲に努力するのではなく、専門家と共に自分の特性と向き合い、戦略的にスキルを身につけていく。それが、確かな自信と「働き続ける力」に繋がるのです。

明日から実践できる!仕事のミスを減らすセルフケアと合理的配慮

就労移行支援事業所での専門的な訓練は非常に有効ですが、それと並行して、あるいは今すぐにでも、ご自身で取り組める工夫や、職場で協力を求めるための準備も重要です。この章では、具体的なセルフマネジメント術と、円滑なコミュニケーションを通じて必要な支援を得るための「合理的配慮」の考え方について解説します。

自分でできる工夫(セルフマネジメント術)

発達障害の特性は、意志の力だけでコントロールするのは困難です。そこで重要になるのが、自分の脳の「外部記憶装置」や「外部制御装置」として、環境やツールを賢く利用するという発想です。

1. 環境を整える:「集中」を邪魔する敵を減らす

  • シングルタスクに徹する: ADHDに関する記事でも強調されているように、マルチタスクはミスを誘発します。「電話をしながらメモを取る」「資料を読みながらメールを書く」といった「ながら作業」を意識的にやめ、一つの作業が終わってから次の作業に移ることを徹底しましょう。
  • 物理的な環境を整理する: 机の上には、今使っている作業に必要なものだけを置きます。視界に余計な物が入ると、それだけで注意が逸れてしまいます。書類はファイルボックスに、文房具は定位置に整理整頓する習慣をつけましょう。
  • デジタル環境を整理する: PCのデスクトップにファイルを散乱させず、フォルダで整理します。ブラウザのタブも、不要なものはこまめに閉じるようにしましょう。
  • 感覚刺激を遮断する: 周囲の話し声や物音が気になる場合は、上司に相談の上、ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓の使用を検討しましょう。照明が眩しすぎる場合は、デスクライトを使ったり、座席の変更を願い出ることも有効です。

2. ツールを使いこなす:「覚えておく」を外部化する

ワーキングメモリの負担を減らすため、「頭で覚えておく」ことをやめ、すべてを外部ツールに記録・管理させるのが基本戦略です。

  • チェックリスト: これは最も強力なツールの一つです。作業の手順を箇条書きにし、完了するたびにチェックを入れます。これにより、手順の抜け漏れを劇的に減らすことができます。LITALICOジュニアのコラムでは、子ども向けの支援として紹介されていますが、これは大人にも絶大な効果があります。ポイントは、自分が見て分かりやすい言葉で、具体的な行動レベルまで細かく書くことです。
  • メモと色分け: 指示は必ずメモを取ることを習慣にします。後で読み返して意味が分かるように、誰から、いつ、何を指示されたのかを記録します。重要な箇所や期日は、カラーペンで色分けしたり、マーカーで囲ったりすると、視覚的に目立ち、見落としを防げます。
  • リマインダー/アラーム: スマートフォンやPCのカレンダー、タスク管理アプリを活用し、タスクの開始時間や締切を通知させます。「15時にA社へ電話する」「17時までに日報を提出する」など、やるべきことをすべて登録しておけば、うっかり忘れを防げます。
  • テクノロジーの活用: 近年の技術は、発達障害のある方の強力な味方です。精神科クリニックの解説にもあるように、
    • 音声入力: メモを取るのが間に合わない場合、スマートフォンの音声入力機能で要点を吹き込んでおく。
    • 読み上げソフト: 自分で書いた文章を読み上げソフトに読ませることで、黙読では気づかなかった誤字脱字や不自然な表現を発見しやすくなります(客観的な視点が得られる)。
    • 生成AI: ChatGPTなどの生成AIに、メールの文面案を作成してもらったり、作成した文章の校正を依頼したりすることで、文章作成の負担とミスを大幅に軽減できます。

職場で求める「合理的配慮」の具体例

セルフケアだけでは対応しきれない部分については、職場に協力を求めることが必要です。これは「わがまま」ではなく、障害者差別解消法で定められた事業者の義務でもある「合理的配慮」にあたります。重要なのは、一方的に要求するのではなく、自分の特性と、それによって生じる困難、そして「どうしてくれれば助かるのか」をセットで具体的に伝えることです。

1. 指示の出し方の工夫

口頭での指示は、聞き漏らしたり、記憶から抜け落ちたりしやすいため、以下のような配慮を依頼することが有効です。

  • 文字での指示: 「口頭でのご指示と合わせて、チャットやメールでも要点を送っていただけると、後で確認できるので大変助かります。」
  • 具体的・明確な指示: 「『あれ、やっといて』『適当にお願い』といった曖昧なご指示ですと、何をすべきか分からず混乱してしまうことがあります。『〇〇の書類を、△△の形式で、15時までにお願いします』のように、具体的に指示していただけるとスムーズに取り組めます。」
  • 一度に一つの指示: 「一度に複数のご指示をいただくと、優先順位が分からなくなったり、どれかを忘れてしまったりすることがあります。大変恐縮ですが、一つの作業が終わってから次のご指示をいただけると幸いです。」

2. 業務プロセスの工夫

ミスが起こりやすい工程に、仕組みとしてチェック機能を組み込んでもらう配慮です。

  • ダブルチェック体制: 「数字の入力や契約書の確認など、特に間違いが許されない作業については、可能であれば他の方にもダブルチェックをお願いできないでしょうか。」
  • 視覚的なマニュアル: 「口頭での説明だけですと手順を覚えきれないことがあるため、写真や図が入った簡単なマニュアルを作成していただけると、間違いなく作業できます。」
  • 見本やテンプレートの用意: 「成果物のイメージが具体的に分かるように、完成品の見本や、使用するテンプレートをご用意いただけると助かります。」

3. 相談の仕方(伝え方のテンプレート)

配慮を依頼する際は、感情的にならず、客観的な事実と具体的な要望をセットで伝えることが成功の鍵です。ディーキャリアのコラムでも、自己対処として「苦手なことを無理やりできるようにする、ではなく、どうすればできるようになるか、を考える」という視点が示されています。

【伝え方の例】
「お忙しいところ恐れ入ります。少しご相談よろしいでしょうか。私には、注意散漫になりやすいという特性があり、特に口頭での指示を記憶しておくことが苦手です。そのため、ご指示いただいた内容を忘れてしまったり、勘違いしてしまったりして、ご迷惑をおかけすることがあります。つきましては、今後の対策として、重要なご指示はチャットなど文字でも残していただけると、抜け漏れがなくなり、より正確に業務を遂行できるかと思います。ご検討いただけますと幸いです。」

このように、「特性(原因)」→「困りごと(事実)」→「配慮のお願い(解決策)」の順で伝えることで、相手も状況を理解しやすく、協力的な姿勢を引き出しやすくなります。

この章のキーポイント
  • 自分の脳の特性を補うため、環境調整やツール活用によって「外部記憶」「外部制御」の仕組みを作ることが有効。
  • チェックリスト、リマインダー、メモなどを徹底し、「頭で覚える」負担を減らす
  • 職場に協力を求める際は「わがまま」ではなく「合理的配慮」という正当な権利であると認識する。
  • 「特性(原因)→困りごと(事実)→配慮のお願い(解決策)」の順で具体的に伝えることで、円滑なコミュニケーションが図れる。

「苦手」は「強み」にもなる。あなたに合った働き方を見つけよう

ここまで、「間違い探しが苦手」という特性が引き起こす困難と、その対策について詳しく見てきました。しかし、物語はここで終わりません。発達障害の特性は、光の当て方を変えれば、困難さの裏側にある「強み」として輝き始めることがあります。大切なのは、苦手を克服しようと無理をするのではなく、自分の特性が活きる場所、つまり「あなたに合った働き方」を見つけるという視点です。

特性を強みに変える視点

「間違い探しが苦手」という特性を、別の角度から見てみましょう。

  • 「細部より全体像を捉えるのが得意」: 細かい違いを見つけるのが苦手な一方、物事の全体的なパターンや構造、本質を直感的に把握する能力に長けている可能性があります。これは、プロジェクトの全体設計や戦略立案、新しいアイデアの創出といった場面で大きな強みとなり得ます。
  • 「一つのことに深く集中できる(過集中)」: ASDの特性であるシングルフォーカスは、興味のある特定の分野に対して、驚異的な集中力と探求心を発揮することに繋がります。プログラミング、データ分析、研究開発、デザインなど、専門性が高く、深い思考が求められる仕事では、他の追随を許さないパフォーマンスを発揮する可能性があります。
  • 「論理的思考力と正確性へのこだわり」: 企業のブログ記事で紹介されているように、発達障害のある方は、細部への注意と正確さが要求される作業や、数字や事実を扱う論理的な作業で強みを発揮することがあります。曖昧さを嫌い、ルールや手順に忠実である特性は、経理、法務、品質保証などの分野で高く評価されます。

つまり、「間違い探しが苦手」という一点だけを見て悲観する必要は全くありません。それはあなたの数ある特性の一つに過ぎず、その裏には、まだあなた自身も気づいていない素晴らしい才能が眠っているかもしれないのです。

ジョブマッチングの重要性:合う環境を探すという発想

どんなに優れた能力を持っていても、それが評価されない環境、あるいは苦手なことばかりを要求される環境に身を置いていては、力を発揮できず、心身ともに疲弊してしまいます。そこで極めて重要になるのが「ジョブマッチング」という考え方です。

発達障害のある人にとって個々の特性を考慮した上で、 適職を見つけていくためには 「ジョブマッチング」の視点が重要です。職場の 要求水準と本人の力との開きが少なければ少ないほど、その後の支援に対する労力が軽減 できます。

ジョブマッチングとは、単に「できそうな仕事」を探すことではありません。「本人の特性(強み・弱み、興味・関心)」と、「仕事の内容(求められるスキル、作業プロセス)」および「職場環境(人的環境、物理的環境、企業文化)」を丁寧に見比べ、双方が最もフィットする組み合わせを見つけ出すプロセスです。 例えば、「間違い探し」のような視覚的な比較・照合が苦手なのであれば、そうした作業が少ない仕事を選ぶ、あるいは、得意な「一つのことへの集中力」が活かせるような、専門性の高いルーティンワークを選ぶ、といった戦略が考えられます。合わない環境で自分を変えようと苦しみ続けるのではなく、自分に合う環境を探す、あるいは環境を調整してもらうという発想の転換が、長く安定して働き続けるための鍵となります。

一人で悩まず専門機関に相談を

「自分に合った仕事なんて、どうやって探せばいいのか分からない」——そう思うのは当然です。自己分析も企業研究も、一人で行うには限界があります。だからこそ、私たちのような専門機関が存在します。

就労移行支援事業所は、まさにこのジョブマッチングを専門的にサポートする場所です。前述のアセスメントを通じてあなたの特性を客観的に分析し、様々な職業訓練を通じてあなたの「できること」を増やし、企業実習を通じて実際の職場との相性を試し、そして、あなたの特性を理解してくれる企業への就職を支援します。就職後も、職場に定着できるよう定期的な面談や企業との調整を行う「定着支援」まで、一貫してあなたに寄り添い、伴走します。

その他にも、利用できる社会資源はたくさんあります。一人で抱え込まず、ぜひこれらの窓口にアクセスしてみてください。

主な相談先一覧:

  • 就労移行支援事業所: 就職に向けた準備(自己理解、スキル訓練、就職活動)から就職後の定着までをトータルでサポート。在宅訓練に対応している事業所もあります。
  • ハローワーク(障害者専門窓口): 障害者手帳がなくても相談可能。障害の特性に配慮した求人の紹介や、職業相談が受けられます。
  • 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ): 就職だけでなく、生活面も含めた相談に乗ってくれます。職場定着支援に強みがあります。
  • 地域障害者職業センター: より専門的な職業リハビリテーション(職業評価、職業準備支援)を提供しています。
  • 発達障害者支援センター: 発達障害に関する様々な相談(生活、仕事、医療など)に対応する地域の拠点です。

これらの機関は、それぞれに特色がありますが、連携を取り合っています。まずは、お住まいの地域のどの機関でも構いませんので、一歩を踏み出して「相談したい」と声を上げることが、新しいキャリアへの扉を開くことになります。

まとめ:あなたの「できる」を一緒に見つけるために

この記事では、「間違い探しが苦手」という現象を深く掘り下げ、その背景にある発達障害の認知特性、仕事への影響、そして具体的な対策と支援について解説してきました。最後に、最も大切なポイントを改めて確認しましょう。

  1. 「苦手」は努力不足ではない: あなたが感じてきた困難は、個人の意志や努力の問題ではなく、脳の機能的な特性に起因するものです。まずは、自分を責めることをやめ、その特性を客観的に理解することから始めましょう。
  2. 原因が分かれば対策は可能: ミスの背景にあるメカニズム(ワーキングメモリ、視機能など)が分かれば、精神論ではなく、具体的な対策(ツールの活用、環境調整、合理的配慮など)を講じることができます。苦手を補う「技術」は、学ぶことで誰でも身につけられます。
  3. 自分に合った環境を選ぶことが重要: 苦手を克服することだけが解決策ではありません。あなたの「強み」が活かされ、あなたの「苦手」が大きな障壁とならない、そんな仕事や職場環境を見つける「ジョブマッチング」の視点が、長期的なキャリアの安定に繋がります。

「苦手」と向き合うことは、決して楽な道のりではないかもしれません。しかし、それは同時に、あなただけの「働きやすさ」や「輝ける場所」を見つけるための、かけがえのない旅の始まりでもあります。

もし今、あなたが一人で悩み、暗闇の中にいるように感じているなら、どうか思い出してください。あなたには、共に悩み、考え、歩んでくれるパートナーがいます。私たち就労移行支援事業所は、あなたの可能性を信じ、あなたの「できる」を一緒に見つけ、キャリアの扉を共に開くために存在しています。

この記事が、あなたの新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば、これに勝る喜びはありません。

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