「仕事が楽しい」——。これは、働くすべての人にとっての理想かもしれません。しかし、障がいのある方々にとって、この理想を実現するには多くの壁が存在します。就労移行支援事業所として日々多くの方と接する中で、私たちは「働きがい」や「楽しさ」が、単なる感情論ではなく、長期的な職場定着に不可欠な要素であると確信しています。
障がい者雇用は年々増加し、法定雇用率も引き上げられるなど、社会的な制度は整いつつあります。しかし、採用後の定着率に目を向けると、決して楽観視できない現実が見えてきます。なぜ仕事が続かないのか、どうすれば「楽しい」と感じられる職場環境を築けるのか。本記事では、就労移行支援の現場から得られた知見と最新のデータを基に、その答えを探ります。
障がい者雇用において、まず直面するのが「職場定着」という大きな課題です。ハローワークの調査によると、就職後1年での定着率は障害種別によって差があり、特に精神障がいのある方にとっては厳しい状況が続いています。
この定着率の低下の背景には何があるのでしょうか。ある調査では、仕事を辞めたいと感じる理由として、「周囲から必要とされていないと感じる」「自分の障害特性を強みとして活かせていない」「障害があることで自分らしく働ける環境ではない」といった、貢献感や自己肯定感に関わる項目が上位に挙がっています。
これらのデータは、単に「仕事がある」だけでは不十分であり、「自分の役割がある」「貢献できている」という実感、すなわち「働きがい」が、仕事を「楽しい」と感じ、長く続けるための鍵であることを示唆しています。法定雇用率の達成を目的とした「とりあえずの採用」では、こうした働きがいを感じることは難しく、早期離職の一因となりかねません。
では、どうすれば自分に合った、働きがいを感じられる仕事を見つけられるのでしょうか。私たち就労移行支援事業所が最も重視しているのが、「自己理解」の深化です。これは、自分に合った仕事を見つけるための「羅針盤」を手に入れるプロセスに他なりません。
多くの方が、自分の得意・不得意、必要な配慮、ストレスを感じる状況とその対処法などを、自分一人で整理することに難しさを感じています。就労移行支援は、いわば「働くための練習場」であり、同時に「自分を見つめ直す場」としての役割を果たします。
就労移行支援事業所では、自己理解を深めるために、個々の特性やニーズに合わせた多様なプログラムを提供しています。
実際に就労移行支援を利用した方々の体験談からも、自己理解の重要性が見て取れます。
「通所前は、面接で必要な配慮事項をうまく説明できませんでした。支援員の方と対話を重ねる中で、自分がどんな時に困り、どういう手助けがあれば力を発揮できるのかを具体的に言葉にできるようになりました。その結果、企業側も受け入れのイメージが湧きやすくなったと感じます。」
「当初は給与や仕事内容だけで企業を選んでいましたが、うまくいきませんでした。支援員の方に自分の強みや改善点を別の視点から伝えてもらい、『考え方を変える』ことの大切さに気づきました。それからは、自分に合った方針で就職活動を進められるようになりました。」
このように、支援員や仲間との対話を通じて客観的な視点を得ることで、一人では気づけなかった自分の特性や強みを再発見し、それを活かせる仕事選びへと繋げていく。これが、就労移行支援が提供する大きな価値の一つです。
障がいのある方が「仕事が楽しい」と感じるためには、本人の努力や自己理解だけでは不十分です。受け入れる企業側の環境整備や支援体制が、車の両輪のように機能することが不可欠です。2025年4月からの障害者雇用促進法の改正により、法定雇用率は段階的に引き上げられ(2026年7月には2.7%)、企業の責任はますます重要になっています。
定着率向上の第一歩は、採用段階でのミスマッチを極力減らすことです。そのためには、以下の点が重要になります。
採用はゴールではなく、スタートです。入社後に安心して能力を発揮できる環境づくりが、定着と「働きがい」に直結します。
ある調査では、障がいのある方が改善を望む合理的配慮として、「キャリア形成に関する配慮」や「障害特性に合わせた業務」が、実際に提供されている配慮を大きく上回っており、企業側の課題が浮き彫りになっています。
このギャップを埋めることが、単なる「作業者」ではなく、組織の一員として「活躍」してもらうための鍵となります。株式会社SHIFTの成功事例では、200を超える多様な業務を用意し、個々の強みを活かす適材適所の人材配置と独自の評価制度により、85.2%という高い定着率を実現しています。
社内だけでの対応に限界を感じる場合、外部の専門機関との連携が非常に有効です。特に「就労定着支援」は、就職後の安定を支える重要なサービスです。
就労定着支援では、就労移行支援事業所などの支援員が、就職後も本人および企業と定期的に連絡を取り、課題の早期発見と解決をサポートします。支援員は、本人にとっては「社外の相談相手」、企業にとっては「専門的なアドバイザー」として機能し、両者の橋渡し役を担います。
ある調査では、就労支援機関と連携した場合の1年後の職場定着率が89.3%であったのに対し、連携がなかった場合は72.7%と、大きな差が見られました。
このように、本人・企業・支援機関の三者が連携する「伴走支援」体制を築くことが、離職理由の上位を占める「人間関係」や「体調不良」といった問題への有効な対策となり、長期的な定着と「働きがい」の向上に繋がるのです。
障がいのある方々の「働き方」は、多様化しています。パーソルダイバース株式会社の調査によると、働く方の約7割が「障害者雇用枠」で就業しており、その雇用形態は正社員と契約社員が二分している状況です。特に障害者雇用枠では、契約社員の割合が41.0%と、一般雇用枠の5.9%に比べて著しく高くなっています。
このデータは、安定した雇用へのニーズが高い一方で、多くの人が有期雇用という不安定な状況にあることを示しています。同調査では、全体の78%が正社員を希望しているという結果も出ており、安定した環境で長期的にキャリアを築きたいという強い意志がうかがえます。
また、職種は「事務職」が6割以上を占め、職位は「一般社員」が8割を占めるなど、業務内容やキャリアパスが限定的になりがちな傾向も見られます。こうした状況の中で、「仕事が楽しい」と感じるためには、定型的な業務の中にも本人が工夫できる余地を残したり、段階的に責任のある業務を任せたりするなど、成長と貢献を実感できる機会を企業が意図的に作っていくことが求められます。
この記事を通じて見てきたように、「仕事が楽しい」という状態は、決して偶然生まれるものではありません。それは、①本人、②企業、③支援機関の三者がそれぞれの役割を果たし、連携することで作り上げていくものです。
障がいのある方が一人の戦力として尊重され、その能力を最大限に発揮できる職場は、結果として組織全体の生産性や多様性を高め、企業の成長にも繋がります。それはまさに、誰もが働きやすい「共生社会」の縮図と言えるでしょう。
もしあなたが、就職や仕事のことで悩んでいるのなら。もし貴社が、障がい者雇用で課題を抱えているのなら。ぜひ一度、私たち就労移行支援事業所にご相談ください。一緒に「仕事が楽しい」と思える未来を作るお手伝いができれば幸いです。