コラム 2025年12月24日

精神・発達障害のある方の「働きたい」を支える|自立に向けた第一歩を徹底解説

一人で悩まないで。精神・発達障害のある方の「働く」をサポートする仕組み

「働きたい」という強い願いを抱きながらも、精神障害や発達障害の特性により、一歩を踏み出すことに不安を感じている方々がいます。「何から始めれば良いのか分からない」「自分に合う仕事が見つかるだろうか」「職場でうまくやっていける自信がない」——。こうした悩みは、決して特別なものではありません。むしろ、多くの当事者が直面する共通の課題と言えるでしょう。

社会参加への意欲と、現実の壁との間で葛藤し、一人で悩み続けてしまうケースは少なくありません。しかし、その悩みや不安を分かち合い、具体的な「働く」という目標に向かって共に歩んでくれる公的なサポートシステムが存在することをご存知でしょうか。

この記事では、そのような方々のための強力な味方となる福祉サービス、「就労移行支援」について、その根幹にある目的から、具体的な利用方法、そしてその先にある「自立した職業生活」の実現までを、網羅的かつ体系的に解説します。就労移行支援は、単に仕事を見つけるための場所ではありません。自分自身の特性を深く理解し、必要なスキルを身につけ、自信を持って社会へ羽ばたくための「訓練の場」であり、「準備の場」なのです。

本稿を読み進めることで、漠然としていた「働く」ことへの道筋が、より具体的で現実的な計画へと変わっていくはずです。就労移行支援という選択肢が、あなたらしい働き方、あなたらしい人生を実現するための、確かな第一歩となる可能性を秘めていることを、ぜひ知ってください。一人で抱え込まず、社会に用意された支援の輪を活用することで、新たな扉が開かれるかもしれません。

就労移行支援の全体像:一般就労を目指すための「訓練」サービス

就労移行支援は、障害のある方が社会で活躍するための重要な架け橋となる制度です。その本質を理解するためには、まず制度の目的、法律上の位置づけ、対象者、そして提供されるサービス内容という4つの側面から全体像を把握することが不可欠です。ここでは、それぞれの要素を詳細に解き明かしていきます。

目的と法律上の位置づけ

就労移行支援は、に基づいて提供される公的な障害福祉サービスの一つです。この法律は、障害の有無にかかわらず、誰もが地域社会で共に生きる「共生社会」の実現を目指すものであり、その中で就労移行支援は「訓練等給付」というカテゴリに分類されます。これは、直接的な介護(介護給付)とは異なり、利用者の自立と社会参加を促進するための「訓練」に主眼を置いたサービスであることを示しています。

その核心的な目的は、障害や難病のある方が、一般企業(障害者雇用枠を含む)へ就職し、その職場で安定して働き続けるために必要な知識やスキルを体系的に習得することにあります。これは、単なる職業紹介(マッチング)に留まらず、就職というゴールに向けた個々の準備段階から、就職後の定着までを見据えた、包括的かつ長期的な支援を提供するものです。法律の条文においても、就労移行支援は「就労を希望する障害者」に対し、「生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練」を行うものと定義されています(障害者総合支援法 第五条第十四項)。

【比較】就労継続支援との違い

就労移行支援を理解する上で、しばしば混同されがちな「就労継続支援」との違いを明確にすることが極めて重要です。両者は同じ障害者総合支援法に基づく就労系サービスですが、その目的と役割は根本的に異なります。

端的に言えば、就労移行支援が「一般就労を目指すための訓練の場」であるのに対し、就労継続支援は「現時点で一般就労が困難な方へ働く機会を提供する場」です。この違いは、対象者、雇用契約の有無、そして得られる対価(賃金または工賃)に具体的に現れます。以下の表は、これらの違いを整理したものです。

サービス種別 目的 対象者 雇用契約 対価 利用期間
就労移行支援 一般企業等への就職と職場定着 一般就労を希望し、可能と見込まれる65歳未満の方 なし 原則なし(訓練のため) 原則2年
就労継続支援A型 就労機会の提供(雇用型) 一般就労は困難だが、雇用契約に基づき継続して就労が可能な方 あり 給与(最低賃金以上) 定めなし
就労継続支援B型 就労機会の提供(非雇用型) 年齢や体力等の理由で、雇用契約を結んで働くことが困難な方 なし 工賃(生産活動に対する報酬) 定めなし

このように、就労移行支援はあくまで「通過点」であり、2年という原則的な期間内でスキルアップと就職活動を行い、一般企業という次のステージへ移行することを目指します。一方で、就労継続支援は、それ自体が「働く場所」としての機能を持ち、利用者は事業所内で生産活動に従事し、その対価として給与や工賃を得ます。どちらのサービスが適しているかは、本人の希望、現在の状況、そして目指す将来像によって異なります。まずは自分が「一般企業で働くこと」を目指しているのかどうかを自問することが、適切なサービス選択の第一歩となります。

利用できるのはどんな人?(対象者)

就労移行支援は、働く意欲のあるすべての障害のある方が無条件に利用できるわけではありません。制度の目的を効果的に達成するため、対象者にはいくつかの基本的な条件が定められています。主に、以下の3つの条件をすべて満たす方が対象となります。

  • 1. 18歳以上65歳未満の方
    サービスの利用開始時点での年齢が基準となります。例えば、65歳の誕生日の前日までに利用を開始すれば、そこから原則として最長2年間のサービスを受けることが可能です。これは、主に労働市場への参入・復帰を支援するというサービスの性質に基づいています。
  • 2. 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある方
    法律で定められた障害種別に加え、障害者総合支援法の対象となる難病(2024年4月時点で369疾病)のある方も含まれます。精神障害には統合失調症、うつ病、双極性障害、てんかん、依存症などが、発達障害には自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などが該当します。
  • 3. 一般企業などへの就職(一般就労)を希望している方
    これが最も重要な要件です。一般就労とは、企業や公的機関等と労働契約を結び、一般的な労働者として働く形態を指します。就労移行支援は、この一般就労への移行を目標とする方のためのサービスであり、厚生労働省の定義でも「通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者」とされています。

【深掘り】よくある疑問に回答

対象者の条件については、多くの方が疑問に思う点があります。ここでは、特に質問の多い3つのケースについて詳しく解説します。

障害者手帳は必要?

結論から言うと、障害者手帳の所持は必須ではありません。手帳を持っていなくても、就労移行支援を利用することは可能です。いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる方や、まだ診断が確定していない段階の方も対象となり得ます。 ただし、サービスを利用するためには、お住まいの市区町村から「障害福祉サービス受給者証」の交付を受ける必要があります。手帳がない場合、その申請プロセスにおいて、障害や疾患の状況を客観的に示すための書類として、医師の診断書や意見書、定期的な通院履歴を証明する書類などが求められます。最終的には、これらの書類を基に自治体が「サービスの利用が必要な状態である」と判断することで、受給者証が交付され、利用が可能となります。

休職中でも利用できる?

原則として、就労移行支援は離職中の方が対象ですが、休職中の方でも、復職(リワーク)を目指す場合に利用が認められるケースがあります。ただし、誰でも利用できるわけではなく、厚生労働省のQ&Aで示されているように、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 現在雇用されている企業や、地域の支援機関、医療機関による復職支援(リワークプログラムなど)の実施が見込めない、または困難である場合。
  2. 休職者本人が復職を強く希望しており、雇用主および主治医が、就労移行支援を利用することが復職に適切であると判断している場合。
  3. 市区町村が、就労移行支援を利用することが、他の手段よりも効果的かつ確実に復職に繋がると判断した場合。

つまり、自己判断で利用を開始することはできず、本人、企業、主治医、そして行政(市区町村)の四者が連携し、その必要性を認めることが条件となります。休職中に利用を検討する場合は、まず主治医や会社の担当者、そしてお住まいの市区町村の障害福祉窓口に相談することが不可欠です。

学生は利用できる?

原則として、在学中の学生は就労移行支援の対象外です。これは、学業が本分であるという考え方に基づいています。しかし、例外も存在します。卒業後の就職を具体的に目指す大学4年生や専門学校の最終学年の学生など、卒業を間近に控え、就職活動に困難を抱えている場合には、自治体の判断によって特例的に利用が認められることがあります。この場合、学業に支障が出ない範囲での利用が前提となります。この取り扱いは自治体によって異なるため、利用を希望する学生は、自身の通う学校の学生相談室やキャリアセンター、そして市区町村の障害福祉窓口に確認することが重要です。

どんなサポートが受けられる?(サービス内容)

就労移行支援事業所では、利用者が一般就労という目標を達成するために、多岐にわたる専門的なサポートが提供されます。その支援内容は、単一のプログラムではなく、個々の状況に合わせてカスタマイズされた、一連のプロセスとして構成されています。

具体的な支援内容の紹介

職業準備性を高めるため、就労移行支援事業所では以下のような支援が段階的に行われます。

① 個別支援計画の作成

サービスの利用を開始すると、まず「サービス管理責任者」という専門職が中心となり、利用者一人ひとりと面談を行います。この面談を通じて、本人の希望、障害特性、得意なこと、苦手なこと、これまでの経験などを詳細にヒアリングし、「個別支援計画」を作成します。これは、就職というゴールに向けたオーダーメイドのロードマップであり、その後のすべての支援の基盤となります。この計画は定期的に見直され、利用者の状況の変化に応じて柔軟に更新されていきます。

② 就労に向けたトレーニング

個別支援計画に基づき、様々なトレーニングプログラムが提供されます。これらは大きく「生活基盤の安定」と「職業スキルの向上」の2つに分けられます。

  • 生活リズムの安定化: まず基本となるのが、事業所に決まった時間に通う「通所」です。毎日コンスタントに通うこと自体が、出勤を想定した訓練となり、生活リズムを整え、基礎体力を向上させることに繋がります。週5日間通所できれば、それは毎日出社して仕事ができることの証明となり、就職活動での大きなアピールポイントになります。
  • 職業スキル向上プログラム:
    • PCスキル:Word, Excel, PowerPointなどの基本的な操作から、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)などの資格取得を目指す応用的なトレーニングまで、レベルに応じたプログラムが用意されています。
    • ビジネスマナー:挨拶、言葉遣い、電話応対、名刺交換など、社会人としての基本的な振る舞いを学びます。
    • コミュニケーション訓練(SST):SST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)は、ロールプレイングなどを通じて、職場での報告・連絡・相談、依頼の仕方、断り方、意見の伝え方といった具体的なコミュニケーションスキルを実践的に学びます。
    • グループワーク:チームで課題に取り組むことで、協調性や役割分担、問題解決能力を養います。
③ 就職活動のサポート

ある程度職業準備性が高まった段階で、具体的な就職活動のフェーズに入ります。ここでも支援員が全面的にサポートします。

  • 自己分析・企業研究:支援員との対話を通じて、自分の強みや弱み、価値観を整理し、どのような仕事や職場環境が自分に合っているのかを明確にします(自己分析)。並行して、業界や企業の情報収集を行い、応募先の選定を支援します。
  • 応募書類の作成支援:履歴書や職務経歴書の書き方を指導し、個々の魅力が伝わるような内容になるよう、添削やアドバイスを行います。
  • 模擬面接:本番を想定した模擬面接を繰り返し行い、受け答えの練習や、障害特性に関する説明の仕方(障害開示)などを具体的にトレーニングします。
  • 職場見学・企業実習:興味のある企業へ見学に行ったり、実際に数日間〜数週間、企業で働く「企業実習」の機会を提供したりします。実習を通じて、仕事内容や職場の雰囲気との相性を確認でき、ミスマッチを防ぐことができます。
④ 就職後の職場定着支援

就労移行支援のサポートは、就職が決まったら終わりではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。利用者が新しい職場で安定して働き続けられるよう、就職後も原則として6ヶ月間、職場定着支援が行われます。この期間中、支援員は定期的に本人と面談し、仕事上の悩みや人間関係、生活リズムの変化などについて相談に乗ります。また、必要に応じて企業側(上司や人事担当者)とも連携し、業務内容の調整や合理的配慮に関する話し合いを仲介するなど、環境調整のサポートも行います。この初期段階での手厚いフォローが、早期離職を防ぎ、長期的なキャリア形成の礎となります。

【最重要】精神・発達障害のある方が就労移行支援を最大限に活用するポイント

就労移行支援は、障害のある方全般に有効なサービスですが、特に精神障害や発達障害のある方にとって、その価値は計り知れません。これらの障害の特性から生じる特有の「働きづらさ」に対し、就労移行支援のプログラムが的確に対応し、課題解決への具体的な道筋を示してくれるからです。ここでは、その有効性の根拠と、障害特性に応じた具体的な活用法、そして成功事例を深掘りします。

なぜ精神・発達障害のある方に就労移行支援が有効なのか

精神障害や発達障害は「見えない障害」とも言われ、外見からは困難さが分かりにくいため、職場で誤解されたり、本人も自分の困難をうまく説明できなかったりすることが少なくありません。就労移行支援は、こうした「見えない困難」を可視化し、対策を講じるための最適な環境を提供します。

例えば、以下のような「働きづらさ」と、それに対応する支援の結びつきが考えられます。

  • 体調の波(精神障害):気分の浮き沈みや疲労感の変動により、安定した出勤が難しいことがあります。就労移行支援では、短時間利用から始めて徐々に通所時間を延ばすなど、個々の体調に合わせた柔軟な利用が可能です。これにより、無理なく勤務体力を養うことができます。
  • 対人関係の悩み(精神・発達障害):他者の意図を汲み取ることが苦手だったり、適切な距離感が分からなかったりすることで、職場で孤立してしまうことがあります。SST(社会生活技能訓練)などのプログラムを通じて、具体的な場面を想定したコミュニケーションの練習を重ねることで、対人関係のスキルを向上させることができます。
  • マルチタスクの困難(発達障害、特にADHD):複数の指示を同時に受けると混乱したり、注意が散漫になったりする特性があります。支援を通じて、タスク管理ツール(Trelloなど)の使い方を学んだり、指示を一つずつメモに取る習慣をつけたりするなど、具体的な対処法を身につけることができます。
  • 感覚過敏(発達障害、特にASD):オフィスの照明が眩しすぎたり、周囲の雑音が気になって集中できなかったりすることがあります。就労移行支援では、自分の感覚特性を理解し、それを企業に伝えて配慮を求める(合理的配慮の交渉)練習ができます。例えば、「窓際の席を避けてもらう」「ノイズキャンセリングイヤホンの使用許可を得る」といった具体的な交渉方法を学びます。

このように、就労移行支援は、障害特性から生じる課題を「個人の問題」として片付けるのではなく、「理解し、対策を講じるべき課題」として捉えます。支援員という専門家の客観的な視点を介して、自分自身を深く理解し(自己理解)、具体的な対策を訓練し、それを携えて就職活動に臨むことができる。これこそが、精神・発達障害のある方にとって就労移行支援が極めて有効である最大の理由です。いわば、就労移行支援事業所は、安心して失敗し、試行錯誤できる「リハーサルの場」なのです。

【障害特性別】活用の具体例

障害の特性によって、抱える課題や有効な支援は異なります。ここでは、精神障害と発達障害のそれぞれについて、就労移行支援をどのように活用できるかをより具体的に見ていきましょう。

精神障害(うつ病、双極性障害、統合失調症など)の方

就労移行支援の一般的プログラムを基に作成

生活リズムの再構築:
精神障害のある方にとって、安定した生活リズムは治療の根幹であり、就労の土台です。服薬管理を含め、日々の体調を記録し、支援員と共有することで、自分の体調の波を客観的に把握します。決まった時間に事業所に通所する習慣そのものが、体内時計を整え、安定した生活基盤を再構築するプロセスとなります。

ストレスマネジメント:
どのような状況でストレスを感じやすいのか(ストレスの誘因)、ストレスを感じた時に心身にどのようなサインが現れるのか(ストレス反応)を自己分析します。その上で、自分に合った気晴らしやリラックス法(コーピング)を見つけ、実践する訓練を行います。これにより、職場でストレスに直面した際に、早期に対処し、体調の悪化を防ぐスキルが身につきます。

対人関係スキルの向上:
SSTなどを通じて、職場での適切な「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」の仕方を学びます。特に、体調不良をどのように上司に伝えるか、業務で困った時にどのように助けを求めるかなど、実践的なロールプレイングは非常に有効です。また、雑談への参加の仕方や、プライベートな話題との線引きなど、人との適切な距離感を学ぶことも、職場での孤立を防ぐ上で重要です。

段階的な負荷調整:
多くの事業所では、週2〜3日の半日利用からスタートし、体調を見ながら徐々に通所日数や時間を増やしていくことが可能です。この「スモールステップ」のアプローチにより、再発のリスクを抑えながら、無理なくフルタイム勤務に耐えうる体力と精神力を養うことができます。この柔軟性は、体調に波のある精神障害の方にとって大きなメリットです。

発達障害(ASD、ADHDなど)の方

就労移行支援の一般的プログラムを基に作成

自己理解の深化:
発達障害のある方は、自分の「得意」と「苦手」が極端な場合がありますが、それを客観的に把握できていないことも少なくありません。支援員との面談や、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)などの心理検査の結果の解釈、模擬業務での評価などを通じて、自分の認知特性(情報の処理の仕方など)を正確に把握します。この「自分の取扱説明書」を作ることが、その後のすべてのステップの基礎となります。

「強み」を活かす職業選択:
自己理解に基づき、自分の特性が「弱み」ではなく「強み」として活かせる仕事を探します。例えば、ASDの特性である「こだわり」や「集中力の高さ」は、データ入力やプログラミング、品質管理などの正確性が求められる業務で強みになります。ADHDの特性である「好奇心旺盛さ」や「行動力」は、企画や営業などの変化に富んだ仕事で活かせる可能性があります。支援員と共に、こうした「適職」を探すプロセスは、就職後の満足度を大きく左右します。

苦手への対策(合理的配慮):
苦手なことを根性で克服しようとするのではなく、具体的な工夫やツールで補う「代償戦略」を学びます。例えば、口頭指示を覚えるのが苦手なら、必ずメモを取る、指示を復唱して確認する、ICレコーダーで録音する許可を得るなどの対策を訓練します。また、これらの対策を職場で実践するために、企業側にどのような「合理的配慮」を求めればよいかを学び、面接でそれを的確に伝える練習も行います。

コミュニケーションの練習:
「空気を読む」「行間を読む」といった曖昧なコミュニケーションが苦手な場合、具体的な練習が有効です。例えば、「なるべく具体的に指示してください」「結論から話していただけると助かります」といった依頼の仕方(アサーション)を学びます。また、雑談の始め方や終わらせ方、相手の話に興味を示すための相槌の打ち方など、社会的なルールとしてのコミュニケーションパターンを学習することも、職場での円滑な人間関係構築に繋がります。

【事例紹介】就労移行支援を経て希望の働き方を実現した方々

理論だけでなく、実際に就労移行支援を利用して社会で活躍している方々の事例は、これから一歩を踏み出そうとしている方にとって大きな希望となります。以下に、参考資料に見られるような事例をいくつか紹介します。

事例1:40代男性(精神障害)→ 大手警備会社の事務職へ

利用のきっかけ:8年間の離職期間があり、就労へのブランクが大きかったため、支援を受けてから就職したいと考えた。
役に立ったこと:事業所に通う中で自分自身と向き合い、新たな自分を発見できた。支援員との対話を通じて、自分の課題を整理し、目標設定をすることが成長に繋がった。
結果:通所期間1年6ヶ月を経て、大手警備会社の事務職として就職。安定した勤務を続けている。

事例2:20代女性(精神障害)→ 金融・保険業の事務職へ

利用のきっかけ:障害をオープンにして働くか、クローズで働くか悩んでいた。一人で考えると悪い方向にばかり考えてしまうため、相談できる場所を求めていた。
役に立ったこと:支援員が不安な気持ちを受け止め、共に考えてくれたことで、オープン就労で自分らしく働く道を選択できた。模擬面接や書類添削などの具体的なサポートが自信に繋がった。
結果:通所期間10ヶ月で金融・保険業の事務職としてトライアル雇用を開始。人との関わりの中で自分が輝ける働き方を見つけた。

事例3:30代男性(精神障害)→ 大手建設会社の事務職へ

利用のきっかけ:主治医から就労移行支援の存在を教えられ、自宅から通いやすい事業所を見つけた。
役に立ったこと:当初は働くイメージが全く湧かなかったが、PC訓練やビジネスマナー講座を通じて「できること」が増え、自信がついた。支援員との面談で自分の考えを整理し、人生が変わったと実感。
結果:通所期間10ヶ月で大手建設会社の事務職に就職。働くことの楽しさを日々感じている。

これらの事例に共通しているのは、利用者が就労移行支援という「安全な場所」で、支援員という「伴走者」と共に、自分自身と深く向き合い、課題を一つひとつ乗り越えていったという点です。就職はあくまで結果であり、その過程で得られる自己理解と自信こそが、その後の職業人生を支える最も重要な財産となるのです。

実践ガイド:就労移行支援の利用開始から事業所選びまで

就労移行支援の有効性を理解したところで、次に関心を持つのは「どうすれば利用できるのか?」という具体的な手続きでしょう。ここでは、利用開始までのステップ、費用、そして最も重要な「自分に合った事業所の選び方」について、実践的なガイドを提供します。

利用開始までの5ステップ

就労移行支援の利用を開始するまでの流れは、概ね以下の5つのステップで進みます。手続きには一定の時間がかかるため、早めに動き出すことが推奨されます。

  1. Step 1:情報収集と事業所の見学・体験
    まずは、インターネットなどでお住まいの地域にある就労移行支援事業所を探します。気になる事業所が見つかったら、電話やウェブサイトから問い合わせをし、見学や体験利用を申し込みます。多くの事業所では、実際のプログラムを体験したり、支援員や他の利用者と話したりする機会が設けられています。事業所の雰囲気や支援内容が自分に合うかを確認する、非常に重要なステップです。
  2. Step 2:利用したい事業所を決定
    複数の事業所を見学・体験した上で、最も自分に合っていると感じる事業所を一つ選びます。この段階で、「この事業所を利用したい」という意思を固めることが、次のステップに進むための前提となります。
  3. Step 3:市区町村の障害福祉窓口で相談・申請
    利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の役所にある障害福祉担当窓口(名称は自治体により異なります)へ行き、就労移行支援を利用したい旨を相談し、申請手続きを行います。この際、「障害福祉サービス受給者証」の交付申請も同時に行います。申請には、マイナンバーカード、本人確認書類、障害や病状がわかる書類(障害者手帳、医師の診断書など)が必要になることが一般的です。
  4. Step 4:「障害福祉サービス受給者証」の交付
    申請後、自治体の職員による認定調査(心身の状況に関するヒアリングなど)が行われます。また、「サービス等利用計画案」の作成も必要です。これは、指定特定相談支援事業者に作成を依頼するか、自分で作成(セルフプラン)します。これらの情報に基づき、自治体がサービスの支給を決定すると、「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。

    注意点:受給者証の申請は、利用したい事業所が決まっていないと進められないのが一般的です。また、申請から交付までには1ヶ月〜2ヶ月程度の時間がかかる場合があるため、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。多くの事業所では、この申請手続きのサポートも行っています。

     

  5. Step 5:事業所との利用契約
    受給者証が手元に届いたら、Step 2で決めた事業所と正式に利用契約を結びます。契約内容や重要事項の説明を受け、署名・捺印をすれば、いよいよサービスの利用開始です。

気になる費用は?

公的な福祉サービスである就労移行支援ですが、利用にあたって費用が気になる方も多いでしょう。結論から言うと、金銭的な負担は非常に少なく、多くの方が無料で利用しています。

利用料の仕組みは以下のようになっています。

  • サービスの提供にかかる費用の9割は国と自治体が負担し、利用者の自己負担は原則1割です。
  • ただし、無制限に負担が増えるわけではなく、前年の世帯収入に応じて月ごとの「負担上限額」が定められています。一度上限額に達すると、その月はそれ以上費用がかかることはありません。

具体的な負担上限額は、以下の表の通りです。

区分 世帯の収入状況 月額負担上限額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) 9,300円
一般2 上記以外(所得割16万円以上) 37,200円

この表が示す通り、生活保護世帯や住民税非課税世帯の方は、自己負担なし(0円)でサービスを利用できます。実際、就労移行支援の利用者の約9割が、この自己負担なしの区分に該当すると言われています。そのため、費用面での心配はほとんどないと言えるでしょう。ただし、事業所によっては昼食代や交通費が別途必要になる場合があるため、見学の際に確認しておくことが大切です。

自分に合った就労移行支援事業所の選び方

就労移行支援の成果は、どの事業所を選ぶかに大きく左右されます。利用期間は原則2年と限られており、その貴重な時間を有意義に使うためにも、事業所選びは慎重に行うべきです。以下に、後悔しないためのチェックポイントを挙げます。

事業所選びのチェックポイント

  • プログラム内容:
    • 自分の学びたいスキル(PC、デザイン、プログラミングなど)に特化したプログラムがあるか?
    • 基礎的なビジネスマナーやコミュニケーション訓練など、土台作りのプログラムも充実しているか?
    • 自分の障害特性(特に精神・発達障害)への理解に基づいたプログラムが用意されているか?
  • 支援の質と雰囲気:
    • 支援員は専門的な知識(精神保健福祉士、社会福祉士などの資格)を持っているか?
    • 支援員は親身に話を聞いてくれるか?相談しやすい雰囲気か?
    • 個別支援計画を、流れ作業ではなく、丁寧に時間をかけて一緒に作ってくれるか?
    • 事業所全体の雰囲気は自分に合っているか?(活気がある、静かで落ち着いているなど)
  • 就職実績:
    • 就職率の高さだけでなく、就職後の定着率も公開しているか?(定着率の高さは支援の質の高さを反映します)
    • 自分の希望する職種や業界への就職実績が豊富か?
    • どのような企業と連携しているか?(企業実習先の多さなど)
  • 事業所の環境:
    • 自宅から無理なく通える距離か?(通いやすさは継続の鍵です)
    • 施設は清潔で、整理整頓されているか?
    • 訓練に集中できる環境か?(静かに自習できるスペース、相談用の個室など)
  • その他:
    • 交通費や昼食代の補助制度はあるか?(日々の負担を軽減できます)
    • 見学や体験利用の際の対応は丁寧だったか?

これらのポイントを参考に、必ず複数の事業所を自分の目で見て、比較検討することが重要です。「有名だから」「家から一番近いから」といった理由だけで安易に決めず、「ここでなら2年間、安心して自分と向き合えそうだ」と心から思える場所を選ぶことが、成功への最短ルートとなります。

就職後も安心:「自立」を継続的に支えるサポート体制

多くの人が「就職」をゴールと考えがちですが、本当の挑戦はそこから始まります。新しい環境、新しい人間関係、新しい業務——。これらに適応し、安定して働き続けることは、障害の有無にかかわらず簡単なことではありません。就労移行支援制度の優れた点は、この「就職後」のサポート体制までが設計に組み込まれていることです。ここでは、就職後の「自立」を継続的に支える仕組みについて解説します。

就労移行支援の先にある「就労定着支援」

就職はゴールではなく、自立した職業生活のスタート地点です。就職後に直面する様々な課題(仕事のミス、人間関係の悩み、生活リズムの乱れなど)を放置すると、早期離職に繋がるリスクが高まります。この課題に対応するため、2018年の障害者総合支援法改正により、「就労定着支援」という新たなサービスが創設されました。

これにより、就職後のサポートは2段階のシームレスな体制で提供されることになりました。

  • 第1段階:就労移行支援事業所による職場定着支援(就職後〜6ヶ月)
    前述の通り、就職後最初の6ヶ月間は、それまで利用していた就労移行支援事業所が引き続きサポートを行います。気心の知れた支援員が、新しい職場での悩みを聞いたり、企業との間に入って環境調整を行ったりすることで、最も不安定になりがちな就職初期を乗り越える手助けをします。
  • 第2段階:就労定着支援サービス(就職後7ヶ月目〜最長3年6ヶ月目)
    就職から7ヶ月目以降は、専門の「就労定着支援事業所」にバトンタッチし、さらに長期的なサポートを受けることができます。利用期間は1年ごとに更新され、最長で3年間利用可能です。就労定着支援では、仕事上の課題だけでなく、給与管理や健康管理といった生活面での課題解決にも踏み込んで支援を行います。支援員が定期的に本人や企業と面談し、問題が深刻化する前に介入することで、長期的な安定就労を目指します。多くの就労移行支援事業所が、この就労定着支援事業所を兼ねているため、同じ支援員から継続してサポートを受けられるケースが一般的です。

この「就労移行支援」から「就労定着支援」へと続く一貫したサポート体制は、利用者が安心して新しい一歩を踏み出し、その歩みを確かなものにしていくための強力なセーフティネットと言えるでしょう。

多様な支援機関との連携

利用者の「自立」は、一つの事業所だけで支えられるものではありません。就労移行支援事業所はハブ(中心)となり、地域の様々な専門機関と連携(多機関連携)することで、より多角的で手厚いサポート体制を構築します。利用者は、これらの機関をチームとして活用することができます。

各支援機関の役割を基に作成
  • ハローワーク(公共職業安定所):
    全国のハローワークには障害のある方のための専門窓口が設置されています。求職登録を行うと、専門の職員や相談員が、障害の特性や希望に応じた職業相談、求人紹介を行ってくれます。就労移行支援事業所は、ハローワークと連携し、利用者に合った求人情報を共有したり、面接に同行したりします。
  • 地域障害者職業センター:
    各都道府県に設置されている、より専門的な支援機関です。障害者職業カウンセラーが在籍し、詳細な職業能力評価(職業評価)、個別のリハビリテーション計画の策定、そして後述するジョブコーチの派遣などを行います。就労移行支援だけでは解決が難しい専門的な課題について、助言や支援を求めます。
  • 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):
    その名の通り、「就業面」と「生活面」の支援を一体的に行う身近な相談窓口です。就職に関する相談はもちろん、金銭管理、住居、余暇活動など、地域で生活していく上での様々な困りごとについて相談できます。就労移行支援事業所は、利用者の生活基盤を安定させるために、このセンターと密に連携します。
  • ジョブコーチ(職場適応援助者):
    ジョブコーチは、利用者が就職した職場に直接出向き、本人と企業の双方に対して専門的な支援を行う専門家です。本人に対しては、具体的な仕事の進め方や同僚とのコミュニケーション方法を指導し、企業に対しては、障害特性の理解を促し、効果的な指導方法や環境整備について助言します。現場に密着したこの支援は、職場へのスムーズな適応を強力に後押しします。

このように、就労移行支援を利用するということは、単に一つのサービスを受けるだけでなく、地域の様々な専門家からなる「支援チーム」を手に入れることと同義です。このネットワークを最大限に活用することが、真の「自立」への道を切り拓く鍵となります。

まとめ:就労移行支援は、あなたらしい「自立」への伴走者

本記事では、精神・発達障害のある方が「働きたい」という願いを実現するための公的サービス、「就労移行支援」について多角的に解説してきました。

改めて要点を振り返ると、就労移行支援は「障害者総合支援法」に基づき、一般企業への就職と職場定着を目指すための「訓練の場」です。単に仕事を紹介するのではなく、職業準備性ピラミッドの考え方に基づき、生活リズムの安定化から専門スキルの習得、就職活動、そして就職後の定着支援まで、包括的なサポートを提供します。特に、体調の波や対人関係、認知特性といった特有の課題を抱えやすい精神・発達障害のある方にとって、安心して試行錯誤できる「リハーサルの場」として、非常に有効な選択肢となり得ます。

最も重要なのは、一人で抱え込まないことです。働くことに不安を感じるのは、決してあなただけではありません。その不安を専門家である支援員と共有し、客観的な視点から自分の特性を深く理解し、それを「弱み」ではなく「強み」として活かす道を探ること。就労移行支援は、そのプロセスに寄り添い、共に歩んでくれる「伴走者」です。

利用者の約9割が自己負担なく利用でき、就職後も「就労定着支援」やハローワーク、ジョブコーチといった多様な支援ネットワークがあなたを支え続けます。この社会に用意されたセーフティネットを活用しない手はありません。

もし今、あなたが「働きたい」という気持ちと現実との間で立ち止まっているのであれば、ぜひ次の一歩を踏み出してみてください。

まずは、お近くの就労移行支援事業所のウェブサイトを覗いてみること、そして、勇気を出して見学を申し込んでみること。そこから、あなたらしい「自立」への新しい物語が始まるかもしれません。

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