「集中力が続かず、ケアレスミスが多い」「計画を立てるのが苦手で、仕事の段取りがうまくいかない」「つい衝動的に発言してしまい、人間関係でつまずく」。もしあなたが、このような悩みを抱え、「仕事が続かない」「自分に合う働き方がわからない」と感じているのなら、それはあなたの「努力不足」や「性格」の問題ではないかもしれません。
この記事は、ADHD(注意欠如・多動症)をはじめとする精神・発達障害の特性によって、働くことに困難を感じている当事者の方々、そしてそのご家族に向けて書かれています。最新の科学的知見に基づき、ADHDという特性を正しく理解することから始め、国が提供する公的な福祉サービス「就労移行支援」を最大限に活用し、安定した就労と「自分らしいキャリア」を実現するための具体的な道筋を、データと共にご紹介します。
この記事が提供する価値は、以下の3点です。
この記事を読み終える頃には、あなたは自身の特性を新たな視点から捉え、未来に向けた具体的な一歩を踏み出すための知識と勇気を得ているはずです。それでは、一緒に「自分らしい働き方」を見つける旅を始めましょう。
仕事での困難が続くとき、私たちはつい「自分の能力が低いからだ」「もっと頑張らなければ」と自分を責めてしまいがちです。しかし、ADHD(注意欠如・多動症)における困難は、個人の「性格」や「努力不足」といった精神論で片付けられるものではありません。近年の目覚ましい研究の進展により、その原因が脳の機能的な特性にあることが科学的に解明されつつあります。この章では、ADHDの原因を科学的に理解し、自身の特性を客観的に捉え直すための土台を築きます。
ADHDは、神経発達症(発達障害)の一つに分類され、その特性は主に以下の3つのタイプに分けられます。
これらの特性は、脳機能の偏り、つまり脳の情報処理の仕方が多数派とは異なることに起因します。決して本人の怠慢や意欲の欠如が原因ではないということを、まず大前提として理解することが、適切な対策を考える上での第一歩となります。
では、なぜそのような脳機能の偏りが生じるのでしょうか。現在の科学では、ADHDの原因は単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発現する「多因子疾患」であると考えられています。その中でも特に重要なのが「遺伝的要因」と「脳の機能的・構造的な違い」です。
ADHDの発症において、遺伝的要因が強く関与することは、今日までの膨大な研究によって疑いのない事実とされています。例えば、一卵性双生児と二卵性双生児を比較する研究では、ADHDの遺伝率(特性の個人差のうち遺伝要因で説明できる割合)は約74%にも上ると報告されています。これは、親から子へ、あるいは兄弟姉妹間でADHDの特性が見られやすいことの科学的な裏付けです。
ただし、ここで重要なのは、ADHDがいわゆる「遺伝病」とは異なるという点です。特定の単一遺伝子の異常によって発症するのではなく、がんや生活習慣病のように、多数の「感受性遺伝子」が関与する「多因子疾患」と捉えられています。これまでに、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きに関連する多くの遺伝子(DRD4, SLC6A3など)とADHDとの関連が研究されてきましたが、個々の遺伝子が持つ影響力は比較的小さく、多くの遺伝子の組み合わせと後述する環境要因が相互に作用しあって発症に至ると考えられています。
近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)では、ADHDに関連する27の遺伝子座が特定されるなど、研究はさらに進展しています。これらの研究は、ADHDが生物学的な基盤を持つ医学的な状態であることを明確に示しています。
遺伝的要因は、具体的に脳のどのような違いとして現れるのでしょうか。脳画像技術の進歩により、ADHDを持つ人々の脳には、構造的・機能的にいくつかの特徴的な傾向があることが分かってきました。
MRI(磁気共鳴画像法)を用いた研究では、脳の特定の領域の体積や形状に違いが見られることが報告されています。特に、注意の制御、行動の計画・実行、感情のコントロールなどを司る「前頭前野」の活動が弱い、あるいは体積が小さい傾向が指摘されています。
さらに、福井大学、千葉大学、大阪大学などの共同研究グループは、複数の研究施設で撮影されたMRI画像の機器による誤差を補正する新手法「トラベリングサブジェクト(TS)法」を開発。この手法を用いた解析により、ADHDの子どもでは、定型発達の子どもと比較して、前頭側頭領域、特に右の中側頭回で脳の体積が小さいことが、より高い信頼性をもって明らかにされました福井大学, 2025; 。これらの構造的な違いが、情報処理の特性に影響を与えていると考えられます。
脳の活動は血流の変化として捉えることができます。東京大学の研究グループは、ADHDを併存する慢性疼痛患者を対象に、脳の血流を可視化するSPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)検査を行いました。その結果、治療前の患者では、自己意識や注意、感情の調整に関わる「楔前部(けつぜんぶ)」という脳領域の血流が過剰に高まっていることが判明しました。
興味深いことに、ADHD治療薬(メチルフェニデートやアトモキセチン)を服用すると、この楔前部の過剰な血流が低下し、それに伴って痛みや不安、集中力の問題が改善することが確認されました。これは、ADHDの特性が、特定の脳領域の「過活動」という機能的な問題と関連していることを示唆するものです。薬物療法がなぜ効果を発揮するのか、その一端を脳機能のレベルで説明する重要な知見と言えます。
近年の脳科学では、個々の領域の働きだけでなく、それらの領域がどのように連携して情報をやり取りしているか、つまり「脳のネットワーク(連結性)」が重視されています。ADHDは、このネットワークの非効率性や不均衡が問題であるという見方が有力です。
例えば、あるタスクを遂行するためには、注意を司るネットワーク、行動を制御するネットワーク、デフォルトモード・ネットワーク(安静時に活動するネットワーク)などが適切に協調して働く必要があります。ADHDでは、これらのネットワーク間の切り替えや連携がスムーズに行われず、結果として「注意が逸れる」「衝動を抑えられない」といった行動に繋がると考えられています。脳の配線(白質)の発達に違いがあるという研究報告もあり、脳内の情報伝達の効率性がADHDの特性に関わっている可能性が示唆されています。
ADHDの発症は遺伝要因だけで決まるわけではありません。遺伝的な素因を持つ個人が、特定の環境要因にさらされることで、発症のリスクが高まったり、症状の現れ方が変わったりすることが知られています。これを「遺伝と環境の相互作用」と呼びます。
特に注目されているのが、周産期(妊娠中から出産前後)の環境です。国立精神・神経医療研究センターの研究によると、母親の周産期のストレスが高いと、出生時の子どものへその緒の血液(臍帯血)中の亜鉛濃度が低下し、炎症反応(IL-6)が上昇する傾向が見られました。そして、この出生時の炎症反応の高さが、後のADHD症状の強さと関連している可能性が示唆されました。
この研究は、遺伝的素因に加えて、胎内環境における栄養状態(亜鉛)やストレスが、脳の発達に影響を与え、将来のADHD発症に関与する可能性を示しています。ただし、これはあくまでリスク要因の一つであり、特定の環境が直接ADHDを引き起こすわけではないことを理解しておく必要があります。
これまで見てきたように、ADHD研究は脳画像、遺伝子、血液データなど、客観的な指標(バイオマーカー)を用いてその病態を解明する段階に入っています。これらのバイオマーカーは、将来的にはADHDの診断や治療に革命をもたらす可能性があります。
ADHDの特性を科学的に理解した上で、次なるステップは「では、どうすれば自分らしく働けるのか?」という問いに具体的に向き合うことです。幸いなことに、日本には障害のある方の就職を強力にサポートする公的な仕組みがあります。それが「就労移行支援」です。この章では、就労移行支援がどのようなサービスで、どのように活用すれば安定した就労に繋がるのかを、徹底的に解説します。
就労移行支援をひとことで言うならば、「障害のある方が一般企業へ就職するための、国が認めた就職準備スクール」です。単に仕事を紹介するだけでなく、働くために必要なスキルや知識を身につけ、就職活動を行い、そして就職後も職場で安定して働き続けられるように、包括的なサポートを提供する福祉サービスです。
目的は、利用者が自分の障害特性や能力に合った仕事を見つけ、一般企業で安定して長く働き続けることです。そのために、職業訓練から就職活動支援、職場定着支援までを一貫して行います。
対象者は、以下の条件を満たす方です。
ここで非常に重要なポイントは、必ずしも障害者手帳を持っている必要はないということです。医師による「診断書」や「意見書」があれば、自治体の判断によってサービスを利用できるケースが多くあります。「手帳がないから自分は対象外だ」と諦める前に、まずはお住まいの市区町村の障害福祉窓口や、気になる事業所に相談してみることが大切です。
利用期間は、法律で定められた標準期間として原則2年間です。この期間内で、自分のペースに合わせて就職準備を進めます。多くの人が1年~1年半程度で就職していくと言われています。
利用料金は、前年度の世帯所得に応じて自己負担額の上限が定められています。しかし、実際には利用者の約9割が自己負担なし(無料)で利用しています。所得によって負担が発生する場合でも、月額の上限(例:9,300円や37,200円)が設けられているため、高額な費用を請求されることはありません。
「就職のための訓練」と聞くと、ハローワークが実施する「職業訓練(ハロートレーニング)」を思い浮かべる方もいるでしょう。両者は就職を目指す点では共通していますが、目的とサポート内容に大きな違いがあります。就労移行支援は、特に障害特性への配慮を必要とする方に適したサービスです。
| 就労移行支援 | 職業訓練 | |
|---|---|---|
| 目的 | 働くための土台作りから就職、定着までを包括的に支援 | 特定の専門スキルや知識の習得 |
| 対象者 | 障害や難病のある方(休職中の方も含む) | 主に求職者全般(障害者向けのコースもあり) |
| 訓練内容 | 生活リズム安定、自己理解、コミュニケーション訓練、ビジネスマナー、PCスキル、就活支援、定着支援など多岐にわたる | プログラミング、WEBデザイン、介護、簿記など専門分野に特化 |
| 通所ペース | 週1日など、体調に合わせて柔軟に調整可能な事業所が多い | 原則として週5日の通所が求められることが多い |
| 障害への配慮 | 専門スタッフが常駐し、個別の特性に合わせたきめ細やかな配慮がある | 障害者向けコース以外では、特別な配慮は限定的 |
| 根拠法 | 障害者総合支援法 | 職業能力開発促進法 |
もしあなたが、「まず生活リズムを整えたい」「自分の障害特性と向き合い、対処法を学びたい」「コミュニケーションに不安がある」といった悩みを抱えているなら、専門的なスキル習得だけでなく、働くための土台作りからサポートしてくれる就労移行支援が非常に有効な選択肢となります。
就労移行支援事業所では、利用者がスムーズに就職し、安定して働き続けられるよう、体系的なプログラムが組まれています。その流れは、大きく分けて以下の4つのステップで進められます。
利用を開始すると、まず支援員との個別面談からスタートします。ここでは、これまでの職歴や生活歴、得意なこと・苦手なこと、病状や体調の波、将来の希望などをじっくりと話し合います。このプロセスは、自分自身を客観的に見つめ直す絶好の機会です。
ADHDの特性を持つ方の場合、「どのような状況でミスが増えるか」「どんな指示の受け方なら理解しやすいか」「集中を維持するための工夫は何か」といった、具体的なレベルで自分の「取扱説明書」を作成していくイメージです。支援員は、福祉や医療の専門知識を持つプロフェッショナルであり、あなた一人では気づかなかった強みや、困難への対処法を一緒に見つけ出してくれます。
この面談で得られた情報を基に、一人ひとりに合わせた「個別支援計画」が作成されます。「3ヶ月後までに週5日通所できるようになる」「半年後までにExcelの基本関数をマスターする」「1年後の就職を目指す」といった、具体的で達成可能な目標を段階的に設定し、就職までのロードマップを明確にします。
安定して働くためには、専門スキル以前に、社会人としての基礎体力が不可欠です。このステップでは、その土台を築くための訓練が行われます。
基礎力が身についてきたら、次は就職市場で求められる具体的な職業スキルの習得に進みます。プログラム内容は事業所によって特色がありますが、多くの事業所で共通して提供されているのは、事務職で必須となるPCスキルです。
訓練で自信がついてきたら、いよいよ就職活動のフェーズです。就労移行支援の最大の強みは、この就職活動を一人ではなく、支援員と二人三脚で進められる点にあります。
「内定はゴールではなく、スタートである」。この言葉は、障害者雇用において特に重要です。新しい環境での仕事は、誰にとってもストレスがかかるもの。就労移行支援の真価は、就職後のサポート、すなわち「定着支援」にこそあると言っても過言ではありません。
就労移行支援事業所は、利用者が就職した後も、原則として6ヶ月間、職場に定着できるようサポートを継続します。主なサポート内容は以下の通りです。
早期離職の主な原因は、「人間関係の悩み」「業務内容のミスマッチ」「体調管理の失敗」です。定着支援は、これらの問題が深刻化する前に介入し、解決をサポートする重要な役割を担います。困った時にいつでも相談できる専門家がいるという安心感は、長く働き続ける上で何よりの支えとなります。
なお、6ヶ月の支援期間が終了した後もサポートが必要な場合は、「就労定着支援」という別の福祉サービスに切り替えることで、最長3年間、継続してサポートを受けることが可能です。
就労移行支援の仕組みを理解したところで、次に気になるのは「本当に就職できるのか?」「どんな仕事に就けるのか?」「給料はどのくらいもらえるのか?」といった現実的な疑問でしょう。この章では、公的なデータを基に、就労移行支援を取り巻く「リアル」を解き明かし、就職を成功させるための秘訣を探ります。
「就労移行支援を使っても、結局就職できないのでは?」という不安は、多くの方が抱くものです。しかし、データはその不安を払拭する客観的な事実を示しています。
厚生労働省の最新調査によると、2022年度に就労移行支援の利用を終えた人のうち、一般企業へ就職した人の割合(一般就労移行率)は57.2%でした。また、別の調査では、就職後6ヶ月時点での職場定着率は89.5%という非常に高い数値を誇ります。
つまり、「利用者の半数以上が希望の就職を果たし、そのうち約9割は半年後も働き続けている」のです。これは、適切なサポートを受けながら計画的に就職活動を進めれば、安定就労は決して非現実的な目標ではないことを力強く示しています。
さらに、就労移行支援は、他の就労系福祉サービスと比較しても、一般就労への移行率が突出して高いことが分かります。就労継続支援A型(雇用契約あり)やB型(雇用契約なし)が「働く場を提供する」ことを主目的とするのに対し、就労移行支援は「一般企業への就職」に特化しているためです。
就労移行支援を経て就職する方の職種は多岐にわたりますが、最も多いのは事務職です。これは、PCスキルやビジネスマナーなど、多くの事業所で提供される基本的な訓練内容と親和性が高いためです。以下は、障害者雇用全体で人気の高い職種の例です。
| 順位 | 職種 | 具体的な仕事内容の例 | 向いている人の特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 事務職 | データ入力、書類作成・ファイリング、電話・メール応対、経理補助 | コツコツとした定型的な作業が得意な方、PCスキルを活かしたい方 |
| 2位 | サービス・販売職 | 小売店の品出し・バックヤード業務、ホテルの清掃、飲食店の調理補助 | 人と接することが好き、または体を動かす仕事がしたい方 |
| 3位 | IT・専門職 | Webサイトの更新、プログラミング、データ分析、CADオペレーター | 特定のスキルや専門知識を活かしたい方、論理的思考が得意な方 |
| 4位 | 製造・技術職 | 工場での部品組み立て、検品、品質管理、軽作業 | 集中力がある方、マニュアルに沿った作業が得意な方 |
| 5位 | その他 | 医療事務、介護補助、図書館の司書補助、農作業 | 社会貢献性の高い仕事に興味がある方 |
近年、特筆すべき傾向として、在宅ワーク(テレワーク)の求人が急速に増加しています。通勤による心身の負担が少なく、自分のペースで仕事を進めやすい在宅ワークは、対人関係のストレスを感じやすい方や、静かな環境で集中したいADHDの特性を持つ方にとって、非常に魅力的な選択肢です。データ入力、Webライター、プログラマーといった職種で、在宅勤務の機会が広がっています。
給与は、多くの方が最も気にするポイントの一つでしょう。厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、障害種別ごとの平均月収(所定内給与額)は以下のようになっています。
このデータを見ると、精神障害や発達障害の方の平均給与は、身体障害の方と比較すると低い傾向にあります。しかし、これは能力の差というよりも、週の所定労働時間が短い働き方を選択する人が多いことが一因と考えられます。同調査では、週の労働時間別の平均給与も示されており、労働時間が長くなるほど給与も高くなる傾向が明確です。例えば、発達障害の場合、週20~30時間未満では平均107,000円ですが、週30時間以上では平均155,000円となっています。
重要なのは、就労移行支援を通じて、まずは自分の体調や特性に合った無理のない働き方からスタートし、徐々に経験を積んでキャリアアップを目指すという長期的な視点です。最初は契約社員や短時間勤務から始めても、実績が認められて正社員に登用されたり、勤務時間を延ばしたりするケースは少なくありません。目先の金額だけでなく、長く安定して働き続けられる環境かどうかを見極めることが大切です。
高い就職率を誇る就労移行支援ですが、誰もが自動的に就職できるわけではありません。企業側の視点を理解し、採用担当者に「この人と一緒に働きたい」と思わせるポイントを押さえることが成功のカギです。企業が障害者雇用において重視するのは、突き詰めると以下の2つのバランスです。
企業が最も知りたいのは、「あなたの障害特性は何か」ということ以上に、「どのような配慮があれば、あなたは能力を最大限に発揮できるのか」ということです。これは、就労移行支援のSTEP1で深める「自己理解」が直接活かされる部分です。
漠然と「集中力がありません」と伝えるのではなく、「一度に複数の指示を受けると混乱しやすいため、指示は一つずつ、できればメモでいただけると助かります」「長時間の会議は集中が途切れやすいので、1時間に5分程度の短い休憩をいただけるとありがたいです」といったように、自分の特性を客観的に分析し、具体的な対策(合理的配慮)を自分の言葉で説明できることが極めて重要です。これは、あなたが自分の障害と主体的に向き合い、セルフマネジメント能力があることの証明にもなり、企業に安心感を与えます。
障害者雇用は、慈善事業ではありません。企業は、あなたを「配慮の対象」としてだけでなく、共に事業を成長させていく「戦力」として期待しています。したがって、就労移行支援で身につけたスキルや、その企業で働きたいという意欲をしっかりとアピールすることが不可欠です。
この「自己理解に基づく配慮の要請」と「企業への貢献意欲」の2つをバランス良く伝えられる人が、採用を勝ち取っています。
就職活動には、自分の障害を開示して応募する「オープン就労」と、開示しない「クローズ就労」があります。就労移行支援からの就職は、多くの場合、合理的配慮を得やすいオープン就労を目指します。それぞれのメリット・デメリットを理解しておきましょう。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| オープン就労 | ・障害への理解や配慮を得やすい ・定着支援などのサポートを活用しやすい ・通院や体調管理の相談がしやすい |
・求人数が一般枠に比べて少ない場合がある ・給与水準が比較的低くなる可能性がある |
| クローズ就労 | ・求人の選択肢が広い ・給与などの待遇面で差がない |
・必要な配慮を得られず、無理をしてしまう ・体調が悪化しても相談しにくく、孤立しやすい ・結果的に離職リスクが高まる |
ADHDの特性を持つ方が安定して働くためには、職場の理解と適切な配慮が不可欠です。そのため、就労移行支援ではオープン就労を推奨し、障害を開示することを前提とした応募書類の作成や面接対策を行っていきます。
就労移行支援の成果は、どの事業所を選ぶかに大きく左右されます。全国に3,000以上の事業所があるため、自分に合った場所を見つけることが重要です。以下のポイントを参考に、複数の事業所を比較検討しましょう。
焦って一つの事業所に決めてしまうのではなく、少なくとも2~3ヶ所の事業所を見学・体験し、それぞれの長所・短所を比較した上で、最も自分に合うと感じた場所を選ぶことが、失敗しないための最大の秘訣です。
これまで解説してきた就労移行支援に加え、2025年10月から、障害のある方の就労をサポートする新たな仕組み「就労選択支援」がスタートします。これから就労支援サービスの利用を考えている方にとっては、必ず知っておくべき重要な制度です。この章では、その目的や内容、既存のサービスとの関係性を分かりやすく解説します。
就労選択支援が導入される背景には、これまでの就労支援における課題がありました。厚生労働省の指摘によると、本来は一般就労を目指せる能力や意欲があるにもかかわらず、本人の希望とは十分に合致しないまま、工賃が比較的低い就労継続支援B型事業所を長期にわたって利用し続けてしまうケースが少なくありませんでした。
このような、本人と支援サービスの間の「ミスマッチ」を防ぎ、一人ひとりが持つ能力や希望に最も適した支援を受けられるようにすること。それが、就労選択支援の最大の目的です。
この制度を一言で表すなら、「どの働き方・どのサービスが自分に本当に合っているか」を、本格的な訓練を始める前に見極めるためのお試し期間あるいはアセスメント(評価)期間と位置づけられます。
就労選択支援は、就労移行支援や就労継続支援に代わるものではなく、それらのサービスを利用する「前段階」で行われる、短期集中のアセスメントサービスです。
| サービス名 | 主な目的 | 支援期間 | 支援内容 |
|---|---|---|---|
| 就労選択支援 (前段階) |
最適な就労支援サービスを「見極める・選択する」 | 標準1ヶ月程度 | アセスメント、複数の事業所での短期間の就労体験、振り返り面談 |
| 就労移行支援 (本番の訓練) |
一般就労に向けて「訓練する・準備する」 | 原則2年間 | 職業訓練、就職活動支援、定着支援 |
就労選択支援の標準的な利用期間はおおむね1ヶ月程度とされており、その中で以下の支援が提供されます。
このプロセスを経ることで、いきなり2年間の就労移行支援を始める前に、自分に合った支援の方向性を確かめることができ、就労開始後のミスマッチのリスクを大幅に低減させることが期待されています。
2025年10月1日以降、新たに就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型といった「就労系サービス」の利用を希望する方が、原則としてこの就労選択支援の利用対象となります。
ただし、制度は段階的に導入されます。厚生労働省の計画によると、まずは以下のスケジュールで適用が開始される予定です。
また、既に何らかの就労系サービスを利用している人でも、サービスの更新時などに希望すれば、就労選択支援を利用して自分のキャリアパスを見直すことが可能になります。
この新制度は、障害のある方一人ひとりが、より主体的に、そして納得感を持って自分の「働く道」を選ぶための羅針盤となるものです。これから就労支援の利用を検討する方は、まずこの「就労選択支援」を通じて、自分に最適なサポートは何かを見極めることから始める、という流れを覚えておくと良いでしょう。
この記事では、ADHDをはじめとする精神・発達障害の特性に悩む方々が、自分らしい働き方を見つけるための道筋を、科学的知見と公的支援制度の両面から解説してきました。
最後に、本記事の要点を改めて振り返ります。
もし今、あなたが「どうせ自分には無理だ」と一人で悩みを抱え込んでいるのなら、ぜひその考えを一度脇に置いてみてください。あなたには、あなたの特性を理解し、共に歩んでくれる支援者がいます。そして、あなたの能力を必要としている企業が必ず存在します。
大切なのは、最初の一歩を踏み出す勇気です。その一歩は、決して大きなものである必要はありません。
「この記事を読んで、少しだけ気持ちが楽になった」
「自分の悩みの原因が、少しだけ分かった気がする」
それだけでも、未来に向けた大きな前進です。
もし、もう少しだけ前に進む勇気が出たなら、次の具体的なアクションを試してみてはいかがでしょうか。
自分を理解し、最適なサポートを得ること。それが、あなたらしいキャリアを築き、充実した職業人生を送るための最も確実な道です。あなたの未来が、今日この瞬間から、より明るいものになることを心から願っています。