コラム 2025年12月19日

精神・発達障害で働くのが怖い…障害者手帳のデメリットと、就労移行支援で「自分らしい働き方」を見つける方法

終わらない「働くこと」への不安。手帳は取るべき?そのデメリットとは?

「この先、自分はどうやって働いていけばいいんだろう…」
精神障害や発達障害を抱えながら、社会で生きていくことへの漠然とした不安。それは、まるで出口の見えないトンネルを一人で歩いているような感覚かもしれません。「周りの人と同じように働けない」「また体調を崩して辞めてしまうのではないか」といった焦りや自己嫌悪に苛まれ、一歩を踏み出すことすら怖くなってしまう。そんな経験を持つ方は少なくないでしょう。

こうした状況で、一つの選択肢として浮かび上がるのが「障害者手帳」の取得です。手帳があれば、税金の控除や医療費の助成、そして「障害者雇用枠」での就労といった様々な支援を受けられる可能性があります。しかし、その一方で、多くの人が手帳の取得をためらうのも事実です。

「障害者というレッテルを貼られるのが怖い」
「手帳を持つことで、逆に不利になることがあるのではないか?」
「手続きが面倒で、精神的に負担が大きいと聞いた…」

メリットに関する情報は数多くあれど、当事者が本当に知りたいのは、こうしたリアルなデメリットや懸念点ではないでしょうか。周囲の目、心理的な負担、プライバシーの問題、キャリアへの影響。これらの本質的な悩みに向き合わない限り、手帳を取得すべきかどうかの冷静な判断はできません。

この記事では、その「働くことへの不安」の根源に深く切り込み、具体的な解決策を提示することを目指します。単に制度を解説するだけでなく、あなたの意思決定と行動を後押しするための、体系的な情報を提供します。

本記事が提供する3つのステップ
  • ステップ1:障害者手帳のデメリットを深く掘り下げる
    手続きの煩雑さから心理的負担まで、手帳取得の「影」の部分を徹底的に分析し、取得の是非を冷静に判断するための材料を提供します。
  • ステップ2:「就労移行支援」という選択肢を解き明かす
    「なぜ働き続けられないのか」という根本課題をデータで解明し、その解決策として、手帳がなくても利用できる「就労移行支援」の役割と可能性を具体的に解説します。
  • ステップ3:自分に合った働き方を見つけるためのアクションプランを提示する
    失敗しない事業所の選び方から、2025年10月から始まる新制度「就労選択支援」まで、最新の法改正を踏まえた具体的な行動計画を示します。

この記事を読み終える頃には、あなたは漠然とした不安から解放され、自分自身の特性と向き合い、納得のいくキャリアを築くための「次の一歩」を、確信を持って踏み出せるようになっているはずです。それでは、一緒にその一歩を踏み出しましょう。

第1部:障害者手帳のリアル – デメリットから考える取得の是非

障害者手帳、特に精神障害や発達障害のある方が対象となる「精神障害者保健福祉手帳」は、多くの公的支援への扉を開く鍵となります。しかし、その取得を巡っては、メリットの裏に隠されたデメリットや心理的な葛藤が存在します。この章では、手帳取得をためらう要因となる「壁」を多角的に分析し、あなたが冷静に取得の是非を判断するための視点を提供します。

手帳取得をためらう4つの壁(デメリット)

手帳取得のメリットは広く知られていますが、多くの当事者が直面するのは、それ以上に重くのしかかる可能性のあるデメリットです。ここでは、その壁を「手続き」「心理」「社会生活」「就職」の4つの側面に分けて掘り下げます。

1. 手続き上の負担:時間と労力の壁

行政手続きに共通する煩雑さは、心身のコンディションが万全でない時には特に大きな負担となります。障害者手帳の申請も例外ではありません。

  • 複雑な書類準備:申請には、市区町村の窓口で入手する申請書に加え、医師が作成した診断書が必要です。自治体によっては、本人確認書類やマイナンバーカード、印鑑など、複数の書類を揃える必要があり、準備だけで相当な時間を要します。
  • 医師の診断書というハードル:精神障害者保健福祉手帳の場合、診断書は「その障害にかかる初診日から6ヶ月以上経過した時点」で作成されたものでなければなりません。これは、症状が一時的なものではないことを証明するためですが、申請を思い立ってから実際に診断書を依頼できるまで、長い時間待たなければならないケースもあります。また、診断書の作成には数千円から一万円程度の費用がかかり、医療機関との調整も必要です。
  • 2年ごとの更新手続き:身体障害者手帳が原則更新不要であるのに対し、精神障害者保健福祉手帳の有効期間は2年間です。2年ごとに診断書を取得し、更新手続きを行わなければならず、これが永続的な手間と心理的コストになります。

複雑な手続き、医師の診断、時間と労力、そして心理的負担は、申請者が直面する現実的な課題です。

2. 心理的な負担:「障害者」というレッテルとの葛藤

手続き上の負担以上に、多くの当事者を悩ませるのが心理的な壁です。手帳を持つことは、自らの障害を公的な「証明」として受け入れることを意味します。

  • 自己受容の難しさ:手帳を持つことで、「自分は障害者なのだ」という事実を突きつけられるように感じ、抵抗感を覚えることがあります。特に、障害の受容(障害受容)がまだ十分に進んでいない段階では、このプロセスが大きなストレスとなり、精神状態に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。
  • 持つこと自体のストレス:手帳を携帯し、必要に応じて提示すること自体が、常に自身の障害を意識させる行為となり、精神的な疲労につながることもあります。

3. 社会生活における懸念:プライバシーと偏見の壁

日常生活の中で手帳を利用する場面は、同時に自らの障害を他者に開示する場面でもあります。これには、プライバシーと社会的な偏見という二重の懸念が伴います。

  • 周囲の視線とプライバシー:公共交通機関の割引など、手帳を提示する際に、周囲から奇異の目で見られるのではないか、という不安は根強く存在します。特に外見からは障害が分かりにくい精神障害や発達障害の場合、「なぜこの人が?」という無理解な視線に晒されるリスクは、当事者にとって大きな心理的障壁です。
  • (誤解の解消)生命保険への加入について:かつては「手帳を持つと生命保険に入れない」という懸念が広くありました。確かに、一部の保険商品では加入が制限される場合があります。しかし現在では、持病や既往症がある人でも加入しやすい「引受基準緩和型保険」「無選択型保険」といった選択肢が増えており、手帳の有無だけで一律に加入不可となるわけではありません。この点は、デメリットとして過度に恐れる必要はないと言えるでしょう。

4. 就職への影響:メリットとデメリットの表裏一体

手帳取得の最大の動機の一つが「就職」である一方、そこにはメリットと表裏一体のデメリットも存在します。どちらの側面を重視するかは、個人のキャリアプランに大きく関わります。

  • メリット:障害者雇用枠という選択肢
    手帳を取得することで、障害者雇用促進法に基づき企業に設置されている「障害者雇用枠」への応募資格が得られます。この枠で採用されると、企業には「合理的配慮」(業務内容の調整、通院への配慮、コミュニケーション方法の工夫など)を提供する法的義務が生じます。これにより、自身の障害特性に合わせた環境で、安心して働きやすいという大きなメリットがあります。
  • デメリットの側面:キャリアパスへの影響
    一方で、障害者雇用枠は、一般雇用枠(クローズ就労:障害を非開示で働く)と比較して、任される業務の範囲が限定的であったり、昇進・昇給の機会に制約があったりする可能性が指摘されています。給与水準も、一般社員と同水準とは限らず、平均的に低めに設定される傾向があります。長期的なキャリア形成を考えた際に、この点がデメリットと感じられる場合があります。
  • クローズ就労という選択肢
    手帳を持っていても、それを使わずに一般枠で就職活動を行う「クローズ就労」も可能です。しかし、一度オープン(障害を開示)にして就職活動を始めると、その情報が残ることを懸念し、クローズ就労への切り替えが心理的に難しくなることも考えられます。

【自己診断】手帳取得を検討すべきケース

これらのデメリットを踏まえた上で、あなたが手帳を取得すべきかどうかを判断するためのチェックリストを以下に示します。これはあくまで一つの指針であり、最終的な判断はあなた自身の価値観に基づきます。

手帳取得の判断基準チェックリスト
  • 経済的メリットを重視するか?
    所得税・住民税の障害者控除、医療費助成(自立支援医療制度など)、公共交通機関の割引など、手帳による経済的支援は生活の負担を大きく軽減します。これらのメリットが、前述した心理的・手続き的なデメリットを上回ると感じますか?
  • 「合理的配慮」のある働き方を望むか?
    体調の波や障害特性に合わせた働き方(例:時短勤務、業務量の調整、定期的な通院休暇)を企業に求めることを最優先に考えますか?その場合、障害者雇用枠への応募資格となる手帳は不可欠です。
  • 公的な「証明」が必要か?
    自身の障害特性や必要な配慮について、口頭で説明するだけでは理解を得にくい場面で、手帳を「公的な証明」として活用したいと考えていますか?

結論:手帳は「活用するツール」である

ここまで見てきたように、障害者手帳の取得には光と影の両側面があります。重要なのは、手帳は「持つべきもの」ではなく、あなたが自分らしい生活や働き方を実現するために「活用するツール」の一つであると捉えることです。

デメリットを正しく理解し、それが自分にとって許容範囲内であるかを見極める。そして、手帳を持つことで得られるメリットが、自身の目標達成にどう貢献するのかを具体的にイメージする。この冷静な比較検討こそが、後悔のない選択につながるのです。

もし、あなたが「働くこと」への不安から手帳を検討しているのであれば、次の章で解説する「就労移行支援」という、もう一つの強力なツールについて知ることが、さらなる判断材料となるでしょう。

第2部:なぜ働き続けられない?精神・発達障害の就労課題と「就労移行支援」という解決策

障害者手帳の取得を迷う根本的な原因は、多くの場合、「働くこと」そのものへの深い不安に根差しています。「せっかく就職しても、またすぐに辞めてしまうのではないか」「自分の特性が原因で、職場で迷惑をかけてしまうのではないか」。この章では、こうした不安の正体をデータと構造から解き明かし、その具体的な解決策として「就労移行支援」という制度を詳しく解説します。

精神・発達障害者が直面する「働けない」の正体

「働き続けられない」という悩みは、決して個人の意欲や努力不足の問題ではありません。そこには、障害特性と社会環境の間に横たわる、構造的な課題が存在します。

データで見る厳しい現実:高い離職率

まず、客観的なデータから、精神・発達障害者の就労がいかに困難な状況にあるかを見てみましょう。

  • 精神障害者の職場定着率:障害者職業総合センターの調査によると、精神障害者の就職1年後の職場定着率は49.3%。つまり、就職した人の半数以上が1年以内に離職しているという厳しい現実があります。これは、身体障害者(60.8%)や知的障害者(68.0%)と比較しても著しく低い数値です。
  • 発達障害者の平均勤続年数:厚生労働省の「令和5年度 障害者雇用実態調査」によれば、発達障害者の平均勤続年数は5年1ヶ月。これも身体障害者の12年2ヶ月や知的障害者の9年1ヶ月と比べて短く、長期的な就労継続に課題があることを示唆しています。

離職につながる3つの要因

では、なぜこれほどまでに離職率が高くなってしまうのでしょうか。その背景には、主に3つの要因が複雑に絡み合っています。

  1. ミスマッチ:特性と業務・環境の不一致
    最も大きな原因は、本人の障害特性と、任される業務内容や職場環境が合っていない「ミスマッチ」です。例えば、

    • ASD(自閉スペクトラム症)の人が、臨機応変な対人対応や暗黙のルール理解が求められる接客業に就いてしまう。
    • ADHD(注意欠如・多動症)の人が、高い集中力と正確性が要求される単調なデータ入力作業を長時間続けなければならない。

    こうしたミスマッチは、本人に過剰なストレスを与え、パフォーマンスの低下や体調不良を招き、最終的に「業務遂行上の課題」として離職に至るケースが後を絶ちません。

  2. 自己理解の不足:「自分のトリセツ」がない
    多くの当事者が、「自分は何が得意で、何が苦手なのか」「どんな時にストレスを感じ、どうすれば対処できるのか」「働く上で、会社にどんな配慮をしてもらえれば能力を発揮できるのか」といった「自分自身の取扱説明書(トリセツ)」を整理し、言語化できていません。企業側も、採用面接で重視するのは障害の有無そのものよりも「本人が自身の特性を把握し、必要な配慮を説明できるか」という点です。自己理解が不足していると、適切な配慮を求めることができず、一人で困難を抱え込んでしまいます。
  3. 企業の理解不足:受け入れ体制の未整備
    障害者雇用に積極的な企業が増える一方で、現場レベルでは精神・発達障害への理解や受け入れノウハウが不足しているケースも少なくありません。厚生労働省の調査でも、企業が障害者雇用で感じる課題として「会社内に適当な仕事があるか」「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が上位に挙げられています。結果として、適切な合理的配慮が提供されず、本人が孤立し、離職につながってしまうのです。

「就労移行支援」とは? – 就職へのリハビリテーション

これらの根深い課題を解決するために設計されたのが、障害者総合支援法に基づく福祉サービス「就労移行支援」です。これは、単に仕事を見つける場所ではなく、就職し、働き続けるために必要な準備を整える「就職へのリハビリテーション」とも言える場所です。

制度の基本解説

就労移行支援の基本情報
  • 目的:一般企業への就職を目指す障害のある方が、働くために必要な知識やスキルを身につけ、就職後も職場に定着することを目指す、通所型の福祉サービスです。
  • 利用条件:原則として18歳以上65歳未満で、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがあり、一般企業への就労を希望する方が対象です。最も重要な点として、障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書や意見書があれば利用できる場合があります
  • 利用期間:原則として最長2年間です。この期間内に、集中的な訓練や就職活動を行います。
  • 費用:前年の世帯所得に応じて自己負担額が異なりますが、多くの方が無料または月額数千円程度で利用しています。

就労移行支援で得られる3つの力

就労移行支援事業所では、一人ひとりの状況に合わせて、主に以下の3つの力を体系的に身につけることができます。

  1. 自己理解の深化:「自分のトリセツ」の作成
    専門の支援員との定期的な面談や、グループワーク、自己分析プログラムなどを通じて、自分でも気づかなかった強みや弱み、ストレスのサイン、そして必要な配慮を客観的に把握します。このプロセスを経て作成される「自分のトリセツ」は、後の就職活動や職場で自分を守り、能力を発揮するための最強の武器となります。
  2. 職業スキルの習得:実践的な訓練
    多くの事業所では、個々の目標に応じた多様な職業訓練プログラムが提供されています。

    • 基礎スキル:ビジネスマナー、報告・連絡・相談(報連相)、コミュニケーションスキル、ストレスマネジメント、生活リズムの安定など。
    • 専門スキル:PCスキル(Word, Excel, PowerPoint)、プログラミング、Webデザイン、事務作業など。

    これらの訓練を通じて、就職への自信と実務能力を高めます。

  3. 就職活動と定着の伴走:一人にしないサポート
    就労移行支援のサポートは、訓練だけにとどまりません。

    • 就職活動支援:自己PRの作成、履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接、求人探しなど、就職活動のあらゆる段階で伴走します。
    • 企業実習(インターンシップ):実際の企業で短期間働くことで、仕事内容や職場の雰囲気が自分に合うかを入社前に確認できます。
    • 就労定着支援:就職後も、支援員が定期的に本人や企業担当者と面談を行います。仕事上の悩みや人間関係のトラブルなどを早期に発見し、解決に向けて一緒に動いてくれるため、安心して働き続けることができます(この支援は最長3年6ヶ月間利用可能)。

就労移行支援が「就労の壁」を乗り越える鍵となる理由

就労移行支援は、前述した「離職につながる3つの要因」に直接アプローチし、それらを解消するための仕組みを備えています。

「自己理解の不足」→ 自己理解プログラムで「自分のトリセツ」を作成
「ミスマッチ」→ 企業実習で入社前に相性を確認
「企業の理解不足」→ 支援員が本人と企業の橋渡し役となり、適切な合理的配慮を調整

採用選考の場で企業が最も重視する「自己理解とそれを説明できる能力」を、専門家のサポートを受けながら養うことができる。これが就労移行支援の最大の価値です。

一人で悩み、手探りで就職活動を進めるのではなく、支援員という客観的な視点を持つ第三者と二人三脚でキャリアプランを練り直す。このプロセスを経ることで、漠然とした「働けないかもしれない」という不安は、「こうすれば働ける」という具体的な自信へと変わっていきます。

障害者手帳を取得するかどうかの判断に迷っている方も、まずは手帳不要で利用できる可能性がある就労移行支援について知ることは、あなたの未来の選択肢を大きく広げることに繋がるはずです。次の章では、数ある事業所の中から、自分に合った場所を見つけるための具体的な方法を見ていきましょう。

第3部:【実践編】失敗しない!自分に合った就労移行支援事業所の選び方

就労移行支援が、精神・発達障害を持つ方の就労課題を解決する強力なツールであることを理解いただけたかと思います。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、数多く存在する事業所の中から「自分に合った場所」を主体的に選ぶことが不可欠です。この章では、後悔しない事業所選びのための実践的なガイドを提供します。

自分自身の特性とニーズに合った事業所を選ぶことが、就職成功への最も重要なステップです。

事業所選びで確認すべき5つの重要ポイント

事業所のウェブサイトやパンフレットに書かれている情報だけでは、その実態は見えにくいものです。以下の5つのポイントを軸に、複数の事業所を比較検討することが成功のカギとなります。

1. 支援プログラムの内容は、自分の特性や目標に合っているか?

事業所によって提供されるプログラムは千差万別です。「自分に必要なサポートがそこにあるか」を具体的に確認しましょう。

  • 障害特性に特化したプログラム:あなたの障害特性に合わせたプログラムがあるかは重要な判断基準です。
    • 発達障害向け:SST(ソーシャルスキルトレーニング)、段取りや時間管理を学ぶプログラム、感情コントロールの訓練など。
    • 精神障害向け:ストレスコーピング(対処法)、生活リズムの安定化支援、再発予防プログラムなど。
  • 目指す職種に必要なスキル:あなたが目指したい仕事はありますか?その職種で求められる専門スキルを学べるかを確認しましょう。事務職を目指すならPCスキル、IT系ならプログラミング、クリエイティブ系ならデザインソフトの講座など、具体的なカリキュラムをチェックします。

2. 就職実績と定着支援は手厚いか?

「就職率〇%」という数字だけに惑わされてはいけません。その「質」を見極めることが重要です。

  • 実績の「質」を確認する:単なる就職者数だけでなく、「どのような企業に」「どのような職種で」「どのような雇用形態で」就職しているのか、具体的な事例を尋ねてみましょう。あなたの希望するキャリアパスと合致する実績があるかは、大きな判断材料になります。
  • 定着支援の具体的内容:就職はゴールではなくスタートです。就職後の「就労定着支援」がどれだけ手厚いかは、長期的に働き続ける上で極めて重要です。支援員がどのくらいの頻度で面談をしてくれるのか、企業側とどのように連携してくれるのか、具体的なサポート体制を確認しましょう。

3. 事業所の雰囲気とスタッフの専門性は信頼できるか?

原則2年間通うことになる場所だからこそ、自分にとって居心地の良い環境であるかは見過ごせないポイントです。これは、実際に行ってみないと分かりません。

  • 見学・体験利用を必ず行う:複数の事業所に見学や体験利用を申し込み、実際の雰囲気を肌で感じましょう。「静かな環境で集中したい」「ある程度活気がある方が刺激になる」など、自分に合う環境は人それぞれです。利用者の表情やスタッフとの関わり方も観察してみましょう。
  • スタッフとの相性:支援スタッフがあなたの障害特性について深い理解を持っているか、そして何より「この人になら安心して相談できる」と思える相手かどうかは、非常に重要です。面談の際に、あなたの悩みや希望を親身に聞いてくれるか、専門的な視点から的確なアドバイスをくれるかを見極めましょう。

4. 無理なく通えるか?(立地と柔軟な利用形態)

体調に波がある場合、通所自体が負担になっては本末転倒です。

  • 物理的な通いやすさ:自宅からの距離や交通の便など、無理なく通い続けられる立地であるかを確認します。
  • 在宅訓練・オンライン支援の有無:近年、在宅での訓練やオンラインでの面談に対応する事業所が増えています。体調が不安定な日でも自宅で支援を受けられる体制が整っているかは、特に精神・発達障害のある方にとって重要なチェックポイントです。

5. 外部機関との連携は密か?

優れた事業所は、単独で支援を完結させるのではなく、地域の様々な機関と連携して多角的なサポートを提供しています。

  • 連携先の確認:地域のハローワーク、医療機関、障害者就業・生活支援センター、そして多くの企業と密なネットワークを築いているかを確認しましょう。多様な連携先があるほど、あなたに合った求人紹介や企業実習の機会、そして多角的なサポートが期待できます。

利用開始までの5ステップ

自分に合いそうな事業所が見つかったら、次は利用開始に向けた手続きを進めます。手続きは少し複雑に感じるかもしれませんが、一つずつ丁寧に進めれば問題ありません。事業所のスタッフもサポートしてくれます。

就労移行支援 利用開始までの流れ
  1. 相談:まずは、かかりつけの主治医や、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口、または相談支援事業所に「就労移行支援を利用したい」と相談します。
  2. 情報収集・見学:インターネットなどで事業所を探し、気になる場所をいくつかリストアップします。必ず複数の事業所に見学や体験利用を申し込み、比較検討しましょう。
  3. 利用申請:利用したい事業所を決定したら、お住まいの市区町村の窓口で「障害福祉サービス受給者証」の交付申請を行います。この際、障害者手帳がなくても、医師の診断書や意見書(「就労移行支援の利用が必要」という旨が記載されたもの)で申請できる場合があります。
  4. サービス等利用計画の作成:申請と並行して、市区町村が指定する「指定特定相談支援事業所」の相談支援専門員と面談し、あなたの希望や目標に基づいた「サービス等利用計画案」を作成します。これを市区町村に提出します。
  5. 契約・利用開始:市区町村の審査を経て「受給者証」が交付されたら、利用を決めた事業所と正式に契約を結び、通所(または在宅での訓練)がスタートします。

このプロセスには、申請から受給者証の交付まで1〜2ヶ月程度かかることが一般的です。焦らず、計画的に進めていきましょう。不明な点があれば、遠慮なく市区町村の窓口や事業所のスタッフに質問することが大切です。

次の最終章では、2025年から本格的に始まる新しい制度も踏まえ、これからの障害者就労がどう変わっていくのか、その未来像と私たちが取るべき戦略について解説します。

第4部:2025年からの新潮流 – 法改正と「就労選択支援」がもたらす変化

障害者を取り巻く就労環境は、今、大きな変革期を迎えています。法改正による雇用の門戸拡大と、2025年10月からスタートする新制度「就労選択支援」。これらの変化は、これまで以上に「一人ひとりに合った働き方」を追求できる時代の到来を告げています。この章では、これらの最新動向を読み解き、あなたが未来のキャリアを戦略的に築くための視点を提供します。

障害者雇用促進法の改正(2024年4月〜)がもたらす影響

2024年4月から施行された障害者雇用促進法の改正は、企業側の雇用義務を強化し、障害のある方々の就労機会をさらに広げるものです。主なポイントは2つです。

1. 法定雇用率の段階的引き上げ:企業の採用意欲が向上

民間企業の障害者法定雇用率は、2024年4月に2.3%から2.5%に引き上げられ、さらに2026年7月には2.7%となることが決まっています。これにより、障害者を雇用しなければならない企業の範囲が広がり(例:2.5%では従業員40人以上の企業が対象)、企業全体の採用意欲が高まることが予想されます。これは、求職者にとっては障害者雇用枠の求人が増え、就職のチャンスが拡大することを意味します。

2. 短時間労働者の雇用率算定:多様な働き方の実現へ

今回の改正で特に注目すべきは、これまで雇用率の算定対象外だった「週の所定労働時間が10時間以上20時間未満」の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者についても、「0.5人」として雇用率に算定できるようになった点です。

これは、体調の波や体力の問題で長時間の勤務が難しい方々にとって、非常に大きな変化です。企業側も、フルタイム勤務にこだわらず、短時間からでも雇用しやすくなるため、「まずは週15時間から始めて、体調を見ながら徐々に時間を延ばしていく」といった、より柔軟で多様な働き方が実現しやすくなります。

【最重要】新制度「就労選択支援」とは?(2025年10月〜)

そして、今後の障害者就労のあり方を根底から変える可能性を秘めているのが、2025年10月1日から施行される新制度「就労選択支援」です。

制度の目的:「とりあえず」のミスマッチを防ぐ

従来の課題として、「自分に何が向いているか分からないまま、とりあえず就労移行支援事業所に通い始めたが、プログラムが合わずに辞めてしまった」「就労継続支援B型事業所で働き始めたが、もっと高いレベルの仕事に挑戦できたかもしれない」といった、サービス利用のミスマッチがありました。

就労選択支援は、こうしたミスマッチを根本から防ぐために創設された制度です。就労移行支援や就労継続支援(A型/B型)といった本格的な福祉サービスを利用する「前」の段階で、短期間(原則1〜2ヶ月)の客観的なアセスメント(評価・分析)を行い、本人にとって最適なサービスや働き方を、本人主体で見極めることを目的としています。

支援のプロセス:自分を客観的に知る機会

就労選択支援では、具体的に以下のようなプロセスで支援が行われます。

  1. アセスメントの実施:専門の支援員との面談、短期間の作業体験や企業実習、職業興味検査などを通じて、本人の能力、得意・不得意、仕事への希望、必要な配慮などを多角的に評価・整理します。
  2. 多機関連携によるケース会議:アセスメント結果をもとに、本人、支援員、ハローワークの担当者、必要に応じて医療機関や相談支援専門員などが集まり、客観的な評価を共有し、今後の方向性について話し合います。
  3. 本人主体での進路選択:共有された客観的な情報に基づき、本人が最も納得できる進路を主体的に選択します。選択肢は、「就労移行支援」でスキルアップを目指す、「就労継続支援A型/B型」で働く経験を積む、あるいは「一般就労」へ直接挑戦するなど、多岐にわたります。

2025年10月以降、新たに就労継続支援B型を利用する方は原則としてこの就労選択支援の利用が必要となり、将来的には就労継続支援A型や就労移行支援の利用者にも適用が拡大される予定です。

当事者にとっての絶大なメリット

この新制度は、当事者にとって計り知れないメリットをもたらします。

最大のメリットは、「自分探しのための、公的に用意された猶予期間」が得られることです。焦って就職先や支援サービスを決める前に、専門家や関係機関のサポートを受けながら、自分自身を客観的に見つめ直し、納得感のある選択をする機会が制度として保障されるのです。

これにより、「自分には合わない場所で2年間を無駄にしてしまった」というような、取り返しのつかないミスマッチのリスクを大幅に低減させることができます。

今後の展望:支援活用のパーソナライズ化

これらの法改正や新制度の導入により、これからの障害者就労は、画一的なルートを辿るのではなく、個々の状況やライフステージに応じて、必要な支援を柔軟に組み合わせて活用する「パーソナライズ化」の時代へと移行していきます。

就労は一人で行うものではなく、本人・企業・外部機関が連携するエコシステムの中で実現されます。

例えば、以下のような支援の組み合わせが考えられます。

  1. 【入口】就労選択支援:まず自分の適性や希望を客観的に把握する。
  2. 【準備】就労移行支援:アセスメント結果に基づき、自分に合った事業所で必要なスキルを2年間で集中的に磨く。
  3. 【実践】障害者トライアル雇用:短期間の試行雇用で、実際の職場との相性を最終確認する。
  4. 【定着】就労定着支援・ジョブコーチ:就職後も、支援機関やジョブコーチ(職場適応援助者)のサポートを受けながら、環境調整や課題解決を行い、長期的な就労を実現する。

このように、切れ目のない支援を戦略的に活用することで、「働くことへの不安」は最小化され、誰もが自分の能力を最大限に発揮できる可能性が広がります。重要なのは、これらの制度の存在を知り、自分に必要なサポートは何かを考え、主体的に活用していく姿勢です。

まとめ:不安と向き合い、あなただけの「働く」を見つけるために

この記事では、精神・発達障害を抱えながら「働くこと」に不安を感じている方に向けて、障害者手帳のデメリットから、就労移行支援の活用法、そして未来の就労支援の形までを体系的に解説してきました。

本記事の要点
  • 障害者手帳は「手段」である:手帳の取得は目的ではありません。手続きの負担や心理的な壁といったデメリットを正しく理解した上で、自身の目標達成のために必要かどうかを冷静に判断する「活用するツール」と捉えることが重要です。
  • 「働けない」は個人の問題ではない:高い離職率の背景には、障害特性と環境の「ミスマッチ」や「自己理解の不足」といった構造的な課題があります。その有効な解決策が「就労移行支援」です。
  • 就労移行支援は「就職へのリハビリ」:手帳がなくても利用できるこのサービスは、自己理解を深め、スキルを習得し、就職後の定着までを伴走してくれる強力なサポーターです。事業所選びでは、実績の質やプログラム内容、スタッフとの相性を主体的に見極めることが成功のカギとなります。
  • 未来はよりパーソナルな支援へ:2025年10月から始まる新制度「就労選択支援」は、サービス利用前のミスマッチを防ぎ、より納得感のあるキャリア選択を可能にします。これからの時代は、個々の段階に応じて様々な支援を組み合わせて活用することが主流になります。

「働くのが怖い」という気持ちは、決してあなた一人が抱える特別な感情ではありません。それは、自身の特性と社会の仕組みとの間で、どうバランスを取れば良いか分からないという、当然の戸惑いです。しかし、その不安と一人で向き合う必要はもうありません。

障害者手帳、ハローワーク、就労移行支援、そして新設される就労選択支援。あなたの周りには、あなたが思っている以上に多くの社会資源と、あなたを支えたいと思っている専門家たちが存在します。

この記事が、あなたの漠然とした不安を、具体的な行動へと変えるきっかけとなれば幸いです。まずは、その小さな一歩として、信頼できる主治医やご家族、あるいはお住まいの市区町村の障害福祉窓口、そして気になる就労移行支援事業所に、あなたの今の気持ちを相談してみてはいかがでしょうか。

あなただけの「働く」の形は、必ず見つかります。その旅路は、もう始まっています。

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