コラム 2025年11月20日

精神・発達障害(ASD・ADHD)のある方が自分らしく働くには?特性の違いと就労移行支援の活用法を徹底解説

「今の仕事、どうしてもうまくいかない」「職場の人間関係でいつもつまずいてしまう」「自分に合う仕事が何なのか、もうわからない」。精神障害や発達障害(特にASD:自閉スペクトラム症やADHD:注意欠如・多動症)の特性を持つ方の中には、こうした悩みを一人で抱え、自信を失いかけている方も少なくないかもしれません。

仕事が長続きしないのは、あなたの努力が足りないからではありません。多くの場合、ご自身の「特性」と「仕事内容・職場環境」との間にミスマッチが生じていることが原因です。そして、そのミスマッチを解消し、自分らしい働き方を見つけるための強力な味方となるのが、国が認めた公的な福祉サービス「就労移行支援」です。

この記事では、精神・発達障害のある方が直面しがちな就労の課題を深く掘り下げ、特に混同されやすいASDとADHDの特性の違いが、仕事の「得意・不得意」にどう影響するのかを徹底的に分析します。その上で、就労移行支援という制度をいかに戦略的に活用し、自らの特性を「弱み」ではなく「強み」として活かせるキャリアを築くか、その具体的な方法論を体系的に解説します。

記事は以下の構成で進みます。

  1. 就労移行支援の基本:制度の全体像を3分で理解します。
  2. ASD・ADHDの仕事上の違い:本記事の核心。あなたの「困りごと」の正体を解き明かします。
  3. 就労移行支援の活用戦略:特性を強みに変えるための具体的なアクションプランを提示します。
  4. 利用手続きガイド:ゼロから利用開始までの流れを分かりやすく解説します。

近年、企業の障害者法定雇用率は段階的に引き上げられ、2026年7月には2.7%となる予定です。企業側の採用意欲が高まる一方で、採用のミスマッチは依然として大きな課題です。こうした背景から、2025年10月には、就労系サービスを利用する前に自己理解を深め、最適なサービスを選択するための新制度「就労選択支援」が開始されます。これは、就職活動の「前段階」である自己分析と適切な支援選びが、これまで以上に重要になることを示唆しています。

この記事が、あなたが自分自身を深く理解し、社会で輝くための「自分だけの取扱説明書」を手に入れるための一助となれば幸いです。

就労移行支援とは?まず知っておきたい3つの基本

「就労移行支援」という言葉を初めて聞く方や、まだ詳しく知らない方のために、まずは制度の根幹をなす3つの基本ポイントを簡潔に解説します。ここは、複雑な制度の全体像を短時間で把握するための基礎知識パートです。

1. 就労移行支援は「就職準備から職場定着まで」を支える公的サービス

就労移行支援をひとことで表すなら、「障害のある方が一般企業へ就職するための、国が認めた就職準備スクール」です。単に仕事を紹介するだけでなく、働くために必要なスキルを身につけ、自分に合った仕事を見つけ、そして就職後も長く安定して働き続けられるように、一貫してサポートすることを目指します。

このサービスの目的は、大きく分けて2つあります。

  • 一般企業への就職:職業訓練や自己分析、就職活動のサポートを通じて、利用者が自分の能力や特性に合った企業へ就職することを支援します。
  • 職場への定着:就職はゴールではありません。就職後も定期的な面談などを通じて、職場で生じる悩みや課題を解決し、利用者が安心して働き続けられる環境を整える「定着支援」まで行います。

法律(障害者総合支援法)に基づく公的な福祉サービスであるため、安心して利用できる点が大きな特徴です。

2. 対象者・期間・料金の概要

利用を検討する上で最も気になる「誰が、いつまで、いくらで使えるのか」という点を、以下の表にまとめました。特に重要なポイントは、「障害者手帳がなくても利用できる可能性がある」ことと、「約9割の方が無料で利用している」ことです。

項目 概要
対象者 原則として18歳以上65歳未満で、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、または難病などがあり、一般企業への就職を希望している方。
※障害者手帳の所持は必須ではありません。医師の診断書や意見書、あるいは自治体の判断によってサービスの必要性が認められれば利用可能です。
利用期間 原則として2年間(24ヶ月)です。この期間内に就職を目指します。ただし、自治体の審査により必要性が認められた場合、最大1年間の延長が可能なケースもあります。就職者の平均利用月数は約15.9ヶ月というデータもあります。
利用料金 前年の世帯所得に応じて自己負担額の上限が定められていますが、利用者の約9割は自己負担0円(無料)で利用しています。ここでいう「世帯」とは、18歳以上の場合は本人とその配偶者の所得を指し、親の収入は含まれません。そのため、本人に収入がなければ無料になるケースがほとんどです。

3. 4つのステップで進む具体的なサポート内容

就労移行支援事業所に通うと、具体的にどのようなサポートを受けられるのでしょうか。支援は主に以下の4つのステップで、一人ひとりの状況に合わせて進められます。

  1. STEP1:自己理解と計画作成
    まずはサービス管理責任者をはじめとした支援員との個別面談からスタートします。これまでの経験、得意なこと、苦手なこと、将来の希望などを丁寧にヒアリングし、「どんな仕事が向いているか」「どんなスキルを身につけるか」といった目標を一緒に設定。それに基づき、就職までのロードマップとなる「個別支援計画」を作成します。自分一人では気づかなかった強みや課題を発見できる重要なプロセスです。
  2. STEP2:職業訓練・スキルアップ
    計画に沿って、就職に必要なスキルを身につけるための職業訓練を受けます。多くの事業所では、以下のようなプログラムが提供されています。

    • PCスキル:Word、Excel、PowerPointなど、事務職で求められる基本操作。
    • ビジネスマナー:挨拶、電話応対、名刺交換など、社会人としての基礎。
    • コミュニケーション訓練:グループワークを通じた報告・連絡・相談(報連相)の練習。
    • ストレスコントロール:自分のストレスサインに気づき、適切に対処する方法(アンガーマネジメントなど)や、安定して働くための体調管理術。
  3. STEP3:就職活動サポート
    スキルが身につき、就職への準備が整ったら、具体的な就職活動に移ります。ここでも手厚いサポートが受けられます。

    • 書類作成支援:履歴書や職務経歴書の書き方を個別に添削・アドバイス。
    • 模擬面接:本番さながらの面接練習を繰り返し、自信を持って臨めるようサポート。障害特性の伝え方なども相談できます。
    • 求人紹介・企業開拓:ハローワークや協力企業から、適性に合った求人を紹介。時には事業所が利用者のために企業へ働きかけ、求人を開拓してくれることもあります。
    • 職場見学・実習:応募前に実際の職場を見学したり、短期間の職場実習(インターンシップ)に参加したりすることで、ミスマッチを防ぎます。
  4. STEP4:就職後の定着支援
    就労移行支援のゴールは「就職すること」ではなく、「就職した職場で、長く安定して働き続けること」です。そのため、就職後もサポートは続きます。これを「就労定着支援」と呼びます。例えば、就職後に生じた仕事上の悩みや人間関係の不安について支援員に相談したり、支援員が職場と本人の「橋渡し役」となって働きやすい環境を一緒に作ってくれたりします。このサポートは原則として就職後6ヶ月間提供されますが、その後も「就労定着支援」という別のサービスに切り替えて、最長3年間サポートを継続することも可能です。

【本記事の核心】ASDとADHD、仕事の「得意」と「苦手」はどこが違う?

このセクションでは、本記事の核心である「ASDとADHDの仕事における違い」を徹底的に掘り下げます。なぜなら、自分の特性を正しく理解することこそが、自分に合った仕事を見つけ、能力を最大限に発揮するための第一歩だからです。ここでは、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』などを参考に、両者の特性が実際の仕事の場面でどのように現れるのかを、「困りごと」と「強み」のセットで具体的に解説していきます。

1. 一目でわかる!ASDとADHDの主な特性比較

ASDとADHDは、どちらも「発達障害」という大きな枠組みに含まれますが、その中核となる特性は異なります。ASDは主に「対人関係の質的な違い」と「限定された興味・こだわり」が特徴であり、ADHDは「不注意」と「多動性・衝動性」が主な特徴です。以下の表で、その違いを概観してみましょう。

特性の領域 ASD(自閉スペクトラム症) ADHD(注意欠如・多動症)
社会性・コミュニケーション 言葉の裏や場の空気を読むのが苦手。冗談や比喩が通じにくい。一方的な会話になりがち。 おしゃべり好きで人との交流が得意な場合もあるが、相手の話を遮ったり、衝動的な発言で人間関係のトラブルになることがある。
行動・興味 特定の物事への強いこだわり。決まった手順やルールを好み、急な変更が苦手。 好奇心旺盛で新しいことに次々興味が移る。じっとしているのが苦手。思いつきで行動しやすい。
注意・集中 興味のあることには驚異的な集中力(過集中)を発揮するが、興味のないことには注意が向きにくい。 注意が散漫になりやすく、集中力が持続しにくい。ケアレスミスや忘れ物が多い。
感覚 音、光、匂い、触覚などに非常に敏感(感覚過敏)または鈍感(感覚鈍麻)な場合がある。 感覚過敏を持つ人もいるが、ASDほど中核的な特性とはされていない。

2. ASD(自閉スペクトラム症)の仕事における特性

ASDの特性は、一見すると仕事上の弱点に見えがちですが、環境や業務内容がマッチすれば、他の人には真似のできない強力な「強み」に変わります。

具体的な「困りごと」あるある

ASDのある方が職場で直面しやすい「困りごと」には、以下のようなものがあります。

  • 曖昧な指示が理解できない:「これをいい感じにまとめておいて」「適当によろしく」といった抽象的な指示に混乱します。「いい感じ」の基準が分からず、何から手をつけていいか固まってしまうことがあります。
  • 急な変更への対応が苦手:事前に決められたスケジュールや手順が突然変更になると、強いストレスを感じ、パニックに陥ることがあります。柔軟な対応が求められる場面は大きな負担となります。
  • 雑談や暗黙のルールの困難さ:昼休みや休憩時間の雑談の輪に入ることが難しかったり、「言わなくてもわかるでしょ」という職場の暗黙のルールが理解できず、孤立感を深めたり、「空気が読めない」と誤解されたりすることがあります。
  • 感覚過敏による疲弊:オフィスの蛍光灯が眩しすぎる、電話の着信音や同僚の話し声がうるさくて集中できない、特定の匂い(香水など)で気分が悪くなるなど、五感の過敏さによって、ただ職場にいるだけでエネルギーを大量に消耗してしまうことがあります。

それを裏返せば「強み」になる!

これらの「困りごと」は、視点を変えれば唯一無二の「強み」となります。

  • 強み:高い集中力、正確性、論理的思考、ルール遵守、関心分野への深い知識
    興味のある分野やルールが明確な作業に対しては、驚異的な集中力と持続力を発揮します。曖昧さを嫌う特性は、細部まで見逃さない正確性や、矛盾のない論理的な思考力につながります。一度決めたルールを忠実に守るため、品質の安定性が求められる業務で高く評価されることがあります。
  • 活かせる仕事例:
    • IT・技術職:プログラマー、システムエンジニア、デバッガー、CADオペレーター
    • 事務・管理職:データ入力、経理、財務、法務、品質管理、校正・校閲
    • 専門職:研究職、分析官、翻訳、アーキビスト(資料整理専門家)

    これらの仕事は、高い正確性、論理的思考力、そして一人で黙々と取り組める環境がパフォーマンス向上に直結するため、ASDの特性と非常に相性が良いと言えます。

3. ADHD(注意欠如・多動症)の仕事における特性

ADHDの特性である「不注意」や「多動性・衝動性」も、仕事においては困難さの原因となる一方で、創造性や行動力の源泉にもなり得ます。

具体的な「困りごと」あるある

ADHDのある方が職場で経験しやすい「困りごと」は以下の通りです。

  • ケアレスミスや忘れ物が多い:書類の誤字脱字、計算ミス、提出物の抜け漏れなど、注意力の散漫さからくるミスを繰り返しがちです。また、重要な書類や備品をどこに置いたか忘れる、会議の予定を失念するといったことも頻繁に起こります。
  • タスク管理・時間管理の困難:複数の仕事を同時に頼まれると、何から手をつければ良いか優先順位がつけられず、パニックになります。また、興味のある作業に没頭して他のタスクを忘れたり、締め切りを意識できず直前まで着手できなかったりします。
  • 多動性による落ち着きのなさ:長時間の会議でじっと座っているのが苦痛で、貧乏ゆすりをしたり、そわそわと体を動かしたりしてしまいます。「落ち着きがない」と見なされることがあります。
  • 衝動的な発言や行動:相手の話が終わる前に口を挟んでしまったり、思いついたアイデアを脈絡なく発言して話の腰を折ってしまったりします。また、指示を最後まで聞かずに「分かったつもり」で見切り発車し、結果的に大きな手戻りを生むこともあります。

それを裏返せば「強み」になる!

ADHDの特性もまた、ポジティブな側面を持っています。

  • 強み:行動力、好奇心旺盛、アイデアが豊富、クリエイティブ、マルチタスクへの抵抗が少ない
    興味の対象が次々と移る特性は、裏を返せば幅広い分野への好奇心と、新しいことに挑戦するフットワークの軽さにつながります。衝動性は、考え込む前に行動できる「行動力」の源泉です。また、注意が拡散しやすいことは、多様な情報を結びつけてユニークなアイデアを生み出す「創造性」にもつながります。
  • 活かせる仕事例:
    • クリエイティブ職:デザイナー、ライター、動画編集者、ゲームプランナー
    • 営業・企画職:営業、企画・マーケティング、イベント運営、広報
    • 変化の多い仕事:ジャーナリスト、カメラマン、起業家

    これらの仕事は、ルーティンワークよりも変化やスピード感が求められ、新しいアイデアや行動力が価値を生むため、ADHDの特性を強みとして発揮しやすい環境です。

4. 「併存」と「性差」も知っておこう

ASDとADHDの理解をさらに深めるために、「併存」と「性差」という2つの重要な視点についても触れておきます。

ASDとADHDの併存

「自分はASDとADHD、どちらの特性も当てはまる気がする」と感じる方もいるかもしれません。実際、ASDとADHDの特性を併せ持つ(併存する)ケースは珍しくありません。ある研究報告では、発達障害のある成人のうち26.8%がASDとADHDを併存しているとされています。

併存する場合、「人と関わるのは苦手(ASD)だけど、おしゃべりは好き(ADHD)」「こだわりが強い(ASD)のに、飽きっぽい(ADHD)」といった、一見矛盾するような困りごとを抱えることがあります。これにより、自己理解がさらに複雑になり、周囲からも理解されにくくなる傾向があります。「自分はどちらか」と無理に決めつけず、両方の特性を持っている可能性を視野に入れ、専門機関に相談することが重要です。DSM-5では、この併存診断が公式に認められています。

見過ごされやすい女性の発達障害

発達障害の特性には性差があることも知られており、特に女性の場合は特性が目立ちにくく、見過ごされてきた歴史があります。大人になってから、仕事や家庭生活での困難をきっかけに初めて診断に至るケースが少なくありません。

  • 女性のASD:男性に多い「積極奇異型」や「孤立型」よりも、他者に合わせようとする「受動型」が多いとされます。周囲の言動を真似て(擬態・カモフラージュ)、社会的に適応しようと努力するため、一見すると特性が分かりにくいのです。しかし、その無理がたたって、うつ病や不安障害、摂食障害といった二次障害や、原因不明の体調不良として表面化することがあります。困難が内側に向かいやすいのが特徴です。
  • 女性のADHD:男性に多い「多動性・衝動性」が目立つタイプよりも、「不注意」が優勢なタイプが多い傾向にあります。授業中に走り回るようなことはなくても、ぼーっとしていたり、忘れ物が多かったりするため、「少し抜けている子」「おっとりした子」と個性として見過ごされがちです。しかし、社会人になり、タスク管理やスケジュール管理といった要求水準が高まると、途端に困難に直面します。「女性らしい細やかな気遣い」を求められるプレッシャーも、生きづらさを増幅させる一因となります。

もしあなたが女性で、長年にわたり原因不明の生きづらさを感じているなら、それは見過ごされてきた発達障害の特性が関係しているかもしれません。専門機関への相談は、その生きづらさの正体を解明する第一歩となります。

特性を強みに変える!ASD・ADHDのための就労移行支援「活用戦略」

自分の特性を理解したら、次はその特性を「強み」として活かすための具体的な戦略を立てるフェーズです。ここでは、就労移行支援という強力なツールを、ASD・ADHDの特性に合わせていかに戦略的に使いこなすか、その実践的な方法を「事業所選び」「訓練の受け方」「就職活動」の3つのステップに分けて解説します。

1. 後悔しない事業所選び:あなたの特性に合う場所を見つける3つの視点

就労移行支援事業所は全国に3,300箇所以上あり、その特色は様々です。自分に合わない場所を選んでしまうと、2年間という貴重な時間を無駄にしかねません。以下の3つの視点で、あなたの特性にマッチした事業所を慎重に見極めましょう。

視点① プログラム内容

事業所が提供する訓練プログラムが、あなたの課題解決に直結しているかを確認します。

  • ASDの方におすすめのプログラム:
    • 自己理解プログラム:自分の特性、特に感覚過敏やこだわりのパターンを客観的に把握し、言語化する訓練。
    • 構造化された作業訓練:マニュアルが完備され、手順が明確なPC作業や軽作業。曖昧さのない環境で成功体験を積めます。
    • SST(ソーシャルスキルトレーニング):雑談や報告・連絡・相談など、具体的な場面を想定したロールプレイング。暗黙のルールを「知識」として学びます。
  • ADHDの方におすすめのプログラム:
    • タスク管理・時間管理術:GTD(Getting Things Done)やポモドーロテクニックなど、具体的な手法を学び、実践する訓練。
    • 実践的なグループワーク:企画立案やプレゼンテーションなど、アイデアを形にする経験。行動力や発想力をポジティブに評価される場。
    • 多様な職種体験:複数の企業での職場実習(インターン)を通じて、自分が飽きずに続けられる仕事のタイプを探求します。

視点② 環境と雰囲気

あなたが安心して訓練に集中できる物理的・心理的な環境が整っているかは非常に重要です。

  • ASDの方が確認すべき環境:
    • 物理的環境:パーテーションで区切られた個別ブースがあるか。照明の明るさを調整できるか。静かな場所でクールダウンできるスペースはあるか。
    • 情報提示:一日のスケジュールや指示が、口頭だけでなくホワイトボードやチャットなど視覚的に示されているか。
    • 雰囲気:自分のペースで黙々と作業に取り組める雰囲気か。無理にコミュニケーションを強要されないか。
  • ADHDの方が確認すべき環境:
    • 物理的環境:適度な刺激があり、閉塞感がないか。立って作業できるスペースなど、体を動かせる工夫はあるか。
    • 柔軟な利用形態:在宅訓練と通所を組み合わせるなど、柔軟な通所プランに対応しているか。
    • 雰囲気:質問や相談が気軽にできるオープンな雰囲気か。失敗を責めずに、対策を一緒に考えてくれる文化があるか。

これらの点は、必ず**見学や体験利用**を通じて、自分の目で確かめることが不可欠です。

視点③ 就職実績と定着支援

事業所の「出口」の実績も重要な判断基準です。

  • 「定着率」を重視する:単なる「就職者数」だけでなく、就職後6ヶ月以上働き続けている人の割合を示す**「定着率」**を確認しましょう。定着率が高い事業所は、マッチングの精度が高く、就職後のサポートが手厚い証拠です。
  • 就職先の企業や職種:どのような業界・職種の企業への就職実績が多いかを確認します。自分の希望するキャリアパスと合致しているかを見極めましょう。
  • 自分と似た特性の人の事例:「私と同じようなASD(ADHD)の特性を持つ方は、どのような企業に就職し、どのように活躍されていますか?」と具体的に質問してみましょう。その回答から、事業所の障害理解度や支援のノウハウを推し量ることができます。

2. 訓練を最大限に活かす!特性別・おすすめの取り組み方

自分に合った事業所を見つけたら、次は2年間の訓練期間をいかに有効に使うかが鍵となります。ただ受け身でプログラムに参加するのではなく、自分の特性に合わせて主体的に取り組むことが成功への近道です。

ASDの方が意識すべきこと

  • 「自分の取扱説明書」を作成する:これは最も重要な取り組みです。支援員との面談や日々の訓練を通じて、自分が最高のパフォーマンスを発揮できる条件と、どうしても苦手なことを徹底的に言語化します。「口頭での指示は忘れてしまうので、チャットでお願いします」「周りが騒がしいと集中できないので、静かな場所での作業を希望します」など、具体的な「配慮事項」をリストアップしていきます。これは、就職活動で「合理的配慮」を伝える際の強力な武器になります。
  • スモールステップで「試す」機会を増やす:いきなり長期間の職場実習に行くのが不安なら、まずは事業所内での模擬業務や、1日だけの職場見学など、小さなステップから始めましょう。「この業務は自分に合うか」「この環境なら耐えられるか」を安全な場所で実験し、成功体験と失敗体験の両方から学びます。
  • 支援員を「翻訳者」として活用する:職場の曖昧な指示や暗黙のルールが理解できない時、一人で悩まずに支援員に「翻訳」を依頼しましょう。「上司に『臨機応変に対応して』と言われたのですが、具体的に何をすれば良いでしょうか?」と相談することで、具体的な行動レベルに落とし込んでもらえます。

ADHDの方が意識すべきこと

  • ツールとテクニックを習得し、自分用にカスタマイズする:タスク管理アプリ、リマインダー、スマートウォッチ、ノイズキャンセリングイヤホンなど、弱点を補うためのツールを訓練期間中に徹底的に試します。ポモドーロテクニック(25分集中+5分休憩)のような時間管理術も、自分に合うサイクルを見つけるまで実験を繰り返します。就職前に「自分だけの武器」を揃えておくことが目標です。
  • 「報告・連絡・相談」を最優先スキルと位置づける:ミスやタスクの遅れを隠してしまうと、後で大きな問題に発展しがちです。訓練中は「失敗しても大丈夫な場所」と割り切り、どんな小さなことでもすぐに支援員に「報・連・相」する習慣をつけましょう。「このタスク、どこから手をつけていいか分かりません」「うっかり別の作業に夢中になっていました」と正直に伝える練習が、職場での信頼構築につながります。
  • 「やりたいこと」と「できること」のバランスを探る:好奇心旺盛なため、様々な仕事に興味が湧きがちです。しかし、興味だけで選ぶと、特性上の苦手さから続かないこともあります。支援員との面談を通じて、自分の興味関心と、客観的な適性(アセスメント結果など)をすり合わせ、現実的なキャリアプランを練り上げていくことが重要です。

3. 就職活動と「合理的配慮」の上手な伝え方

就職活動は、自分の特性を企業に理解してもらい、長く働き続けられる環境を手に入れるための「交渉」の場です。特に、障害特性を開示して就職する「オープン就労」では、「合理的配慮」をいかに上手に伝えるかが成功の鍵を握ります。

オープン就労と合理的配慮

オープン就労とは、自身の障害について企業に開示した上で就職することです。最大のメリットは、障害者雇用促進法に基づき、企業に対して「合理的配慮」を求める権利が発生することです。合理的配慮とは、障害のある人が他の従業員と平等に働けるように、企業が提供するべき「必要かつ適当な変更及び調整」のことです。これを活用することで、特性による困難を軽減し、能力を発揮しやすい環境で働くことが可能になります。

履歴書・面接での「弱み」を「強み」に変える伝え方

面接で障害特性について説明する際、単に弱みを伝えるだけでは、企業に不安を与えてしまいます。重要なのは、**「課題の自己分析」と「具体的な対策」をセットで伝える**ことです。これは、あなたが自分の特性を客観的に理解し、セルフマネジメント能力があることの証明になります。

NG例:「私は〇〇が苦手です」「〇〇ができません」
→ 課題を一方的に伝えるだけで、企業側はどう対応すれば良いか分からず、採用リスクが高いと判断してしまいます。

OK例:「私には〇〇という特性がありますが、△△という工夫・配慮によって、□□という形で貢献できます」
→「特性の自覚」「対策の実践」「貢献意欲」の3点セットで伝えることで、課題解決能力と前向きな姿勢をアピールできます。

以下に、ASD・ADHDそれぞれの具体的な伝え方の例を挙げます。

【ASDの伝え方 OK例】

「私には、一度に複数の指示を受けると混乱してしまう特性があります。しかし、就労移行支援の訓練を通じて、指示を一つずつ、チャットやメールなど文字でいただくことで、高い正確性で業務を遂行できることを確認しました。この強みを活かし、御社の〇〇業務における品質向上に貢献したいと考えております。」

【ADHDの伝え方 OK例】

「私には、ケアレスミスが出やすいという課題があります。この対策として、就労移行支援では、タスクをチェックリスト化し、完了時に指差し確認するというセルフマネジメント術を習得しました。また、新しいアイデアを出すことや、フットワーク軽く行動することは得意としておりますので、御社の〇〇部門でその強みを発揮したいです。」

求めるべき合理的配慮の具体例

面接や入社時に、どのような配慮を求めれば良いか分からないという方も多いでしょう。以下に、ASD・ADHDの特性に応じた合理的配慮の具体例を挙げます。就労移行支援で作成した「自分の取扱説明書」を基に、自分に必要なものを選択し、企業に伝えましょう。

配慮のカテゴリ ASDの方向けの配慮例 ADHDの方向けの配慮例
指示・コミュニケーション ・指示は口頭だけでなく、メールやチャットなど文字で補足してもらう
・「あれ」「それ」といった曖昧な表現を避け、具体的に指示してもらう
・業務マニュアルを作成・整備してもらう
・一度に複数の指示ではなく、タスクを一つずつ切り出して依頼してもらう
・業務の優先順位を一緒に確認してもらう
・定期的に短いミーティングで進捗を確認してもらう
作業環境 ・パーテーションのある静かな座席を確保してもらう
・電話の音が少ない席に配置してもらう
・照明の調整や、サングラス・ブルーライトカット眼鏡の使用を許可してもらう
・作業に集中するためのノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してもらう
・短時間の離席や休憩を柔軟に認めてもらう
・視覚的に刺激の少ない、整理された作業スペースを確保してもらう
業務内容・進め方 ・業務の範囲、役割、手順を明確にしてもらう
・急な業務内容の変更は、可能な限り事前に伝えてもらう
・マルチタスクを避け、シングルタスク中心の業務にしてもらう
・タスクの締め切りを細かく設定してもらう
・単純作業が長時間続かないよう、業務内容に変化を持たせてもらう
・ダブルチェックの体制を組んでもらう
勤務条件 ・人混みを避けるための時差出勤を認めてもらう
・在宅勤務やテレワークを許可してもらう
・通院のための休暇取得に配慮してもらう
・フレックスタイム制度の活用を認めてもらう

ゼロからわかる!就労移行支援の利用手続き完全ガイド

「就労移行支援に興味が出てきたけれど、手続きが難しそう…」と感じるかもしれません。このセクションでは、実際にサービスを利用したいと考えた方が、具体的な次のアクションを起こせるように、手続きの全体像をステップ・バイ・ステップで分かりやすく解説します。一人で進めるのが不安でも、各ステップで相談できる窓口があるのでご安心ください。

1. 利用開始までの6ステップ

就労移行支援の利用開始までには、おおむね以下の6つのステップを踏みます。申請から利用開始までは1ヶ月〜2ヶ月程度かかることが多いため、早めに動き出すのがおすすめです。

  1. Step1:情報収集と比較検討
    まずは、インターネットで「〇〇市 就労移行支援」などと検索し、通える範囲にある事業所をリストアップします。各事業所のウェブサイトを見て、プログラム内容や雰囲気を比較しましょう。気になる事業所が見つかったら、電話や問い合わせフォームから連絡し、見学や相談の予約を入れます。この段階で複数の事業所を比較検討することが、後悔しない事業所選びの鍵です。
  2. Step2:市区町村の窓口で相談
    利用したい事業所がある程度固まったら、次はお住まいの市区町村の役所にある「障害福祉担当窓口」(名称は自治体によって異なります)へ相談に行きます。「就労移行支援サービスを利用したい」と伝え、申請に必要な手続きや書類について説明を受けます。
  3. Step3:利用申請と必要書類の準備
    窓口で受け取った申請書に記入し、必要な書類を揃えて提出します。一般的に必要な書類は以下の通りですが、自治体によって異なるため、必ず事前に確認してください。

    • 支給申請書
    • 世帯状況・収入等申告書
    • 障害者手帳、または医師の診断書・意見書(後述)
    • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
    • 印鑑
  4. Step4:サービス等利用計画案の作成
    申請と並行して、「サービス等利用計画案」という書類を作成し、市区町村に提出する必要があります。これは、「どのような目標で、どのような支援を受けるか」という計画書です。自分で作成する(セルフプラン)ことも可能ですが、多くの場合、市区町村が指定する**「指定特定相談支援事業所」**に依頼して、相談支援専門員と一緒に作成します。費用はかかりません。どの相談支援事業所に依頼すれば良いかわからない場合は、市区町村の窓口で紹介してもらえます。
  5. Step5:受給者証の交付
    提出された書類とサービス等利用計画案に基づき、市区町村が審査を行います。必要に応じて、担当者による聞き取り調査(アセスメント)が行われることもあります。審査の結果、サービスの利用が適切と判断されると、**「障害福祉サービス受給者証」**が自宅に郵送されます。これがサービスの利用許可証となります。
  6. Step6:事業所との契約・利用開始
    交付された受給者証を持って、利用を決めた就労移行支援事業所へ行きます。事業所と正式な利用契約を結ぶと、いよいよ個別支援計画に沿った訓練がスタートします。最初は週1日や半日など、体調に合わせて無理のないペースから始めることも可能です。

2. 【重要】障害者手帳がなくても申請できる?

この質問は、非常によく聞かれる重要なポイントです。結論から言うと、障害者手帳を持っていなくても、就労移行支援を申請・利用することは可能です。

法律上、就労移行支援の対象者は「障害者」とされていますが、この「障害者」の定義には、手帳の有無は必須条件とされていません。手帳がない場合は、**医師による「診断書」や「意見書」**を提出し、自治体が「専門的な支援が必要な状態である」と判断すれば、サービスの利用が認められます。

特に、うつ病などの精神疾患や、診断は受けているものの手帳の取得には至っていない発達障害の方などが、この方法で利用しているケースは数多くあります。「手帳がないから」と諦める前に、まずはかかりつけの医師や市区町村の窓口に相談してみることが大切です。

申請が通りやすくなる「診断書」依頼のポイント

医師に診断書を依頼する際は、ただ診断名が書いてあるだけでは不十分な場合があります。申請の目的が「就労移行支援の利用」であることを明確に伝え、以下の4つの要素を記載してもらうよう、メモを渡すなどして具体的にお願いしましょう。

  1. 診断名と現在の症状:「うつ病」「ASD傾向」などの診断名と、具体的な症状。
  2. 日常生活への影響:「週に数回、強い疲労感で動けなくなる」など、症状が生活にどう影響しているか。
  3. 就労面での困難さ(最重要):「長時間の集中が難しい」「口頭での指示理解が困難」など、症状が仕事にどう影響するか。
  4. 支援の必要性(最重要):「そのため、安定した就労には、専門的な配慮や職業訓練が必要と判断します」といった、医師からの推薦文。

(参考:e-fukushi.jp

この「就労面での困難さ」と「支援の必要性」の一文があるかないかで、自治体の判断が大きく変わる可能性があります。

3. 2025年10月開始「就労選択支援」との関係

最後に、これから就労移行支援の利用を考える上で知っておくべき新制度「就労選択支援」について解説します。これは、2022年に改正された障害者総合支援法に基づき、2025年10月1日から開始される新しいサービスです。

この制度の目的は、就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)といった本格的な福祉サービスを利用する**「前」**に、本人の希望や適性、能力を客観的に評価(アセスメント)し、最適なサービスへのミスマッチを防ぐことにあります。

具体的には、以下のような流れになります。

  • 概要:約1ヶ月間(状況により最大2ヶ月)、就労選択支援事業所に通い、短期間の作業体験や事業所見学、支援員との面談などを行います。
  • 目的:この「お試し期間」を通じて、自分には「一般就労を目指す訓練(就労移行支援)」が合っているのか、「雇用契約を結んで働く(A型)」のが良いのか、「非雇用で自分のペースで働く(B型)」のが適切なのかを、じっくり見極めます。
  • 義務化の対象:2025年10月以降、新たに就労継続支援B型を利用する方は原則としてこの就労選択支援の利用が必須となります。就労移行支援やA型についても、将来的(令和9年4月以降)には原則利用となる方向で検討されています。

つまり、今後は「とりあえず就労移行支援へ」と進むのではなく、その前に「就労選択支援」というワンクッションを挟み、より客観的な視点で自分に合った進路を考えるプロセスが標準となります。これは、これまで以上に**「自分自身を深く理解すること」**の重要性が増すことを意味しています。

就労選択支援のプロセスは、利用者本人だけでなく、ハローワークや医療機関、相談支援専門員など、様々な関係者が連携する「多機関連携会議」を経て、アセスメント結果がまとめられます。この客観的な評価シートは、その後の就労移行支援事業所での「個別支援計画」作成や、市区町村の「支給決定」においても重要な参考資料として活用されます。

この新制度の導入は、障害のある方一人ひとりが、より納得感を持って自分のキャリアを選択できる社会に向けた大きな一歩と言えるでしょう。

まとめ:あなたらしい働き方への第一歩を踏み出そう

この記事では、精神・発達障害(ASD・ADHD)のある方が、自分らしい働き方を見つけるための道筋として、「就労移行支援」の活用法を多角的に解説してきました。最後に、重要なポイントを改めて振り返ります。

  • 就労移行支援は心強いパートナー:「就職準備スクール」として、自己理解からスキルアップ、就職活動、そして就職後の定着までを一貫してサポートしてくれる公的なサービスです。利用者の約9割が無料で利用しており、障害者手帳がなくても申請可能です。
  • 自己理解が全ての始まり:仕事の困難の背景には、ASDの「対人関係・こだわりの特性」やADHDの「不注意・多動性の特性」があります。これらの違いを深く理解することが、自分の「苦手」を避け、「得意」を活かす仕事選びの鍵となります。
  • 戦略的な活用が成功を左右する:就労移行支援は、ただ通うだけでは効果が半減します。自分の特性に合った事業所を選び、訓練期間中に「自分の取扱説明書」を作成し、企業に「合理的配慮」を的確に伝えるという戦略的な視点が不可欠です。
  • 手続きは一人で抱え込まない:利用手続きは一見複雑に感じるかもしれませんが、市区町村の窓口や相談支援事業所など、各ステップで専門家がサポートしてくれます。2025年10月からは「就労選択支援」も始まり、よりミスマッチの少ない選択が可能になります。

「仕事がうまくいかない」という悩みは、決してあなた一人の問題ではありません。それは、社会の中にまだ、あなたの素晴らしい個性を活かす場所や方法が十分に知られていない、というサインなのかもしれません。就労移行支援の利用は、特別なことではなく、自分らしいキャリアを築くための「戦略的な選択」です。

もし今、あなたが一人で悩み、先の見えない不安の中にいるのなら、どうかその一歩を踏み出してみてください。「ちょっと話を聞いてみたいんですけど…」と、お住まいの市区町村の障害福祉窓口や、気になる就労移行支援事業所に電話をかけてみる。その小さなアクションが、あなたの新しい未来を切り拓く、大きなきっかけになるはずです。

免責事項

この記事に掲載されている情報は、2025年11月19日時点の参考資料に基づいています。制度やサービス内容、各種データは変更される可能性があります。最新の情報や詳細な条件については、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や各事業所に直接ご確認ください。

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