コラム 2025年12月14日

精神障害者手帳とは?就労移行支援など受けられるサービスを徹底解説

精神・発達障害と「働く」ことの壁

うつ病や双極性障害、統合失調症、あるいは発達障害(ASD、ADHDなど)の診断を受け、日々の生活や仕事に困難を感じている方は少なくありません。「周りの人と同じように働けない」「体調の波があって安定して勤務できない」といった悩みは、社会参加への大きな壁となります。

そんなとき、あなたの自立と社会参加を後押しする制度の一つが「精神障害者保健福祉手帳」です。特に、「症状が比較的軽い」とされる3級については、「取得しても意味がないのでは?」という声も聞かれますが、それは大きな誤解です。

この記事では、精神障害者保健福祉手帳3級を取得することで受けられる多様なサービスを網羅的に解説します。特に、一般企業への就職を目指す上で極めて有効な「就労移行支援」に焦点を当て、その内容から活用法、事業所の選び方までを詳しく掘り下げていきます。

精神障害者保健福祉手帳3級とは?

精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にあることを証明するもので、様々な支援サービスを受けるために必要となります。手帳には障害の程度に応じて1級から3級までの等級があります。

手帳の目的:「自立と社会参加の促進」

手帳を持つ目的は、単に障害を証明することだけではありません。この制度の本来の目的は、手帳を持つ人が各種支援策を活用しやすくすることで、自立した生活を送り、社会活動へ参加しやすくなることを後押しすることにあります。税金の優遇や公共料金の割引などは、その目的を達成するための具体的な手段の一つです。

対象となる障害と3級の判定基準

手帳の対象となるのは、統合失調症、気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)、てんかん、発達障害(ASD、ADHDなど)、高次脳機能障害を含む器質性精神障害など、何らかの精神疾患により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方です。申請には、その精神疾患による初診日から6ヶ月以上経過している必要があります。

等級は、医師の診断書をもとに「精神疾患の状態」と「日常生活や社会生活での困難の程度」を総合的に評価して判定されます。3級の基準は以下の通りです。

3級の目安:精神障害の状態が、「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度」のもの。

具体的には、「一人で外出できるが、過大なストレスがかかる状況では対処が困難」「日常的な家事はこなせるが、手順が変わると混乱することがある」といった状態が想定されます。普段は問題なく生活できていても、特定の状況下でサポートが必要になる方が該当します。

等級ごとの状態の目安
等級 能力障害の状態(日常生活・社会生活の困難度)
1級 他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用事を済ませることができない。
2級 必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難である。
3級 日常生活や社会生活に、ある程度の制限を受ける。
厚生労働省の判定ガイドラインより

手帳の申請から交付までの流れ

手帳の申請は、以下のステップで進めます。有効期間は原則2年間で、有効期限の3ヶ月前から更新手続きが可能です。

  1. 主治医への相談: まず、かかりつけの精神科医に手帳申請を検討していることを相談し、診断書の作成を依頼します。
  2. 必要書類の準備: お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で申請書を受け取り、以下の書類を準備します。
    • 申請書
    • 診断書(精神障害者保健福祉手帳用): 初診日から6ヶ月以上経過した時点のもので、作成日から3ヶ月以内のもの。
    • 本人の写真(縦4cm×横3cm、1年以内に撮影したもの)
    • マイナンバーが確認できる書類(マイナンバーカード、通知カードなど)
    • 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)

    ※障害年金を受給している場合は、年金証書の写しで診断書を代用できることがあります。

  3. 市区町村の窓口で申請: 準備した書類を、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。
  4. 審査・交付: 提出された書類に基づき、精神保健福祉センターで審査が行われます。審査には通常1〜2ヶ月程度かかります。交付が決定すると通知が届き、窓口で手帳を受け取ります。

【一覧】精神障害者手帳3級で受けられるサービス

「精神障害者手帳3級は意味がない」という声は、1級や2級に比べて受けられるサービスが限定的であるというイメージから来ているかもしれません。しかし、実際には生活や就労を支える多くのメリットがあります。

① 税金の控除・減免

手帳を取得すると、所得税や住民税の「障害者控除」が適用され、税負担が軽減されます。これは2級と3級で控除額に違いはありません。

この控除により、例えば年収300万円の方の場合、年間で約4万円程度の税金が軽減される可能性があります。また、前年の合計所得金額が135万円以下(給与収入のみの場合、年収約204万円以下)の場合、住民税が非課税になります。

このほか、相続税や贈与税の控除、預貯金の利子等への非課税制度なども利用できます。これらの手続きは、会社の年末調整や確定申告で行います。

② 公共料金・各種サービスの割引

日常生活に関わる様々な場面で割引が適用されます。内容は自治体や事業者によって異なるため、利用前に確認が必要です。

  • 公共交通機関: 鉄道、バス、タクシーなどの運賃割引。
  • 携帯電話料金: 大手キャリア各社が提供する障害者割引プラン。
  • 公共施設: 美術館、博物館、動物園などの入場料割引(本人および介助者1名まで対象の場合あり)。
  • NHK放送受信料: 世帯全員が住民税非課税の場合、全額免除の対象となります。

③ 医療費の助成

医療費の助成制度は、自治体によって対象となる等級が大きく異なります。精神障害者保健福祉手帳1級を対象とする自治体が多いですが、一部の自治体では2級や3級も助成対象としている場合があります。また、手帳の等級に関わらず、精神科への通院医療費の自己負担を原則1割に軽減する「自立支援医療(精神通院医療)」制度も利用できます。まずはお住まいの市区町村の窓口でどのような助成があるか確認してみましょう。

④ 障害者雇用枠での就労

手帳を取得する最大のメリットの一つが、「障害者雇用枠」での就職活動が可能になることです。一般枠とは別に設けられた採用枠で、以下のような利点があります。

  • 合理的配慮を受けやすい: 通院のための休暇、勤務時間の調整、業務内容の配慮など、障害特性に合わせたサポートを企業に求めやすくなります。
  • 採用の可能性が広がる: 障害者雇用を積極的に進める企業に応募できます。
  • 心理的負担の軽減: 障害をオープンにして働くため、一人で抱え込むストレスが減り、周囲の理解を得やすくなります。

⑤ 障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付)の利用

手帳は、障害者総合支援法に基づく様々な福祉サービスを利用するためのパスポートの役割も果たします。これらのサービスは、日常生活の支援から就労の準備まで、幅広くカバーしています。

  • 介護給付: 日常生活の支援を受けるサービス。体調不良時に家事を手伝ってもらう「居宅介護(ホームヘルプ)」や、外出に付き添ってもらう「行動援護」などがあります。
  • 訓練等給付: 自立した生活や就労を目指すための訓練サービス。本記事で詳しく解説する「就労移行支援」や、生活能力の維持・向上を目指す「自立訓練(生活訓練)」などがこれに含まれます。

就労移行支援の徹底活用ガイド

精神障害や発達障害のある方が一般企業で働くことを目指す上で、最も心強い味方となるのが「就労移行支援」です。手帳3級を取得することで、このサービスをスムーズに利用開始できます。

就労移行支援とは?「就職準備スクール」で学ぶこと

就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスで、一言でいえば「障害のある方が一般企業へ就職するための、国が認めた就職準備スクール」です。単に仕事を探すだけでなく、自分に合った仕事を見つけ、その職場で安定して長く働き続けるために必要なスキルアップから就職活動、就職後のサポートまでをトータルで提供します。

対象者・利用期間・料金

  • 対象者: 18歳以上65歳未満で、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがあり、一般企業への就職を希望する方。重要なのは、必ずしも障害者手帳は必須ではないという点です。医師の診断書などがあれば、自治体の判断で利用が認められる場合があります。
  • 利用期間: 原則として2年間(24ヶ月)です。この期間内に就職を目指します。
  • 利用料金: 前年の世帯所得(本人と配偶者の所得)に応じて決まりますが、約9割の方が自己負担0円(無料)で利用しています。
利用料金の負担上限月額
世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護受給世帯 0円
市町村民税非課税世帯 0円
市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) 9,300円
上記以外 37,200円

具体的なサービス内容:4つのステップ

就労移行支援事業所に通うと、個別支援計画に沿って、主に以下の4つのステップで支援が提供されます。

  1. 自己理解と計画作成: 支援員との面談を通じて、自分の得意・不得意、希望する働き方を整理し、目標を設定する「個別支援計画」を作成します。
  2. 職業訓練・スキルアップ: PCスキル(Word, Excel)、ビジネスマナー、コミュニケーション訓練、ストレス対処法(アンガーマネジメント)など、働く上で必要なスキルを学びます。事業所によっては、プログラミングやWebデザインなど専門的なスキルを学べる場所もあります。
  3. 就職活動のサポート: 履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接、求人紹介、企業見学や職場実習の調整など、就職活動を全面的にバックアップしてもらえます。
  4. 就職後の定着支援: 就職後もサポートは続きます。就職先の職場に慣れるまでの原則6ヶ月間、支援員が定期的に面談を行ったり、職場との橋渡し役になったりして、安定して働き続けられるよう支援します。さらに希望者は、その後最大3年間サポートが続く「就労定着支援」に移行することも可能です。

後悔しないための就労移行支援事業所の選び方

全国に約2,800箇所以上ある事業所の中から、自分に合った場所を見つけることが成功の鍵です。以下のポイントを参考に、複数の事業所を比較検討しましょう。

  • プログラム内容: 自分が身につけたいスキル(事務、IT、デザインなど)を学べるか。
  • 障害への専門性: 自分の障害(特に発達障害など)に特化したプログラムや、専門知識を持つスタッフがいるか。
  • 事業所の雰囲気: スタッフや他の利用者との相性、施設の清潔感など。
  • 通いやすさ: 自宅からの距離や交通費。週1日や半日から通えるなど、柔軟な通所が可能か。
  • 就職実績と定着率: 就職者数だけでなく、就職後に長く働き続けている人の割合(定着率)が高いかどうかが重要です。

気になる事業所が見つかったら、必ず見学や体験利用を申し込みましょう。実際に自分の目で見て、プログラムを体験することで、資料だけでは分からないリアルな情報を得ることができます。

まとめ:一人で悩まず、まずは相談から

「精神障害者手帳3級は意味がない」という言葉は、この手帳が持つ可能性を見過ごした誤解です。税金の軽減や各種割引といった経済的なメリットはもちろん、最大の価値は「障害者雇用」や「就労移行支援」といった、あなたの社会参加と自立を力強くサポートする制度への扉を開く点にあります。

特に、就労移行支援は、働き方に悩むあなたにとって、スキルを身につけ、自信を取り戻し、自分に合った職場を見つけるための強力なパートナーとなり得ます。さらに「就労選択支援」の導入により、ミスマッチのない、よりパーソナライズされた支援が期待できるようになります。

もしあなたが今、精神疾患や発達障害を抱えながらキャリアに悩んでいるなら、一人で抱え込まずに、まずは一歩を踏み出してみませんか。お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、気になる就労移行支援事業所に相談することから、新しい道が拓けるはずです。

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