コラム 2026年2月23日

発達障害とタイピングの苦手意識|原因と克服への5ステップを解説

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就労移行支援 診断

「パソコンを使う仕事に就きたいけど、タイピングが遅くて不安…」「練習しても、なぜかミスばかりしてしまう…」 就職活動を前に、このような悩みを抱える発達障害のある方は少なくありません。私たち就労移行支援事業所にも、タイピングに関する相談は数多く寄せられます。しかし、ご安心ください。その「苦手」は、決してあなたの努力不足が原因ではありません。発達特性に根差した理由があり、適切なアプローチで克服し、強力な「武器」に変えることが可能です。 この記事では、就労移行支援の視点から、発達障害のある方がタイピングに困難を感じる理由を解き明かし、苦手を乗り越えて自信をつけるための具体的な5つのステップをご紹介します。

なぜ発達障害があるとタイピングが苦手になりやすいのか?

「タイピングが苦手」と一言で言っても、その背景にある原因は一人ひとり異なります。発達障害の特性が、タイピングに必要な様々な能力に影響を与えているケースが多く見られます。単なる練習不足ではなく、特性への理解から始めることが解決の第一歩です。

1. 身体の使い方の特性:不器用さと姿勢の問題

タイピングは、指先を細かく正確に動かす微細運動(びさいうんどう)と、その動きを計画する運動企画、そして長時間同じ姿勢を保つ体幹の力が複雑に連携して成り立っています。

  • 発達性協調運動障害(DCD)の併存:発達性協調運動障害(DCD)の特性を併せ持つ場合、手書きだけでなくキーボード操作にも困難が生じることがあります。指を思った通りに動かすことや、左右の手を協調させることが苦手なため、特定のキーを押し間違えたり、スムーズな打鍵が難しくなったりします。
  • 姿勢の維持が困難:ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)のある方の中には、体幹が弱かったり、身体のバランスをとるのが苦手(低緊張)な方がいます。そのため、長時間正しい姿勢を保つことが難しく、すぐに猫背になったり、頬杖をついたりしてしまいます。崩れた姿勢は指の動きを妨げ、疲れや集中力の低下に直結します。
  • 運動企画の苦手さ:ASDの特性として、次にどの指をどう動かすかという一連の動作を頭の中で計画し、実行する「運動企画」が苦手な場合があります。手書きと同様に、キーボード入力でもどのキーをどの順番で打つかというモータープランニングが必要となり、このプロセスに困難を抱えることがあります。

2. 認知・知覚の特性:注意とワーキングメモリの課題

キーボードを見ずに画面を見ながら文字を打つ「タッチタイピング」は、高度な認知機能を要求されます。

  • 注意の持続と切り替え:ADHDの特性である不注意は、誤字脱字や文字の打ち間違いに繋がりやすいです。「わ」と「は」、「お」と「を」のような同音異字の変換ミスや、単語の文字を入れ替えてしまうこともあります。また、画面と手元、あるいは資料へと視線を素早く移す「視線のジャンプ(跳躍性眼球運動)」が苦手な場合、板書や資料の書き写しで困難を感じることがあります。
  • ワーキングメモリの負荷:ワーキングメモリは、情報を一時的に記憶しながら作業を行う脳の機能です。キーボードの配列を覚えたり、「この文章を打っている間、次はこのキーを押す」と考えたりする際に使われます。この機能に負荷がかかりやすいと、キーの場所をなかなか覚えられなかったり、少し長い文章を打とうとすると何を打っていたか忘れてしまったりします。

3. 感覚の特性:感覚過敏による影響

五感の感じ方が独特である「感覚特性」も、タイピングの障壁となることがあります。特にASDのある方に見られる感覚過敏は、作業環境への適応を難しくさせます。

  • 聴覚過敏:オフィスでの他の人のタイピング音や、自分自身の打鍵音が気になってしまい、集中できなくなるケースです。静かな環境でないと作業効率が著しく落ちてしまいます。
  • 触覚過敏:特定のキーボードの素材やキータッチ(押したときの感触)が不快に感じられ、タイピング自体が苦痛になることがあります。
  • 視覚過敏:パソコン画面の光や、キーボードの文字のコントラストが強すぎると、目が疲れやすく、長時間の作業が困難になります。

これらの原因は一つだけではなく、複数絡み合っていることがほとんどです。だからこそ、画一的な練習法ではなく、一人ひとりの特性に合わせたアプローチが不可欠なのです。

「苦手」を「武器」に変える!就労移行支援で実践する5つのステップ

私たち就労移行支援事業所では、単にタイピングの速さを追求するのではなく、一人ひとりの「困りごと」の根本原因にアプローチし、就労場面で本当に役立つスキルを身につけることを目指します。ここでは、私たちが実践している5つのステップをご紹介します。

ステップ1:アセスメントで「苦手の正体」を理解する

最初のステップは、なぜタイピングが苦手なのか、その「正体」を突き止めることです。専門の支援員が面談や観察、時には専門機関と連携したアセスメント(評価)を通じて、困難の背景にある特性を分析します。

  • 運動面の課題(指先の不器用さ、姿勢維持の困難など)
  • 認知面の課題(注意散漫、ワーキングメモリの弱さなど)
  • 感覚面の課題(音や光、感触への過敏さなど)

このアセスメント結果に基づき、一人ひとりに最適化された「個別支援計画」を作成します。例えば、「微細運動が苦手」な方には指先のトレーニングを、「注意散漫になりがち」な方には集中しやすい環境設定やツールの活用を提案するなど、的確な支援の土台を築きます。

ステップ2:正しいフォームと基本操作を身につける

自己流の癖がついてしまうと、後から修正するのは大変です。急がば回れで、まずは「疲れにくく、効率的な」基本フォームを徹底的に身につけます。

① 足・椅子・机・画面の位置関係:足裏全体を床につけ、骨盤を立てて深く座ることから始めます。肘の角度が90度以上になるように机と椅子の高さを調整し、画面は目線よりやや下にくるように設置します。この「土台」が安定することで、肩や腕の力が抜け、指がスムーズに動くようになります。

② ホームポジションの徹底:タッチタイピングの心臓部とも言えるのが「ホームポジション」です。「F」と「J」のキーにある突起を目印に指の定位置を決め、どのキーをどの指で打つかを体に覚えさせます。最初はもどかしく感じても、手元を見ずに画面だけを見て入力する練習を繰り返すことが、結果的に最速の上達ルートとなります。

ステップ3:スモールステップで成功体験を積む

発達障害のある方にとって、学習の継続には「できた!」という成功体験の積み重ねが何よりも大切です。集中力が続きにくい特性や、完璧主義で失敗を恐れる傾向に配慮し、無理なく続けられる工夫を取り入れます。

  • 短時間から始める:「1日5分だけ」など、ごく短い時間からスタートし、毎日続けることを目標にします。
  • ゲーム感覚で楽しむ:「寿司打」のようなゲーム性の高い無料タイピングツールを活用し、楽しみながら練習します。スコアが可視化されるため、上達を実感しやすく、モチベーション維持に繋がります。
  • スモールステップの教材:一つの単元が短く区切られている教材や、個々のレベルに合わせて難易度が自動調整されるAI搭載型ドリルなどを活用し、「クリアできた」という達成感を頻繁に得られるようにします。

就労移行支援事業所では、こうしたツールを用意しているだけでなく、支援員が一緒に目標設定をしたり、進捗を褒めてくれたりすることで、一人では難しい継続をサポートします。

ステップ4:自分に合った「補助具(アシスティブ・テクノロジー)」を見つける

努力や練習だけでカバーしきれない困難は、便利なツールに頼るのが賢明です。テクノロジーの力を借りることで、特性によるハンディキャップを大幅に軽減できます。

  • 入力デバイスの工夫:
    • 静音キーボード:打鍵音が気になる方向け。
    • エルゴノミクスキーボード:手首への負担が少ない形状のもの。
    • 特殊キーボード:OrbiTouchのように、指を動かさずに入力できるものもあり、重度の運動障害がある方にも選択肢があります。
    • パームレスト:手首を安定させ、疲れを軽減します。
  • ソフトウェアの活用:
    • 音声入力ソフト:話した言葉をリアルタイムで文字に変換します。文章のアイデア出しや下書き作成に非常に有効で、思考のスピードを止めません。
    • テキスト読み上げソフト:自分が打った文章を音声で確認することで、黙読では気づきにくい誤字脱字を発見しやすくなります。ADHDのある方の校正作業にも役立ちます。
    • タブレット学習:見るべき場所が画面一つに集約されるため、視線移動が少なく、集中を保ちやすいという利点があります。

就労移行支援では、様々なツールを実際に試しながら、自分にとって最適な組み合わせを見つけるお手伝いをします。

ステップ5:就労を見据えた「実践的なスキル」に繋げる

タイピング練習の最終目標は、速く打てるようになること自体ではありません。そのスキルを使って「仕事で成果を出す」ことです。そのため、基礎練習と並行して、より実践的な訓練を行います。

  • ビジネス文書作成:WordやExcelを使い、報告書やメール、データ入力などの模擬課題に取り組みます。
  • 生産性の意識:タイピング速度をWPM(Words Per Minute)などの数値で計測し、「時間内にどれだけの作業ができるか」という生産性を意識する練習をします。これは、企業が求める成果に直結する重要な視点です。
  • 自己理解と配慮の伝え方:「自分はタイピング音が大きい環境だと集中しにくいので、ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してほしい」など、自分の特性を理解し、職場で必要な配慮を具体的に伝える練習も行います。

これらのステップを通じて、「タイピングが苦手」という悩みは、「PCスキルを持つ人材」という自信と強みに変わっていきます。

タイピングスキルが拓く、発達障害のある方のキャリアパス

タイピングスキルを習得することは、単にPC作業が楽になるだけでなく、職業選択の幅を大きく広げ、キャリアの可能性を拓きます。

IT分野での活躍:特性が強みになる世界

近年、経済産業省も「ニューロダイバーシティ」を推進しており、発達障害のある方のIT分野での活躍に大きな期待が寄せられています。深刻なIT人材不足を背景に、その特性を強みとして活かせる環境が整いつつあります。

  • プログラマー・デバッガー:ASD(自閉スペクトラム症)の持つ高い集中力、細部へのこだわり、論理的思考力は、コードのバグを発見したり、正確なプログラミングを行ったりする上で大きな強みとなります。
  • データサイエンティスト:膨大なデータの中からパターンを見つけ出す能力は、データ分析の仕事で高く評価されます。
  • Webデザイナー:ADHD(注意欠如・多動症)の持つ独創的な発想力やアイデアは、クリエイティブな分野で活かされる可能性があります。

これらの職種において、思考のスピードを止めずに入力できるタッチタイピングは、まさに必須のスキルと言えるでしょう。就労移行支援事業所の中には、プログラミングやデータサイエンスなど、先端ITスキルに特化した訓練を提供する場所もあります。

事務職での生産性向上と自信

IT分野だけでなく、あらゆる業界の事務職においてもタイピングスキルは重要です。障害者雇用の求人でも、PCスキル、特にタイピング能力を問われる場面は少なくありません。

  • コミュニケーションの代替手段として:書字に困難がある限局性学習症(SLD)の方や、不安で話すことが難しい場面緘黙のある方にとって、タイピングは書くこと・話すことの有効な代替手段となり、円滑な業務遂行を助けます。
  • 業務効率の向上:データ入力、メール作成、資料作成などの日常業務において、タイピングが速く正確であればあるほど、時間内に多くの仕事をこなすことができ、生産性が向上します。これは企業への直接的な貢献となり、評価にも繋がります。
  • 自己肯定感の向上:「タイピングが得意」という事実は、仕事における成功体験となり、大きな自信と自己肯定感を育みます。この自信が、他の業務への意欲や職場での安定した就労に繋がっていくのです。

まとめ:一人で悩まず、専門家と一緒に「できる」へ

発達障害によるタイピングの「苦手」は、根性や努力だけで解決する問題ではありません。その背景には、脳機能や身体の特性に起因する、一人ひとり異なる理由が存在します。大切なのは、その原因を正しく理解し、自分に合った方法で一歩ずつ着実にステップアップしていくことです。

もしあなたが今、「タイピングが苦手で就職が不安だ」と感じているなら、ぜひ一度、就労移行支援事業所にご相談ください。私たち専門の支援員は、あなたの特性を深く理解し、アセスメントからスキルの習得、そして就職活動、さらには就職後の定着まで、伴走しながらサポートします。

就労移行支援は、障害のある方が自分らしく、安定して働き続けるための福祉サービスです。多くの方が無料で利用されています。一人で抱え込まず、専門家と一緒に「苦手」を乗り越え、自信を持って社会へ羽ばたく準備を始めませんか。あなたからのご連絡を心よりお待ちしています。

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