ADHDの特性を仕事の強みに変える！就労移行支援の徹底活用ガイド｜あなたに合った働き方を見つける方法

「仕事が続かない…」その悩み、ADHDの特性が原因かも？

「ケアレスミスが多くて自信をなくす」「マルチタスクが苦手でパニックになる」「つい衝動的な発言をして人間関係がうまくいかない」…そんな悩みを抱え、ご自身のキャリアに不安を感じていませんか？

もしあなたが、これらの「働きづらさ」に対して「自分の努力が足りないからだ」「能力が低いせいだ」とご自身を責めているとしたら、それは大きな誤解かもしれません。その困難は、あなたの能力や努力不足ではなく、ADHD（注意欠如・多動症）という発達障害の特性に原因がある可能性が考えられます。

近年、社会的な認知が進み、大人のADHDと診断される人が増えています。精神科医の臨床現場でも、「学生時代はなんとかなったが、社会人になってから困難を感じるようになった」という相談は非常に多いと報告されています。これは、社会人として求められる自己管理能力や複雑な対人関係、マルチタスク処理といった要求が、ADHDの特性と衝突しやすいためです。

しかし、重要なのは、ADHDの特性は決して「欠点」だけではないということです。この記事では、ADHDの特性を持つ方が、ご自身の特性を深く理解し、それを「弱み」ではなく「強み」として活かすための具体的な方法を、専門的かつ網羅的に解説します。その鍵となるのが、国が定める福祉サービス「就労移行支援」です。

この記事を読めば、就労移行支援という制度の基本から、あなたの困りごとに合わせた具体的な活用術、そして実際に困難を乗り越えてキャリアを切り拓いた方々の成功事例まで、すべてを理解することができます。障害者雇用や就労支援に関する厚生労働省の公的データや、多数の専門機関の情報を基に、ADHD当事者の方が本当に知りたい情報を、学術的な信頼性を担保しつつ、わかりやすく整理しました。この記事が、あなたが自分らしい働き方を見つけるための、確かな第一歩となることをお約束します。

大人のADHD（発達障害）とは？仕事で直面しがちな3つの困難

ADHD（Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder）は、日本語では「注意欠如・多動症」と訳され、生まれつきの脳機能の発達のかたよりによる発達障害（専門的には神経発達症群）の一つです。その原因は「脳」の機能にあり、注意や行動をコントロールすることが難しくなる状態を指します。決して「性格の問題」や「甘え」「育て方のせい」ではありません。

ADHDの診断は、米国精神医学会が発行する『DSM-5（精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版）』などの国際的な診断基準に基づいて、専門医が慎重に行います。診断基準では、症状が12歳以前から存在し、家庭や学校・職場といった複数の状況で認められ、社会生活や職業機能に明らかな支障をきたしていることなどが要件とされています。

ここでは、大人のADHDの代表的な3つの特性と、それが仕事の場面でどのような「困りごと」として現れるかを具体的に解説します。

特性1：不注意（集中しづらい、忘れっぽい）

「不注意」とは、注意を持続させたり、複数の情報に同時に注意を向けたり、物事を順序立てて実行したりすることが苦手な特性です。特に、本人が興味や関心を持てない課題に対して、この傾向は顕著に現れます。

具体的な行動例

• メールの宛先や添付ファイルを間違えるなど、細部を見落とし、ケアレスミスを繰り返す。
• 長時間の会議や研修中、他のことを考えてしまい、内容が頭に入ってこない。
• 鍵や財布、携帯電話、重要な書類などを頻繁になくしたり、置き忘れたりする。
• 上司からの指示や同僚との約束、タスクの締め切りなどを忘れてしまう。
• デスク周りやPCのフォルダ内が整理できず、必要なものを探すのに時間がかかる。

仕事での困りごと

• 事務職・経理職: データ入力のミス、請求書の処理漏れ、書類の紛失などが頻発し、信頼を失いやすい。
• プロジェクト管理: 複数のタスクの優先順位付けや進捗管理ができず、計画全体に遅延を生じさせてしまう。
• 共通: 指示の聞き漏らしや重要な伝達事項の失念が原因で、チーム全体の業務に支障をきたすことがある。「不真面目」「やる気がない」と誤解されることも少なくありません。

特性2：多動性（落ち着きがない）

「多動性」は、静かにしていることや同じ姿勢を保つことが苦手な特性です。子どもの頃のように授業中に席を立って走り回るといった行動は、大人になると減少する傾向にあります。しかし、内面的な落ち着きのなさや、そわそわとした体の動きとして現れることが多くなります。成人の多動性は「落ち着きのなさおよびそわそわした動き」として現れるとされています。

具体的な行動例

• デスクワーク中に貧乏ゆすりをしたり、指で机を叩いたり、ペンを回したりと、常に体の一部を動かしている。
• 長時間の会議や研修でじっと座っているのが苦痛で、頻繁に姿勢を変えたり、席を立ちたくなったりする。
• 相手が話している間も、一方的にしゃべり続けてしまう「おしゃべりが過ぎる」傾向がある。

仕事での困りごと

• 会議・研修: そわそわした態度が「話を聞いていない」「集中力がない」と見なされ、評価に影響することがある。
• 静かなオフィス環境: じっとしていること自体が強いストレスとなり、かえって仕事に集中できなくなる。
• デスクワーク中心の職種: 体を動かせないことへの欲求不満から、頻繁に休憩を取ったり、離席したりするため、生産性が上がりにくい。

特性3：衝動性（思いつきで行動する、待てない）

「衝動性」とは、行動や発言を抑制することが難しく、結果を深く考える前に行動してしまう特性です。感情のコントロールが苦手な側面も含まれます。

具体的な行動例

• 同僚や上司が話している最中に、話を遮って自分の意見を言ってしまう。
• 思ったことをすぐに口に出してしまい、相手を傷つけたり、場の空気を悪くしたりすることがある。
• 会議の結論を待たずに、自分の判断で行動を開始してしまう。
• 列に並んだり、自分の番を待ったりすることが苦手。

仕事での困りごと

• チームワーク: 会話への割り込みや一方的な発言が原因で、「自己中心的」「協調性がない」と見なされ、人間関係のトラブルに発展しやすい。
• 顧客対応・交渉: 衝動的な一言がお客様を怒らせたり、不利な条件を飲んでしまったりするリスクがある。
• 意思決定: 重要な判断を、十分な情報収集や検討なしに下してしまい、後で大きな問題を引き起こすことがある。

【補足】ADHDは「弱み」だけじゃない：特性を強みに変える視点

これらの特性は困難を生む一方で、適切な環境と工夫があれば、他にない「強み」にもなり得ます。例えば、「不注意」は「多様な視点を持つこと」に、「多動性」は「エネルギッシュで行動的」なことに、「衝動性」は「決断が早く、失敗を恐れないチャレンジ精神」につながります。また、興味のある分野に対しては、驚異的な集中力を発揮する「過集中」という特性もあります。重要なのは、これらの特性を無理に抑え込むのではなく、その特性が活かせる環境を見つけることです。

【解決策の提示】働きづらさを解消する「就労移行支援」とは？

ADHDの特性による困難を、一人で、あるいは家族だけで抱え込んでいませんか？「どうせ自分には無理だ」と諦めてしまう前に、知ってほしい制度があります。それが「就労移行支援」です。

就労移行支援は、障害者総合支援法（正式名称：障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律）に基づいて国が定める障害福祉サービスの一つです。その目的は、障害や難病のある方が一般企業へ就職し、安定して働き続けるために必要な知識やスキルを習得することをサポートすることにあります。いわば、就職を目指す方のための「職業訓練学校」のような場所とイメージすると分かりやすいでしょう。

就労移行支援の基本情報（早わかり表）

まずは、就労移行支援の全体像を把握するために、基本的な情報を表にまとめました。

項目	内容
目的	障害や難病のある方が、一般企業への就職・職場定着を目指すための職業訓練と就職活動支援を行う。
対象者	・原則として18歳以上65歳未満の方 ・身体障害、知的障害、精神障害、発達障害（ADHD、ASDなど）、指定難病などがある方 ・一般企業への就職を希望しており、就労が可能と見込まれる方 ※障害者手帳がなくても、医師の診断書や意見書があれば利用できる場合があります。
利用期間	原則2年間（24ヶ月）。この期間内に就職を目指します。（自治体の審査により、必要性が認められれば最大1年の延長が可能な場合もあります）
利用料金	前年度の世帯所得に応じて月ごとの自己負担上限額が設定されます。しかし、厚生労働省の調査によると、約9割の方が自己負担なし（無料）で利用しています。
就職後のサポート	就職後も、職場に慣れるまでの6ヶ月間は「職場定着支援」としてサポートが受けられます。さらに、別の福祉サービスである「就労定着支援」を申請すれば、最長3年間、職場での悩みや課題について継続的な相談が可能です。

就労移行支援と他のサービスとの違い

障害のある方向けの就労系福祉サービスには、就労移行支援の他に「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」があります。目的が異なるため、ご自身の状況に合わせて選ぶことが重要です。

一般企業への就職を目指す上では、就労移行支援が最も高い実績を上げています。それぞれのサービスの違いを詳しく見ていきましょう。

サービス名	目的	雇用契約	給与/工賃
就労移行支援	一般企業への就職を目指すための訓練・準備	なし	なし（訓練のため原則給与は発生しない）
就労継続支援A型	支援のある環境で働きながら経験を積む（一般就労が困難な方向け）	あり	あり（最低賃金以上の給与）
就労継続支援B型	自分のペースで働く習慣をつける（一般就労やA型での就労が困難な方向け）	なし	あり（生産活動に対する工賃）

【重要ポイント】

【本編】ADHDの特性を強みに！就労移行支援の具体的な活用術4ステップ

就労移行支援は、単に求人を紹介してくれるハローワークのような場所ではありません。ADHDの特性を持つあなたが、自分を深く理解し、必要なスキルを身につけ、自分に合った職場で安定して働き続けるための「土台」を築く場所です。ここでは、就労移行支援のプロセスを「自己理解」「スキル習得」「就職活動」「職場定着」の4つのステップに分け、ADHDの特性を持つ方がどのようにプログラムを活用すればよいかを徹底的に解説します。

Step 1：【自己理解】自分の「取扱説明書」を作成する

就職活動を成功させ、長く働き続けるための最も重要な第一歩は、「自分自身を客観的に理解すること」です。ADHDの特性は一人ひとり異なり、困難を感じる場面も、逆に力を発揮できる場面も様々です。このステップでは、専門スタッフのサポートを受けながら、自分だけの「取扱説明書」を作成することを目指します。

ADHDの特性を持つ方は、特に土台となる「健康管理」「日常生活管理」「対人技能」に課題を抱えやすい傾向があります。就労移行支援では、まずこの土台を安定させることから始めます。

ADHDの困りごと	就労移行支援でのプログラム・アプローチ例	得られる成果・ゴール
自分の強み・弱みがわからない、説明できない	・個別カウンセリング: 専門知識を持つスタッフとの定期的な1on1面談。過去の成功体験や失敗体験を深掘りし、どのような状況でパフォーマンスが上がるか・下がるかを言語化します。 ・各種アセスメント: 職業適性検査（GATBなど）、心理プログラム、作業評価などを通じて、客観的なデータに基づき自分の特性（得意・不得意、興味関心）を分析します。	自分だけの「自己分析レポート」や、面接・職場で使用する「配慮事項シート」を作成できます。これにより、「私は〇〇は苦手ですが、△△という強みがあります。□□のような配慮をいただけると、その強みを最大限発揮できます」と具体的に説明できるようになります。
感情の起伏が激しく、衝動的な言動で後悔する	・アンガーマネジメント講座: 怒りやイライラのメカニズムを学び、衝動的な行動に出る前に一呼吸置くための具体的なテクニック（例：6秒ルール、思考の切り替え方）を習得します。 ・認知行動療法（CBT）: 自分の思考の癖（例：「またミスした、自分はダメだ」という自動思考）に気づき、より現実的で柔軟な考え方ができるようトレーニングします。千葉大学の研究では、オンラインでの認知行動療法がADHD症状の改善に有効であることが示されています。	感情の波に振り回されることなく、対人関係のトラブルを未然に防ぎ、ストレスに適切に対処するスキルが身につきます。自己肯定感の向上にも繋がります。
生活リズムが不規則で、体調や気分の波が激しい	・生活リズムの記録・管理: 決まった時間に事業所に通うこと自体が訓練になります。通所記録や日報を通じて、自分の活動パターンやコンディションの波を可視化し、スタッフと共有します。 ・セルフケア講座: 睡眠、食事、運動の重要性を学び、質の良い睡眠をとるための工夫（例：就寝前のスマホ操作を控える）など、心身の健康を保つための具体的な方法を学びます。ADHDの方は睡眠障害を併発しやすいことが知られており、この対策は非常に重要です。	安定した生活リズムを確立し、自分のコンディションを客観的に把握できるようになります。これにより、無理のない働き方を計画し、継続的に就労するための基礎体力を養うことができます。

Step 2：【スキル習得】苦手分野をカバーし、得意を伸ばす

自己理解で明確になった自分の特性や課題に基づき、具体的なスキルを習得していきます。多くの就労移行支援事業所では、個別に作成される「個別支援計画」に沿って、数多くのプログラムの中から自分に必要なものを選択して受講する形式を取っています。

ADHDの困りごと	就労移行支援でのプログラム・アプローチ例	得られる成果・ゴール
時間管理・タスク管理ができない、納期を守れない	・スケジュール管理ツール実践: Googleカレンダー、Trello、Asanaといったデジタルツールの使い方を学び、実際の訓練課題で実践します。タスクの細分化や優先順位付けの方法を体得します。 ・時間管理術の訓練: 集中力を維持し、休憩を効果的に挟む「ポモドーロ・テクニック」（25分集中＋5分休憩）などを訓練に取り入れ、自分に合ったリズムを見つけます。	締め切りや約束を管理する具体的な手法が身につき、計画的に仕事を進める力が向上します。これにより、仕事の抜け漏れが減り、周囲からの信頼を得やすくなります。
コミュニケーションが不安、「報連相」が苦手	・SST（社会生活技能訓練）: ロールプレイング形式で、職場での様々な場面を想定した練習を行います。「結論から話す」報告の仕方、適切なタイミングでの相談、失礼のない断り方、相手を不快にさせない質問の仕方などを具体的に学びます。 ・グループワーク: 複数人で一つの課題に取り組むプログラムを通じて、チーム内での自分の役割の果たし方、円滑な意思疎通の方法、意見対立が起きた際の対処法などを実践的に学びます。	職場での円滑な人間関係を築くためのコミュニケーション能力が向上します。「空気が読めない」と言われがちな場面でも、学んだスキルを使って適切に対応できるようになります。
PCスキルに自信がない、仕事の幅を広げたい	・PC基礎講座: 多くの事業所で、Word（ビジネス文書作成）、Excel（データ集計、関数）、PowerPoint（プレゼン資料作成）の基本操作から応用までを、個人のレベルに合わせて学べます。 ・専門スキル講座: 事業所によっては、より専門的な職種を目指すための講座も用意されています。例として、プログラミング（Python, JavaScript）、Webデザイン（HTML/CSS）、簿記、CAD、動画編集などがあります。	事務職や専門職で必須となるPCスキルを習得し、仕事の選択肢を大幅に広げることができます。特にADHDの「過集中」の特性は、プログラミングやデザインなど、没頭できる専門分野で大きな強みとなる可能性があります。

Step 3：【就職活動】特性に合った「最高の職場」を見つける

自己理解とスキル習得によって準備が整ったら、いよいよ就職活動のフェーズに入ります。一人では情報収集や対策が難しい就職活動も、専門スタッフと二人三脚で進めることで、成功率が格段に上がります。特に、自分の特性に合った職場、つまり「弱みがカバーされ、強みが活かせる環境」を見つけることが、このステップの最大の目標です。

ADHDの困りごと	就労移行支援でのプログラム・アプローチ例	得られる成果・ゴール
自分にどんな仕事が合うかわからない	・企業インターン（職場実習）: 就労移行支援事業所が提携する企業で、数日間～数週間の就業体験を行います。実際の業務内容や職場の雰囲気、人間関係などを肌で感じることで、求人票だけではわからない「自分との相性」を確認できます。 ・求人開拓: 支援スタッフがあなたの特性や希望、スキルを理解した上で、ハローワークや求人サイトにはない非公開求人を含め、あなたに合った企業をリサーチし、紹介してくれます。	入社後のミスマッチを大幅に減らすことができます。実習での働きぶりが評価され、そのまま直接雇用につながるケースも少なくありません。
履歴書作成や面接が極端に苦手	・応募書類の添削: Step1で作成した「自己分析レポート」を基に、自分の強みや配慮してほしい点を、採用担当者に効果的に伝える履歴書・職務経歴書の作成をマンツーマンでサポートします。 ・模擬面接: 想定問答集の作成から、ビデオ撮影による客観的なフィードバックまで、自信がつくまで繰り返し練習します。面接に支援スタッフが同席してくれる場合もあります。	自信を持って面接に臨めるようになります。「あなたの強みは何ですか？」「苦手なことは何ですか？」といった質問に対し、準備した内容を基に、自分の言葉で特性と強みを前向きに伝えられるようになります。
障害をオープンにするか（障害者雇用か一般雇用か）迷う	・雇用形態の検討: 障害者雇用枠と一般枠、それぞれのメリット・デメリット（配慮の受けやすさ、給与水準、キャリアパスなど）を、スタッフと相談しながら客観的に整理します。 ・「伝え方」の練習: 障害をオープンにする場合（オープン就労）、面接官に不安感ではなく安心感を与え、「この人となら一緒に働けそうだ」と思ってもらえるような、前向きな伝え方を練習します。	自分にとって最適な雇用形態を選択し、納得感のある就職活動ができます。障害者雇用は近年急速に拡大しており、法定雇用率も段階的に引き上げられています。2026年7月には2.7%になるなど、企業側の採用意欲も高まっています。

Step 4：【職場定着】就職後も続く安心のサポート

就労移行支援の本当のゴールは「就職すること」ではなく、「その職場で安定して働き続けること」です。入社後は、新しい環境、新しい人間関係、新しい業務など、これまで経験したことのない壁に直面することも少なくありません。そんな時でも、就労移行支援の「定着支援」があなたを支えます。

就労移行支援のサービスとして、就職後6ヶ月間は職場定着のサポートが受けられます。その後も、希望すれば「就労定着支援」という別の福祉サービスに切り替えることで、最大3年間、継続的なサポートを受けることが可能です。

就職後の困りごと	就労移行支援の定着支援サポート例	得られる成果・ゴール
新しい環境や人間関係に馴染めず、ストレスを感じる	・定期的な面談: 支援スタッフが月に1回程度のペースで職場を訪問、またはオンラインで面談し、仕事の悩みや人間関係の不安などをヒアリングします。 ・企業との連携（三者面談）: 本人からは直接言いにくい配慮事項（例：「口頭ではなくチャットで指示してほしい」「一度に複数の指示は混乱する」など）を、支援スタッフが間に入って企業側に伝え、職場環境の調整を働きかけます。	問題が大きくなる前に早期に解決でき、安心して働き続けられる環境が整います。企業側も、障害特性への理解を深める良い機会となります。
仕事でつまずき、自信を失ってしまう	・課題解決のサポート: 新しい業務で困難が生じた際に、具体的な対策（作業手順のマニュアル化、チェックリストの作成、ツールの導入など）を本人・企業と一緒に考え、実践をサポートします。 ・OB・OG会: 同じ就労移行支援事業所の卒業生と交流する機会を設け、悩みを共有したり、先輩からアドバイスをもらったりすることができます。	職場で孤立することを防ぎ、困難を乗り越える成功体験を積むことで、長期的なキャリア形成へのモチベーションを維持できます。

後悔しない！ADHDの特性に合った就労移行支援事業所の選び方

就労移行支援の効果は、どの事業所を選ぶかに大きく左右されると言っても過言ではありません。全国には3,000以上の事業所があり、その支援内容や雰囲気は千差万別です。ここでは、ADHDの特性を持つあなたが「自分に合った事業所」を見つけるために、絶対にチェックすべき3つの重要ポイントを解説します。

Point 1：ADHDの特性に特化したプログラムがあるか

ADHDの困りごとは多岐にわたるため、それらに的確に対応できるプログラムが用意されているかが最も重要です。

• チェック項目:
  • 自己理解プログラム: 自分の特性を客観的に分析し、言語化するためのプログラム（心理教育、アセスメントツールなど）が充実しているか。
  • 時間管理・タスク管理: デジタルツールの活用法や、ポモドーロ・テクニックのような具体的な時間術を学べる講座があるか。
  • コミュニケーション訓練: SST（社会生活技能訓練）やグループワークが豊富に用意されており、実践的な練習ができるか。
  • ストレス対処法: 認知行動療法（CBT）やアンガーマネジメントなど、感情コントロールやストレス対処法を学べるプログラムがあるか。
• 確認方法: 事業所のウェブサイトやパンフレットでプログラム内容を詳細に確認しましょう。見学や体験利用の際には、「ADHDの特性がある利用者の方には、特にどのような支援をされていますか？」と具体的に質問することが重要です。

Point 2：集中しやすく、自分のペースで通える環境か

ADHDの特性上、環境からの刺激に影響されやすかったり、日によって体調や気分の波があったりします。そのため、物理的な環境と通所の柔軟性は非常に大切な要素です。

• チェック項目:
  • 物理的な環境: 視界からの刺激を遮るパーティションで区切られた個別ブースや、静かに集中して作業できる自習室などが用意されているか。
  • 柔軟な通所スタイル: 在宅での訓練やオンラインでのプログラム参加に対応しているか。週2〜3日といった短い日数・時間からスモールステップで通所を開始できるか。体調不良時に柔軟に休憩や早退ができるか。
• 確認方法: 必ず実際に見学に行き、事業所内の雰囲気、座席の配置、騒音のレベルなどを自分の目で確かめましょう。「周りの音が気になりやすいのですが、集中できる席はありますか？」「体調が悪い日は在宅に切り替えることは可能ですか？」など、具体的な状況を想定して質問すると、事業所の対応力がわかります。

Point 3：ADHDの方の就職実績と定着率が高いか

最終的なゴールは「就職して働き続けること」です。その事業所が、実際にADHDや発達障害のある方をどれだけ就職に導き、その方々がどれだけ長く働き続けているかという「実績」は、信頼性を測る客観的な指標となります。

• チェック項目:
  • 就職実績: ADHDや発達障害のある方の年間就職者数や、どのような職種・業界・企業に就職しているかの具体例。
  • 職場定着率: 就職後、6ヶ月後や1年後も働き続けている人の割合（定着率）は高いか。全国平均の就職率が50%台であるのに対し、80%以上の高い就職率を誇る事業所もあります。また、定着率も重要な指標で、90%近い実績を持つ事業所も存在します。
• 確認方法: 多くの事業所はウェブサイトで実績データを公開しています。もし公開されていない場合は、見学時に「発達障害の方の昨年度の就職者数と、1年後の定着率を教えていただけますか？」と率直に質問してみましょう。誠実に、具体的な数字を交えて答えてくれる事業所は信頼できる可能性が高いです。

就労移行支援で未来を拓いたADHD当事者の声（成功事例）

理論だけでなく、実際に就労移行支援を利用して、ADHDという特性と向き合いながら自分らしい働き方を手に入れた方々の事例をご紹介します。これらのストーリーは、あなたが一歩を踏み出すための勇気を与えてくれるはずです。

事例1：Aさん（20代・女性）｜苦手なマルチタスクを克服し、事務職で正社員へ

• 利用前の課題: 新卒で入社した商社で、電話対応、来客対応、書類作成といった複数の業務を同時にこなす「マルチタスク」に混乱。ケアレスミスが頻発し、上司からの叱責が続くうちに自信を喪失。うつ病を発症し、休職の末に退職。その後、心療内科でASD（自閉スペクトラム症）とADHD（不注意優勢型）の併存と診断される。
• 就労移行支援での取り組み:
  • 自己理解: 支援スタッフとの面談を重ねる中で、「聴覚からの情報処理が苦手だが、視覚的な情報は正確に処理できる」「一度に一つの作業に没頭すると、高い集中力を発揮できる」といった自身の特性を言語化。
  • スキル習得: PCスキル講座でExcelの関数やマクロを学び、定型業務を自動化する技術を習得。また、タスク管理プログラムで、全ての指示やタスクを付箋やTrelloで可視化する習慣を身につけた。
  • 就職活動: 支援スタッフの助言のもと、電話対応が少なく、静かな環境で集中できる職場にターゲットを絞る。提携企業での職場実習で、データ入力と資料整理の業務に挑戦し、その正確性とスピードを高く評価された。
• 結果と現在: 実習先であったIT企業に、障害者雇用枠の事務職として採用される。入社後は、定型的なデータ入力や分析業務でミスなく高いパフォーマンスを発揮。定着支援の面談を通じて、上司に「口頭ではなく、チャットで指示をいただけると助かります」と配慮を依頼し、働きやすい環境を自ら構築。現在は業務効率化のアイデアを出すなど、チームに不可欠な存在となっている。「無理に周りに合わせようとせず、自分の得意なやり方で貢献できるのが嬉しいです」と語る。

事例2：Bさん（30代・男性）｜「落ち着きがない」を「行動力」に変え、専門職で活躍

• 利用前の課題: 大学卒業後、一般枠で複数の企業に就職するも、デスクワーク中心の仕事が苦痛で長続きしなかった。会議中にじっとしていられず、衝動的な発言で人間関係を悪化させることも。雇止めを繰り返し、「自分は社会不適合者だ」と悩んでいた時期にADHD（多動・衝動性優勢型）の診断を受ける。
• 就労移行支援での取り組み:
  • 自己理解: 職業適性検査やスタッフとの対話を通じて、「人と話すのが好き」「体を動かしている方が調子が良い」「興味のあることへの探求心が強い」といった自分の強みを再発見。
  • スキル習得: 衝動的に話してしまう癖を自覚し、SST（社会生活技能訓練）で「相手の話を最後まで聞く」「一呼吸おいてから発言する」といったコミュニケーションスキルを徹底的に練習。また、興味のあったプログラミング講座を受講し、Excelマクロの技術を習得。
  • 就職活動: 支援スタッフがBさんの「化学の知識」と「Excelマクロのスキル」というユニークな組み合わせに着目。化学メーカーの社内SEという、専門性を活かせるニッチな求人を開拓。面接では、自分の特性を「フットワークが軽く、課題解決への行動が早い」とポジティブに伝え、採用に至る。
• 結果と現在: 化学メーカーに社内SEとして入社。研究開発部門のデータ集計作業を自動化するプログラムを開発し、作業時間を1/10に短縮。この功績が認められ、グループ全体の表彰を受ける。多動性は「各部署へ足を運んでヒアリングする行動力」として、衝動性は「課題解決へのスピーディーな着手」として、今では大きな武器になっている。「かつて短所だと思っていたものが、場所を変えれば強みになることを実感しました」と、自信に満ちた表情で話す。

よくある質問（Q&A）

就労移行支援の利用を検討する際に、多くの方が抱く疑問や不安についてお答えします。

Q1. 障害者手帳がないと利用できませんか？

A1. いいえ、必ずしも必要ではありません。就労移行支援の利用対象は「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある方」と定められていますが、障害者手帳の所持は必須要件ではありません。医師による「就労移行支援の利用が有効である」という内容の診断書や意見書があれば、お住まいの市区町村の判断によってサービスの利用が認められるケースが多くあります。いわゆる「グレーゾーン」の方でも利用できる可能性がありますので、まずは主治医やお住まいの市区町村の障害福祉窓口にご相談ください。

Q2. 利用期間中に収入がなくなると生活が不安です。

A2. 就労移行支援は訓練の場であるため、原則として給与や工賃は発生しません。この点が生活面での大きな不安になるかと思います。しかし、いくつかの公的制度を併用することが可能です。

• 失業保険（雇用保険）: 退職前に雇用保険に加入していた期間などの条件を満たせば、失業手当を受給しながら通所できます。ハローワークでの手続きが必要です。
• 障害年金: 障害の程度に応じて、障害基礎年金や障害厚生年金を受給できる場合があります。
• 生活保護: 他の制度を利用しても生活が困難な場合は、生活保護を受給しながら利用することも可能です。
• 自治体の助成制度: 自治体によっては、就労移行支援の利用にかかる交通費や昼食代の一部を助成する制度を設けている場合があります。

利用を検討している事業所のスタッフはこれらの制度に詳しいため、見学・相談の際に、ご自身の状況を伝えて利用できる制度がないか相談してみることをお勧めします。

Q3. 利用開始までの手続きが難しそうです。

A3. ご安心ください。就労移行支援を利用するためには、お住まいの市区町村の窓口で「障害福祉サービス受給者証」を申請・取得する必要がありますが、この手続きは多くの場合、利用を決めた事業所のスタッフがサポートしてくれます。

【大まかな流れ】

1. 事業所の見学・体験: 複数の事業所を見学し、自分に合う場所を見つけます。
2. 利用申請: 利用したい事業所が決まったら、市区町村の障害福祉窓口に申請書類を提出します。（この際、医師の診断書などが必要になります）
3. 認定調査・計画案作成: 市区町村の職員によるヒアリング調査や、相談支援事業者による「サービス等利用計画案」の作成が行われます。
4. 受給者証の交付: 申請が認められると、受給者証が自宅に届きます。
5. 利用契約・通所開始: 受給者証を持って事業所と契約を結び、利用がスタートします。

一見複雑に見えますが、各ステップで事業所のスタッフが「次に何をすべきか」「どんな書類が必要か」を丁寧に教えてくれるので、一人で抱え込む必要はありません。

Q4. 本当に就職できるのでしょうか？

A4. はい、多くの方が就職を実現しています。厚生労働省のデータによると、令和5年度の就労移行支援事業所からの一般就労への移行者数は14,845人、サービス利用終了者に占める就職者の割合（就職率）は58.8%に達しています。これは、就労継続支援A型（26.2%）やB型（10.7%）と比較しても非常に高い水準です。

もちろん、100%ではありません。しかし、重要なのは、就労移行支援が単なる「就職斡旋サービス」ではないという点です。2年間の訓練を通じて、自分に合った働き方を見つけ、必要なスキルを身につけ、万全の準備を整えて就職活動に臨むことができます。さらに、就職後も定着支援というサポートが続きます。この一連のプロセスが、高い就職率と、その後の高い定着率に繋がっているのです。自分に合った事業所を選び、プログラムに真摯に取り組むことで、就職の可能性は大きく高まります。

まとめ：一人で抱え込まず、まずは「相談」から始めよう

この記事では、ADHDの特性が仕事上で引き起こす困難から、その解決策としての就労移行支援の具体的な活用法、事業所の選び方、そして成功事例までを網羅的に解説してきました。

「仕事がうまくいかない」「自分はダメな人間だ」と、一人で悩み、自信を失い続けてきたかもしれません。しかし、その苦しみはあなたのせいではありません。あなたの特性を深く理解し、あなたのキャリアを一緒に考え、伴走してくれる専門家が、すぐ近くにいます。

未来を変えるための第一歩は、ほんの少しの勇気です。この記事を読んで、少しでも「自分も変われるかもしれない」と感じたなら、ぜひ行動に移してみてください。

まずは、お近くの就労移行支援事業所のウェブサイトを覗いてみたり、無料で参加できる見学・相談会に申し込んでみたりすることから始めてみませんか？専門のスタッフにあなたの悩みや不安を話してみるだけでも、心は軽くなり、きっと新しい道が見えてくるはずです。