病気や事故の後遺症として「高次脳機能障害」と診断され、「もう一度働くことはできるのだろうか?」と深い不安を抱えている方、そしてそのご家族は少なくありません。高次脳機能障害は、外見からは分かりにくいため「見えない障害」とも呼ばれ、その特性が周囲に理解されにくいことから、就労の場で多くの困難に直面することがあります。
しかし、結論から言えば、高次脳機能障害があっても再就職は十分に可能です。大切なのは、障害の特性を正しく理解し、適切な戦略を立て、そして専門的なサポートを活用することです。この記事では、高次脳機能障害の基礎知識から、就労の現状、再就職を成功させるための具体的なステップ、そして新たな可能性を秘めたIT分野での就労について、専門的な視点から詳しく解説します。特に浜松市およびその周辺で再就職を目指す方々にとって、具体的な一歩を踏み出すための道しるべとなることを目指します。
高次脳機能障害は、交通事故による頭部外傷や、脳卒中などの病気によって脳が損傷を受けた結果、記憶、注意、思考、言語といった高度な精神機能に障害が生じた状態を指します。これらの機能は仕事の遂行に直結するため、症状を理解することが第一歩となります。国立障害者リハビリテーションセンターによると、主な症状には以下のものがあります。
新しい出来事を覚えられない、物の置き場所を忘れる、何度も同じことを質問するといった症状です。業務においては、指示された内容や新しい作業手順を覚えることが難しく、業務の停滞やミスにつながる可能性があります。
集中力が続かない、ぼんやりしてミスが多い、二つのことを同時に行うと混乱するといった症状です。特に、多くの情報を処理する必要がある業務や、臨機応変な対応が求められる場面で困難が生じやすくなります。
自分で計画を立てて物事を実行できない、段取りが悪く、指示がないと動けないといった症状です。仕事の目標設定から計画、実行、評価という一連のプロセスを自律的に進めることが難しくなります。
感情のコントロールが難しい、自己中心的になる、場の空気が読めないといった症状です。職場での円滑な人間関係の構築を妨げる要因となり、チームでの共同作業に支障をきたすことがあります。
これらの症状は単独で現れることは少なく、複合的に絡み合って日常生活や社会生活に影響を及ぼします。外見からは分かりにくいため、周囲からは「やる気がない」「性格が変わった」と誤解されやすいのが、この障害の最もつらい点の一つです。
高次脳機能障害のある方の就労は、決して簡単な道のりではありません。厚生労働省の調査によると、高次脳機能障害のある方の就労状況は、一般就労が約17%、福祉的就労が約19%である一方、約20%の方が在宅で特に何もしていない「引きこもり」の状態にあると報告されています。
就労における主な課題は、障害特性への理解不足に起因します。企業側は、どのような配慮をすれば良いか分からず、本人も自分の困難をうまく説明できないケースが少なくありません。その結果、採用に至らなかったり、就職できても職場で孤立し、短期間で離職してしまったりする問題が指摘されています。
困難な状況の中でも、実際に多くの方が再就職を果たし、活躍しています。成功事例を分析すると、共通する3つの鍵が見えてきます。
まず最も重要なのは、自分自身の障害特性を客観的に理解することです。「何ができて、何が難しいのか」「どのような状況で困難が生じるのか」「どのような工夫や配慮があれば補えるのか」を具体的に把握することが、全てのスタートラインとなります。これは、医療機関でのリハビリや専門の支援機関でのアセスメントを通じて深めていくことができます。自分の「取扱説明書」を作成するイメージです。
自分の特性を理解したら、次はその特性に合った仕事や職場環境を選ぶことが重要です。以下のような特徴を持つ仕事は、高次脳機能障害のある方にとって働きやすい傾向があります。
また、企業に「合理的配慮」を求めることも大切です。例えば、「指示は口頭だけでなくメモでもらう」「一度に複数の指示は避けてもらう」「集中できる静かな席を確保してもらう」といった環境調整が、安定した就労につながります。
一人で就職活動を行うのは非常に困難です。ハローワークの専門援助窓口や地域障害者職業センター、そして「就労移行支援事業所」といった専門機関を積極的に活用することが、成功への近道です。
特に就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業へ就職するために、職業訓練から就職活動のサポート、就職後の定着支援までを一貫して提供する福祉サービスです。個々の障害特性に合わせたきめ細やかな支援を受けられるのが最大のメリットです。
近年、高次脳機能障害のある方の新たな就労先として、IT分野が注目されています。一見、複雑で難しそうに思えるかもしれませんが、実はその特性が障害を補い、能力を発揮しやすい側面を持っています。
プログラミングやデータ入力、ウェブサイトの更新作業などは、論理的なルールや明確な手順に基づいて行われます。遂行機能障害により「段取り」が苦手な方でも、マニュアルや指示が明確であれば、一つひとつのタスクを確実にこなすことが可能です。曖昧な指示や臨機応応な対応が少ないため、混乱しにくいという利点があります。
IT職はリモートワーク(在宅勤務)を導入している企業が多いのが特徴です。通勤による疲労や、オフィスの雑音、人間関係のストレスから解放されることで、注意障害や社会的行動障害のある方でも、自分のペースで集中して業務に取り組める環境を作りやすくなります。厚生労働科学研究でも、テレワーク支援の必要性が指摘されており、新しい働き方として期待されています。
IT分野では、スケジュール管理アプリ、タスク管理ツール、リマインダー、音声入力ソフトなど、記憶障害や注意障害を補うための支援技術(アシスティブテクノロジー)を自然な形で業務に取り入れることができます。これらのツールを使いこなすことで、障害による難しいことを最小限に抑え、安定したパフォーマンスを発揮することが可能になります。
ITスキルは専門職としての強みとなり、障害の有無に関わらず評価される分野です。適切な訓練を受けスキルを身につけることで、自信を持って社会復帰を目指すことができます。
「IT分野に興味はあるけれど、何から始めればいいか分からない」
「自分にプログラミングなんてできるだろうか」
そうした不安を抱える浜松市および近隣地域の方々にとって、IT特化型の就労移行支援事業所は非常に有効な選択肢です。一般的な就労移行支援事業所と異なり、IT分野への就職に特化したカリキュラムを提供しているのが大きな特徴です。
IT特化型の事業所では、以下のような専門的な支援を受けることができます。
浜松市には、リライトキャンパスのようにこうしたITスキル習得を強みとする就労移行支援事業所が存在します。まずは相談会や見学に参加し、事業所の雰囲気や支援内容を自分の目で確かめてみることが、未来への大きな一歩となるでしょう。
高次脳機能障害を抱えながらの再就職は、決して平坦な道ではありません。しかし、それは「不可能」を意味するものではありません。正しい知識を身につけ、自身の特性と向き合い、そして信頼できるパートナー(支援者)を見つけることで、道は必ず開けます。
特に、構造化された業務が多く、柔軟な働き方が可能なIT分野は、新たな可能性に満ちています。専門的なスキルを身につけることは、障害を乗り越えるための大きな力となり、自信を取り戻すきっかけにもなります。
もしあなたが、あるいはあなたのご家族が、高次脳機能障害からの再就職に悩んでいるなら、どうか一人で抱え込まないでください。浜松市には、あなたの挑戦を全力でサポートする専門家がいます。まずは一歩、相談という形で踏み出してみてはいかがでしょうか。
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