コラム 2025年9月19日

職場での聞き上手になる方法|人間関係を楽にするコミュニケーションの技術

「ケアレスミスでよく叱られる」「職場の人とどう話せばいいか分からず、孤立しがち」「頑張っているのに、なぜかうまくいかない…」。

うつやADHD、ASDなどの特性が原因で、こうした悩みを抱え、早期退職を経験された方も少なくないでしょう。次の職場では、無理なく、安心して長く働きたい。そう願うのは当然のことです。

そのための強力な武器になるのが、「聞く力」です。コミュニケーションは「話す力」だと思われがちですが、実は良好な人間関係の土台は「聞く力」にあります。これは生まれつきの才能ではなく、誰でも練習すれば身につけられる「技術」です。

この記事では、職場の人間関係を円滑にし、あなた自身の働きやすさにも繋がる「聞き上手になるための具体的な方法」を、段階的に分かりやすく解説します。

なぜ「聞く力」が重要なのか?

「聞き上手」になることは、単に「いい人」だと思われるためだけではありません。あなた自身が職場で安心して、効率的に働くために不可欠なスキルです。

信頼関係の構築

人は「自分の話を真剣に聞いてくれる人」に対して、心を開き、信頼を寄せます。上司や同僚との間に信頼関係が生まれれば、困ったときに相談しやすくなったり、ミスをしても一方的に責められるのではなく、一緒に解決策を考えてくれるようになります。信頼は、職場であなたを守るセーフティネットになります。

ミスや誤解の防止

「聞き上手」は、指示や情報の正確な理解に直結します。相手の話を正確に聞くことで、「言った・言わない」のトラブルや、指示の聞き間違いによるケアレスミスを劇的に減らすことができます。これは、叱責される機会を減らし、自信を持って仕事に取り組むための第一歩です。

心理的な安全性の確保

「この職場では、自分の意見や質問を安心して口にできる」と感じられる状態を「心理的安全性」と呼びます。聞き上手な人がいる職場は、自然と心理的安全性が高まります。あなたが聞き上手になることで、周囲も話しやすくなり、チーム全体のコミュニケーションが活性化します。結果として、あなた自身もストレスを感じにくく、安心して働ける環境が育まれていきます。

「聞き上手」になるための3つの基本姿勢

具体的なテクニックを学ぶ前に、土台となる「心構え」を整えましょう。この3つの姿勢を意識するだけで、相手に与える印象は大きく変わります。

1. 相手への関心を持つ

「この人は何を伝えたいのだろう?」「どんな気持ちで話しているのだろう?」と、相手自身に興味を持つことがスタートです。うわべだけで聞くのではなく、純粋な好奇心を持って相手に向き合う姿勢が、自然な相槌や質問につながります。

2. 評価や判断を一旦保留する

相手の話を聞きながら、「それは違う」「自分ならこうするのに」と頭の中で評価していませんか?特にASDの特性がある方は、白黒をはっきりさせたい傾向があるかもしれません。しかし、まずは相手の考えや感情をそのまま受け止めることが重要です。「理解」と「同意」は別物です。まずは理解に徹し、自分の意見を言うのはその後です。

3. 沈黙を恐れない

会話の途中で生まれる「間」を、気まずく感じて焦って埋めようとしていませんか?沈黙は、相手が考えをまとめたり、次に何を話すか整理したりするための大切な時間です。あなたが黙って待つことで、相手は「じっくり考えて話していいんだ」と安心できます。沈黙は気まずいものではなく、むしろ深いコミュニケーションに必要な要素です。

明日から使える!具体的な7つのリスニングテクニック

基本姿勢を意識しながら、具体的なテクニックを実践してみましょう。一度に全部やろうとせず、まずは一つか二つ、できそうなものから試してみてください。

1. 相槌(あいづち):共感と理解を示すサイン

相槌は「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」という最も分かりやすいサインです。単調にならないよう、いくつかのパターンを使い分けるのがコツです。

  • 同意・肯定:「はい」「ええ」「そうですね」
  • 驚き・感心:「そうなんですね!」「なるほど」「すごいですね」
  • 促し:「それで、どうなりましたか?」「ほうほう」

2. 繰り返し(リフレイン):内容を確認し、安心感を与える

相手が言った言葉の一部を繰り返すテクニックです。「〇〇だったんですね」「△△という点が問題だと感じているのですね」のように、相手の言葉をオウム返しすることで、「正しく伝わっている」という安心感を与え、自分の聞き間違いも防げます。

3. 要約(サマリー):話の全体像を整理する

特に長い話や複雑な指示を受けたときに有効です。「要するに、AとBの二点について、明日までに対応が必要だという認識で合っていますか?」のように、話の要点をまとめて確認します。これにより、認識のズレを防ぎ、仕事のミスを大幅に減らすことができます。

4. 質問(クエスチョン):関心を示し、話を深める

良い質問は、あなたが真剣に聞いている証拠です。2種類の質問を使い分けましょう。

  • クローズドクエスチョン(閉じた質問):「はい/いいえ」で答えられる質問。「この資料は完成しましたか?」など、事実確認に使います。
  • オープンクエスチョン(開かれた質問):「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)」で尋ねる質問。「その時、どのように感じましたか?」「今後、どうすれば改善できると思いますか?」など、相手の考えや意見を引き出します。

5. 感情の言語化:相手の気持ちに寄り添う

相手が話している内容の裏にある「感情」を汲み取り、言葉にして伝えます。「それは大変でしたね」「ご苦労されたんですね」「それは嬉しい報告ですね」といった一言があるだけで、相手は「この人は自分の気持ちを分かってくれる」と感じ、心の距離がぐっと縮まります。

6. 非言語的コミュニケーション:視線と姿勢

言葉以外の要素も重要です。相手の方に体を向け、少し前傾姿勢で聞くと、「関心があります」というメッセージが伝わります。ASDの特性で相手の目を見続けるのが苦手な場合は、無理をする必要はありません。相手の眉間や鼻のあたりを見たり、時々視線を外しつつも、頷きを多めにしたりすることで、十分に聞く姿勢は伝わります。

7. メモを取る:注意散漫を防ぎ、誠実さを示す

これは特にADHDの特性(注意が逸れやすい)を持つ方にとって非常に強力なツールです。話を聞きながらメモを取ることで、意識を会話に集中させることができます。また、要点を書き留めることで、後から内容を正確に思い出す助けになります。何より、メモを取る姿は「あなたの話を真剣に受け止めています」という誠実さの表れとして、相手に好印象を与えます。

これらのコミュニケーション技術は、多くのビジネス書でも推奨されており、職場での普遍的なスキルと言えます。

データで見るコミュニケーションの効果

良好なコミュニケーション、特に「聞く文化」が根付いた職場は、従業員のエンゲージメントや心理的安全性に直接的な好影響を与えます。以下のグラフは、コミュニケーションの質が異なる2つの仮想チームにおける、職場環境指標を比較したものです。これは、Google社が実施したプロジェクト・アリストテレスなどで示された「心理的安全性」の重要性に基づいています。

コミュニケーションが活発なチーム(聞き上手なメンバーが多いチーム)では、心理的安全性が高く、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)も向上しています。結果として、仕事に関連するストレスが低減され、定着率の向上につながることが期待できます。「聞く力」は、個人のスキルであると同時に、職場全体の生産性と働きやすさを向上させる鍵なのです。

発達障害の特性と向き合うためのヒント

ご自身の特性を理解し、それに合った工夫を取り入れることで、リスニングスキルはさらに実践しやすくなります。

ADHDの特性(注意散漫・多動性)がある場合

「メモを取る」テクニックは、あなたの最大の味方です。頭の中だけで情報を処理しようとせず、積極的に外部のツール(ノートやPC)に頼りましょう。また、重要な話をする際は、できるだけ静かで刺激の少ない場所を選ぶよう心がけるのも有効です。「すみません、集中してお伺いしたいので、少し静かな会議室でよろしいでしょうか?」と提案することは、失礼にはあたりません。

ASDの特性(こだわりの強さ・対人関係の難しさ)がある場合

「評価や判断を保留する」姿勢を特に意識しましょう。会話を「情報の収集と整理」という論理的なプロセスとして捉えると、取り組みやすくなるかもしれません。また、「繰り返し」「要約」のテクニックは、曖昧な表現を嫌うASDの特性にマッチします。自分の理解が正しいか具体的に確認することで、不安を減らし、的確なコミュニケーションが可能になります。

まとめ:小さな一歩から始めよう

ここまで多くのテクニックを紹介しましたが、最初からすべてを完璧にこなす必要は全くありません。

まずは、「今週は、相手の話を遮らずに最後まで聞く」「明日は、意識して相槌を打ってみる」など、自分にとって最もハードルが低いと感じる目標を一つだけ立ててみましょう。

小さな成功体験を積み重ねることが、自信につながります。「聞く力」を磨くことは、相手に好かれるためだけでなく、何よりもあなた自身が職場で安心して、能力を発揮し、長く働き続けるための大切な自己投資です。

焦らず、あなたのペースで、今日からできる一歩を踏み出してみてください。

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