コラム 2025年11月15日

職場でのパニック発作対処法|不安やストレスに負けないための予防と具体的な対応策

「ケアレスミスでまた叱られてしまった」「周りのペースについていけず、いつも焦ってしまう」…。うつやADHD、ASDなどの特性が原因で、職場でのストレスやプレッシャーに押しつぶされそうになっていませんか? 一度は就職したものの、心身の不調から早期退職を経験し、「次こそは無理なく、長く働きたい」と強く願っている方も多いでしょう。特に、強いストレス下で突然襲ってくるパニック発作は、仕事の継続を困難にする大きな要因です。この記事では、職場でパニック発作が起きてしまった時の具体的な対応策と、発作を未然に防ぐための予防法を、あなたの状況に寄り添いながら、深く、多角的に解説します。 自分自身を守り、安心して働き続けるための「お守り」となる知識を、一緒に身につけていきましょう。

第1章:なぜ職場で?パニック発作の正体と背景

まずは敵を知ることから始めましょう。パニック発作とは何か、そしてなぜ職場で起こりやすいのかを理解することは、効果的な対策の第一歩です。

パニック発作とは?- 不安とは違う「身体の警報」

パニック発作は、明確な理由なく突然、強烈な恐怖感や不安感に襲われ、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気といった身体症状が伴う状態を指します。これは、生命の危機に瀕した時に作動する「闘争・逃走反応」が、危険がない状況で誤作動してしまうことで起こります。「このまま死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」という強い恐怖を感じますが、発作自体が命に危険を及ぼすことはありません。通常、ピークは10分以内で、30分〜1時間程度で自然に収まります。

ADHD・ASD・うつとパニック発作の関連性

ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ方は、職場環境において特有のストレスを抱えがちです。

  • ADHDの特性とストレス:タスク管理の困難さ、注意散漫によるミス、衝動性などが原因で、叱責されたり、自己肯定感が低下したりします。常に「何か忘れていないか」「また失敗するのではないか」という不安が、パニックの引き金になることがあります。
  • ASDの特性とストレス:感覚過敏(騒音、光、匂いなど)による疲労、予期せぬ変更への強い不安、暗黙のルールや社交辞令の理解の難しさなどが、大きな精神的負担となります。感覚的な情報量が許容量を超えた時(感覚過載)に、パニック状態に陥ることがあります。
  • うつ状態とストレス:気力や判断力の低下により、以前はこなせていた仕事が負担になります。ネガティブな思考パターンに陥りやすく、些細な出来事でも深刻に捉えてしまい、強い不安感からパニック発作につながることがあります。

これらの特性や状態は、それ自体が悪いわけではありません。しかし、一般的な職場環境が、こうした特性を持つ人々にとって過剰なストレス源となり、結果としてパニック発作のリスクを高めてしまうのです。

第2章:発作を未然に防ぐ「予防策」- 安心して働くための土台作り

パニック発作への最も効果的な対策は「予防」です。日々の生活や働き方を少し見直すことで、発作が起こりにくい心身の状態を作ることができます。

1. 自分の「トリガー(引き金)」を特定する

何が自分のストレスや不安を高めるのかを客観的に知ることが重要です。スマートフォンのメモ機能や手帳を使い、「ストレス日記」をつけてみましょう。

  • 記録する内容:①いつ、どこで ②誰と何をしていたか ③その時どんな気持ちだったか(焦り、不安、怒りなど) ④身体にどんな変化があったか(心臓がドキドキする、汗をかくなど)
  • トリガーの例:
    • 特定の人物からの厳しい言葉
    • 大勢の前での発表や電話応対
    • 急な仕事の依頼やスケジュールの変更
    • オフィスの騒音や明るすぎる照明
    • 満員電車での通勤

記録を続けることで、「こういう状況で自分は不調になりやすい」というパターンが見えてきます。パターンが分かれば、その状況を避けたり、備えたりすることが可能になります。

2. 心と身体の「セルフケア」を習慣化する

心身のエネルギーが枯渇していると、些細なことでもパニックの引き金になります。自分をいたわるセルフケアを、仕事と同じくらい大切な「タスク」として捉えましょう。

  • 睡眠の質の向上:毎日同じ時間に寝て起きる、寝る前のスマホ操作を控えるなど、睡眠環境を整えましょう。睡眠不足は、感情のコントロールを司る脳の前頭前野の働きを低下させます。
  • バランスの取れた食事:血糖値の乱高下は気分の浮き沈みに繋がります。特に朝食を抜かず、タンパク質やビタミン・ミネラルを意識した食事を心がけましょう。
  • 軽い運動の習慣化:ウォーキングやストレッチなど、軽い有酸素運動は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌を促し、ストレスを軽減します。1日15分からでも効果があります。
  • リラックスできる時間を持つ:好きな音楽を聴く、アロマを焚く、ゆっくりお風呂に浸かるなど、意識的に「何もしない」時間を作り、交感神経の興奮を鎮めましょう。

3. 職場環境を調整する「合理的配慮」を求める

「障害者差別解消法」により、事業主は障がいのある従業員から申し出があった場合、過度な負担にならない範囲で「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。

診断を受けている場合、勇気を出して上司や人事部に相談してみましょう。その際は、「病名」だけを伝えるのではなく、「どのような特性があり、そのためにどんな困難があり、どういう配慮があれば業務を円滑に進められるか」を具体的に伝えることが重要です。

合理的配慮の具体例

【ASDのAさんの場合】
悩み:オフィスの電話の音や雑談が気になり、集中できずミスが増える。急な指示は混乱する。
求めた配慮:

  • ノイズキャンセリングイヤホンの使用許可
  • パーテーションで区切られた、比較的静かな座席への移動
  • 口頭だけでなく、チャットやメールでも指示をもらう

結果:感覚的な負担が減り、仕事の精度が向上。安心して業務に取り組めるようになった。

【ADHDのBさんの場合】
悩み:複数のタスクが重なるとパニックになり、何から手をつけていいか分からなくなる。
求めた配慮:

  • 1日の最初に、上司とタスクの優先順位を確認する短いミーティング(5分程度)を設定
  • 大きなプロジェクトは、中間目標を細かく設定してもらう

結果:見通しが立つことで漠然とした不安が減り、計画的に仕事を進められるようになった。

診断がない場合でも、「音に敏感で集中しにくいので、静かな場所で作業させていただけませんか?」など、自身の特性として伝えることで、配慮を得られる可能性があります。

第3章:発作が起きた時の「緊急対応マニュアル」

どれだけ予防していても、発作が起きてしまうことはあります。そんな時のために、「こうすれば大丈夫」という具体的な手順を知っておくことが、何よりの安心材料になります。

ステップ1:安全な場所へ移動する

「発作が来そうだ」と感じたら、まずその場を離れ、一人になれる安全な場所に移動しましょう。人の目を気にせず、落ち着いて対処することに集中するためです。

  • おすすめの場所:トイレの個室、空いている会議室、休憩室、会社の外のベンチなど。
  • その場を離れる時の言葉:「少し体調が悪いので、席を外します」「少し気分が優れないので、休憩してきます」など、簡単な理由で十分です。詳細を説明する必要はありません。

ステップ2:五感を使って「今、ここ」に意識を戻す(グラウンディング)

パニック発作中は、意識が「未来への恐怖」や「身体の異常」に向いています。その意識を、安全な「今、ここ」の現実世界に引き戻すのが「グラウンディング」です。

  • 5-4-3-2-1法:
    • 見る(5つ):目に見えるものを5つ、心の中で数える。「青いファイル」「PCのモニター」「窓の外の雲」など。
    • 触る(4つ):触れるものを4つ、その感触を確かめる。「冷たい机」「ザラザラした壁」「柔らかい服の生地」など。
    • 聞く(3つ):聞こえる音を3つ、耳を澄ませて聞く。「空調の音」「遠くの車の音」「自分の呼吸の音」など。
    • 嗅ぐ(2つ):嗅げる匂いを2つ、探してみる。「コーヒーの香り」「石鹸の匂い」など。
    • 味わう(1つ):口の中にある味を1つ、感じてみる。なければ、水を一口飲む、ミントタブレットを口に含むなどでもOK。
  • 呼吸法(ボックス・ブリージング):
    1. 4秒かけて鼻から息を吸う
    2. 4秒間息を止める
    3. 4秒かけて口からゆっくり息を吐き出す
    4. 4秒間息を止める

    これを数回繰り返します。ゆっくりとした呼吸は、興奮した自律神経を落ち着かせる効果があります。

ステップ3:自分自身に優しく語りかける

発作の最中は、「またやってしまった」と自分を責めがちです。しかし、それは逆効果。自分を励まし、安心させる言葉をかけましょう。

  • 「これはパニック発作だ。怖いけど、危険じゃない。」
  • 「この感覚は必ず過ぎ去る。今までもそうだった。」
  • 「よく対処している。大丈夫。」

これは、認知行動療法の考え方に基づいたセルフヘルプです。恐怖に満ちた思考を、客観的で安心できる思考に置き換える練習です。

第4章:発作後のケアと次への備え

発作が収まった後も、心身は疲弊しています。無理をせず、適切なケアを行うことが、次の発作を防ぎ、安心して働き続けるために不可欠です。

発作直後のセルフケア

発作が落ち着いても、すぐに仕事に戻ろうと焦らないでください。

  • 数分間の休息:可能であれば、5〜10分ほど、そのまま静かな場所で休みましょう。
  • 水分補給:常温の水や白湯をゆっくり飲み、身体を落ち着かせます。
  • 自分を褒める:「大変だったけど、乗り越えられた」と、パニックに対処できた自分自身を認め、ねぎらってあげましょう。

周囲への伝え方(もし伝える場合)

パニック発作について、必ずしも職場の人に詳しく話す必要はありません。もし心配された場合は、以下のように伝えると良いでしょう。

  • 「少しめまいがしましたが、もう大丈夫です。」
  • 「急に血の気が引くような感じがしましたが、休んだら落ち着きました。」

もし、信頼できる上司や同僚がいる場合は、「時々、強い不安感に襲われることがあるのですが、その時は少しの間、静かな場所で休ませてもらえると助かります」と、事前に伝えておくのも一つの手です。理解者が一人いるだけで、心の負担は大きく軽減されます。

まとめ:自分を理解し、工夫することで道は開ける

職場でパニック発作を経験することは、非常につらく、孤独を感じるものです。しかし、あなたは一人ではありません。ADHDやASD、うつなどの特性を抱えながら、社会で奮闘している人はたくさんいます。

大切なのは、「自分の特性を理解し、自分に合った予防策と対処法を知り、必要なサポートを求める勇気を持つこと」です。 この記事で紹介した方法は、あなたが自分自身を守り、無理なく、そして長く働き続けるための具体的な武器となります。

今日から、まずは一つでも実践できそうなことから始めてみてください。ストレス日記をつける、寝る前に5分だけ呼吸法を試す、信頼できそうな人に相談してみる。その小さな一歩が、あなたの明日を少しずつ、でも確実に楽にしてくれるはずです。 もし、一人で抱えきれないと感じたら、専門家(医師、カウンセラー、就労移行支援事業所のスタッフなど)に相談することも、非常に有効な選択肢です。あなたのペースで、あなたらしい働き方を見つけていくことを、心から応援しています。

まずは無料相談から
始めませんか?

あなたの状況やご希望をお聞かせください。
最適なサポートプランをご提案いたします。
ご希望の方は施設見学や体験利用も可能です。

イラスト