コラム 2025年11月13日

うつ病再発防止|働きながらできる7つの予防策と長く働くためのヒント

うつ病やADHD、ASDなどの特性が原因で、仕事でのミスや叱責が重なり、社会に馴染めずに早期退職を経験された方へ。 「次こそは、無理なく、長く働きたい」という切実な思いを抱えているのではないでしょうか。特にうつ病を経験された方にとって、復職後の「再発」は大きな不安要素です。しかし、適切な知識と対策を身につけることで、再発のリスクを大幅に下げ、働き続けることは十分に可能です。この記事では、うつ病がなぜ再発しやすいのかというメカニズムから、働きながら実践できる具体的な7つの予防策、そして次の就職で失敗しないための心構えまで、深く掘り下げて解説します。

なぜうつ病は再発しやすいのか?そのメカニズムを理解する

具体的な対策を講じる前に、まずは「なぜうつ病は再発しやすいのか」を理解することが重要です。これは決して本人の意思の弱さや甘えが原因ではありません。科学的に説明できる3つの主要な要因があります。

1. 思考パターンの脆弱性(認知の歪み)

うつ病を一度経験すると、脳に特定の「思考の癖」が残りやすくなります。これは「認知の歪み」とも呼ばれ、物事を悲観的に捉えたり、自分を過度に責めたりする傾向を指します。例えば、職場で少し注意されただけで「自分はもうダメだ」「誰からも必要とされていない」と極端に落ち込んでしまうのは、この思考パターンが影響している可能性があります。症状が改善した後も、この「癖」は残りやすく、仕事のストレスが引き金となって、再びネガティブな思考の連鎖に陥りやすいのです。

2. 脳の生物学的な変化

うつ病は、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスの乱れが関与しているとされています。治療によってこれらのバランスは改善しますが、ストレスに対する脳の感受性が高まった状態が続くことがあります。特に、ストレス反応を司るHPA系(視床下部-下垂体-副腎系)が過敏になり、些細なストレスでも過剰に反応してしまうため、心身のエネルギーが消耗しやすくなり、再発の引き金となることがあります。

3. 環境的なストレス要因

多くの場合、うつ病の発症には職場環境が大きく関わっています。長時間労働、過度なプレッシャー、人間関係の対立などが主な原因です。もし、休職前と同じようなストレスフルな環境に何の対策もせずに戻れば、再発のリスクは非常に高くなります。環境が変わらない限り、同じ刺激を受け続け、心身が再び疲弊してしまうのは当然のことと言えるでしょう。

ポイント:うつ病の再発は、「思考の癖」「脳の感受性」「職場環境」という複合的な要因によって引き起こされます。このメカニズムを理解することで、自分を責めることなく、客観的で効果的な対策を立てることができます。

働きながら実践できる!うつ病再発防止策7選

再発のメカニズムを理解した上で、ここからは働きながら実践できる具体的な予防策を7つご紹介します。すべてを一度にやろうとせず、自分にできそうなものから一つずつ試してみてください。

  1. ① 「自己理解」を深め、自分の「トリセツ」を作る

    最も重要なのは、自分自身を深く理解することです。「自分の取扱説明書(トリセツ)」を作成するイメージで、以下の点を客観的に把握しましょう。

    • ストレスの源泉:どのような状況(例:急な仕事の依頼、マルチタスク、人前での発表)でストレスを感じやすいか?
    • 再発の初期サイン:不調の波が来るときの最初の兆候は何か?(例:寝つきが悪い、食欲がなくなる、好きなことに興味が持てない、イライラしやすくなる)
    • 有効な対処法:ストレスを感じた時や不調のサインが出た時に、自分を落ち着かせる方法は何か?(例:5分間だけ散歩する、好きな音楽を聴く、信頼できる人に話す)

    特にADHDやASDの特性を併せ持つ方は、感覚過敏(音、光)やタスク管理の困難さなどがストレスに直結しやすいため、どのような配慮があれば楽になるかを具体的に言語化しておくことが極めて重要です。

  2. ② 労働環境を主体的に調整する

    ストレスの多い環境に身を置き続けるのは、再発のリスクを高めるだけです。受け身ではなく、主体的に環境を調整する意識を持ちましょう。

    • 業務量のコントロール:自分のキャパシティを上司や同僚に(可能な範囲で)伝え、無理のない業務量を維持する。残業が常態化している場合は、業務の優先順位付けや効率化を相談する。
    • 物理的環境の調整:ASDの感覚過敏があるならノイズキャンセリングイヤホンの使用許可を求める、ADHDで集中が難しいならパーテーションのある席を希望するなど、具体的な「合理的配慮」を求めることも選択肢です。
    • コミュニケーションの工夫:指示は口頭だけでなく、テキストでももらうように依頼するなど、自分の特性に合わせたコミュニケーション方法を提案してみましょう。
  3. ③ 完璧主義を手放し、「60点主義」を目指す

    うつ病になりやすい方の特徴として、「完璧主義」や「べき思考」が挙げられます。「100点でなければ意味がない」という考えは、自分自身を追い詰め、心身を消耗させます。仕事においては「常に60〜70点の成果を安定して出し続ける」ことを目指しましょう。

    100点を目指して燃え尽きるよりも、余力を残して仕事を終える方が、長期的に見れば会社への貢献度も高くなります。上司や顧客が求める最低限のラインをクリアしていれば、それで十分だと考え方を変える練習をしましょう。

  4. ④ 専門家との連携を継続する

    「症状が良くなったから」と自己判断で通院や服薬を中断するのは、再発の最も大きなリスクの一つです。医師やカウンセラーは、あなたの状態を客観的に評価し、再発の微細なサインを捉えるプロフェッショナルです。

    • 主治医:薬の調整だけでなく、客観的な医学的視点から仕事に関するアドバイス(例:就業制限の意見書作成)をもらえます。
    • カウンセラー:職場のストレスや人間関係の悩みを吐き出し、思考の癖を修正する「認知行動療法」などを受けることで、ストレス対処能力を高められます。
    • 産業医・保健師:会社に在籍している専門家です。会社の内部事情を理解した上で、職場環境の調整について会社側に働きかけてくれる可能性があります。
  5. ⑤ 頼れる「サードプレイス」を持つ

    「家(第一の場所)」と「職場(第二の場所)」以外に、心から安心できる「第三の場所(サードプレイス)」を持つことは、精神的な安定に非常に有効です。職場での評価や役割から解放され、ありのままの自分でいられる場所は、心の安全基地となります。

    趣味のサークル、ボランティア活動、行きつけのカフェ、オンラインコミュニティ、スポーツジムなど、何でも構いません。仕事以外の世界に自分の居場所を作ることで、仕事でのストレスを相対化し、自己肯定感を多角的に支えることができます。

  6. ⑥ 生活リズムを「死守」する

    心の健康は、体の健康と密接に繋がっています。特に「睡眠・食事・運動」の基本的な生活リズムは、何よりも優先して守るべき生命線です。

    • 睡眠:平日・休日を問わず、就寝・起床時間を一定に保つ。睡眠不足は、感情のコントロールを困難にし、ネガティブな思考を増幅させます。
    • 食事:セロトニンの材料となるトリプトファン(肉、魚、大豆製品など)を意識的に摂るなど、バランスの取れた食事を心がける。欠食や暴飲暴食は避ける。
    • 運動:激しい運動は不要です。1日15〜30分程度のウォーキングでも、ストレスホルモンを減少させ、気分を安定させる効果が科学的に証明されています。
  7. ⑦ 会社の制度や公的支援を積極的に活用する

    一人で抱え込む必要はありません。利用できる制度や支援は積極的に活用しましょう。これらはあなたの権利です。

    • 会社の制度:時短勤務、フレックスタイム、在宅勤務(テレワーク)など、柔軟な働き方を可能にする制度がないか確認しましょう。
    • 公的支援(就労移行支援):障害者総合支援法に基づく福祉サービスです。精神障害や発達障害のある方が、就職に必要なスキルを学び、職場探しから定着まで一貫したサポートを受けられます。
    • 障害者雇用:自身の障害や病気を会社に開示した上で就職する働き方です。法的な「合理的配慮」を受けやすく、体調を管理しながら働きやすい環境を得られる可能性が高まります。

次の就職で失敗しないために|長く働くための心構え

再発予防策と並行して、次のキャリアを考える上での心構えも重要です。特に「働き方の選択」と「会社選びの視点」は、長期的な安定就労の鍵を握ります。

オープン就労か、クローズ就労か

これは、自身の病気や障害を会社に開示して働くか(オープン)、開示せずに働くか(クローズ)という選択です。それぞれにメリット・デメリットがあります。

オープン就労のメリット・デメリット

  • メリット:
    • 業務内容や量の配慮を得やすい
    • 通院や体調不良に理解を得やすい
    • 自分を偽るストレスがない
  • デメリット:
    • 求人の選択肢が狭まる場合がある
    • 偏見を持たれる可能性がゼロではない

クローズ就労のメリット・デメリット

  • メリット:
    • 求人の選択肢が広い
    • 病気による先入観を持たれない
  • デメリット:
    • 配慮を求めにくく、無理をしがち
    • 体調を隠すことにストレスを感じる
    • 再発のリスクが高まる可能性がある

過去に体調が原因で早期退職を経験した方は、オープン就労(特に障害者雇用枠)を真剣に検討する価値があります。必要な配慮を受けながら働くことは、自分を守り、結果的に長く安定して会社に貢献することに繋がります。

「自分に合う会社」を見極める視点

求人票の条件だけでなく、企業の「文化」や「環境」が自分に合うかを見極めることが、これまで以上に重要になります。

  • 心理的安全性:社員が安心して意見を言えたり、失敗を過度に恐れずに挑戦できたりする文化があるか。口コミサイト(OpenWorkなど)や面接での質問を通じて探りましょう。
  • 働き方の柔軟性:残業時間の実態、有給休暇の取得率、フレックスや在宅勤務の導入実績などを確認します。
  • 障害への理解:(オープン就労の場合)障害者雇用の実績が豊富か、面接官がこちらの状況を真摯に聞いてくれるか、入社後のサポート体制は整っているかなどを確認しましょう。

まとめ:自分をケアすることが、一番大切な仕事

うつ病の再発を防ぎながら働くことは、決して楽な道ではありません。しかし、それは「自分を大切にする技術」を学び、実践していくプロセスでもあります。

今回ご紹介した7つの予防策は、いわば長期的なキャリアを築くための土台です。完璧を目指さず、自分を理解し、周囲の助けを借りながら、一歩ずつ持続可能な働き方を構築していきましょう。

何よりもまず、あなた自身の心と体の健康が最優先です。自分をケアすることを、最も重要な「仕事」と捉え、焦らずにご自身のペースで進んでいってください。

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