コラム 2025年11月13日

職場での感覚過敏対策|無理なく働くための環境調整ガイド

「オフィスの蛍光灯が眩しくて頭が痛くなる」「周りの人の話し声やキーボードの音で仕事に集中できない」「特定の匂いが気になって気分が悪くなる」…。
このような悩みが原因で、仕事で実力を発揮しきれなかったり、心身ともに疲弊してしまったりしていませんか?
これらは「感覚過敏」と呼ばれる特性が原因かもしれません。特に、うつやADHD、ASDなどの特性を持つ方の中には、感覚が非常に繊細な方が多くいらっしゃいます。
この記事では、職場で感覚過敏に悩む方が、少しでも快適に、そして長く働き続けるための「環境調整」の具体的な方法を、徹底的に解説します。

はじめに:自分の「感覚の特性」を理解する

対策を考える前に、最も重要なのは「自分自身の感覚の特性を正しく理解すること」です。感覚過敏と一言で言っても、何に対して、どの程度敏感なのかは人それぞれです。まずは、ご自身のトリガー(刺激となる要因)を客観的に把握してみましょう。

セルフチェックリスト:どんな刺激が苦手ですか?

  • 視覚:蛍光灯のちらつき、強い日差し、PC画面の明るさ、人の動き、ごちゃごちゃしたデスク周りなど
  • 聴覚:人の話し声、電話の着信音、キーボードの打鍵音、空調の音、サイレンの音など
  • 嗅覚:同僚の香水や柔軟剤、食べ物の匂い、芳香剤、タバコの匂いなど
  • 触覚:服のタグや素材、椅子の座り心地、特定の文房具の感触、室温(暑さ・寒さ)など
  • その他:じっとしていることの苦痛(体を動かしたい)、乗り物酔いしやすいなど

これらのうち、特にどれが仕事のパフォーマンスに影響を与えているかを具体的に書き出してみることをお勧めします。「いつ、どこで、何によって、どう感じるか」を記録することで、必要な対策が明確になります。

感覚別の具体的な対策|すぐに試せる環境調整のアイデア

自分の特性が把握できたら、次は具体的な対策です。ここでは感覚別に、自分でできる工夫から会社に相談する可能性のあるものまで、幅広くご紹介します。

1. 視覚過敏への対策

視覚からの情報量をコントロールすることが鍵となります。

  • 光の調整:
    • ブルーライトカット機能のあるメガネやPC画面用フィルムを使用する。
    • PCやスマートフォンの画面の輝度を下げ、ダークモードを活用する。
    • 可能であれば、窓際の席を避ける、またはブラインドの調整を依頼する。
    • デスクライトを使用し、頭上の蛍光灯を消す許可を得る(部分的な消灯)。
  • 情報量の削減:
    • デスク周りを整理整頓し、視界に入る物を減らす。
    • パーテーション(仕切り)を設置してもらい、物理的に視野を狭める。
    • 書類はクリアファイルやボックスにまとめ、視覚的なノイズを減らす。

2. 聴覚過敏への対策

不要な音を遮断し、集中できる音環境を作ることが目標です。

  • 音の遮断:
    • ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンやイヤホン、デジタル耳栓を活用する。業務上、話しかけられる必要がある場合は、外音取り込みモードがあるものが便利です。
    • ヘッドホンが許可されない場合は、目立たないシリコン製の耳栓も有効です。
  • 快適な音の活用:
    • 許可が得られれば、雨音や川のせせらぎなどの環境音(ホワイトノイズ)を小さな音で流し、周囲の雑音をマスキングする。
    • 歌詞のない、落ち着いたインストゥルメンタルの音楽を聴く。
  • 物理的な場所の工夫:
    • 電話やコピー機、人の往来が激しい通路から離れた席への移動を相談する。
    • 会議室や空きスペースを、一時的な集中作業場所として利用できないか確認する。

3. 嗅覚過敏への対策

不快な匂いを避け、自分にとって快適な香りの空間を作ることが有効です。

  • 匂いを避ける工夫:
    • マスクを着用する(特に匂いが強いと感じる時間帯や場所で)。マスクの内側に、好きな香りをつけたコットンを忍ばせるのも一つの手です。
    • 卓上サイズの小型扇風機を使い、自分に向かってくる匂いの流れを変える。
    • 無香料の消臭スプレーやウェットティッシュを常備しておく。
  • 相談と配慮の依頼:
    • 香水や柔軟剤が原因の場合、直接本人に伝えるのは難易度が高いため、上司や人事部に「体質的に特定の強い香りが苦手で、業務に支障が出ている」と相談し、部署全体へのアナウンスを依頼する。
    • 職場の芳香剤が強い場合は、より香りの少ないものへの変更や撤去を検討してもらう。

4. 触覚過敏への対策

身につけるものや、体に触れるものの不快感を減らすことが重要です。

  • 衣類の工夫:
    • 肌触りの良い天然素材(綿、シルクなど)の服を選ぶ。
    • 服のタグは購入後すぐに切り取る。縫い目が肌に当たらないシームレスタイプの下着もおすすめです。
    • 締め付けの少ない、ゆったりとしたデザインの服を選ぶ。
  • デスク環境の改善:
    • 椅子の座り心地が悪い場合、クッションや背もたれサポートを使用する。
    • 室温の変動に対応できるよう、カーディガンやひざ掛け、小型のサーキュレーターなどを常備する。
    • 手に馴染む、書き心地の良い文房具を選ぶだけでも、小さなストレスが軽減されます。

会社への伝え方と相談のポイント|「合理的配慮」を求める

セルフケアだけでは限界がある場合、会社に相談し、環境調整の協力を得る必要があります。これは「わがまま」ではなく、障害者雇用促進法で定められた「合理的配慮」を求める正当な権利です。上手に伝えるためのポイントを押さえましょう。

ステップ1:準備

相談に行く前に、以下の点を整理しておきましょう。

  • 現状の課題:何が原因で、仕事にどのような支障(集中力低下、ミス増加、体調不良など)が出ているか。
  • 具体的な要望:「〇〇してほしい」という具体的な解決策を複数用意する。(例:「席を移動したい」「ヘッドホンの使用を許可してほしい」)
  • 配慮によるメリット:その配慮によって、自身の生産性がどう向上するかを伝える。(例:「静かな環境なら、資料作成の効率が上がります」)

ステップ2:相談

まずは直属の上司に相談するのが一般的です。もし話しにくい場合は、人事部や労務部、産業医などに相談窓口がないか確認しましょう。

相談時の伝え方(例)

「お忙しいところ恐れ入ります。少しご相談したいことがあるのですが、お時間をいただけますでしょうか。

実は、感覚が少し繊細な特性がありまして、現在の席ですと、周囲の話し声や電話の音で、どうしても作業への集中が途切れてしまうことがあります。その結果、報告書の作成に通常より時間がかかったり、確認ミスが出たりすることがあり、改善したいと考えております。

もし可能でしたら、業務に支障のない範囲でノイズキャンセリングヘッドホンの使用を許可いただくか、あるいは、より静かな壁際の席へ移動させていただくことは可能でしょうか。静かな環境が確保できれば、より集中して業務に取り組め、生産性も向上できると考えております。」

ポイント:感情的にならず、「困りごと」と「業務への影響」、そして「具体的な解決策」をセットで、冷静に伝えることが重要です。自分の特性を「弱み」ではなく、「配慮があればパフォーマンスを発揮できる個性」として説明しましょう。

一人で抱え込まないために|活用できる支援制度・サービス

社内での調整が難しい場合や、就職・転職活動で悩んでいる場合は、外部の専門機関を頼ることも非常に有効です。

  • 就労移行支援事業所:障害のある方の就職をサポートする施設です。ビジネスマナーやPCスキルだけでなく、自己理解を深めるプログラムや、ストレスコントロール、職場でのコミュニケーション方法など、長く働くためのスキルを総合的に学ぶことができます。
  • 地域障害者職業センター:障害のある方一人ひとりに対して、専門のカウンセラーが職業評価や相談、職場適応援助(ジョブコーチ)などの支援を提供してくれます。
  • ハローワークの専門援助部門:障害や病気を抱える方のための専門窓口があり、求人紹介だけでなく、就職に関する様々な相談に乗ってくれます。

これらの機関は、あなたの特性を理解した上で、企業との間に立って調整を行ってくれる場合もあります。一人で悩まず、ぜひ専門家の力を借りてください。

まとめ:自分に合った環境で、無理なく長く働くために

感覚過敏は、あなたの能力が低いからではなく、環境とのミスマッチが原因で起こる困難です。裏を返せば、環境を自分に合うように調整することで、あなたの本来持つ力は十分に発揮されます。

  1. 自己理解:まずは自分の感覚特性を正確に知る。
  2. セルフケア:自分でできる小さな工夫から試してみる。
  3. 相談と交渉:必要な配慮は、勇気を出して会社に伝えてみる。
  4. 外部支援の活用:一人で抱え込まず、専門家や支援機関を頼る。

自分に合った環境を見つけ、調整していくことは、決して逃げではありません。あなたが心身ともに健康で、無理なく、そして長く働き続けるために必要な、戦略的な一歩です。この記事が、そのためのヒントになれば幸いです。

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