「就職活動で、企業は協調性を重視すると聞くけれど、具体的にどういうことだろう?」「自分は協調性があるか不安…」。就労移行支援事業所には、このような悩みを抱えた多くの方が相談に来られます。
近年、障がい者雇用において、単に「働ける」こと以上に「共に働き続けられる」ことが重視されるようになりました。その鍵を握るのが、今回テーマとする「協調性」です。この記事では、就労移行支援事業所の視点から、なぜ協調性が重要なのか、そしてそれをどのように育んでいけるのかを、具体的なデータや訓練内容を交えて解説します。
かつて障がい者雇用は「採用されること」が大きなゴールでした。しかし現在、多くの企業や支援機関は、その先の「職場定着」、つまり長く安定して働き続けることに焦点を移しています。その背景には、無視できない厳しい現実があります。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査によると、障がいのある方が就職してから1年後の職場定着率は、障がい種別によって大きな差があります。特に精神障がいのある方の定着率は49.3%と、半数以上が1年以内に離職しているという厳しいデータが示されています。
離職の主な理由として挙げられるのが「職場の人間関係・雰囲気」です。これは、身体障がい者では2位、精神障がい者では1位となっており、職場でのコミュニケーションや人間関係が、安定した就労を続ける上でいかに重要であるかを示しています。この「人間関係」を円滑にする土台こそが「協調性」なのです。
企業が求める「協調性」とは、単に「仲良くすること」や「イエスマンであること」ではありません。企業は、チームの一員として、以下のような貢献を期待しています。
つまり、主体性を持ちつつも、周りと調和し、チーム全体の目標達成に貢献する力が、現代の職場で求められる「協調性」なのです。
「協調性」という言葉は抽象的に聞こえるかもしれません。しかし、職場での協調性は、より具体的な要素に分解できます。それは、チームとして成果を出すための「共同作業の作法」とも言えるでしょう。
職場における「協調性」とは、自分の意見を適切に伝え、相手の意見を尊重し、与えられた役割を理解してチーム全体の目標達成に貢献する能力を指します。主体性を持って行動しつつも、周りとの調和を大切にする姿勢が求められます。
効果的な協調・協働作業には、以下の7つの要素が関わっていると言われています。
これらの要素は、チームワークを円滑にし、生産性を高めるために不可欠です。就労移行支援では、これらの要素を意識したトレーニングを通じて、実践的な協調性を養っていきます。
特に精神・発達障がいのある方の中には、その特性から「協調性がない」「空気が読めない」と誤解されてしまうことがあります。しかし、それは「協力したくない」のではなく、「協力の仕方や表現方法が周囲と違う」場合がほとんどです。
例えば、自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方は、以下のようなコミュニケーションのすれ違いを経験することがあります。
これらの特性は、本人が真面目に仕事に取り組もうとしているにも関わらず、周囲からは「指示を聞かない」「自分勝手だ」と見なされ、人間関係のトラブルに発展してしまうことがあります。
こうしたミスマッチを防ぐ鍵は「自己理解」です。就労移行支援の大きな価値の一つは、専門の支援員との面談やプログラムを通じて、自分自身を客観的に知る機会を得られることです。
「自分の得意なこと、苦手なことは何か?」「どんな時にストレスを感じ、どうすれば回復できるのか?」「働く上で、どんな配慮があればパフォーマンスを発揮できるのか?」
これらの問いに対する答えをまとめた「自分だけの取扱説明書(トリセツ)」を作成することで、自分の特性を他者に分かりやすく伝えられるようになります。これは、面接で自己PRをする際の武器になるだけでなく、就職後に上司や同僚に配慮を依頼する際の具体的な根拠となります。
就労移行支援事業所は、スキルを学ぶだけの場所ではありません。職場で不可欠な「協調性」を、安心して練習し、成長するためのトレーニングの場でもあります。ここでは、その代表的なプログラムを紹介します。
グループワークは、協調性を育むための中心的な活動です。評価される場ではなく、失敗を恐れずに試行錯誤できる安全な環境で、実践的なチームワークを学びます。
これらの活動を通じて、共通の目標に向かって協力する過程で自然と協調性が育まれ、「自分もチームの役に立てる」という自己肯定感が高まります。
SST(Social Skills Training)は、職場での具体的な場面を想定し、ロールプレイング形式で適切な対応を練習するトレーニングです。ソーシャルスキルは生まれつきのものではなく、周囲との関わりの中で後天的に身につけていく技能です。
例えば、以下のような場面を練習します。
SSTを繰り返すことで、様々な状況でどのように振る舞えば円滑なコミュニケーションが図れるかを体得し、実際の職場で直面した際に落ち着いて対応できるようになります。
就労移行支援でスキルを身につけ、いざ就職。しかし、本当のスタートはここからです。職場で協調性を発揮し、安定して働き続けるためには、受け身ではなく主体的なアクションが重要になります。
自分の能力を最大限に発揮するために必要な「合理的配慮」を求めることは、決してわがままではありません。しかし、その伝え方にはコツがあります。ポイントは、「できないこと(苦手なこと)」だけでなく、「どうすればできるか(代替案)」をセットで具体的に伝えることです。
悪い例:「電話対応が苦手なのでできません。」
これでは、単に業務を拒否している印象を与えかねません。
良い例:「急な電話対応は、相手の話を聞き取りながらメモを取るのが難しく、パニックになってしまうことがあります。もし可能であれば、電話の一次受けは他の方にお願いし、用件をメモでいただいてから、こちらから折り返す形にさせていただけないでしょうか。その形であれば、落ち着いて正確に対応できます。」
このように代替案を提示することで、相手は具体的なアクションを取りやすくなり、あなたをサポートしやすくなります。また、「働く意欲があり、課題解決のために主体的に考えている」というポジティブな印象にも繋がります。
職場の人間関係は、定着を左右する最も大きな要因の一つです。孤立を防ぎ、良好な関係を築くためには、日々の小さなコミュニケーションの積み重ねが重要です。
障がい特性上、雑談が苦手な方もいるかもしれませんが、まずは仕事に関する基本的なやり取りを丁寧に行うことから始めましょう。それが信頼関係の第一歩となります。
職場の問題は、社内の人間関係が絡むため、上司や同僚には相談しにくいこともあります。そんな時、あなたの味方になってくれるのが外部の支援機関です。
社内だけで解決しようとせず、客観的な視点を持つ専門家を頼ることは、非常に賢明な戦略です。
この記事では、障がい者雇用における「協調性」の重要性、その本当の意味、そして就労移行支援を通じてそれを育む具体的な方法について解説してきました。
協調性は、生まれ持った性格だけで決まるものではありません。それは、正しい知識とトレーニングによって後から身につけることができる「スキル」です。
就労移行支援事業所は、あなたがそのスキルを習得し、自信を持って社会で活躍するための「練習の場」です。グループワークやSSTといったプログラムを通じて、コミュニケーションの取り方やチームでの役割の果たし方を学び、自分自身の特性を理解し、それを強みに変える方法を見つけることができます。
もしあなたが「協調性」に不安を感じているなら、一人で悩まず、ぜひ一度、お近くの就労移行支援事業所に相談してみてください。専門の支援員が、あなたの状況に合わせたサポートを提供し、共に働き続ける未来への道を一緒に切り拓いていきます。