コラム 2025年12月10日

精神・発達障害で休職中の方へ。就労移行支援を活用した「復職(リワーク)」完全ガイド

先の見えない休職…復職への不安を抱えていませんか?

うつ病、適応障害などの精神疾患、あるいは発達障害の特性が背景となり、現在、お仕事から離れて療養されている方々へ。先の見えない休職期間は、心身の回復に専念すべき大切な時間であると同時に、将来への漠然とした不安が絶えず心をよぎる時期でもあります。

「元の部署で、以前と同じように働けるだろうか」
「また体調を崩して、周りに迷惑をかけてしまうのではないか」
「職場での人間関係に、うまく適応できる自信がない」
「休んでいた期間のブランクを、どうやって埋めればいいのだろう」

このような不安は、復職を目指す多くの方が共通して抱えるものです。そして、その不安の根底には、「復職=ゴール」というプレッシャーがあるのかもしれません。しかし、本当に大切なのは、復職そのものではなく、復職後に心身の健康を維持しながら、安定して働き続けることです。その意味で、復職はゴールではなく、持続可能な働き方を実現するための「新たなスタート」と捉えることが重要です。厚生労働省の調査によれば、うつ病の再発率は60%にも上るといわれ、復職後の1年間が特に重要であるとされています。この事実は、焦って復職するのではなく、適切な準備と支援がいかに重要であるかを示唆しています。

この記事は、まさにそのような不安を抱え、次の一歩を模索しているあなたのためにあります。本稿では、休職からの社会復帰を目指す上で、非常に強力な選択肢となる公的福祉サービス「就労移行支援」を活用した復職支援(一般に「リワーク」と呼ばれます)について、その全体像から具体的なステップ、費用や利用条件に至るまで、網羅的かつ体系的に解説します。

私たちの目的は、あなたが抱える漠然とした不安を、具体的な知識と計画に変え、ご自身の特性やペースに合った「最適な復職への道筋」を見つけるお手伝いをすることです。この記事を読み終える頃には、一人で抱え込んでいた悩みが整理され、専門家の支援を得ながら着実に前に進むための、確かな一歩を踏み出す勇気が湧いてくることをお約束します。

復職への架け橋「リワーク」とは?3つの選択肢を解説

リワーク(復職支援)の基本的な概念

「リワーク(Rework)」とは、”return to work”からの造語で、うつ病などの精神的な不調により休職している方が、円滑に職場復帰を果たすために行われるリハビリテーションプログラムの総称です。単に職場に戻ることだけを目的とするのではなく、再休職を防ぎ、安定して働き続けるための土台を築くことを重視しています。

リワークプログラムでは、主に以下のような取り組みを通じて、復職への準備を段階的に進めていきます。

  • 生活リズムの再構築:決まった時間に施設へ通うことで、乱れがちな生活リズムを整え、通勤に必要な基礎体力を回復させます。
  • ストレス対処法の習得:認知行動療法やアンガーマネジメントなどの心理教育プログラムを通じて、自身のストレスパターンを理解し、具体的な対処スキルを学びます。
  • コミュニケーションスキルの向上:グループワークや模擬的な職場環境での対人トレーニングを通じて、円滑な人間関係を築くための練習を行います。
  • 業務遂行能力の回復:PC作業や軽作業などを通じて、集中力や持続力、作業精度を段階的に高めていきます。

このリワークの重要性は国も認識しており、厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表し、事業者に対して復職支援プログラムの策定を推奨しています。この手引きの中でも、復職前のウォーミングアップとして「試し出勤制度」などの有用性が示されており、リワークが再休職リスクを低減させるための効果的なアプローチであることが社会的に認知されています。(日本うつ病リワーク協会)

リワークを提供する3つの主な機関

日本国内でリワークプログラムを利用する場合、主に3つの選択肢があります。それぞれに特徴、費用、期間が異なるため、ご自身の状況や目的に合わせて最適な機関を選ぶことが重要です。ここでは、それぞれの機関を比較し、その違いを明確にします。

種類 医療リワーク(医療機関) 職リハリワーク(地域障害者職業センター) 就労移行支援事業所(福祉サービス)
特徴 ・治療の一環として実施
・主治医との連携が密
・認知行動療法など医学的アプローチが中心
・病状の回復度に主眼
・職業リハビリテーションに特化
・本人、企業、主治医の3者連携を調整
・公的な中立機関
・全国各都道府県に設置
・障害福祉サービスの一つ
・個々の障害特性への深い理解
・豊富なプログラム(PC、ビジネスマナー等)
・復職後の「定着支援」まで一貫サポート
対象者 うつ病などで休職中の会社員が主 精神障害等により休職中で、主治医から復職活動の許可が出ている方 精神・発達障害等があり、一般企業への就労・復職を目指す65歳未満の方
費用 ・健康保険適用(3割負担)
・自立支援医療制度の利用で1割負担に軽減可能(月額上限あり)
・例:月約40,000円~
無料 ・前年度の世帯所得に応じて自己負担額が決定
約9割が自己負担0円で利用
・上限額は月0円、9,300円、37,200円のいずれか
期間 おおむね3ヶ月~6ヶ月程度 標準12~16週間 原則最長24ヶ月(多くは1年前後で復職)
復職後、最長3年半の定着支援が可能
メリット ・医学的管理下で安心
・治療と並行して進められる
・無料で利用できる
・企業との調整役を担ってくれる
・障害特性への専門性が高い
・実践的な職業スキルも学べる
・長期的な視点でのサポート体制
デメリット ・費用負担が発生する
・職業スキル訓練は限定的
・施設数が少ない
・プログラムが画一的な場合がある
・利用には市区町村への申請が必要
・事業所による質の差がある

この記事の焦点:なぜ「就労移行支援」が有効なのか

上記の3つの選択肢は、いずれも復職において有効な支援を提供しますが、本稿では特に「就労移行支援事業所」の活用に焦点を当てて解説を進めます。その理由は、精神疾患や発達障害を抱える方々の復職において、就労移行支援が持つ独自の強みが極めて有効だからです。

医療リワークが「病状の回復」に、職リハリワークが「中立的な調整」に主眼を置くのに対し、就労移行支援は「個々の障害特性の理解と、それに基づいた持続可能な働き方の構築」を最大の強みとしています。休職に至った背景には、病状だけでなく、発達障害の特性と職場環境のミスマッチが隠れているケースも少なくありません。就労移行支援では、専門の支援員が一人ひとりの特性を深くアセスメントし、その人に合ったストレス対処法やコミュニケーションの工夫、必要な配慮(合理的配慮)を具体化するプロセスを重視します。

さらに、復職はゴールではなく「新たなスタート」であるという観点から、復職後の「職場定着支援」までが一つのパッケージになっている点も大きな魅力です。復職後に生じる新たな課題に対しても、慣れ親しんだ支援員が継続的にサポートしてくれる安心感は、再休職を防ぐ上で計り知れない価値を持ちます。こうした理由から、特に精神・発達障害の特性を抱えながら復職を目指す方にとって、就労移行支援は最も親和性が高く、効果的な選択肢の一つであると私たちは考えています。次章からは、この就労移行支援を具体的にどう活用していくのか、その全貌を解き明かしていきます。

【本編】休職からの復職を成功させる!就労移行支援活用ガイド

就労移行支援が復職(リワーク)に最適な理由

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく公的な福祉サービスであり、一般企業への就職や復職を目指す障害のある方を対象としています。単なる職業訓練の場ではなく、復職というデリケートなプロセスにおいて、多角的なサポートを提供するプラットフォームとして機能します。その具体的なメリットは以下の5点に集約されます。

1. 客観的な「働ける状態」の証明

復職を判断する際、企業側が最も重視する点の一つが「安定して就労できる状態か」という点です。主治医の診断書はもちろん重要ですが、日常生活での回復状態が、必ずしも職場で求められる業務遂行能力の回復と一致するとは限りません。

就労移行支援事業所に、例えば「週5日、朝9時から夕方まで」といった形で安定して通所できること自体が、通勤可能な体力と、一定時間活動できる集中力・持続力があることの客観的な証明となります。これは、復職面談の際に「私はこれだけの期間、安定して活動できました」と自信を持って伝えられる強力な根拠となり、企業側の不安を払拭する大きな安心材料になります。

2. 再発防止策の具体化

再休職を防ぐためには、休職に至った原因を深く理解し、具体的な対策を立てることが不可欠です。しかし、これを一人で行うのは非常に困難です。就労移行支援では、臨床心理士や精神保健福祉士などの専門資格を持つ支援員との定期的な個別面談を通じて、このプロセスを徹底的にサポートします。

  • 自己分析の深化:支援員との対話を通じて、自身の障害特性(例:発達障害の感覚過敏やこだわりの強さ)、ストレスを感じやすい状況、思考の癖(例:完璧主義、白黒思考)などを客観的に振り返り、言語化します。
  • 対処スキルの習得:認知行動療法(CBT)やアンガーマネジメント、アサーショントレーニングといったプログラムを通じて、ストレスや感情をコントロールするための具体的なスキルを学び、実践練習を重ねます。
  • セルフケアの確立:自分に合ったリラックス方法を見つけたり、休日の過ごし方を見直したりすることで、心身のエネルギーを効果的に回復させる方法を身につけます。

これらの取り組みを通じて、「何が自分の負担になるのか」「その時どう対処すればよいのか」という具体的な再発防止策を、自分自身の「取扱説明書」としてまとめることができるのです。

3. 企業との「潤滑油」としての役割

復職プロセスにおいて、本人と企業(人事、産業医、直属の上司)との間の調整は、非常に重要かつ精神的な負担が大きい部分です。特に、自身の状態や必要な配慮について、的確に、かつ角を立てずに伝えるのは簡単なことではありません。

就労移行支援事業所の支援員は、このコミュニケーションの「潤滑油」として大きな役割を果たします。支援員は、復職プランを策定するための三者面談(本人・企業・支援員)に同席し、専門的な第三者の視点から以下のようなサポートを提供します。

  • 本人の状態の代弁:本人が伝えにくい心身の状態や、プログラムでの取り組み状況を客観的に説明します。
  • 合理的配慮の提案・交渉:「短時間勤務からの開始」「業務量の調整」「指示系統の明確化」「パーテーションの設置」など、本人の特性に基づいた具体的な配慮事項を、企業の状況も踏まえながら提案・交渉します。
  • 共通理解の形成:専門用語を避け、企業側が理解しやすい言葉で本人の特性や必要な支援を説明し、双方の誤解や認識のズレを防ぎます。

この専門家による介在が、本人と企業の双方にとって安心感のある合意形成を促し、スムーズな復職と、その後の安定した就労環境の構築につながります。

4. 安心できる「失敗」と「試行錯誤」の場

休職期間が長くなると、「人と話すのが怖い」「簡単な作業でもミスをしそうで不安」といった気持ちが強くなることがあります。いきなり実際の職場でこれらに直面するのは、大きなプレッシャーとなります。

就労移行支援事業所は、「失敗が許される安全なリハビリの場」です。実際の職場ではないため、人間関係の構築や業務遂行の練習を、安心して試行錯誤しながら行うことができます。グループワークで意見が対立してもうまく調整する練習をしたり、模擬業務でミスをしてもその原因分析と対策を支援員と一緒に考えたりすることができます。こうした「小さな成功と失敗の繰り返し」が、失われた自信を少しずつ取り戻し、「自分ならやれる」という自己効力感を育む上で非常に重要なプロセスとなります。

5. 同じ悩みを持つ仲間との出会い

休職中は社会から孤立しているような感覚に陥りがちです。就労移行支援事業所には、同じように精神・発達障害の困難を抱えながら、就職や復職を目指す多くの仲間がいます。

グループワークや休憩時間などを通じて、他の利用者と悩みを共有したり、互いの工夫を教え合ったりする中で、「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」という安心感を得ることができます。他者の経験から新たな視点や気づきを得ることも少なくありません。こうした仲間とのつながりは、孤独感を和らげ、復職へのモチベーションを維持する上で大きな支えとなります。

キーポイント:就労移行支援が復職に強い理由
  • 客観的証明:安定通所が「働ける体力・リズム」の証明になる。
  • 再発防止:専門家と自己分析を深め、具体的な対処法を習得できる。
  • 連携サポート:企業との間に立ち、必要な配慮や復職プランを円滑に調整する。
  • 安全な環境:「失敗できる場」で実践的な練習を重ね、自信を回復できる。
  • ピアサポート:同じ境遇の仲間との交流が、孤独感を和らげ支えになる。

【完全ロードマップ】就労移行支援を利用した復職までの4ステップ

それでは、実際に就労移行支援を活用して復職を目指す場合、どのようなプロセスを辿るのでしょうか。ここでは、休職中の相談から、復職後の安定就労までを4つの具体的なステップに分けて、詳細なロードマップとして解説します。

ステップ1:準備期(主治医への相談〜利用開始)

復職への道のりは、まず自身の意思を確認し、適切な支援機関に繋がることから始まります。この初期段階での行動が、その後のプロセス全体をスムーズに進めるための鍵となります。

  1. 主治医への意思表明と相談:
    まず最も重要なのは、主治医に「そろそろ復職の準備を始めたい」という意思を伝えることです。(スマイルナビゲーター) その上で、復職へのリハビリの一環として「就労移行支援事業所の利用を検討している」と相談します。主治医からプログラム利用の許可を得ることは、安全にリハビリを進めるための大前提です。また、後の申請手続きで「意見書」の作成を依頼する必要があるため、この段階で協力関係を築いておくことが望ましいです。
  2. 事業所探しと比較検討:
    主治医の許可が得られたら、次に通所する事業所を探します。お住まいの地域の「就労移行支援事業所」をインターネットで検索したり、市区町村の障害福祉担当窓口でリストをもらったりして情報を集めます。気になる事業所が見つかったら、必ず見学や体験利用に参加しましょう。チェックすべきポイントは以下の通りです。

    • プログラム内容:自分の課題(例:コミュニケーション、ストレス管理、PCスキル)に合ったプログラムがあるか。
    • 事業所の雰囲気:自分が安心して通えそうか、他の利用者の様子はどうか。
    • 支援員の専門性:精神・発達障害への理解が深いか、スタッフの対応は丁寧か。特に発達障害に特化したプログラムを提供している事業所もあります。
    • 復職実績:同様のケースでの復職支援実績が豊富か。
  3. 利用申請手続き:
    利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ行き、「障害福祉サービス受給者証」の申請を行います。この「受給者証」がなければサービスを利用できません。手続きの主な流れは以下の通りです。

    1. 窓口で申請:利用したい事業所名を伝え、申請書類を受け取り、記入・提出します。
    2. 必要書類の準備:申請には、本人確認書類、マイナンバー、そして障害や疾患を証明する書類が必要です。ここで重要なのが、障害者手帳は必須ではないという点です。主治医に作成してもらった「診断書」や「意見書」があれば申請可能です。
    3. 認定調査(ヒアリング):後日、市区町村の職員による面談が行われます。現在の生活状況や、なぜサービスを利用したいのかといった聞き取り調査です。
    4. サービス等利用計画案の作成:「どのような支援を受け、どうなりたいか」という計画案を提出します。これは指定特定相談支援事業者に作成を依頼するか、セルフプランとして自身で作成します。多くの就労移行支援事業所がこの計画案作成のサポートも行っています。
    5. 受給者証の交付:審査を経て、約1ヶ月ほどで自宅に受給者証が郵送されます。

    手続きが複雑に感じるかもしれませんが、ほとんどの場合、利用を決めた事業所のスタッフが申請に同行したり、書類作成を手伝ってくれたりするので、過度に心配する必要はありません。

ステップ2:トレーニング期(心身とスキルの再構築)

受給者証が交付され、利用が開始されると、いよいよ本格的なリハビリテーションの段階に入ります。この期間は、焦らず、自分のペースで心身の状態と働くためのスキルを再構築していくことが目的です。この時期の土台作りが、後の安定就労に直結します。

このトレーニングは、働く上で必要とされる能力を段階的に積み上げる「職業準備性ピラミッド」の考え方に基づいて進められることが多くあります。

職業適性
基本的労働習慣
社会生活能力・対人技能
日常生活管理
心と身体の健康管理

以下に、このピラミッドの各階層に対応する具体的なトレーニング内容を示します。

  • 生活リズムの安定化(健康管理・日常生活管理):
    まずはピラミッドの土台となる部分です。週2〜3日の半日通所から始め、徐々に日数を増やし、最終的に週5日の終日通所を目指します。 決まった時間に起床・就寝し、事業所に通うという習慣そのものが、体調を安定させ、基礎体力を向上させる最も重要なトレーニングです。
  • 自己理解とストレス対処(社会生活能力):
    個別カウンセリングや心理教育プログラムを通じて、自身の障害特性、強み・弱み、ストレスパターンを深く理解します。例えば、「感覚過敏があるため、騒がしい場所では集中力が著しく低下する」「予期せぬ変更に弱く、パニックになりやすい」といった特性を自覚し、それに対する具体的な対処法(例:ノイズキャンセリングイヤホンの使用、事前のスケジュール確認の徹底)を支援員と一緒に考えていきます。
  • ビジネススキルの向上(基本的労働習慣):
    実際の職場を想定したトレーニングを行います。挨拶や身だしなみ、電話応対といったビジネスマナーの基本から、WordやExcelなどのPCスキル、正確な報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の実践まで、自分のレベルに合わせて学び直すことができます。
  • 模擬業務とグループワーク(対人技能・職業適性):
    オフィスに近い環境で、他の利用者とチームを組んでプロジェクトに取り組むなどの模擬業務を行います。これにより、他者と協力して仕事を進める感覚や、意見が対立した際の調整能力、リーダーシップやフォロワーシップといった対人スキルを実践的に養います。この過程で、自分がどのような役割や作業内容を得意とするのか、職業適性を見極めていくこともできます。

ステップ3:復職準備期(企業との具体的な調整)

事業所でのトレーニングを通じて心身の状態が安定し、週5日の通所が継続できるようになると、いよいよ復職に向けた具体的な準備に入ります。このステップでは、企業側との連携が中心となります。

  1. 復職プランの作成:
    支援員、本人、そして企業の人事担当者・産業医・直属の上司などが一堂に会し、復職に向けた面談を行います。(Cocorport Rework)この場で、就労移行支援での取り組み状況を共有し、それに基づいて具体的な「復職プラン(職場復帰支援計画)」を作成します。プランには以下のような内容が盛り込まれます。

    • 復職後の所属部署と業務内容:元の部署か、負担の少ない別の部署か。業務内容も具体的に定義します。
    • 勤務形態:最初は「週3日・1日4時間」といった短時間勤務から始め、段階的に勤務時間を延ばしていくスケジュール。
    • 必要な配慮事項(合理的配慮):「残業や出張の制限」「定期的な上司との1on1面談の設定」「指示は口頭ではなくメールでもらう」など、ステップ2で明確になった配慮を具体的に伝えます。
  2. 試し出勤(リハビリ出勤)の活用:
    多くの場合、正式な復職決定の前に、作成したプランに基づいて「試し出勤」を行います。 これは、一定期間、試験的に職場に通勤し、実際の環境で心身の状態がどう変化するかを確認するための重要なステップです。最初は書類整理や読書など、業務負荷の軽い作業から始め、徐々に職場の雰囲気に慣れていきます。この期間中の様子は、上司や支援員が注意深く観察し、プランの再調整に役立てます。
  3. 最終判断と正式復職:
    試し出勤が問題なく終了し、本人にも復職への自信がつき、企業側も受け入れ態勢が整った段階で、主治医の最終診察を受けます。主治医が「復職可能」と判断した場合、「職場復帰可能の診断書」が作成されます。これを会社に提出し、労使双方の合意のもとで、正式な復職日が決定します。

ステップ4:復職後(定着支援による継続的なサポート)

復職はゴールではありません。本当の挑戦はここから始まります。復職直後は緊張感から乗り切れても、数ヶ月経つと疲れが蓄積し、再び不調に陥るケースは少なくありません。「本当の復職は1年後」とも言われるように、長期的な視点でのサポートが不可欠です。

就労移行支援の最大の強みの一つが、この復職後のサポート体制にあります。就労移行支援を利用して復職した場合、その後も継続して支援を受けることができます。

  • 就労移行支援事業所による定着支援:
    復職後、最初の6ヶ月間は、利用していた就労移行支援事業所が「職場定着支援」を行います。
  • 就労定着支援事業の活用:
    さらに、その後は「就労定着支援」という別の福祉サービスに切り替えることで、最長3年間、サポートを延長できます。 これにより、合計で最大3年半という長期間にわたるフォローアップが可能になります。

この定着支援期間中、支援員は以下のようなサポートを提供します。

  • 定期的な面談:月に1回程度のペースで本人と面談し、仕事の悩み、人間関係、生活面の課題などをヒアリングします。職場に訪問して面談することも、休日に事業所などで面談することも可能です。
  • 企業との連携・環境調整:本人の同意のもと、支援員が企業側(上司や人事)とも連絡を取り、本人が直接は言いにくい業務量の調整や、職場環境の改善などを働きかけます。
  • 生活面でのサポート:仕事だけでなく、金銭管理や休日の過ごし方など、安定した職業生活を送る上で必要な生活面全般の相談にも乗ってくれます。

このように、復職前から復職後まで、一貫して同じ支援機関が伴走してくれる体制は、本人にとって大きな精神的支柱となり、長期的な安定就労の実現可能性を飛躍的に高めるのです。

【事例紹介】私たちはこうして復職しました

理論やステップだけでなく、実際の事例に触れることで、より具体的に就労移行支援の活用イメージが湧くはずです。ここでは、参考資料にある事例を基に、2つの典型的なケースをご紹介します。

ケース1:うつ病で休職した30代男性・事務職

背景:営業職として勤務していたが、長時間労働とプレッシャーから不眠、無気力感に悩まされ、うつ病と診断され休職。妻子がおり、経済的な焦りから早く復職したいという気持ちが強い一方、体調には波があった。

課題:不規則な生活リズム。体調が良い日に無理をしてしまい、翌日に動けなくなるという悪循環。復職への焦りと、再び同じ状況に陥ることへの恐怖。

就労移行支援での取り組み:
ハローワークの紹介で就労移行支援事業所の利用を開始。

  1. 生活リズムの再構築:まずは「週3日・半日通所」からスタート。安定した睡眠時間を確保することを最優先目標とし、徐々に通所日数と時間を増やし、3ヶ月後には「週5日・1日通所」が可能になった。
  2. ストレス要因の特定と対処法学習:個別カウンセリングで、仕事や子育てに懸命に取り組むあまり、自分の休息時間を犠牲にしていた働き方のパターンを自覚。ストレスマネジメントのプログラムで、休日の過ごし方(意図的に何もしない時間を作るなど)や、完璧主義的な思考を緩める方法を学んだ。
  3. 企業との連携:支援員同席のもと、会社の人事・産業医と面談。復職後の部署を、本人の希望と特性を考慮して負担の少ない総務事務に変更。勤務時間は「週5日・4時間」からスタートし、半年かけて段階的に延ばしていく復職プランに合意した。

復職後:
復職後は「就労定着支援」を利用。月1回の支援員との面談で、業務の進捗や体調を報告。休日に無理をして週明けに欠勤しそうになるパターンが見られたため、支援員と相談し、休日の活動計画を立てることで勤務が安定。1年後には勤務時間を延長し、2年後にはフルタイム勤務に移行。安定して働き続けている。

ケース2:発達障害(ASD)で不適応を起こした20代女性・専門職

背景:専門学校卒業後、CADオペレーターとして就職。コミュニケーションの苦手さから周囲に質問ができず、一人で仕事を抱え込んでしまう。また、一度作業に集中すると休憩を取るのを忘れる「過集中」の特性があり、常に疲労が蓄積。結果、職場不適応となり離職。心理検査で自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受ける。

課題:自分の障害特性をどう職場に説明すればよいか分からない。自分の「苦手」が、ただの「わがまま」だと思われることへの恐怖。どのような環境なら安定して働けるのかが自分でも分からない。

就労移行支援での取り組み:
発達障害に特化したプログラムを持つ就労移行支援事業所を利用。

  1. 障害特性の言語化:自己分析プログラムを通じて、自分の「得意(細かく正確な作業、ルールが明確なこと)」と「苦手(曖昧な指示、マルチタスク、雑談)」を客観的に整理し、言語化する訓練を行った。
  2. 合理的配慮の整理:支援員との面談を重ね、「なぜその配慮が必要なのか」を論理的に説明する練習を実施。「過集中を防ぐために、1時間ごとにタイマーで休憩を促してほしい」「指示は口頭ではなく、箇条書きのテキストでほしい」など、求めるべき「合理的配慮」を具体的にリストアップした。
  3. 企業実習と適性の確認:支援事業所が提携する企業で2週間の実習に参加。静かな環境で、指示が明確なデータ入力業務を体験し、自分の特性に合った職場環境を肌で感じることができた。

再就職後:
就職活動では、支援員が面接に同席。整理した「合理的配慮リスト」を基に、企業側へ本人の特性と必要な配慮を的確に説明。その結果、障害への理解がある企業に事務補助として採用された。復職後は定着支援を利用し、支援員が定期的に上司と面談。本人のパフォーマンスも安定し、「チームの一員として頼もしい存在」と評価されている。

就労移行支援に関するQ&A(費用・期間・利用条件)

就労移行支援の利用を検討するにあたり、多くの方が疑問に思うであろう「利用条件」「費用」「期間」について、Q&A形式で分かりやすく解説します。

利用条件について

Q1. どのような人が利用できますか?

A1. 主に以下の条件を満たす方が対象となります。

  • 年齢:原則として18歳以上65歳未満の方。ただし、65歳になる前に利用を開始していれば、利用期間中に65歳を超えても継続利用が可能です。
  • 障害・疾患:身体障害、知的障害、精神障害(うつ病、統合失調症、双極性障害、適応障害など)、発達障害(ASD, ADHDなど)、または障害者総合支援法の対象となる難病のある方。
  • 意欲:一般企業への就職または復職を希望しており、就労が可能と見込まれる方。
  • 就労状況:申請時点で企業等と雇用契約を結んでおらず、就労していない方。(※休職中の扱いは次項参照)

Q2. 障害者手帳は絶対に必要ですか?

A2. いいえ、必須ではありません。
障害者手帳をお持ちでなくても、医師の「診断書」や「意見書」など、障害や疾患により専門的な支援が必要であることが客観的に証明できる書類があれば、市区町村の判断により利用申請が可能です。実際に、手帳を持たずに利用している方は多くいらっしゃいます。

Q3. 現在、会社に在籍したまま休職中ですが、利用できますか?

A3. はい、多くの自治体で利用可能です。
休職中の方は「雇用契約はあるが就労はしていない状態」にあたります。この状態での利用可否は、最終的にはお住まいの市区町村の判断となりますが、復職(リワーク)を目的とした利用は広く認められる傾向にあります。
ただし、注意点として、会社の就業規則でリワークプログラムへの参加がどのように扱われるか(例:休職期間中の活動として認められるか)を、事前に会社の人事部や上司に確認しておくことが望ましいです。就労移行支援事業所に相談すれば、この確認プロセスについてもアドバイスをもらえます。

費用について

Q4. 利用料金はどのくらいかかりますか?

A4. 約9割の方が自己負担0円(無料)で利用しています。
就労移行支援は福祉サービスであるため、利用料の9割を国と自治体が負担し、自己負担は原則1割です。さらに、その自己負担額にも世帯の所得に応じた月ごとの上限額が定められています。

所得区分と負担上限月額は以下の通りです。
区分 世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)
※概ね年収600万円以下の世帯
9,300円
一般2 上記以外 37,200円

ある事業所のデータでは、利用者の84.2%が自己負担なしで利用しているとの報告もあります。自分がどの区分に該当するかは、申請時にお住まいの市区町村が判断します。

Q5. 「世帯収入」とは、同居している親の収入も含まれますか?

A5. いいえ、含まれない場合がほとんどです。
就労移行支援における「世帯」の範囲は、税法や健康保険の扶養とは異なり、利用者本人とその配偶者を指します。したがって、18歳以上の方が親と同居していても、親の収入は算定対象に含まれません。利用者本人が休職中で無収入、かつ配偶者がいない場合、多くは「市町村民税非課税世帯」に該当し、利用料は0円となります。ただし、最終的な判断は自治体が行うため、申請時に確認することが確実です。

Q6. 利用中の生活費はどうすればよいですか?

A6. 就労移行支援の利用中は、雇用契約を結ばないため給与は発生しません。生活費に不安がある場合は、以下の制度の活用を検討できます。

  • 傷病手当金:健康保険の被保険者で、休職中に給与が支払われない場合、最長1年6ヶ月間、給与のおおよそ3分の2が支給されます。復職を目的としたリワーク参加中も支給対象となるのが一般的です。
  • 障害年金:障害の状態が一定の等級に該当する場合に受給できます。生活費の大きな支えとなります。
  • 生活福祉資金貸付制度:低所得世帯などを対象に、市区町村の社会福祉協議会が生活費などの貸付を行っています。

これらの制度についても、就労移行支援事業所のスタッフが相談に乗ってくれます。

利用期間と再利用について

Q7. どのくらいの期間、利用できますか?

A7. 原則として最長24ヶ月(2年間)です。
ただし、これはあくまで上限であり、2年間必ず通わなければならないわけではありません。多くの方は、ご自身のペースに合わせてトレーニングを進め、6ヶ月〜1年半程度で就職・復職しています。また、自治体が必要性を認めた場合には、最大1年間の延長が可能なケースもあります。

Q8. 一度就職・復職した後に、また利用することはできますか?

A8. はい、可能です。
原則2年間の利用期間の範囲内であれば、一度就職した後に残念ながら離職してしまった場合でも、残りの期間を使って再度サービスを利用することができます。 例えば、8ヶ月利用して復職し、その後離職した場合、まだ16ヶ月の利用可能期間が残っている計算になります。ただし、この再利用についても市区町村の判断が必要となるため、まずは相談することが重要です。

就労移行支援の就職率と定着率

就労移行支援の利用を検討する上で、「本当に就職・復職につながるのか」という点は最も気になるところでしょう。厚生労働省のデータによると、就労移行支援からの一般就労への移行率は年々上昇傾向にあります。

さらに重要なのは、就職後の「定着率」です。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると、就労移行支援などを利用して就職した方の1年後の職場定着率は、障害種別によって差はあるものの、全体として高い水準を維持しています。

特に発達障害のある方の定着率が71.5%と高いことは注目に値します。これは、就労移行支援が提供する「自身の特性理解」や「職場への合理的配慮の調整」といったサポートが、長期的な安定就労に効果的に結びついていることを示唆しています。これらのデータは、就労移行支援が単に就職させるだけでなく、「働き続ける」ための支援として有効に機能していることの力強い証拠と言えるでしょう。

まとめ:一人で抱え込まず、専門家と伴走する復職の道へ

本稿では、うつ病などの精神疾患や発達障害を背景に休職されている方々が、再び社会で安定して働き続けるための道筋として、「就労移行支援」を活用したリワーク(復職支援)について、その全貌を詳細に解説してきました。

改めて要点を振り返ってみましょう。

精神・発達障害を抱えながらの復職は、決して一人で乗り越えるべき孤独な戦いではありません。就労移行支援は、その道のりにおいて、最も信頼できる「伴走者」となり得る公的な制度です。その最大の強みは、単に復職させることではなく、再発を防ぎ、長期的に安定した職業生活を送るための土台を、本人・企業・支援機関の三者で協力して築き上げる点にあります。

  • 生活リズムの再構築から、自身の障害特性の深い理解、具体的なストレス対処法の習得。
  • PCスキルやビジネスマナーといった実践的な職業訓練。
  • 専門家として企業との間に立ち、復職プランや必要な配慮を円滑に調整する交渉力。
  • そして、復職後も最長3年半にわたって続く、途切れることのない定着支援。

これらの一貫したサポート体制は、他のリワーク機関にはない、就労移行支援ならではの大きな魅力です。費用面でも、約9割の方が自己負担なく利用できるという事実は、経済的な不安を抱える方にとって大きな安心材料となるでしょう。

もし今、あなたが先の見えない休職生活の中で、「何から手をつけていいか分からない」「一人で復職活動を進めるのは怖い」と感じているのであれば、ぜひ最初の一歩を踏み出してみてください。その一歩とは、決して大きなものである必要はありません。

具体的な次の一歩:
1. まずは、かかりつけの主治医に「復職の準備として、就労移行支援の利用を考えている」と相談してみる。
2. 次に、スマートフォやPCで「(お住まいの地域名) 就労移行支援 見学」と検索し、気になる事業所の見学を予約してみる。

見学に行けば、事業所の雰囲気を感じ、支援員に直接悩みを相談することができます。そこで得られる情報や安心感は、きっとあなたの背中をそっと押してくれるはずです。一人で抱え込まず、専門家という心強い伴走者を見つけること。それが、暗闇の中に確かな光を灯し、あなたらしい働き方へと続く、着実な道のりの始まりとなるのです。

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