コラム 2025年12月16日

うつ病で休職…復職だけが選択肢じゃない。精神・発達障害者が「就労移行支援」で自分らしい働き方を見つける方法

休職はキャリアを見つめ直す転機

うつ病や適応障害といったメンタルヘルスの不調による休職は、もはや特別なことではなくなりました。働き方が多様化し、社会が複雑化する中で、誰しもがキャリアの途中で立ち止まる可能性があります。しかし、多くの人が休職中に「本当に元の職場に戻れるのだろうか」「また同じことの繰り返しになるのではないか」という深い不安を抱えています。

その不安は、残念ながらデータによっても裏付けられています。ある調査によれば、一度メンタル不調で休職した人のうち、復職後に約半数が再休職に至るという厳しい現実があります。これは、単に体調を回復させるだけでは、根本的な問題解決には至らないケースが多いことを示唆しています。職場の環境、業務内容、人間関係、そして何より自分自身の働き方への考え方。これらを見つめ直さない限り、再発のリスクは常に付きまといます。

しかし、この「立ち止まる時間」を、悲観的に捉える必要はありません。むしろ、休職は「キャリアの終わり」ではなく、「自分にとって本当に持続可能で、自分らしい働き方とは何か」を真剣に探求するための、またとない転機と捉え直すことができます。

これまでのキャリアで培ったスキルや経験を活かしつつ、自身の特性や体調に配慮した環境で働く。そんな新しい道を切り拓くための選択肢が、実は社会には用意されています。その中でも特に有力なのが、障害者手帳を取得し、「障害者雇用」という枠組みの中で、専門的なサポートを受けながら再就職を目指す道です。

本記事では、うつ病や発達障害などで休職中の方が、従来の「復職」という選択肢だけでなく、「就労移行支援」という福祉サービスを徹底的に活用し、「障害者雇用」という新たなステージで自分らしいキャリアを再構築するための具体的な方法を、最新の制度情報やデータを交えながら、網羅的に解説していきます。もしあなたが今、先の見えない不安の中にいるのなら、この記事が次の一歩を踏み出すための確かな道しるべとなることを願っています。

休職後のリアルとキャリアの選択肢:復職か、新たな道か

休職期間を経て、社会復帰を考えるとき、多くの人はまず「元の職場への復職」を思い浮かべるでしょう。しかし、その道は決して平坦ではありません。ここでは、休職者が直面する現実的な課題を整理し、「復職」と、もう一つの有力な選択肢である「障害者雇用での再就職」について、それぞれの特徴と可能性を探ります。

復職の現実と「リワーク支援」

休職者が復職する際に最も重視することは何でしょうか。2025年に行われた調査によると、「自分のペースや体調に配慮した働き方」(63%)が最も多く、次いで「人間関係や職場の雰囲気」(40%)、「柔軟な働き方(リモート/時短など)」(34%)と続きます。これは、多くの人が自身の心身の状態を最優先し、無理のない環境で再スタートを切りたいと願っていることの表れです。

しかし、その願いとは裏腹に、復職者が実際に直面する課題は深刻です。同調査では、「心身の不調が再発しそうで不安だった」(41%)という回答が突出して多く、さらに「復職支援制度が十分でなかった」(27%)、「相談しにくい雰囲気であった」(25%)といった、制度や環境面での支援不足が大きな壁となっていることが浮き彫りになりました。

こうした復職の難しさを乗り越えるために活用されるのが、「リワーク支援(プログラム)」です。リワークとは、うつ病などの精神疾患で休職している人が、職場復帰に向けて行うリハビリテーションプログラムのことです。医療機関や福祉施設、企業などが提供しており、主に以下のようなメリットがあります。

  • 生活リズムの安定化:決まった時間に施設に通うことで、乱れがちな生活リズムを整える。
  • 体力・集中力の回復:模擬的なオフィス環境での作業を通じて、就労に必要な基礎体力を段階的に取り戻す。
  • ストレス対処法の習得:認知行動療法などのプログラムを通じて、自身のストレスパターンを理解し、セルフケアの方法を身につける。
  • コミュニケーション能力の向上:グループワークなどを通じて、他者との交流に慣れ、対人関係のスキルを再確認する。

リワークプログラムは、スムーズな復職をサポートする非常に有効な手段であり、ある調査ではリワークを利用しなかった場合の再休職リスクは約6.2倍にも上るとされています。

しかし、ここで冷静に考えなければならないのは、リワークはあくまで「元の職場に戻る」ための準備であるという点です。いくら本人がリワークで万全の準備を整えても、休職に至った根本的な原因である職場の環境(過重な業務量、厳しい人間関係、理解のない文化など)が変わっていなければ、復職後に再び心身のバランスを崩してしまうリスクは依然として残ります。復職は有力な選択肢の一つですが、それが唯一の正解ではない可能性も視野に入れることが、長期的なキャリアを考える上で極めて重要です。

もう一つの選択肢「障害者雇用」という働き方

もし、元の職場に戻ることに強い抵抗感や不安を感じるなら、キャリアの舵を大きく切り、「障害者雇用」という新しい働き方を選択する道があります。これは、うつ病や発達障害などを「障害」として公的に認められた上で、法律に基づき企業に雇用される働き方です。

障害者雇用の現状と将来性

近年、障害者雇用を取り巻く環境は大きく変化しています。企業に義務付けられている法定雇用率は段階的に引き上げられており、2024年4月には2.5%、さらに2026年7月には2.7%となることが決定しています。これにより、特にこれまで採用に積極的でなかった中小企業も含め、多くの企業で障害者採用のニーズが急速に高まっています。

この社会的な潮流を裏付けるように、厚生労働省の発表によると、民間企業に雇用される障害者の数は21年連続で過去最高を更新し、2024年には約67.7万人に達しました。中でも特筆すべきは精神障害者の増加率で、前年比15.7%増と、身体障害者(2.4%増)や知的障害者(4.0%増)を大きく上回っています。これは、メンタルヘルスの問題が社会的に認知され、精神障害のある方が「働く意欲」と「能力」を持っていることへの理解が企業側に浸透しつつある証左と言えるでしょう。

精神障害者保健福祉手帳の取得

障害者雇用枠で働くことや、後述する「就労移行支援」などの福祉サービスを利用するための第一歩となるのが、「精神障害者保健福祉手帳」の取得です。この手帳は、精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症、てんかんなど)や発達障害(ASD、ADHDなど)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方を対象としています。

「障害者」という言葉に抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、休職を機に自身の状態を客観的に見つめ、必要なサポートを得るための「ツール」として手帳を捉えることは、非常に現実的かつ戦略的な選択です。実際、メンタル不調で休職した経験のある人のうち、約3割が障害者手帳を取得しているというデータもあります。手帳を持つことで、税金の控除や公共料金の割引といった生活面のメリットに加え、何よりも「障害への配慮」を企業に求める権利を得て、安心して働ける環境を手に入れるための扉が開かれます。

「復職」vs「障害者雇用での再就職」

では、あなたはどちらの道を選ぶべきでしょうか。これは個々の状況によって異なり、絶対的な正解はありません。判断するための一つの軸として、以下の点を考慮すると良いでしょう。

判断のポイント:

  • 元の職場の環境:休職の原因となった問題は解決可能か?上司や同僚の理解は得られそうか?
  • 自身の体調と特性:フルタイム勤務に戻れる状態か?自身のペースで働ける配慮が必要か?
  • 求める働き方:これまでのキャリアを継続したいか?それとも心機一転、新しい環境で無理なく働きたいか?
  • 経済的な状況:復職した場合の給与と、障害者雇用で再就職した場合の給与見込みを比較検討する必要がある。

もし、少しでも「元の職場に戻るのは難しいかもしれない」「もっと自分に合った働き方があるはずだ」と感じるなら、次の章で解説する「就労移行支援」の活用を具体的に検討してみる価値は十分にあります。

「就労移行支援」徹底活用ガイド:自分らしい再就職へのロードマップ

「障害者雇用」という新しい道を選ぶと決めた、あるいはその可能性を考え始めたとき、多くの人が「何から始めればいいのか」「自分一人で就職活動ができるだろうか」という不安に直面します。その不安を解消し、あなたをゴールまで導いてくれる強力な伴走者が「就労移行支援」です。

就労移行支援とは?

就労移行支援とは、障害者総合支援法に定められた福祉サービスの一つです。一般企業への就職を目指す65歳未満の障害のある方を対象に、①就職に必要な知識やスキルの向上のための訓練、②就職活動のサポート、③就職後の職場定着支援などを、原則として最長2年間提供します。

うつ病や発達障害から回復し、再就職を目指す方にとっては、いわば「社会復帰のためのリハビリと就職予備校が一体化した場所」とイメージすると分かりやすいでしょう。生活リズムを整えながら、専門スタッフのサポートのもとで、自分のペースで再出発の準備を進めることができます。

他の就労系サービスとの違い

障害のある方向けの就労系サービスには、就労移行支援の他に「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」があります。これらは目的や対象者が異なるため、違いを正しく理解しておくことが重要です。

サービス名 主な目的 対象者 雇用契約 特徴
就労移行支援 一般企業への就職 一般就労を目指す方 なし 就職のための訓練とサポートが中心。賃金は発生しない。
就労継続支援A型 雇用契約に基づく就労機会の提供 一般就労は困難だが、雇用契約に基づく就労が可能な方 あり 事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を得ながら働く。
就労継続支援B型 非雇用型の就労機会の提供 年齢や体力面で雇用契約を結んで働くことが困難な方 なし 比較的簡単な作業を行い、成果に応じた「工賃」を得る。

休職からの再就職を目指す場合、基本的には「一般企業への就職」をゴールとする就労移行支援が第一の選択肢となります。しかし、体調や状況によっては、まずA型やB型で働くことに慣れ、そこから一般就労を目指すというステップを踏むことも可能です。

休職から再就職へ:就労移行支援の3ステップ活用術

就労移行支援事業所では、一人ひとりの状況に合わせた「個別支援計画」が作成され、それに沿って支援が進められます。休職経験者が利用する場合、大きく分けて以下の3つのステップで再就職を目指すのが一般的です。

ステップ1:自己理解とキャリアの再設計(準備期間)

目的:まずは焦らず、心身の状態を安定させることが最優先です。その上で、休職に至った経験を客観的に振り返り、「自分」という人間を深く理解することから始めます。

具体的なプログラム例:

  • ストレスマネジメント/アンガーマネジメント:自分がどのような状況でストレスを感じ、それが心身にどう影響するのかを学びます。怒りや不安といった感情との上手な付き合い方を身につけ、セルフコントロール能力を高めます。
  • 認知行動療法:物事の受け取り方や考え方(認知)の偏りに気づき、それを修正していくことで、気分の落ち込みや不安を軽減する心理療法です。グループワーク形式で学ぶことが多いです。
  • 自己分析ワーク:これまでの職務経歴を棚卸しし、自分の得意なこと・苦手なこと、やりがいを感じること、大切にしたい価値観などを整理します。これにより、「どのような仕事・職場環境なら無理なく能力を発揮できるか」という、新しいキャリアの軸が見えてきます。
  • 生活リズムの構築:週3日から、週4日、週5日と、段階的に通所日数を増やしていくことで、就労に必要な生活リズムと体力を無理なく身につけていきます。

ステップ2:実践的なスキル習得と就職活動(実践期間)

目的:自己理解で明確になったキャリアの方向性に基づき、再就職に必要な実践的スキルを習得します。そして、専門スタッフの万全なサポートのもと、自信を持って就職活動に臨みます。

具体的な支援内容:

  • 職業訓練:多くの事業所では、事務職で必須となるPCスキル(Word, Excel, PowerPoint)の講座が用意されています。その他、デザイン、プログラミング、経理など、専門的なスキルを学べる事業所もあります。
  • ビジネスマナー:挨拶、電話応対、メールの書き方など、社会人としての基本を再確認します。特に休職期間が長い場合、改めて学ぶことで自信を取り戻すきっかけになります。
  • 企業での職場実習(インターンシップ):興味のある企業で、数日間~数週間の実習を体験します。実際の業務や職場の雰囲気を知ることで、自分との相性を見極めることができ、ミスマッチを防ぐ上で非常に重要です。
  • 障害特性の整理と伝え方の練習(自己開示):面接で必ず聞かれる「障害について」の質問に備えます。「どのような特性があり、仕事上でどのような配慮が必要か」「そのために自分でどのような工夫をしているか」を、ポジティブかつ具体的に伝えられるよう、スタッフと何度も練習します。
  • 応募書類の添削・模擬面接:障害者雇用のノウハウを知り尽くしたスタッフが、あなたの強みが伝わる応募書類の作成をサポートします。また、本番さながらの模擬面接を繰り返し行い、万全の態勢で面接に臨めるようにします。

ステップ3:就職後の「定着支援」で安心(定着期間)

目的:就労移行支援のゴールは「就職すること」ではありません。「その職場で長く安定して働き続けること」です。入社後の不安や困難を乗り越えるためのサポート体制が整っています。

具体的な支援内容:

  • 就労定着支援:就職後、最長で3年半(※就労移行支援からの移行後6ヶ月間+就労定着支援サービス3年間)、支援員が定期的に本人と面談したり、職場を訪問したりします。仕事の悩み、人間関係、体調管理などについて相談に乗るだけでなく、企業側に対しても、本人からは直接言いにくい配慮事項の調整を働きかけるなど、本人と企業の「橋渡し役」となって職場定着をサポートします。この支援があることで、入社後の孤独感や不安が大幅に軽減され、安心して新しいキャリアをスタートできます。

失敗しない就労移行支援事業所の選び方

就労移行支援の効果は、どの事業所を選ぶかに大きく左右されます。全国に3,000以上ある事業所の中から、自分に合った場所を見つけるためのチェックポイントを以下に示します。

事業所選びのチェックポイント

  • プログラム内容の専門性:うつ病や発達障害など、自分の障害特性に特化したプログラムが充実しているか。ストレスマネジメントや認知行動療法、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などの実績はあるか。
  • 就職率と定着率の実績:単に就職率(就職者数÷利用者数)が高いだけでなく、就職後半年、1年と長く働き続けている人の割合(定着率)を公開しているか。高い定着率は、質の高いマッチングと手厚い定着支援の証です。
  • 事業所の雰囲気と利用者層:見学や体験利用を通じて、事業所の雰囲気は自分に合っているか、他の利用者はどのような目標を持っているかを確認しましょう。
  • スタッフとの相性:支援の質はスタッフの専門性や人柄に大きく依存します。相談しやすく、信頼できるスタッフがいるかどうかは最も重要なポイントの一つです。
  • 希望する職種への就職実績:自分が目指したい業界や職種への就職実績が豊富かどうかも確認しましょう。実績が豊富な事業所は、企業との強いパイプを持っている可能性が高いです。

成功事例:Aさん(30代・うつ病)のケース

[悩み]
前職で過度なストレスを抱え、うつ病と診断されて退職。休養を経て再就職を考えたが、「次こそは自分に合った仕事や職場で長く働きたい」という思いが強く、一人での就職活動に不安を感じていた。

[就労移行支援での取り組み]
フルタイム勤務を希望していたAさんは、まず週5日の通所を目指して生活リズムを整えることからスタート。事業所では、ストレスコントロールのプログラムに参加しながら、これまでの経験を振り返り、自分の得意・不得意を整理。約6ヶ月の通所で心身が安定した頃から就職活動を開始。支援員が企業との調整役となり、雇用を前提とした職場実習を通じて、Aさんの特性と企業の求める人物像がマッチするかを慎重に確認した。

[結果]
実習先企業との相性が非常に良く、Aさんの真面目な仕事ぶりが高く評価された。結果、自分に合った職場との縁がつながり、念願の事務職として再就職を実現。就職後も定着支援を利用し、支援員に定期的に相談しながら、安定して勤務を続けている。

Aさんのように、就労移行支援をうまく活用することで、休職という経験をバネに、より自分らしいキャリアを築くことが可能です。まずは勇気を出して、お近くの事業所に見学や相談に行ってみることから始めてみましょう。

 

企業はなぜ精神・発達障害者の採用を増やすのか?社会の動向と働く実態

「障害者雇用」と聞くと、福祉的な側面や、企業が義務として行っているイメージが強いかもしれません。しかし、近年、企業が精神・発達障害者の採用を増やす背景には、より戦略的で多面的な理由が存在します。ここでは、企業側の視点と、実際に働く障害者のリアルな実態をデータから読み解き、なぜ今が再就職の好機となり得るのかを解説します。

企業が障害者雇用を進める3つのメリット

企業が障害者雇用、特に増加著しい精神・発達障害者の雇用を推進する理由は、単なる社会貢献活動にとどまりません。それは企業経営にとって明確なメリットをもたらす、戦略的な人材投資と位置づけられつつあります。

1. 法定雇用率の達成(コンプライアンスと経済的合理性)

最も直接的な理由は、法律で定められた「法定雇用率」の遵守です。前述の通り、この比率は段階的に引き上げられており、企業にとって障害者採用は避けて通れない経営課題となっています。法定雇用率を達成できない場合、不足する人数に応じて「障害者雇用納付金」(1人あたり月額5万円)を支払う義務が生じます。これは実質的なペナルティであり、企業にとっては採用コストをかけてでも雇用率を達成する方が、経済的に合理的であるという側面があります。国の政策も、単なる雇用者数の増加から「法定雇用率達成企業の割合」を重視する方向へシフトしており、企業のプレッシャーは今後ますます高まるでしょう。

2. 組織の活性化(ダイバーシティ&インクルージョン)

障害者雇用は、組織に多様性(ダイバーシティ)をもたらし、結果として職場全体の生産性や働きやすさを向上させる効果があります。精神・発達障害のある社員を受け入れる過程で、企業は必然的に以下のような変化を経験します。

  • コミュニケーションの質の向上:指示を明確にしたり、意図を丁寧に説明したりする必要性から、職場全体のコミュニケーションが見直され、より分かりやすく丁寧になります。
  • 業務の標準化と効率化:属人的だった業務をマニュアル化・見える化する動きが進み、誰にとっても働きやすい環境が整備されます。
  • 全従業員のメンタルヘルス意識の向上:障害への理解を深める研修などを通じて、「困ったときはお互い様」という文化が醸成されます。これにより、障害の有無にかかわらず、全従業員が不調を感じた際に早期に相談しやすい「心理的安全性」の高い職場が実現します。

つまり、精神・発達障害者の雇用は、彼ら自身のためだけでなく、組織全体の働き方改革やマネジメントの質を向上させる起爆剤となり得るのです。

3. 企業価値の向上(CSR・SDGsへの貢献)

障害者雇用への積極的な取り組みは、企業の社会的責任(CSR)や持続可能な開発目標(SDGs)の実践として、社会から高く評価されます。特にSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」や目標10「人や国の不平等をなくそう」に直結する活動であり、投資家や消費者、そして未来の従業員候補に対して、企業が社会的課題に真摯に取り組んでいるという強力なメッセージとなります。これは、企業のブランドイメージやレピュテーション(評判)を向上させ、優秀な人材の獲得や顧客からの信頼を得る上で、無視できない無形資産となります。

働く障害者のリアル(データで見る)

では、実際に障害者雇用枠で働く人々は、どのような状況にあるのでしょうか。パーソルダイバース株式会社が実施した大規模な調査から、その実態を見ていきましょう。

雇用形態のギャップ:安定を求める声

障害者雇用枠で働く人の雇用形態は、「正社員」が41.0%、「契約社員」が41.0%と、非正規雇用の割合が高いのが特徴です。しかし、働く本人の希望を見ると、実に78.1%が「正社員」での雇用を望んでいます。この大きなギャップは、多くの障害のある方が、より安定的で長期的なキャリアを求めているにもかかわらず、企業側がまだ契約社員中心の採用を行っている現実を示しています。これは今後の課題であると同時に、正社員での採用を目指す求職者にとっては、自身のスキルや経験をアピールすることで、他の候補者と差別化できるチャンスがあるとも言えます。

職種とキャリア:事務職が中心、キャリアアップの課題

職種については、「事務職」が62.0%と圧倒的多数を占めています。これは、PCスキルを活かした定型的な業務が多く、精神・発達障害の特性を持つ方にとって働きやすい環境を整えやすいことが理由と考えられます。一方で、職位を見ると、「一般社員」が80.1%を占めるのに対し、「係長」は4.2%、「課長・部長・役員」はわずか3.0%にとどまります。障害者雇用枠では、まだキャリアアップの道筋が十分に整備されていない現状がうかがえます。しかし、裏を返せば、専門性やマネジメント能力を持つ人材は希少であり、高いポテンシャルを持つ求職者にとっては、将来のリーダー候補として企業に評価される可能性も秘めています。

働き方の実態:フルタイム勤務と柔軟性の両立

働き方を見ると、「週5日勤務」が86.0%と大半を占め、多くの人がフルタイムに近い形で働いていることがわかります。また、所定労働時間についても「8時間」が66.4%と最も多く、安定して就労している実態がうかがえます。一方で、7時間以下の短時間勤務で働く人も約3分の1を占めており、企業側が体調や特性に合わせて柔軟な働き方を提供しているケースも増えています。休職からの復帰直後は短時間から始め、徐々に勤務時間を延ばしていくといった働き方も、障害者雇用では相談しやすい環境にあると言えるでしょう。

データから見えること

  • チャンスの拡大:企業の採用ニーズは高く、特に精神・発達障害者は主要な採用ターゲットとなっている。
  • 雇用の質の課題:正社員での雇用やキャリアアップの機会はまだ十分とは言えず、求職者の希望との間にギャップが存在する。
  • 働き方の柔軟性:フルタイムでの安定就労が基本だが、個々の状況に応じた短時間勤務などの配慮も広がりつつある。

これらのデータは、障害者雇用が「特別な配慮」から「戦略的な人材活用」へと移行しつつある過渡期の姿を映し出しています。課題はありつつも、働く意欲と能力のある人材にとっては、自分らしい働き方を実現できるチャンスが大きく広がっている時代だと言えるでしょう。

まとめ:一歩踏み出すためのQ&A

本記事では、うつ病などによる休職を「キャリアを見つめ直す転機」と捉え、復職以外の有力な選択肢として「就労移行支援」を活用した障害者雇用での再就職について、多角的に解説してきました。最後に、本記事の要点を整理し、多くの方が抱くであろう疑問にQ&A形式でお答えします。

本記事の要点整理

キャリア再構築のための鍵

  1. 休職は「転機」である:メンタル不調による休職は、これまでの働き方や価値観を根本から見直す絶好の機会です。復職だけが唯一の道ではなく、より自分らしく、持続可能な働き方を探求するチャンスと捉えましょう。
  2. 「就労移行支援」は強力な伴走者である:障害者雇用での再就職を目指すなら、「就労移行支援」の活用が不可欠です。自己理解からスキル習得、就職活動、そして就職後の定着まで、専門家が二人三脚でサポートしてくれます。一人で抱え込まず、プロの力を借りることが成功への近道です。

社会は、障害の有無にかかわらず、誰もがその能力を発揮できる方向へと確実に動いています。法定雇用率の引き上げや企業の意識変化は、その大きな後押しとなっています。不安や迷いもあるかもしれませんが、勇気を出して一歩踏み出すことで、これまでとは違う新しい景色が見えてくるはずです。

よくある質問(Q&A)

会社に在籍したまま(休職中)でも就労移行支援は利用できますか?

原則として、就労移行支援は離職中の方が対象です。しかし、自治体の判断や、企業との連携により、復職を目的としたリハビリテーション(リワーク)の一環として利用が認められるケースもあります。これは「リワーク利用」などと呼ばれ、元の職場への復帰を前提としたプログラムが組まれます。ただし、利用の可否は自治体や事業所の方針によって大きく異なるため、まずはお住まいの市区町村の障害福祉窓口や、利用を検討している事業所に直接相談してみることが不可欠です。

障害者手帳がなくても利用できますか?

はい、利用できます。就労移行支援などの福祉サービスを利用するために必須なのは「障害者手帳」そのものではなく、市区町村が発行する「障害福祉サービス受給者証」です。手帳を持っていなくても、医師による「診断書」や「意見書」を提出し、就労支援が必要な状態であると自治体に認められれば、この受給者証が交付され、サービスを利用することが可能になります。休職の診断を受けた主治医に相談し、意見書を書いてもらうことから始めましょう。

利用料金はかかりますか?

利用料金(自己負担額)は、前年度の世帯収入によって決まります。しかし、厚生労働省のデータによると、利用者の約9割は自己負担なし(無料)で利用しています。生活保護受給世帯や市区町村民税非課税世帯は無料、課税世帯でも所得に応じて月額の上限(9,300円、37,200円など)が定められています。具体的な金額については、事業所の見学時や市区町村の窓口で必ず確認してください。

就労移行支援の利用期間は?

法律で定められた標準利用期間は、原則として最長2年間です。ただし、自治体が必要性を認めれば、最大1年間の延長が可能な場合もあります。多くの方は、半年から1年程度の期間で準備を整え、就職を目指します。利用期間は画一的に決まるものではなく、一人ひとりの体調や目標に合わせて、支援員と相談しながら個別支援計画の中で柔軟に設定されます。

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