「就労移行支援事業所に毎日通って、ビジネスマナーやPCスキルも学んだ。支援員さんと何度も面接練習を重ねて、やっとの思いで就職できた。でも、なぜかうまくいかない…」「また仕事を辞めてしまった。自分は社会で働くことに向いていないのかもしれない…」
精神障害や発達障害を抱えながら、就労を目指す多くの方が、このような深い悩みを抱えています。必死の努力の末に掴んだはずの職場。しかし、数ヶ月、あるいは1年もしないうちに心身のバランスを崩し、離職に至ってしまう。そのたびに自己肯定感は削られ、「自分の努力が足りないからだ」「自分の特性が問題なんだ」と、一人で責任を抱え込んでしまうケースは後を絶ちません。
しかし、断言します。仕事が続かないのは、決してあなただけのせいではありません。
この問題の根源は、個人の努力不足という単純な話ではなく、「当事者本人」「受け入れ企業」「就労支援」という三者の間に存在する、複雑で構造的なミスマッチにあります。本人の特性と仕事内容の不一致、企業の理解・ノウハウ不足、そして就労支援が「就職」をゴールにしてしまいがちな現状。これらの要因が複雑に絡み合い、「続かない」という現実を生み出しているのです。
この記事では、その複雑な構造を一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。データに基づきながら「なぜ仕事が続かないのか」という根本原因を多角的に分析し、その上で、あなたが自分に合った働き方を見つけ、今度こそ「長く働き続ける」ための具体的なステップと実践的なヒントを網羅的に提供します。この記事を読み終える頃には、あなたは自身の状況を客観的に捉え、次の一歩を確信を持って踏み出せるようになっているはずです。
「頑張っているのに、なぜか続かない」。この問いの核心に迫るため、私たちはまず、感情論や精神論から離れ、客観的なデータと構造的な視点から問題を分析する必要があります。ここでは、精神・発達障害のある方の就労が困難を伴う理由を、「データ」「当事者」「企業」「支援」という3つの異なる、しかし相互に関連し合う視点から深く掘り下げていきます。
まず直視すべきは、障害者雇用における職場定着の厳しさです。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査研究によれば、障害のある方が就職してから1年後も同じ職場で働き続けている割合(1年後定着率)は、障害種別によって大きな差があることが示されています。
特に深刻なのが、精神障害者の定着率の低さです。下のグラフが示すように、精神障害者の1年後定着率は49.3%と、半数以上が1年以内に離職しているという衝撃的なデータがあります。これは、身体障害者(60.8%)や知的障害者(68.0%)と比較しても著しく低い数値です。発達障害者も71.5%と比較的高いものの、裏を返せば約3割が1年以内に離職していることになります。
では、なぜ彼ら・彼女らは職場を去ってしまうのでしょうか。主な離職理由として挙げられるのは、「職場の人間関係・雰囲気」「賃金や労働条件への不満」「仕事内容が合わない」といったものです。さらに、就職後3ヶ月未満の短期離職に絞ると、「労働条件が合わない」(19.1%)、「業務遂行上の課題」(18.1%)といった、採用時のミスマッチに起因する理由が顕著になります。
これらのデータは、問題が単に「個人の我慢が足りない」といったレベルではなく、就職前後の「マッチング」と就職後の「環境適応」に構造的な課題が存在することを示唆しています。この構造的課題を、次に「本人」「企業」「支援」の3つの視点から解剖していきます。
仕事が続かない原因を考えるとき、まず当事者自身が抱える困難に目を向ける必要があります。ただし、これは「本人の責任」を問うためではありません。むしろ、障害特性に起因する困難が、職場という環境でどのように顕在化するのかを理解することが、解決の第一歩となるからです。
「自分の得意なこと、苦手なことは何か?」「どんな時にストレスを感じ、どうすれば回復できるのか?」「働く上で、どんな配慮があればパフォーマンスを発揮できるのか?」——。これらの問いに明確に答えることは、障害の有無にかかわらず誰にとっても簡単ではありません。しかし、精神・発達障害のある方にとっては、これが特に高い壁となります。
就労移行支援などを通じて自己分析の機会はあっても、それを他者に伝わる言葉で、かつ具体的に説明する「言語化」のスキルは一朝一夕には身につきません。結果として、面接で「何か配慮は必要ですか?」と聞かれても、「特にありません」「大丈夫です」と答えてしまいがちです。企業側はそれを額面通りに受け取り、配慮のない環境に配置してしまう。これが、入社後のミスマッチを生む最初のボタンの掛け違いとなります。自己理解の不足は、企業に安心感を与えられず、採用に至らない、あるいは入社後に孤立する原因となり得ます。
精神障害のある方の多くは、症状に「波」があります。うつ病であれば気分の浮き沈み、不安障害であれば予期せぬパニック発作など、本人の意思だけではコントロールが難しい体調の変化に常に晒されています。また、発達障害のある方は、感覚過敏や過集中による疲労の蓄積などから、エネルギーレベルが急激に低下することがあります。
こうした体調の波は、安定した勤務を困難にします。「朝起きられない」「通勤が辛い」「人混みで疲弊してしまう」といった理由で遅刻や欠勤が続くと、職場での信用を失いかねません。重要なのは、これを本人の「怠慢」や「甘え」と見なすのではなく、障害に起因する「特性」として捉えることです。多くの精神障害者が直面する課題として、この体調管理の難しさが挙げられており、周囲の理解と柔軟な勤務体系がなければ、就労継続は極めて困難になります。
職場は、絶え間ないコミュニケーションの連続です。しかし、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ方にとって、このコミュニケーション自体が大きなストレス源となり得ます。
これらの課題は、職場での孤立やトラブルに直結します。本人は真面目に業務に取り組もうとしているにもかかわらず、コミュニケーションの特性が原因で「仕事ができない」「協調性がない」という不当な評価を受け、働く意欲を失ってしまうのです。
問題の半分は、受け入れ側である企業に存在します。法定雇用率の引き上げを背景に、多くの企業が障害者雇用に取り組む必要に迫られていますが、その意欲とは裏腹に、現場では数多くの課題が山積しています。
厚生労働省の調査によると、企業が障害者雇用に際して感じる課題として、身体・知的・精神・発達障害のいずれにおいても「会社内に適当な仕事があるか」が約75%とトップに挙げられています。次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が約50%となっています。これは、企業側が「障害のある人にどんな仕事を任せれば良いのか分からない」「どう接すれば良いのか分からない」という、根本的な知識不足に陥っている実態を浮き彫りにしています。
このノウハウ不足は、採用のミスマッチに直結します。例えば、発達障害のある方の「集中力の高さ」や「正確性」といった強みを活かせる業務があるにもかかわらず、企業側がその可能性に気づかず、「任せる仕事がない」と判断してしまうのです。結果として、採用の門戸が狭まるか、あるいは採用されても本人の特性と全く関係のない業務に配置され、早期離職の原因となります。
障害者雇用促進法では、企業に対して「合理的配慮」の提供が義務付けられています。しかし、この配慮が現場レベルで適切に実行されているケースは、残念ながらまだ多いとは言えません。
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別性の高い調整や変更のことです。
しかし、現場では以下のような「形骸化」した状況が散見されます。
こうした配慮不足は、本人が能力を発揮する機会を奪い、「この職場では働けない」という絶望感につながります。
企業側は良かれと思って、「負担の少ない簡単な仕事を」と配慮することがあります。しかし、それが本人のスキルや意欲、特性と合っていなければ、逆効果になります。例えば、高い分析能力を持つ発達障害の方に、一日中単純なデータ入力だけを任せたとします。本人は能力を発揮できず、仕事へのモチベーションを失い、強いストレスを感じるでしょう。これは「業務遂行上の課題」として、3ヶ月未満の短期離職の主要な原因(18.1%)となっています。
適切な業務の切り出し(ジョブ・カービング)や、本人の成長に合わせた段階的な業務の付与といった戦略的な業務設計がなければ、当事者は「自分は必要とされていない」と感じ、企業側は「期待したパフォーマンスが出ない」と感じる、不幸なミスマッチが生まれてしまうのです。
障害のある社員へのサポートは、多くの場合、配属先の直属の上司や同僚の肩にのしかかります。パーソル総合研究所の調査によれば、精神障害者と共に働く上司・同僚の約4割が「精神的な負担が大きい」と感じています。その原因として最も多いのが、「業務の遅延、トラブルが起きる」「突発的な業務の肩代わり・サポートが多く疲弊する」といった業務マネジメント上の課題です。
これは、個々の社員の思いやりの問題ではなく、組織としてのサポート体制の不備が原因です。現場に十分な知識やリソースが提供されないまま、「あとはよろしく」と丸投げしてしまうと、現場は疲弊します。その負担感や不公平感が、障害のある本人への無意識のプレッシャーや、時にはハラスメントにつながることもあります。こうして職場全体の雰囲気が悪化し、本人が孤立して離職に至るという「負のサイクル」が回り始めてしまうのです。
最後の視点は、当事者と企業を繋ぐ役割を担う「就労移行支援」そのものが抱える限界と課題です。全国に約3,000ヶ所存在する就労移行支援事業所は、多くの方の就職を支える重要な社会資源ですが、その仕組みや運用にはいくつかの構造的な問題点が存在します。
就労移行支援事業所の収益の一部は、利用者を一般就労させた実績に応じて国から支払われる「就労定着実績体制加算」に依存しています。このため、事業所運営のインセンティブが「就職させること」に偏りがちになる構造があります。
もちろん、多くの支援員は利用者の長期的な活躍を願っています。しかし、事業所によっては、就職率という分かりやすい指標を追求するあまり、本人の適性や希望と多少ずれていても、内定が出やすい企業への就職を優先してしまうケースが起こり得ます。厚生労働省の資料でも、「一般就労への移行実績が未だ低調な事業所が一定数存在」することが課題として指摘されており、サービスの質にばらつきがあることがうかがえます。結果として、利用者は「早く就職しなければ」というプレッシャーから焦って決断し、入社後のミスマッチに苦しむことになります。
「就労移行支援」と一括りに言っても、その中身は千差万別です。事務職向けのPC訓練に特化した事業所、プログラミングなど専門スキルを学べる事業所、コミュニケーション訓練に力を入れる事業所、農作業などを通じて体力づくりを目指す事業所など、それぞれに特色があります。
自分の目指す職種や身につけたいスキルと、事業所が提供するプログラムが合っていなければ、2年間という貴重な時間を有効に活用できません。例えば、クリエイティブな仕事を目指しているのに、事務職向けの訓練ばかり受けていても、効果的な就職準備はできません。また、支援員の専門性(例:精神保健福祉士の有無)や、単純に「支援員との相性が合わない」といった人間関係の問題も、通所のモチベーションを大きく左右し、就職活動の成否に直結します。
就労移行支援のサポートは、原則として就職後6ヶ月までとされています。この期間、事業所は職場訪問や本人との面談を通じて定着を支援します。しかし、職場の問題は6ヶ月を過ぎてから本格化することも少なくありません。
この「6ヶ月の壁」を越えた後のサポートを担うのが、「就労定着支援」という別の福祉サービスです。これは最長3年間、職場と本人の間に入って課題解決を支援してくれる非常に重要な制度です。しかし、すべての就労移行支援事業所が就労定着支援事業を併設しているわけではなく、利用者自身が新たに契約を結び直す必要があります。この移行がスムーズに行われなかったり、そもそも利用者が制度の存在を知らなかったりすると、就職後7ヶ月目以降に問題が発生した際に相談先を失い、孤立してしまいます。就労定着支援の重要性は広く認識されつつありますが、就労移行支援からのシームレスな連携には、まだ課題が残されているのが現状です。
「仕事が続かない」構造的な原因を理解した今、次に問われるのは「では、どうすれば良いのか?」という具体的なアクションです。このセクションでは、就労移行支援という制度を単に「利用する」のではなく、「徹底的に活用し、自分に合った働き方を見つける」ための戦略的なステップを解説します。
すべての始まりは、自分に合った就労移行支援事業所を選ぶことから。ここでボタンを掛け違うと、その後の2年間が大きく変わってしまいます。以下の4つの視点から、事業所を慎重に見極めましょう。
多くの事業所がウェブサイトなどで「就職率〇〇%!」とアピールしています。もちろん就職率は重要な指標ですが、それ以上に注目すべきは「職場定着率」です。これは、就職した人がその後も長く働き続けているかを示す、支援の「質」を測るバロメーターです。
具体的には、「就職後6ヶ月定着率」や「就職後1年定着率」といったデータを公開しているかを確認しましょう。タガイトのような事業所は、定着率を重要な指標として公開しています。高い定着率は、事業所が目先の就職だけでなく、利用者の長期的なキャリアを見据えたマッチングや、就職後の手厚いフォローを行っている証拠です。見学や相談の際には、「定着率はどのくらいですか?」「定着のためにどのようなサポートをしていますか?」と具体的に質問してみましょう。
事業所選びは、大学の学部選びに似ています。自分の学びたいこと、目指す方向性とカリキュラムが合っているかが極めて重要です。manabyのコラムでも指摘されているように、ミスマッチを防ぐためにはプログラム内容の吟味が不可欠です。以下の2つの側面からチェックしましょう。
2年間という長い期間、伴走してくれる支援員の存在は、何よりも重要です。スタッフの専門性と、あなたとの相性を見極めましょう。
就職は、事業所とあなただけで完結するものではなく、企業とのマッチングが不可欠です。事業所がどれだけ多くの企業と強固な連携を持っているか、そして「職場実習」の機会を豊富に提供しているかは、極めて重要なポイントです。
Kaienのブログで強調されているように、職場実習は、入社前に「お試し」でその企業で働いてみる絶好の機会です。これにより、求人票だけでは分からない業務内容、職場の雰囲気、人間関係、必要な配慮などを肌で感じることができます。本人だけでなく、受け入れ企業側もあなたの特性を理解し、受け入れ準備を整えることができます。この「事前のすり合わせ」こそが、入社後のギャップを最小限に抑え、ミスマッチを防ぐ最強の武器となるのです。
自分に合った事業所を見つけたら、次はその環境を最大限に活用するフェーズです。受け身でプログラムをこなすだけでなく、主体的に行動することで、就職の成功率と、その後の定着率は格段に向上します。
就労移行支援の最大の価値の一つは、専門家のサポートを受けながら「自分自身を客観的に知る」ことができる点にあります。支援員との定期的な面談やプログラムを通じて、自分だけの「取扱説明書(トリセツ)」を作成しましょう。
この「トリセツ」は、面接で自分のことを説明する際の強力な武器になるだけでなく、就職後に上司や同僚に配慮を依頼する際の具体的な根拠となります。
企業が採用時に最も重視する点の一つが、「安定して勤務できるか」です。就労移行支援事業所への通所実績は、その最も分かりやすい証明となります。体調に波がある場合、最初から週5日の通所は難しいかもしれません。その場合は、支援員と相談し、「まずは週2日から始める」「午前中だけ通所する」など、無理のない目標を設定しましょう。大切なのは、完璧であることではなく、自分で決めたスケジュールを安定して守れることです。安定した通所は、生活リズムが整っていることの証であり、企業に「この人なら継続して働けそうだ」という安心感を与えます。
前述の通り、職場実習はミスマッチを防ぐための非常に有効な手段です。これを単なる「職場体験」と捉えず、「お試し就職」のつもりで臨みましょう。以下の点を意識して、自分に合う環境かどうかを徹底的に見極めます。
実習後には、必ず支援員と振り返りを行い、感じたことや懸念点を共有しましょう。たとえその企業が合わなかったとしても、それは「失敗」ではなく、「自分にはこういう環境が合わないということが分かった」という貴重なデータ収集になります。
「正社員」「給与は〇〇円以上」「通勤時間は30分以内」など、希望条件を持つことは大切ですが、それに固執しすぎると応募できる企業の選択肢が極端に狭まってしまいます。就職できない理由の一つとして、希望条件が高すぎることが挙げられています。
支援員と相談しながら、自分の希望条件に優先順位をつけましょう。「これだけは譲れない」という絶対条件と、「できればそうだと嬉しいが、妥協も可能」という条件を整理します。例えば、「職場の雰囲気や配慮体制」を最優先にするなら、「雇用形態は契約社員からスタートでも可」と考えるなど、視野を広げることで、思わぬ優良企業との出会いの可能性が広がります。
2025年10月から、障害者総合支援法に基づく新たなサービス「就労選択支援」が開始されます。これは、従来の就労支援のあり方を大きく変える可能性を秘めた、非常に重要な制度です。
就労選択支援は、一言で言えば、本格的な就労訓練(就労移行支援など)に入る前の「アセスメント(評価・見極め)」に特化したサービスです。その最大の目的は、障害のある方が自分に合った働き方や就労系サービス(就労移行支援、就労継続支援A型・B型など)を、利用開始前にじっくりと見極め、サービスのミスマッチを防ぐことにあります。2025年10月以降、これらの就労系サービスを新たに利用する場合、原則としてこの就労選択支援の利用が必須となります。
就労選択支援では、主に以下のような支援が提供されます。
この制度を利用する最大のメリットは、「自分に合わない支援に2年間を費やしてしまう」という最大のリスクを、本格的な訓練開始前に回避できる点です。「一般就労を目指せると思っていたけど、まずは生活リズムを整えることから始めたい」「事務職より、体を動かす仕事の方が向いているかもしれない」といった気づきを、早期に得ることができます。これにより、利用者はより納得感を持って次のステップに進むことができ、結果として長期的な就労継続に繋がることが期待されています。
多くの困難を乗り越えて掴んだ就職。しかし、本当のスタートはここからです。就職はゴールではなく、長く働き続けるための「始まり」に過ぎません。このセクションでは、職場で直面するであろう課題を乗り越え、安定して働き続けるための具体的なセルフマネジメント術、コミュニケーションのコツ、そして外部支援の活用法を解説します。
職場という新しい環境に適応していくためには、自分自身をマネジメントし、周囲と円滑なコミュニケーションを図るスキルが不可欠です。一人で抱え込まず、適切な方法で周囲の理解と協力を得ることが、定着の鍵となります。
合理的配慮を求めることは、決して「わがまま」や「特別扱い」の要求ではありません。あなたが能力を最大限に発揮し、会社に貢献するために必要な「調整」です。しかし、その伝え方にはコツがあります。
ポイントは、「できないこと(苦手なこと)」だけでなく、「どうすればできるか(代替案)」をセットで具体的に伝えることです。
このように代替案を提示することで、相手は具体的なアクションを取りやすくなり、あなたをサポートしやすくなります。これは、あなたが「働く意欲があり、課題解決のために主体的に考えている」というポジティブな印象を与えることにも繋がります。
職場の人間関係は、定着を左右する最も大きな要因の一つです。孤立を防ぎ、良好な関係を築くためには、日々の小さなコミュニケーションの積み重ねが重要です。
精神・発達障害のある方は、ストレスに気づきにくかったり、気づいても我慢してしまったりする傾向があります。無理を重ねて心身の調子を崩してしまう前に、自分の状態を客観視し、早めに対処する習慣をつけましょう。
職場の問題は、社内の人間関係が絡むため、上司や同僚には相談しにくいこともあります。そんな時、あなたの味方になってくれるのが外部の支援機関です。社内だけで解決しようとせず、客観的な視点を持つ専門家を頼ることは、非常に賢明な戦略です。
前述の通り、就労定着支援は、就職後6ヶ月から最長3年間、あなたの職場定着をサポートしてくれるサービスです。支援員があなたと企業の「仲立ち」となり、以下のようなサポートを提供します。
就労移行支援を利用して就職した場合、その事業所が定着支援も行っていれば、スムーズに移行できます。行っていない場合でも、他の定着支援事業所を紹介してもらえるので、必ず就職後6ヶ月が経過する前に相談しましょう。
「なかぽつ」という愛称で知られるこの機関は、その名の通り、「就業面」と「生活面」の両方を一体的に支援してくれる、地域に根差した身近な相談窓口です。ハローワークや福祉施設、医療機関などと連携しながら、幅広いサポートを提供しています。
仕事の悩みはもちろん、「金銭管理がうまくいかない」「休日の過ごし方が分からない」「家族との関係で悩んでいる」といった生活全般の相談にも乗ってくれます。仕事の安定は、生活の安定と密接に結びついています。生活面での基盤が揺らいでいると感じたら、ぜひ「なかぽつ」に相談してみてください。
ジョブコーチは、職場に直接訪問し、より実践的で具体的なサポートを提供する専門家です。地域障害者職業センターなどに在籍しており、企業や本人の要請に応じて派遣されます。
ジョブコーチの支援は非常に具体的です。
「どうしてもこの業務が覚えられない」「上司とのコミュニケーションがうまくいかない」といった具体的な課題に直面した時、ジョブコーチは非常に頼りになる存在です。
最善を尽くしても、残念ながら離職に至ってしまうことはあります。そんな時、最も避けなければならないのは、「やっぱり自分はダメなんだ」と自己否定に陥り、次の一歩を踏み出す気力を失ってしまうことです。このセクションでは、離職という経験を未来への糧に変え、再び前を向くための考え方と具体的な選択肢を提示します。
離職は、決してあなたの価値を否定するものではありません。むしろ、「自分に合う働き方」を見つけるための、極めて重要な「データ収集」の機会と捉え直すことが重要です。
感情的にならず、冷静に、何がうまくいかなかったのかを分析してみましょう。就労移行支援の支援員や、ハローワークの相談員など、第三者と一緒に振り返るのが効果的です。
【振り返りの視点】
- 業務内容:どんな業務が楽しく、どんな業務が苦痛だったか?(例:単純作業は飽きてしまう、複数のタスクを同時にこなすのは無理だった)
- 職場環境:物理的な環境(騒音、光)や、職場の雰囲気はどうだったか?(例:電話が鳴り響くオフィスは集中できなかった、静かな環境が良かった)
- 人間関係:どんな上司や同僚となら、うまくやれそうか?どんなコミュニケーションが苦手だったか?(例:指示が明確な人が良かった、雑談が多いのが苦手だった)
- 勤務条件:勤務時間、通勤時間、給与などは適切だったか?(例:フルタイムは体力が持たなかった、通勤ラッシュが大きなストレスだった)
これらの分析から得られるのは、「自分はダメだ」という結論ではなく、「自分には、こういう業務内容で、こういう環境で、こういう人間関係の職場で、こういう勤務条件なら、うまくやれる可能性が高い」という、次につながる具体的な仮説です。この貴重な「自分に関するデータ」は、次の職場や支援機関を選ぶ際の、何より確かな羅針盤となります。
「働く」=「一般企業で週5日フルタイム勤務」という固定観念に縛られる必要はありません。離職という経験は、自分にとっての「働く」の定義を見つめ直す良い機会です。今のあなたにとって、最適な働き方は他にあるかもしれません。
焦って一般就労に再挑戦するのではなく、一度立ち止まり、今の自分の体調やスキルに合ったステップを踏むことが、結果的に「長く働く」への近道になることも多いのです。
上のグラフは、就職後3ヶ月未満で離職した人の理由を示しています。「労働条件が合わない」「業務遂行が困難」といった初期のミスマッチが大きな割合を占めていることからも、最初から完璧なマッチングを目指すことの難しさがわかります。だからこそ、多様な選択肢の中から、今の自分に合ったスモールステップを選ぶことが重要なのです。
一度離職すると、「また支援機関に相談に行くのは気まずい」「迷惑がられるのではないか」と感じてしまうかもしれません。しかし、それは全くの誤解です。支援機関は、まさにそうした時に頼るために存在するのです。
一人で悩んでいても、視野は狭くなるばかりです。専門家の客観的な視点を取り入れることで、自分では思いつかなかった道が見えてくることもあります。勇気を出して、再び相談のドアを叩いてみましょう。
本記事では、「なぜ就労移行支援を使っても仕事が続かないのか」という問いに対し、それが個人の責任だけでなく、「本人・企業・支援」の三者間に横たわる構造的なミスマッチの結果であることを、データと具体的な事例を交えて解き明かしてきました。
改めて要点を振り返りましょう。
もしかしたら、この記事を読んでいる今も、あなたは将来への不安や過去の経験に対する無力感に苛まれているかもしれません。しかし、忘れないでください。日本には、あなたの「働きたい」という気持ちを支えるための、就労移行支援、就労選択支援、就労定着支援、ジョブコーチ、なかぽつといった、数多くの制度と専門家が存在します。
大切なのは、一人で抱え込まないこと。そして、完璧を目指さず、焦らず、諦めないことです。一つの職場、一つの働き方が合わなかったとしても、それはあなたの可能性が閉ざされたことを意味しません。むしろ、新たな可能性の扉が開かれたサインです。
この記事で得た知識と視点を武器に、ぜひ次の一歩を踏み出してください。試行錯誤の先に、あなたが心から安心して、自分らしく能力を発揮できる「働き方」は、必ず見つかります。