コラム 2026年1月20日

大人の発達障害・ADHD向け「就労移行支援」徹底活用ガイド|相談から就職、定着まで

その「生きづらさ」、あなたのせいではありません

「複数の仕事を同時に頼まれると、頭が真っ白になってパニックになる」
「何度も確認したはずなのに、書類の誤字脱字やメールの宛先間違いがなくならない」
「机の上がいつも書類の山で、大切なものまで失くしてしまう」
「『すぐやろう』と思っていたのに、気づけば締め切り直前でいつも焦っている」

もし、あなたが職場でこのような経験を繰り返し、自分を責め続けているとしたら、まず知ってほしいことがあります。その「生きづらさ」や「働きにくさ」は、あなたの努力不足や性格の問題では決してありません。それは、ADHD(注意欠如・多動症)という、生まれ持った脳の特性に起因している可能性が高いのです。

かつてADHDは子どもの発達障害として認識されていましたが、近年、その特性が大人になっても残り、社会生活、特に職業生活において様々な困難を引き起こすことが広く知られるようになりました。特に、学生時代は目立たなかったものの、就職を機に自分でタスク管理や計画立案を求められるようになり、初めて困難に直面する「大人のADHD」のケースが増えています。本人の能力を社会的な要求が上回ったとき、初めてその特性が顕在化するのです。

しかし、絶望する必要はありません。これらの「困りごと」を一人で抱え込み、根性論で乗り越えようとする時代は終わりました。あなたの特性を正しく理解し、専門的なサポートを受けながら「自分に合った働き方」を見つけるための公的な福祉サービスが存在します。それが、この記事で徹底的に解説する「就労移行支援」です。

この記事は、大人のADHDの特性に悩むあなたが、就労移行支援という羅針盤を手に入れるための「地図」となることを目指しています。就労移行支援があなたの「困りごと」に具体的にどうアプローチするのか、どうすれば自分に最適な支援機関(事業所)を見つけられるのか、そして実際に利用を開始するまでのステップは何か。これらの問いに、網羅的かつ具体的に答えていきます。この記事を読み終える頃には、漠然とした不安が具体的な行動計画に変わり、新しい未来への第一歩を踏み出す勇気が湧いてくるはずです。

大人のADHD、仕事における「強み」と「弱み」

この記事の前提となる「自己理解」の重要性

就労移行支援という航海に出る前に、まず手に入れるべき最も重要なコンパスは「自己理解」です。自分の特性を客観的に、そして深く知ること。それは、単に自分の欠点と向き合うことではありません。むしろ、自分の取扱説明書を作成し、どのような環境で、どのような工夫をすれば、自分の能力を最大限に発揮できるのかを理解するプロセスです。就労移行支援では、この自己理解を深めることが支援の出発点となります。なぜなら、自分の「弱み(困りごと)」への対策と、「強み」を活かせる仕事探しの両輪が、持続可能で満足度の高いキャリアを築く上で不可欠だからです。

この章では、ADHDの特性が職場でどのように「弱み」として現れるかを整理し、同時に、それらの特性が裏返せばいかに強力な「強み」になり得るかを見ていきます。この両面性を理解することが、就労移行支援を効果的に活用するための第一歩となります。

ADHDの特性がもたらす「弱み(困りごと)」の整理

ADHDの主な特性は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分類されます。これらが単独、あるいは複合的に影響し合い、職場で様々な困難を引き起こします。ここでは、学術的な解説ではなく、具体的な「職場の困りごと」として整理します。

  • 不注意 (Inattention): 集中力を持続させたり、細部に注意を払ったりすることが難しい特性です。
    • 具体例: 書類の誤字脱字、計算ミス、メールの添付忘れといったケアレスミスを繰り返す。会議中に他のことを考えてしまい、内容が頭に入らない。重要な指示を聞き逃す。物をどこに置いたか忘れ、常に探し物をしている。
  • 多動性 (Hyperactivity): じっとしていることが苦手で、常に体を動かしていたいという衝動です。大人になると、身体的な動きだけでなく、思考の多動として現れることもあります。
    • 具体例: デスクワーク中に貧乏ゆすりが止まらない。会議中に席を立ちたくなる。絶えず頭の中で別のアイデアや考えが駆け巡り、目の前の作業に集中できない(思考の多動)。
  • 衝動性 (Impulsivity): 結果をよく考えずに行動してしまったり、感情や欲求を抑えることが難しかったりする特性です。
    • 具体例: 相手の話が終わる前に口を挟んでしまう。思いついたことをすぐ口に出してしまい、失言につながることがある。計画を立てずに新しい仕事に飛びついてしまう。
  • 実行機能の課題 (Executive Dysfunction): 上記3つの特性の根底にある、より高次の認知機能の課題です。目標達成のために行動を計画し、整理し、実行する一連のプロセスに困難が生じます。
    • 具体例: 仕事の段取りを立てるのが苦手で、どこから手をつけていいかわからない。複数のタスクの優先順位付けができない。作業時間の見積もりが甘く、締め切りに間に合わない(先延ばし)。長期的なプロジェクトの計画管理が極端に苦手。

これらの「困りごと」は、本人のやる気や能力が低いからではなく、脳機能の特性によるものです。この事実を認識し、自分を責めるのをやめることが、次へのステップに進むためのエネルギーを生み出します。

ADHDの特性がもたらす「強み」への光の当て方

ADHDの特性は、文脈や環境が変われば、弱みではなく強力な「強み」となり得ます。多くの成功した起業家やクリエイター、研究者にADHDの特性を持つ人がいることは、その証左です。就労移行支援の目的の一つは、これらの強みを輝かせることができる職場環境を見つけることです。

  • 過集中 (Hyperfocus): 不注意の裏返しとも言える特性です。興味や関心を持った特定の対象に対して、時間を忘れるほど没頭し、驚異的な集中力を発揮します。
    • 活かせる仕事: 研究職、プログラマー、デザイナー、作家など、特定の分野を深く掘り下げる専門職。
  • 独創的な発想力 (Creativity): 思考が常に様々な方向に飛ぶ「思考の多動」は、常識にとらわれないユニークなアイデアや、誰も思いつかない問題解決策を生み出す源泉となります。
    • 活かせる仕事: 企画・マーケティング、商品開発、アートディレクター、コンサルタントなど、新しい発想が求められる職種。
  • 行動力・瞬発力 (Action-oriented): 衝動性は、リスクを恐れずに行動に移せるエネルギーにもなります。考え込む前に行動できるため、スピード感が求められる場面で力を発揮します。
    • 活かせる仕事: 営業、スタートアップ企業の立ち上げメンバー、イベント運営、ジャーナリストなど、フットワークの軽さが武器になる職種。
  • 好奇心と情熱 (Curiosity and Passion): 次々と新しいことに興味が移る特性は、幅広い知識や経験を吸収する原動力になります。好きなことに対する情熱は、周囲を巻き込む力も持っています。
    • 活かせる仕事: 複数のプロジェクトを同時に手がける仕事、トレンドを追う仕事、新しい技術を学ぶITエンジニアなど。
重要な視点

就労移行支援は、単に「弱み」を補う訓練をする場所ではありません。むしろ、これらの「強み」を自己分析を通じて再発見し、その強みが最大限に活かされる職業や職場環境は何かを、専門家と共に探求していく場所なのです。企業側の適切な理解と配慮があれば、ADHDの特性は事業を担う高い成果に繋がる事例も生まれています。あなたの「困りごと」の裏には、まだ開花していない才能が眠っているのです。

就労移行支援とは?- あなたの「働く」を支える公的サービス

自己理解を深めた上で、次に取り組むべきは、具体的な支援策を知ることです。その中核となるのが「就労移行支援」です。言葉は聞いたことがあっても、具体的に何をしてくれる場所なのか、よく知らない方も多いでしょう。この章では、就労移行支援の全体像を分かりやすく解説します。

就労移行支援の基本を3つのポイントで解説

就労移行支援は、複雑に見えるかもしれませんが、その本質は3つのポイントに集約できます。

  1. 目的:一般企業への就職と「定着」
    就労移行支援の最大の目的は、障害や難病のある方が、一般企業で働き、そして「長く働き続けること(職場定着)」です。単に就職先を見つけるだけでなく、就職後に職場で直面するであろう課題を乗り越え、安定して働き続けられるよう支援することに重きが置かれています。就職後も最長3年半(就職後6ヶ月+その後最長3年)の定着支援が受けられるのが大きな特徴です。
  2. 根拠:国が定めた公的な福祉サービス
    就労移行支援は、ボランティアや民間の独自サービスではなく、「障害者総合支援法」という法律に基づいて提供される公的な福祉サービスです。これにより、サービスの質や人員配置、設備などに国の基準が設けられており、利用者は安心して支援を受けることができます。また、公的サービスであるため、利用料金も所得に応じた負担軽減措置が講じられています。
  3. 特徴:一人ひとりに合わせたオーダーメイドの支援
    一般的な職業訓練校とは異なり、就労移行支援では「個別支援計画」が作成されます。これは、利用者一人ひとりの障害特性、強み・弱み、希望するキャリアなどを丁寧にアセスメント(評価)し、目標達成までの道のりを具体的に描いたオーダーメイドの計画書です。この計画に基づき、生活リズムの安定から専門スキルの習得、就職活動、職場定着まで、一貫したパーソナルなサポートが提供されます。

利用できるのはどんな人?

就労移行支援は、特定の条件を満たす方が利用できます。自分が対象になるか不安に思う方も多いですが、対象者は意外と広範です。

対象者

原則として、以下の3つの条件をすべて満たす方が対象です。

  • 障害や難病がある方: 身体障害、知的障害、精神障害(うつ病、統合失調症など)、そしてADHDを含む発達障害、その他、国が定める難病(366疾病)のある方が対象です。
  • 18歳以上65歳未満の方: 原則としてこの年齢範囲の方が対象ですが、一定の条件を満たせば65歳以上でも利用継続が可能な場合があります。(
  • 一般企業への就職を希望している方: 福祉的就労ではなく、一般企業で働くことを目指している、またはその可能性があると見込まれる方が対象です。休職中の方も、復職を目指す場合に利用できることがあります。

障害者手帳は必須?

これは非常によくある質問ですが、結論から言うと、障害者手帳は必ずしも必須ではありません。
医師による診断書や、「自立支援医療」などを利用していることを証明する書類があれば、自治体の判断によって利用が認められるケースが多くあります。実際に、LITALICOワークスなどの大手事業所では、手帳を持っていない方の利用実績も多数報告されています。自分が対象になるか分からない場合は、まずはお住まいの市区町村の障害福祉窓口や、気になる就労移行支援事業所に直接相談してみることが最も確実です。

類似サービスとの違いを明確化

「働く」を支援する福祉サービスには、就労移行支援の他に「就労継続支援」があります。この2つは目的が大きく異なるため、違いを正しく理解しておくことが重要です。間違ったサービスを選ぶと、本来の目標から遠回りしてしまう可能性があります。

サービス種別 目的 働く場所 雇用契約 利用期間 向いている人
就労移行支援 一般企業への就職と職場定着 訓練は事業所内、就職先は一般企業 なし(訓練として通う) 原則2年間 一般企業で働くためのスキルや準備をしたい人
就労継続支援A型 福祉事業所等で働きながらスキル向上を目指す 支援事業所 あり(雇用型) 定めなし すぐに一般企業で働くのは難しいが、雇用契約を結んで安定して働きたい人
就労継続支援B型 福祉事業所等で自分のペースで生産活動を行う 支援事業所 なし(非雇用型) 定めなし 体調に合わせて、短い時間から働くことに慣れていきたい人

簡単に言えば、「就職予備校」のような役割を担うのが就労移行支援、「福祉的な配慮のある職場そのもの」を提供するのが就労継続支援です。ADHDの特性を持ちながらも、いずれは一般企業で自分の強みを活かして働きたいと考えている方にとっては、まず検討すべきは「就労移行支援」となります。就労移行支援を利用しても就職に結びつかなかった場合に、継続支援A型やB型へ移行するというステップも考えられます。

【本題】ADHDの特性に、就労移行支援はどうアプローチする?

ここからがこの記事の核心部分です。就労移行支援が、大人のADHDが抱える具体的な「困りごと」に対して、どのようなプログラムやアプローチで解決の糸口を見つけていくのかを、5つの課題に分けて詳しく解説します。あなたが今まさに直面している悩みが、どのように支援に結びつくのかをイメージしながら読み進めてください。

1. 生活リズムの乱れ・体調管理の難しさに対して

ADHDの特性を持つ方の中には、不規則な生活や睡眠の問題を抱えているケースが少なくありません。安定して働くためには、まず生活の土台を整えることが不可欠です。就労移行支援では、この最も基本的な部分からサポートを開始します。

支援内容

  • 通所による生活リズムの確立: 「毎日決まった時間に起き、準備をして、事業所へ行く」という行動そのものが、最も効果的な通勤訓練となります。引きこもりがちな状態から、いきなり毎日出勤するのは非常に困難ですが、支援のある環境で徐々に体を慣らしていくことができます。採用担当者は「安定して出勤できるか」を非常に重視するため、通所実績は就職活動における強力なアピール材料になります。
  • 自己管理プログラム: 自分の体調や気分の波を客観的に把握し、対処法を学ぶプログラムです。日々の体調を記録するシートを使ったり、ストレスを感じた時のサインに気づく練習をしたりします。また、アンガーマネジメント(怒りの感情コントロール)やストレスコーピング(ストレス対処法)といった心理教育的なプログラムを通じて、感情の波に振り回されず、セルフケアできる力を養います。
  • 運動プログラム: ウォーキング、ストレッチ、ヨガなど、軽い運動を取り入れている事業所も多くあります。適度な運動は、体力の向上だけでなく、気分の安定や集中力の向上にも繋がることが科学的に証明されています。

2. コミュニケーションや対人関係の苦手さに対して

衝動的に相手の話を遮ってしまったり、場の空気を読むのが苦手だったり、あるいは逆に人との関わりに強い不安を感じたりと、ADHDの方は対人関係で困難を抱えがちです。職場での人間関係は離職の大きな原因となるため、就労移行支援では実践的な対人スキルの習得を重視します。

支援内容

  • ビジネスマナー訓練: 挨拶、お辞儀の仕方、名刺交換、電話応対、来客対応といった基本的なビジネスマナーを、座学とロールプレイング(役割演技)を交えて学びます。特に、職場での円滑な人間関係の要である「報告・連絡・相談(報連相)」については、どのようなタイミングで、誰に、何を、どのように伝えるかを具体的に練習します。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング): 社会生活技能訓練とも呼ばれます。職場でありそうな具体的な場面(例:上司に仕事を依頼する、同僚の誘いを上手に断る、雑談に加わる、ミスを謝罪する)を設定し、グループでロールプレイを行います。他の人のやり方を見たり、スタッフからフィードバックをもらったりすることで、自分のコミュニケーションの癖に気づき、より適切な表現方法を身につけていきます。
  • グループワーク: ディスカッションや共同作業を通じて、他者の意見を聞く「傾聴」の姿勢や、自分の意見を分かりやすく伝える「表現」のスキルを養います。例えば、「ボールペンを3万円で売るには?」といったテーマで議論することで、楽しみながら協調性や問題解決能力を学ぶことができます。

3. タスク管理・段取り・時間感覚の課題に対して

ADHDの特性の中核とも言える「実行機能」の課題は、仕事のパフォーマンスに直結します。就労移行支援では、この課題に対して、ツールの活用と認知・行動の両面からアプローチします。

支援内容

  • PCスキル・事務訓練: WordやExcelといった基本的なPCスキルだけでなく、OutlookやGoogle Calendarなどのスケジュール管理ツール、TrelloやAsanaなどのタスク管理ツールの使い方を学びます。口頭での指示を忘れてしまいがちなADHDの特性に対し、指示をテキストで記録し、タスクリストを作成する習慣を身につけることは極めて有効です。
  • 認知行動療法的アプローチ: 認知行動療法(CBT)は、自分の「認知(考え方の癖)」が感情や行動にどう影響しているかに気づき、より現実的でバランスの取れた考え方ができるように働きかける心理療法です。例えば、「ミスをしたら全てが終わりだ」という完璧主義的な思考を、「今回はミスをしたが、以前は上手くいった。このミスから学んで次に活かそう」という柔軟な思考に変える練習をします。先延ばし行動に対しては、タスクを細かく分解(スモールステップ化)し、一つ終えるごとに自分を褒めるなど、行動を促すための具体的な戦略を学びます。
  • 模擬就労: 事業所内を実際のオフィスに見立て、スタッフが「上司」、他の利用者が「同僚」となってチームで業務に取り組む訓練です。上司役から複数の指示を受け、優先順位を考え、納期を意識しながら作業を進めます。途中で質問や相談(報連相)をしながら進めることで、リアルな職場環境での立ち回りを安全な場所でシミュレーションできます。
  • 時間管理の訓練: ADHDの方は時間の経過を体感しにくく、作業時間の見積もりが苦手な傾向があります。そこで、タイマーやアラームを活用し、「この作業を15分でやる」と決めて取り組む「ポモドーロ・テクニック」などを実践します。作業にかかった時間を記録(タイムログ)することで、自分の作業ペースを客観的に把握し、より現実的な計画を立てられるようになります。

4. 自分に合う仕事がわからない・強みを活かせない問題に対して

「自分にはどんな仕事が向いているんだろう?」「自分の強みって何だろう?」これは、多くの人が抱える根源的な問いです。就労移行支援では、この問いにじっくりと向き合うためのプログラムが用意されています。

支援内容

  • 自己分析・職業適性診断: 支援員との定期的な面談を通じて、これまでの職歴や人生経験を振り返り、成功体験や失敗体験から自分の価値観、得意・不得意を言語化していきます。客観的なツール(職業興味検査など)を用いることもあります。このプロセスを通じて、前述したADHDの「強み」(過集中、発想力など)を再認識し、それを活かせる仕事の方向性を探ります。
  • 企業研究・業界研究: 世の中には自分が知らない仕事が無数にあります。プログラムを通じて様々な業界や職種について学ぶことで、視野を広げ、新たな可能性に気づくことができます。事業所によっては、様々な企業の人事担当者を招いて話を聞く機会を設けていることもあります。
  • 職場実習(インターンシップ): これが最も重要なプログラムの一つです。実際に興味のある企業へ数日間から数週間通い、仕事を体験します。「静かな環境の方が集中できる」「裁量権がある仕事の方がやる気が出る」「単純作業の繰り返しは苦痛だ」など、自分に合う職場環境や業務内容を、頭で考えるだけでなく「体感」として理解できます。企業側にとっても、利用者の働きぶりを直接見てもらうことで、採用へのハードルが下がるというメリットがあり、実習先がそのまま就職先になるケースも少なくありません。
  • 専門スキルの習得: 多くの事業所では基本的なPCスキルに加えて、より専門的なスキルを学べるプログラムを提供しています。近年では、プログラミング、Webデザイン、データ分析、CADなど、先端IT領域に特化した事業所も増えています。ADHDの「過集中」の特性は、こうした専門スキルの習得と相性が良く、高い専門性を身につけることで、就職先の選択肢を広げ、より良い待遇を得ることも可能になります。

5. 就職活動そのものへの不安に対して

いざ就職活動となると、書類作成や面接など、新たなハードルが待ち構えています。一人での就職活動は孤独で、心が折れそうになることもありますが、就労移行支援では支援員が二人三脚で伴走してくれます。

支援内容

  • 応募書類の作成支援: 履歴書や職務経歴書の書き方を基礎から学びます。特に重要なのが、自分の障害特性と必要な配慮(合理的配慮)を企業にどう伝えるかです。「口頭での指示は忘れやすいので、チャットやメールでも指示をいただけると助かります」「集中するために、パーテーションのある席を希望します」など、自分の「弱み」を「対策可能な課題」として前向きに伝えるための表現を、支援員と一緒に考え、書類に落とし込んでいきます。
  • 模擬面接: 実際の面接を想定した練習を、何度も繰り返し行います。入退室のマナーから、自己PR、志望動機、障害に関する説明まで、一通りの流れを実践します。ビデオに撮って客観的に自分の姿を確認したり、支援員から具体的なフィードバックをもらったりすることで、自信を持って本番に臨めるようになります。
  • 面接同行: 希望や必要性に応じて、支援員が実際の面接に同行してくれる場合があります。隣に支援員がいるだけで緊張が和らぎますし、本人がうまく説明できなかった部分を補足してくれたり、企業側からの質問の意図を分かりやすく解説してくれたりといったサポートが受けられます。(※企業の許可が必要です)
  • 求人開拓とマッチング: ハローワークの求人に加えて、事業所が独自に開拓した企業(障害者雇用に理解があり、過去に採用実績のある企業など)の求人を紹介してもらえることもあります。支援員は利用者の特性を熟知しているため、求人票だけでは分からない企業の雰囲気や業務内容と、利用者の適性を見極めた上で、マッチングの高い求人を提案してくれます。
關鍵要點

就労移行支援は、ADHDの各特性が引き起こす困難に対し、「環境調整」「スキル獲得」「自己理解」「認知・行動変容」という多角的なアプローチで包括的にサポートします。一人で闇雲に努力するのではなく、専門家と共に戦略的に課題を解決していく。それが就労移行支援の本質です。

失敗しない!ADHDの特性に合った就労移行支援事業所の選び方

「どこが一番良いか」ではなく、「自分にとって合っているかどうか」という視点で選ぶこと。これが、就労移行支援事業所選びで最も重要な心構えです。事業所は全国に約2,800ヶ所あり、それぞれプログラム内容、雰囲気、得意分野が大きく異なります。ミスマッチは、貴重な利用期間(原則2年)を無駄にしかねません。ここでは、ADHDの特性を持つあなたが、自分に最適な事業所を見つけるための7つのチェックポイントを解説します。

ポイント① プログラム内容

まず、自分の課題や目標に合ったプログラムが提供されているかを確認します。事業所は大きく「総合型」と「専門特化型」に分かれます。

  • 総合型: ビジネスマナー、コミュニケーション、軽作業、PC基礎など、幅広いプログラムを提供。まだ自分のやりたいことが明確でない方や、基礎からじっくり学びたい方に向いています。
  • 専門特化型: IT(プログラミング、Webデザイン)、事務、デザイン、CADなど、特定の職種に特化した高度なスキル習得を目指します。ADHDの「過集中」を活かして専門職を目指したい方には魅力的です。

チェックポイント: あなたが最も解決したい課題(例:対人スキル、PCスキル、時間管理)に対応するプログラムは充実していますか?そのレベルはあなたの現状に合っていますか?

ポイント② ADHDへの支援実績・就職実績

事業所全体の就職率も大切ですが、より重要なのは「発達障害、特にADHDの利用者の支援実績」です。希望する職種(例:事務職、ITエンジニア)での就職実績が豊富であれば、その分野のノウハウや企業とのパイプが期待できます。

チェックポイント: 見学時に「私と同じようなADHDの特性を持つ方は、これまでどのような職種に就職されていますか?」と具体的に質問してみましょう。就職者数だけでなく、その後の「職場定着率」まで確認できると、より支援の質を判断できます。

ポイント③ 支援員の専門性と相性

支援の質は、支援員の質に大きく左右されます。発達障害に関する知識や、企業の人事担当者との交渉経験が豊富なスタッフがいると心強いです。資格(精神保健福祉士、キャリアコンサルタントなど)の有無も一つの目安になります。

しかし、それ以上に大切なのが「相性」です。どんなに優れたプログラムがあっても、支援員に「相談しにくい」と感じてしまっては意味がありません。あなたの話を親身に聞いてくれ、安心して本音を話せる相手かどうかを見極めましょう。

チェックポイント: 見学時の面談担当者の対応は丁寧でしたか?あなたの悩みや不安をしっかりと受け止めてくれましたか?

ポイント④ 事業所の雰囲気

ADHDの方は、環境からの刺激に敏感な場合があります。事業所の物理的な環境や雰囲気は、通い続けられるかどうかを左右する重要な要素です。

  • 静かで集中しやすい環境か: パーテーションで区切られた個別ブースがあるか、騒音はどの程度か。
  • 利用者同士の交流の度合い: グループワークが中心で活気があるか、個別訓練が中心で静かか。どちらが自分に合っているかは人それぞれです。

チェックポイント: 実際にプログラムが行われている時間帯に見学し、その場の「空気感」を肌で感じてみましょう。「ここなら落ち着いて過ごせそう」という直感も大切です。

ポイント⑤ 通いやすさ

見落としがちですが、物理的な通いやすさは非常に重要です。自宅からの距離、交通の便、交通費などを考慮し、無理なく通い続けられる場所を選びましょう。週5日の通所が基本ですが、体調に合わせて通所日数を調整できるかどうかも確認しておくと安心です。

また、近年は在宅での訓練を選択できる事業所も増えています。対人不安が強い方や、遠方にお住まいの方にとっては、在宅訓練は有力な選択肢となります。

チェックポイント: 毎日の通勤をシミュレーションしてみて、心身の負担はどのくらいか想像できますか?在宅訓練の可否やその条件はどうなっていますか?

ポイント⑥ 職場定着支援の手厚さ

就職はゴールではなく、スタートです。就職後に壁にぶつかった時、相談できる場所があるかどうかは、長く働き続ける上で決定的に重要です。法律で定められた就職後6ヶ月間の支援はもちろん、その後も継続してサポートしてくれる体制があるかを確認しましょう。

チェックポイント: 定着支援の具体的な内容(面談の頻度、企業訪問の有無、休日や夜間の相談対応など)について詳しく聞いてみましょう。定着率の実績が高い事業所は、この部分のサポートが手厚い傾向があります。

ポイント⑦ 見学・体験利用の対応

最終的に自分に合うかどうかを判断する最良の方法は、実際に見学し、体験利用することです。複数の事業所(最低でも2〜3ヶ所)を見学・体験し、比較検討することが、ミスマッチを防ぐ最大の秘訣です。

見学時のスタッフの対応は、その事業所の姿勢を映す鏡です。質問に丁寧に答えてくれるか、無理な勧誘はないか、利用者の立場に立って考えてくれるかなどをチェックしましょう。

チェックポイント: 見学や体験利用は可能ですか?その際のプログラム内容はどのようなものですか?あなたの疑問や不安に対して、誠実な回答が得られましたか?

就労移行支援の利用開始までの5ステップ

「自分に合う事業所が見つかったら、次はどうすればいいの?」ここでは、情報収集から実際の利用開始までの具体的な流れを、5つのステップに分けて解説します。一つひとつのステップは難しくありません。支援員もサポートしてくれるので、安心して進めましょう。

ステップ1:情報収集と比較検討

まずは、あなたの住む地域にどのような就労移行支援事業所があるのかを知ることから始めます。

  • インターネットで検索: 「〇〇市 就労移行支援 発達障害」「〇〇駅 就労移行支援 IT」などのキーワードで検索すると、多くの事業所が見つかります。
  • 自治体の窓口で相談: お住まいの市区町村の障害福祉課などの窓口に行けば、地域の事業所リストをもらえたり、相談に乗ってもらえたりします。

この段階で、2〜4ヶ所ほど気になる事業所をリストアップしておきましょう。

ステップ2:問い合わせと見学予約

リストアップした事業所に、電話またはウェブサイトの問い合わせフォームから連絡し、見学・個別相談の予約を取ります。「まだ利用を決めたわけではないのですが、お話だけでも聞けますか?」と伝えれば大丈夫です。

  • 持ち物: 特に指定はありませんが、メモとペンは持参しましょう。質問したいことをまとめたメモがあるとスムーズです。この時点では障害者手帳や診断書は不要です。
  • 服装: 清潔感のある私服で問題ありません。スーツを着ていく必要はありません。

ステップ3:見学・個別相談・体験利用

予約した日時に事業所を訪問します。ここで、前章で解説した「7つのチェックポイント」を自分の目で確かめます。多くの事業所では、見学後に個別相談の時間が設けられており、あなたの状況や悩みについて詳しく話を聞いてくれます。可能であれば、実際のプログラムを体験させてもらう「体験利用」を申し込みましょう。半日〜数日間、他の利用者と一緒に過ごすことで、ウェブサイトだけでは分からないリアルな雰囲気を知ることができます。

ステップ4:利用申請(自治体窓口)

比較検討の結果、「この事業所を利用したい」という場所が決まったら、正式な利用手続きに入ります。手続きは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行います。

  1. 窓口で「就労移行支援を利用したい」と伝えます。
  2. 「サービス等利用計画案」の作成が必要になります。これは、どのような支援を必要としているかをまとめた計画書です。通常は自治体が指定する「指定特定相談支援事業者」に作成を依頼しますが、このプロセスは利用予定の就労移行支援事業所がサポートしてくれることが多いので、まずは事業所に相談しましょう。
  3. 必要な書類(申請書、医師の診断書や障害者手帳のコピーなど)を提出します。

手続きが複雑に感じるかもしれませんが、事業所のスタッフが丁寧に教えてくれるので心配いりません。

ステップ5:受給者証の交付と利用契約

自治体での審査(約1〜2ヶ月かかる場合がある)を経て、利用が認められると、自宅に**「障害福祉サービス受給者証」**が郵送されてきます。この受給者証を持って、利用を決めた事業所へ行き、正式に利用契約を結びます。契約が完了すれば、いよいよ個別支援計画に基づいた訓練のスタートです。

よくある質問(FAQ)

就労移行支援の利用を検討するにあたり、多くの方が抱く疑問についてお答えします。

Q1. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 利用料金は、前年の世帯所得に応じて決まりますが、国の制度により9割が公費で賄われるため、自己負担は最大でも1割です。さらに、所得に応じた月額負担上限額が設定されています。具体的なデータによると、約9割の方が自己負担0円(無料)で利用しています。ここでいう「世帯」とは、18歳以上の場合は「本人と配偶者」のみを指し、親や兄弟と同居していても、彼らの収入は計算に含まれません。前年の収入が住民税非課税の範囲内であれば、自己負担は0円となります。

Q2. 利用期間はどのくらいですか?

A. 原則として最長2年間(24ヶ月)です。ただし、自治体の審査により、必要性が認められれば最大1年間の延長が可能な場合があります。利用開始から就職までの期間は人それぞれで、早い方では3〜6ヶ月、多くの方は半年〜1年半程度で就職を目指します。利用ペースは、一人ひとりの個別支援計画によって柔軟に設定されます。

Q3. 本当に就職できますか?就職率は?

A. はい、多くの方が就職を実現しています。厚生労働省の調査によると、就労移行支援事業所からの一般就労への移行率(就職率)は年々上昇しており、令和5年度には58.8%に達しています。さらに重要なのは就職後の定着率で、就職1年後の職場定着率は、発達障害のある方で71.5%と非常に高い水準です。これは、自分に合った支援を受け、マッチングの高い職場で働くことの効果を示しています。

Q4. 就職先はどんな職種が多いですか?

A. 障害者雇用全体で見ると事務職が最も多いですが、近年は職種の多様化が進んでいます。特に発達障害のある方は、IT・Web関連(プログラマー、Webデザイナー)、クリエイティブ職、専門技術職、研究職など、その特性を強みとして活かせる専門職に就くケースが増えています。その他、軽作業、販売、清掃、サービス業など、本人の適性や希望に応じて多岐にわたります。専門スキルを学べる事業所を選ぶことで、職種の選択肢は大きく広がります。

Q5. 休職中でも利用できますか?

A. はい、利用できる可能性があります。現在お勤めの会社への復職(リワーク)を目指す場合、会社の許可と自治体の判断があれば、就労移行支援を利用できるケースがあります。ただし、自治体や企業の方針によって対応が異なるため、まずは利用を検討している事業所や、お住まいの自治体の障害福祉窓口、会社の産業医や人事部に相談してみることをお勧めします。

まとめ:最初の一歩を踏み出そう

この記事では、大人のADHDが職場で抱える困難から始まり、その特性が強みにもなり得ること、そしてその強みを活かし、弱みをカバーするための強力なツールとして「就労移行支援」が存在することを詳しく解説してきました。

仕事の悩みを一人で抱え込み、自分の努力不足だと責め続ける必要はもうありません。あなたの特性は、変えるべき欠点ではなく、理解し、付き合っていくべき個性です。就労移行支援は、その付き合い方を学び、あなたという唯一無二の存在が最も輝ける場所を、専門家と共に探すための航海図とコンパスを提供してくれます。

私たちは、就労移行支援の仕組み、ADHDの課題への具体的なアプローチ、そして失敗しない事業所の選び方まで、詳細な情報を提供しました。しかし、最も大切なことは、この記事を閉じた後にあなたが起こす「次の一歩」です。

最も大切なのは、複数の事業所を見学し、「ここでなら頑張れそう」と思える場所を、焦らず、自分のペースで選ぶこと。

その一歩は、決して大きなものである必要はありません。まずは、あなたの住む地域の就労移行支援事業所を、スマートフォンの画面で検索してみることから始めてみませんか?気になる事業所が見つかったら、勇気を出して「見学希望」の電話を一本、あるいは問い合わせフォームを一つ送信してみましょう。それは、これまでの生きづらさから抜け出し、自分らしい働き方を手に入れる、新しい未来への確かな一歩になるはずです。

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ご希望の方は施設見学や体験利用も可能です。

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