コラム 2026年1月11日

ADHDの私が「向いてる仕事」で輝く! 精神・発達障害に特化した就労移行支援の完全活用ガイド

なぜ「仕事が続かない」?ADHDの特性とキャリアの悩みを解決する第一歩

「またケアレスミスをしてしまった…」「会議の内容が頭に入ってこない」「タスクの優先順位がつけられず、いつも締め切りに追われる」「同僚との雑談が苦手で、職場で孤立している気がする」。

もしあなたが、このような悩みを日常的に抱えているとしたら、それは決してあなたの努力や能力が足りないからではないかもしれません。これらは、ADHD(注意欠如・多動症)という発達障害の特性によって生じやすい困難の一部です。

何度も転職を繰り返したり、仕事が長続きしなかったりする経験から、「自分に向いてる仕事なんて、この世にないんじゃないか…」と、自信を失い、将来への不安や焦りを感じている方も少なくないでしょう。実際に、ADHDの特性を持つ方を対象としたアンケート調査では、「忘れ物が多い」「タスクが多くなると優先順位が分からなくなる」「重要な業務を忘れがち」といった声が多数寄せられています。

しかし、ここで最も重要なメッセージをお伝えします。それは、ADHDの特性は「弱み」ではなく、環境や仕事内容、そして関わり方次第で、他に類を見ない「強み」に転換できるということです。そのユニークな発想力、興味のあることへの驚異的な集中力(ハイパーフォーカス)、そして枠にとらわれない行動力は、多くの企業が求めるイノベーションの源泉となり得ます。

問題は、その「強み」を最大限に活かせる「場所」と「方法」を、どうやって見つけるかです。一人で暗闇の中を手探りで進むのは、あまりにも困難で、心が折れてしまうかもしれません。そこで、あなたのキャリア航海の羅針盤となるのが、国が定める公的な福祉サービス「就労移行支援」です。

本記事は、ADHDの特性に悩むあなたが、就労移行支援という強力なツールを戦略的に活用し、自分だけの「向いてる仕事」を見つけ、自信を持って長く働き続けるための完全ガイドです。就労移行支援の基本的な仕組みから、ADHDの特性を活かす適職分析、あなたに合った事業所の選び方、そして就職後の安定を支える「合理的配慮」や「定着支援」に至るまで、段階的かつ網羅的に解説していきます。この記事を読み終える頃には、漠然とした不安が具体的な希望へと変わり、次の一歩を踏み出す勇気が湧いてくるはずです。

第1部:まずは基本から理解する「就労移行支援」とは?

「就労移行支援」という言葉を初めて聞く方や、名前は知っていても具体的な内容はよくわからない、という方も多いでしょう。このセクションでは、制度の核心を3つのポイントに絞り、利用への心理的なハードルを下げることを目指して簡潔に解説します。

就労移行支援の3つのポイント

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。その本質を理解するために、以下の3点を押さえておきましょう。

ポイント1:目的は「一般企業への就職」

就労移行支援の最大の目的は、障害のある方がスキルや知識を身につけ、一般企業へ就職し、そこで長く働き続けることです。いわば、就職を目指すための「訓練校」であり、二人三脚でゴールを目指す「キャリアパートナー」のような存在です。

ここで重要なのは、名前が似ている「就労継続支援A型・B型」との違いです。継続支援が福祉的なサポートのある環境で働くこと(福祉的就労)を主目的とするのに対し、就労移行支援はあくまで一般企業への就職(一般就労)をゴールとしています。どちらが良い・悪いではなく、目的が異なることを理解しておくことが重要です。

出典:厚生労働省「障害者就労の現状(令和5年)」等より作成

厚生労働省のデータによると、2022年度の各サービスからの一般就労への移行率(就職率)は、就労移行支援が57.2%であるのに対し、就労継続支援A型は26.2%、B型は10.7%となっており、就労移行支援が一般就労への最も強力なルートであることが示されています。

ポイント2:幅広い対象者

利用できるのは、原則として18歳以上65歳未満の方で、身体障害、知的障害、精神障害(うつ病、双極性障害など)、発達障害(ADHD、ASDなど)、あるいは難病があり、一般企業への就職を希望している方です。

特筆すべきは、必ずしも障害者手帳を持っている必要はないという点です。自治体の判断によりますが、医師の診断書や意見書があれば、「障害福祉サービス受給者証」が発行され、サービスを利用できるケースが多くあります。ADHDの診断は受けているものの手帳は持っていない、いわゆる「グレーゾーン」の方でも、利用できる可能性は十分にありますので、まずは相談してみることが大切です。

ポイント3:就職準備から定着までの一貫したサポート

就労移行支援の最大の強みは、そのサポート範囲の広さです。単に求人を紹介するだけでなく、就職準備から就職活動、そして就職後の職場定着まで、一貫してサポートしてくれます。

  • 職業訓練・スキルアップ:基本的なビジネスマナー、コミュニケーションスキル、PCスキル(Word, Excelなど)から、事業所によってはプログラミングやWebデザインといった専門スキルまで学べます。
  • 自己分析・キャリア相談:専門の支援員との面談を通じて、自分の強みや弱み、価値観を深く理解し、どのような仕事や働き方が合っているかを一緒に考えます。
  • 就職活動サポート:履歴書や職務経歴書の添削、模擬面接などを通じて、採用担当者に自分の魅力が伝わるよう徹底的にサポートします。
  • 職場探しとマッチング:本人の希望や特性に合った求人を探し、時には企業インターン(職場実習)を通じて、入社前に職場との相性を確認することも可能です。
  • 就職後の定着支援:就職後も定期的な面談を行い、職場で生じた悩みや課題について相談に乗ってくれます。必要であれば、本人と企業の間に立って調整役も担ってくれます。

利用期間と料金

利用期間:原則2年間、自分のペースで

就労移行支援を利用できる期間は、原則として最長24ヶ月(2年間)です。この期間内で、スキル習得から就職活動までを行います。ただし、毎日通わなければならないわけではありません。多くの事業所では、週1日や半日からの利用も可能で、自分の体調やペースに合わせて通所日数を徐々に増やしていくことができます。

利用料金:約9割が自己負担0円

福祉サービスと聞くと、利用料金を心配される方もいるかもしれません。しかし、就労移行支援の利用料金は、前年度の世帯所得(本人と配偶者の所得)に応じて決まる仕組みになっており、利用者の約9割が自己負担なし(0円)で利用しています

具体的な負担上限月額は以下の通りです。

区分 世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)※ 9,300円
一般2 上記以外 37,200円
※所得を判断する際の世帯の範囲は、18歳以上の場合は「本人とその配偶者」です。

このように、金銭的な心配をせずに、安心して就職に向けた準備に集中できる環境が整えられています。

第2部:【核心①】ADHDの特性を強みに変える!「向いてる仕事」の見つけ方

このセクションでは、本記事の核心であり、多くの方が最も知りたいであろう「ADHDに向いてる仕事」について深く掘り下げます。単に職種を羅列するのではなく、ADHDの特性がなぜ特定の仕事で「強み」となるのか、その論理を解き明かし、自己理解を深めることを目指します。

ADHDは「弱み」じゃない!特性を「強み」に転換する視点

ADHDの特性は、しばしば「不注意」「多動性」「衝動性」という言葉で説明され、職場では困難さとして現れがちです。しかし、これらの特性はコインの裏表のようなもの。視点を変えれば、他にないユニークな才能として輝き始めます。

ADHDの特性と強みの関係性

不注意 → 好奇心旺盛、独創的なアイデア、過集中(ハイパーフォーカス)
注意が散漫になりやすいということは、裏を返せば、常に多くの情報にアンテナを張っている好奇心旺盛な状態です。様々な事柄を結びつけ、誰も思いつかないような独創的なアイデアを生み出す源泉となります。さらに、一度興味を持つと、周囲の音が聞こえなくなるほど深く没頭する「ハイパーフォーカス」という驚異的な集中力を発揮することがあります。この状態に入ると、短時間で膨大な作業をこなしたり、極めて質の高い成果物を生み出したりすることが可能です。

多動性・衝動性 → 行動力、決断力、エネルギッシュ、挑戦意欲
じっとしているのが苦手、思いついたらすぐに行動に移してしまう。これは、計画性に欠けると見られる一方で、圧倒的な行動力決断力の表れです。変化を恐れず、リスクを取って新しいことに飛び込む挑戦意欲は、停滞した組織に活気をもたらす起爆剤となり得ます。そのエネルギッシュな姿勢は、特にスピード感が求められる現場や、新規事業の立ち上げなどで大きな強みとなります。

重要なのは、これらの「強み」が発揮される環境に身を置くことです。「魚に木登りをさせようとする」のではなく、「魚が最も速く泳げる広い海」を探すこと。それが、ADHDの人が適職を見つける上での基本戦略となります。

特性タイプ別「向いてる仕事」の具体例一覧

ADHDの特性は人それぞれですが、大きく「不注意が目立つタイプ」と「多動・衝動性が目立つタイプ」に分けて考えると、適職の方向性が見えやすくなります。ここでは、それぞれのタイプが強みを活かしやすい仕事の具体例を、その理由と共に解説します。

不注意優勢型におすすめの仕事(創造性・集中力を活かす)

このタイプは、好奇心や発想力、そして「ハイパーフォーカス」を武器にできる仕事が向いています。自分のペースで深く没頭でき、成果物のオリジナリティが評価される環境で輝きます。

  • クリエイティブ職:
    • Webデザイナー、グラフィックデザイナー、イラストレーター: 視覚的なアイデアを形にする仕事。独創的な発想が直接価値につながります。
    • ライター、編集者、コピーライター: 情報を集め、独自の切り口で再構成する仕事。好奇心と集中力が活かせます。
    • 企画職(商品開発、イベント企画など): 新しいアイデアを次々と生み出すことが求められるため、発想の豊かさが強みになります。
  • 専門技術職:
    • プログラマー、ITエンジニア: 論理的なルールに基づき、黙々とコーディングに集中する作業はハイパーフォーカスと相性が良いです。近年、IT特化型の就労移行支援も増えています。
    • 研究職、データアナリスト: 特定のテーマを深く掘り下げ、膨大なデータの中からパターンを見つけ出す仕事は、探求心と集中力が求められます。
    • データ入力: 単純作業ではありますが、ルールが明確で、自分のペースで集中して取り組めるため、意外な適性を示すことがあります。

なぜ向いているのか?
これらの仕事は、多くの場合、厳格な時間管理や頻繁な対人折衝よりも、個人のスキルと成果物の質が重視されます。自分の世界に没頭できる時間を確保しやすく、ADHDの特性である「過集中」を生産性に直結させることが可能です。また、斬新なアイデアが評価されるため、「注意散漫」がもたらす発想の飛躍がプラスに働きます。

多動・衝動性優勢型におすすめの仕事(行動力・変化を活かす)

このタイプは、エネルギッシュな行動力と変化への対応力を活かせる仕事が向いています。デスクに縛り付けられるよりも、動きがあり、刺激的な環境で能力を発揮します。

  • アクティブな職種:
    • 営業職、販売・接客: 人と接し、常に状況が変化する環境は、多動性を良い刺激に変えることができます。決断の速さがクロージングにつながることもあります。
    • 配送ドライバー、イベントスタッフ、警備員: 体を動かし、場所を移動しながら行う仕事は、じっとしているのが苦手な特性にマッチします。
    • 介護職、調理師: 常に動き回り、臨機応変な対応が求められる現場は、エネルギーを発散させながら社会貢献できる場です。
  • 変化のある職種:
    • ジャーナリスト、カメラマン: 新しい現場に赴き、情報を追いかける仕事は、好奇心と行動力を満たしてくれます。
    • コンサルタント: 様々な企業の課題解決に取り組むため、常に新しい挑戦があり、単調になりにくいです。
    • 起業家: リスクを恐れずアイデアを即座に形にする力は、起業家に不可欠な資質です。実際に、ヴァージングループのリチャード・ブランソンなど、ADHDの特性を持つとされる成功した起業家は少なくありません。

なぜ向いているのか?
単調なルーティンワークは、このタイプの人々にとって苦痛になりがちです。上記のような仕事は、日々新しい状況や人との出会いがあり、飽きることがありません。フットワークの軽さや即断即決の能力が「仕事ができる」という評価に直結しやすく、自己肯定感を高めることにもつながります。

逆に、注意が必要な仕事の傾向

一方で、ADHDの特性が「弱み」として現れやすい仕事の傾向も存在します。これらを「絶対に向いていない」と断定するわけではありませんが、就職を考える際には、どのような困難が予想されるかを理解し、対策を講じることが重要です。

  • 高い正確性や完璧さが常に求められる仕事:経理、秘書、校正、銀行の窓口業務など、小さなミスが大きな問題につながる可能性のある仕事は、不注意の特性を持つ人にとってプレッシャーが大きくなることがあります。
  • マルチタスクが頻繁に発生する仕事:複数の電話応対をしながらデータ入力をするなど、同時に多くのタスクを処理する必要がある仕事は、実行機能に困難を抱えるADHDの人を混乱させやすいです。
  • 変化が少なく単調なルーティンワーク:工場のライン作業の中でも、特に変化のない単純作業の繰り返しは、多動性の特性を持つ人にとって集中力を維持するのが難しく、苦痛に感じることがあります。

ただし、これらの仕事であっても、環境や工夫、そして後述する「合理的配慮」次第で、十分に活躍できる可能性はあります。例えば、経理業務でもダブルチェックの体制が整っていればミスを防げますし、マルチタスクもタスク管理ツールを使えば整理できます。重要なのは、仕事内容だけで判断せず、職場環境やサポート体制も含めて総合的に判断することです。

自己分析のヒント:当事者の声から学ぶ

自分にどんな仕事が向いているかを知るためには、過去の経験を振り返ることが最も有効な手段の一つです。ある就労移行支援事業所が行ったアンケート調査から、ADHD当事者が実際に感じている「困りごと」と、それに対して行っている「工夫」を見てみましょう。

ADHD当事者の声(アンケート調査より)

【仕事をする上で困ったこと】

  • 忘れ物が多く、時々遅刻してしまう
  • タスクが多くなると優先順位が分からなくなる
  • 重要な業務を忘れがちで、スケジュール通りに進まない
  • 集中が必要な仕事は短時間で疲れてしまう
  • 仕事中に話しかけられると手が止まり、作業効率が落ちる

【仕事上で工夫していること】

  • 翌日やるべきことを前日にリマインダーに登録する
  • 必要な業務をメモ帳にまとめ、1つずつこなす
  • 指示されたことはすぐにメモに残す
  • イレギュラーが起こるたびに内容を記録し、自分用のマニュアルを作成する
  • 机の周りに気が散るものを置かない

これらの声は、あなた一人が悩んでいるわけではないこと、そして多くの人が自分なりの工夫で困難を乗り越えようとしていることを示しています。あなた自身の経験を振り返り、「どんな時にうまくいき、どんな時に失敗したか」「どんな工夫が有効だったか」を書き出してみましょう。それが、あなただけの「取扱説明書」を作る第一歩となり、就労移行支援で専門家と相談する際の貴重な材料となります。

第3部:【核心②】就労移行支援を使いこなし、ADHDの適職に就くための7ステップ

就労移行支援は、ただ通うだけではその価値を最大限に引き出せません。ADHDの特性を持つあなたが、この制度を「戦略的」に使いこなし、適職にたどり着くための具体的な7つのステップを解説します。これは、単なる手続きの紹介ではなく、あなたのキャリアを成功に導くための実践的な行動ガイドです。

ステップ1:自己分析を深める「自分の取扱説明書」を作る

就労移行支援の利用を開始して、まず最初に取り組むべき最も重要な活動が「自己分析」です。これは、支援員のサポートを受けながら、自分自身の特性を客観的に理解し、言語化するプロセスです。いわば、企業に対して自分を正しく理解してもらうための「自分の取扱説明書」を作成する作業と言えます。

具体的には、以下のような項目を支援員との面談やプログラムを通じて深掘りしていきます。

  • 強みと弱み:第2部で解説したような、ADHDの特性を「強み」としてどう活かせるか。逆に、どんな場面で「弱み」が出やすいか。
  • 得意・苦手な作業:「アイデアを出すのは得意だが、細かいチェックは苦手」「体を動かす仕事は好きだが、じっとしているのは苦痛」など、具体的な作業レベルで洗い出す。
  • 集中できる環境:「静かな場所でないと集中できない」「適度な雑音があった方がいい」「在宅勤務が合っている」など、パフォーマンスが最大化される環境条件を特定する。
  • 必要な配慮:「指示は口頭ではなくメモで欲しい」「タスクは一つずつにしてほしい」「定期的に進捗確認をしてほしい」など、働く上で企業に求めるサポート(合理的配慮)を具体的にリストアップする。

この「取扱説明書」は、後の事業所選び、職種選び、そして面接での自己PRや配慮事項の説明において、全ての土台となる極めて重要なものです。一人で考えるのが難しくても、専門の支援員が客観的な視点からフィードバックをくれるため、自分では気づかなかった強みや対処法を発見することができます。

ステップ2:事業所を戦略的に選ぶ

全国に3,000箇所以上ある就労移行支援事業所の中から、自分に合った場所を選ぶことは、就職成功の確率を大きく左右します。事業所は大きく分けていくつかのタイプがあり、ADHDの特性や目指す方向性によって、戦略的に選ぶ必要があります。

事業所のタイプを知る

  • 大手総合型:全国に多数の拠点を持ち、豊富なプログラムと圧倒的な求人数、就職実績が魅力。様々な障害種別に対応している。
  • 専門特化型:特定の障害(例:発達障害)や分野(例:IT/Web)に特化し、より専門的で深いサポートを受けられる。
  • 地域密着型:地元の企業とのパイプが強く、アットホームな雰囲気の中でサポートを受けられる。

ADHD当事者におすすめの選び方

ADHDの特性を深く理解し、強みを活かすキャリアを目指すなら、「専門特化型」の事業所が特に有力な選択肢となります。

  • 発達障害特化型:ADHDの特性に合わせた独自のプログラム(例:タスク管理術、感情コントロール、ソーシャルスキルトレーニングなど)が充実しています。同じ特性を持つ仲間と出会えることも、大きな支えになります。
  • IT特化型:プログラミングやWebデザインなど、ハイパーフォーカスを活かせる専門スキルを身につけたい場合に最適です。在宅ワークを目指しやすいのも魅力です。
  • 大手総合型:幅広い選択肢の中から自分に合うものを見つけたい、地方在住で専門特化型が近くにない、という場合に有力です。実績が豊富で、多様な業界へのパイプを持っています。
事業所選びで見るべき最重要ポイント
  • プログラム内容:自分の身につけたいスキル、学びたい特性対策があるか。
  • 就職実績(特に「定着率」):就職率だけでなく、就職後に長く働き続けられているかを示す定着率(6ヶ月後)が非常に重要です。定着率が高い事業所は、マッチングの精度と就職後のサポートが手厚い証拠です。
  • 事業所の雰囲気と支援員との相性:見学や体験利用を通じて、自分が安心して通えそうか、支援員と話しやすいかを確認しましょう。
  • 通いやすさ:自宅からの距離や交通費も、継続して通う上では無視できない要素です。

最低でも2〜3箇所の事業所を見学・体験し、比較検討することをお勧めします。

ステップ3:プログラムをフル活用してスキルアップ

通う事業所が決まったら、提供されるプログラムを最大限に活用しましょう。ADHDの特性を持つ人にとって特に重要なプログラムは以下の通りです。

  • 自己理解プログラム:ステップ1で触れた「取扱説明書」作りをさらに深めます。グループワークを通じて他者から見た自分の印象を知ることも、客観的な自己理解に繋がります。
  • ADHD特性対策プログラム:ディーキャリアの「ライフスキルコース」のように、自己理解、セルフケア、コミュニケーションスキルなど、ADHDの特性によって生じる困難に対処するための具体的な方法を学びます。タスク管理術(ToDoリスト、ポモドーロテクニックなど)や、感情のコントロール方法などを体系的に習得できます。
  • ワークスキル訓練:PCスキルやビジネスマナーはもちろんですが、模擬的なオフィス環境で働く「疑似就労」プログラム(ミラトレなどで実施)は、実際の職場での立ち振る舞いや報告・連絡・相談の練習に非常に有効です。
  • 企業インターン(職場実習):これは就労移行支援における最も価値あるプログラムの一つです。応募前に実際の企業で数日間〜数週間働くことで、求人票だけではわからない仕事内容や職場の雰囲気、人間関係との相性を肌で感じることができます。LITALICOワークスを利用したあるADHDの男性は、スーパーの品出しと事務職の2つを体験。身体を動かす仕事が向いていると思っていたものの、実際にやってみると事務職の方が「びっくりするくらい集中でき楽しいと感じた」ことで、自分でも気づかなかった適職を発見できました。このようなミスマッチの防止は、長期的な定着に不可欠です。

ステップ4:支援員と二人三脚で就職活動

就職活動は孤独な戦いになりがちですが、就労移行支援では専門の支援員がマンツーマンで伴走してくれます。

  • 応募書類の添削:あなたの「取扱説明書」に基づき、単なる経歴の羅列ではない、強みと貢献意欲が伝わる履歴書・職務経歴書の作成をサポートします。企業が求める「戦力としての魅力」と「必要な配慮」をバランス良く記載するノウハウを教えてくれます。
  • 模擬面接:面接は最大の関門です。支援員が面接官役となり、入退室のマナーから話し方、想定される質問への回答まで、繰り返し練習します。特に重要なのが「障害特性の伝え方(自己開示)」の練習です。「集中が苦手です」と漠然と伝えるのではなく、「静かな環境であれば高い集中力を発揮できます」「指示はメモでいただけるとミスなく業務を遂行できます」といったように、課題と対策、そして貢献できることをセットで具体的に伝える練習を徹底します。

ステップ5:利用開始までの具体的な流れ

「利用してみたいけど、手続きが複雑そう…」と不安に思う必要はありません。ほとんどの場合、事業所のスタッフが手続きをサポートしてくれます。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 問い合わせ・相談:気になる事業所のWebサイトや電話で連絡し、見学や相談の予約をします。複数の事業所に問い合わせてみましょう。
  2. 見学・体験利用:実際に事業所を訪れ、雰囲気やプログラムを体験します。ここで支援員との相性も確認できます。
  3. 「障害福祉サービス受給者証」の申請:利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉窓口(障害福祉課など)でサービスの利用申請を行います。この際、事業所が作成を支援する「サービス等利用計画案」などが必要になります。申請から交付まで1〜2ヶ月かかるのが一般的です。
  4. 利用契約:受給者証が発行されたら、事業所と正式な利用契約を結びます。
  5. 利用開始:支援員と作成した「個別支援計画」に沿って、訓練がスタートします。

相談窓口は、市区町村の役所のほか、ハローワークの専門援助窓口、障害者就業・生活支援センターなど複数あります。どこに相談すればよいか分からなければ、まずは気になる就労移行支援事業所に直接問い合わせてみるのが一番の近道です。

ステップ6:働き方の選択肢を広げる(在宅ワーク)

近年、働き方は多様化しており、特に在宅ワーク(テレワーク)はADHDの特性を持つ人にとって有力な選択肢となっています。通勤によるストレスや疲労がなく、他者からの視覚・聴覚的な刺激が少ないため、自分のペースで仕事に集中しやすいという大きなメリットがあります。

主な職種としては、データ入力、Webライター、プログラマー、カスタマーサポートなどが挙げられます。就労移行支援事業所の中には、在宅ワークに特化したスキル(Webデザイン、プログラミングなど)を学べるコースを用意している場所も増えています。就職活動の際には、在宅勤務が可能な求人も視野に入れることで、選択肢が大きく広がります。

ステップ7:一般雇用か障害者雇用か

就職活動を進める上で、一般雇用枠で応募するか、障害者雇用枠で応募するかは大きな決断です。それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが正解ということはありません。就労移行支援のスタッフと相談しながら、自分の状況に合わせて戦略的に選択することが重要です。

障害者雇用枠 一般雇用枠
メリット ・障害への理解や合理的配慮を得やすい
・定着支援などのサポートを活用しやすい
・通院や体調管理の相談がしやすい
・求人数が多い
・給与水準が高い傾向がある
・キャリアパスが豊富
デメリット ・求人数が一般枠に比べて少ない
・給与水準が低めの傾向がある
・任される業務が限定的な場合がある
・合理的配慮を得にくい
・障害特性をオープンにしづらく、一人で抱え込みがち
・周囲の無理解によるストレスのリスク

障害者雇用枠は、企業が法律で定められた障害者雇用率(2025年11月時点で2.5%、2026年7月には2.7%に引き上げ予定)を達成するために設けられた採用枠です。そのため、障害への理解があることが前提となっており、安心して働きやすい環境が期待できます。まずは障害者雇用枠で安定して働く経験を積み、自信をつけてからキャリアアップを目指すというのも有効な戦略です。

第4部:就職はゴールじゃない!長く働き続けるための「合理的配慮」と「定着支援」

多くの人が「就職」を最終ゴールと考えがちですが、本当に大切なのは「自分に合った職場で、心身ともに健康な状態で長く働き続けること」です。就労移行支援の真価は、むしろ就職後のサポートにあると言っても過言ではありません。このセクションでは、持続可能なキャリアを築くための2つの重要な柱、「合理的配慮」と「定着支援」について解説します。

データで見る就労移行支援の実力:就職率と定着率

「就労移行支援を使っても、結局は就職できないのでは?」という不安は根強いですが、データはその有効性を明確に示しています。厚生労働省の調査によると、就労移行支援を利用した人の一般企業への就職率は約56-58%にのぼります。これは、利用者のおよそ2人に1人が就職を実現していることを意味します。

さらに重要なのが「職場定着率」です。就職はスタートラインに立ったに過ぎません。その後、働き続けられるかどうかが鍵となります。データによると、就労移行支援を利用して就職した人の1年後の職場定着率は76.0%。これに対し、公的支援なしで就職した場合の定着率は52.7%に留まります。この差は歴然としており、専門的なサポートの有無が長期的な就労にいかに大きく影響するかを示しています。

この高い定着率を支えているのが、これから解説する「合理的配慮」の適切な要求と、就職後の「定着支援」なのです。

2024年4月から義務化!「合理的配慮」を正しく知って活用する

2024年4月1日、改正障害者差別解消法が施行され、これまで努力義務だった民間企業における「合理的配慮」の提供が法的義務となりました。これは、障害のある人が働く上で非常に重要な変化です。

合理的配慮とは?

合理的配慮とは、障害のある人が他の従業員と平等に能力を発揮できるよう、企業が提供する「必要かつ適当な変更や調整」のことです。重要なのは、これが企業側の「善意」や「思いやり」ではなく、法的に求められる「義務」であるという点です。ただし、企業にとって「過重な負担」となる場合はこの限りではありません。配慮の内容は、本人と企業が話し合って決めることが基本となります。

ADHDの人が職場で求められる配慮の具体例

就労移行支援で作成した「自分の取扱説明書」は、ここで活きてきます。自分に必要な配慮を具体的に企業に伝えることで、働きやすい環境を自ら作っていくことができます。以下に、ADHDの特性に応じた合理的配慮の具体例を挙げます。

配慮のカテゴリ 具体的な配慮の例 対応するADHDの特性
業務指示・タスク管理 指示は口頭だけでなく、メモやメール、チャットなど文字でも伝える 不注意(聞き漏らし、忘れ防止)
タスクを細かく分解し、一度に一つの指示を出す(マルチタスクを避ける) 実行機能の困難(混乱防止)
業務の優先順位を明確に示し、チェックリストを活用する 不注意(段取りが苦手)
曖昧な表現(「なるべく早く」など)を避け、具体的な期限(「今日の17時まで」)を伝える 時間感覚の特性、混乱防止
環境調整 集中しやすいよう、パーテーションのある席や壁際の席に配置する 不注意(視覚的刺激に弱い)
業務に集中するためのノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可する 不注意(聴覚的刺激に弱い)
デスク周りの整理整頓がしやすいよう、収納ボックスやラベルを用意する 不注意(整理整頓が苦手)
時間管理・休憩 フレックスタイム制や時差出勤を認め、集中しやすい時間帯に働けるようにする 集中力の波、体調管理
定期的な短い休憩(例:1時間に5分)を取ることを許可・推奨する 多動性、集中力の維持
通院のための休暇取得に柔軟に対応する 治療との両立
コミュニケーション 定期的な1on1ミーティング(週1回15分など)を設け、進捗確認や相談の機会を作る 衝動性、不安の軽減
指示系統を一本化し、複数の上司から指示が飛ぶ状況を避ける 実行機能の困難(混乱防止)

これらの配慮は、就職活動の面接時や、入社後の面談で伝えることが重要です。就労移行支援では、これらの伝え方についても練習することができます。

就職後の最強の味方「就労定着支援」

就労移行支援のサポートは、就職したら終わりではありません。多くの事業所では、就職後も「就労定着支援」というサービスを提供しています。

就労定着支援とは、就労移行支援などを利用して就職した人が、その職場で長く働き続けられるようにサポートする制度です。就職してから6ヶ月間は、就職先の就労移行支援事業所が無料で定着支援を行います。その後もサポートが必要な場合は、有料の「就労定着支援事業」として、最長3年間、支援を受け続けることができます。

定着支援の支援員は、あなたと企業の「橋渡し役」となってくれます。具体的には、以下のようなサポートを行います。

  • 定期的な面談:月に1回程度のペースで面談し、仕事の悩み、人間関係のトラブル、生活リズムの乱れなど、どんな小さなことでも相談に乗ってくれます。
  • 企業への働きかけ:本人だけでは伝えにくい配慮のお願いや、業務量の調整などを、企業の人事担当者や上司に代わりに伝えてくれることがあります。
  • 課題解決のサポート:「仕事のミスが多い」「同僚とうまく話せない」といった課題に対し、本人、企業、支援員の三者で面談し、具体的な解決策(例:チェックリストの導入、コミュニケーション方法の見直しなど)を一緒に考え、実行をサポートします。

新しい環境では、誰でも不安や困難に直面します。特にADHDの特性を持つ人は、一人で問題を抱え込み、状況が悪化してしまうことも少なくありません。就職後も頼れる専門家がそばにいてくれるという安心感は、早期離職を防ぎ、持続可能なキャリアを築く上で計り知れない価値があるのです。

第5部:よくある質問(Q&A)とまとめ

最後に、就労移行支援の利用を検討する際に多くの方が抱く疑問にお答えし、本記事の要点をまとめて、あなたの次の一歩を後押しします。

Q&Aコーナー

Q. 障害者手帳がないと利用できませんか?
A. いいえ、必ずしも必須ではありません。自治体の判断によりますが、医師の診断書や意見書があれば、障害者手帳がなくても「障害福祉サービス受給者証」が交付され、利用できる場合があります。ADHDの診断を受けている方は、まずお住まいの市区町村の障害福祉窓口や、気になる事業所に相談してみてください。

 

Q. 週5日通うのが難しいのですが…
A. 問題ありません。多くの事業所では、週1日や半日からの利用など、柔軟な通所プランに対応しています。まずはご自身の体調や生活リズムに合わせて無理のないペースで始め、徐々に日数を増やしていくことができます。大切なのは継続することですので、遠慮なく相談しましょう。

 

Q. 途中で事業所が合わないと感じたら、辞められますか?
A. はい、可能です。無理して通い続けることは、かえって心身の負担になります。支援員と相談の上、一時的に休んだり、別の事業所を探したりすることも選択肢の一つです。受給者証の利用期間(原則2年)内であれば、事業所を変更することもできます。自分に合わないと感じたら、正直に支援員に伝えることが大切です。

 

Q. 家族として、どのようにサポートすればよいですか?
A. 最も大切なのは、ご本人の「働きたい」という意思を尊重し、焦らせずに見守る姿勢です。可能であれば、事業所の見学に同行したり、本人が話したいときにはじっくり話を聞いてあげたりすることが、大きな支えになります。多くの事業所では、家族向けの相談会や説明会も実施していますので、参加してみるのも良いでしょう。ご家族だけで抱え込まず、支援機関と一緒にサポートしていくという視点が重要です。

まとめ:勇気を出して、まずは「相談」という一歩を踏み出そう

この記事では、ADHDの特性を持つあなたが、自分に合った仕事を見つけ、輝けるキャリアを築くための道筋として「就労移行支援」の活用法を徹底的に解説してきました。

本記事の重要ポイント
  • ADHDの特性は「強み」になる:不注意は「創造性」、多動・衝動性は「行動力」に転換できます。弱みと決めつけず、活かせる環境を探すことが重要です。
  • 就労移行支援は強力なパートナー:一般企業への就職を目指すための訓練から就職活動、そして就職後の定着まで、トータルでサポートしてくれる公的なサービスです。
  • 成功のカギは「自己理解」と「戦略的な事業所選び」:専門家と「自分の取扱説明書」を作り、発達障害特化型など、自分の目的に合った事業所を戦略的に選ぶことが成功への近道です。
  • 就職後も安心のサポート体制:2024年4月から義務化された「合理的配慮」を正しく求め、就職後も続く「定着支援」を活用することで、安心して長く働き続けることができます。

「相談に行ったら、利用を強制されそう…」「まだ働く自信がないのに、話を聞きに行ってもいいのだろうか…」そんな不安を感じるかもしれません。しかし、心配は無用です。就労移行支援事業所の見学や相談は無料で、あなたの悩みを聞き、あなたに合った道を一緒に考えるプロフェッショナルが待っています。話を聞いてもらうだけでも、絡まった思考が整理され、次に見える景色が変わるかもしれません。

一人で悩み、自信を失い続ける日々は、もう終わりにしましょう。あなたのユニークな才能を待っている職場は、必ず存在します。その出会いのために、まずは「相談する」という小さな、しかし最も重要な一歩を、今日踏み出してみませんか。

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