コラム 2026年1月6日

精神・発達障害のある方の「働きたい」を叶える。障害者総合支援法に基づく「就労移行支援」活用完全ガイド

なぜ今、精神・発達障害のある方の就労が注目されているのか?

近年、日本の労働市場において、障害のある方の雇用、特に精神障害や発達障害のある方の就労が、かつてないほどの注目を集めています。その背景には、社会全体のダイバーシティ&インクルージョンへの意識の高まりに加え、より直接的な要因として、国の法制度の変更があります。

企業に一定割合以上の障害者を雇用することを義務付ける「法定雇用率」は、段階的な引き上げが続いており、2024年4月には2.3%から2.5%へ、さらに2026年7月には2.7%へと上昇することが決定しています。この動きは、企業にとって障害者採用をより一層重要な経営課題として位置づけることを促しています。これまで以上に多くの企業が、新たな労働力として障害のある方に門戸を開き始めているのです。

この大きな潮流の中で、特に雇用の中心的な担い手として期待されているのが、精神障害や発達障害のある方々です。厚生労働省の発表によると、ハローワークにおける新規求職申込件数は、精神障害者が前年度比11.1%増、知的障害者が7.7%増と、近年増加傾向にあります。就職件数においても、精神障害者の就職が全体を牽引しており、その数は前年度比で8.1%増加しています。これは、身体障害者の求職者数が比較的横ばいであるのに対し、精神・発達障害のある若年層を中心に、働く意欲を持つ人々が増えていることを示唆しています。

しかし、この「雇用の機会拡大」という明るい側面の裏で、当事者の方々は多くの不安や課題を抱えています。「働きたい気持ちはあるけれど、どんな仕事が自分に合っているのかわからない」「面接で自分の特性をどう説明すればいいのだろうか」「たとえ就職できても、職場の人間関係になじみ、長く働き続けられるだろうか」――。こうした切実な悩みは、一人で解決するにはあまりにも大きな壁となり得ます。

この、企業の採用ニーズと当事者の就労への不安との間に存在するギャップを埋め、一人ひとりが自分らしいキャリアを歩むための強力な架け橋となるのが、本記事で徹底解説する「就労移行支援」です。これは、障害者総合支援法という国の法律に基づいて提供される、れっきとした公的な福祉サービスです。

本記事では、この「就労移行支援」という制度を深く、そして多角的に掘り下げていきます。制度の基本的な仕組みから、精神・発達障害のある方が利用する具体的なメリット、自分に最適なサービスを見つけるための実践的な方法、そして就職後の未来まで。この記事を読み終える頃には、漠然とした不安が具体的な行動計画へと変わり、「自分にもできるかもしれない」という希望を手にしていただけるはずです。さあ、あなたらしい働き方を見つけるための第一歩を、ここから一緒に踏み出しましょう。

障害者雇用の全体像と「障害者総合支援法」の役割

「就労移行支援」を理解するためには、まずその背景にある日本の障害者雇用の大きな動向と、それを支える法律の枠組みを知ることが不可欠です。ここでは、最新のデータから障害者雇用の現状を概観し、すべての就労支援の根幹をなす「障害者総合支援法」の目的と構造を解き明かします。

障害者雇用の現状をデータで知る

日本の障害者雇用は、着実な進展を見せています。厚生労働省の「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の数は約64.2万人(2023年6月1日時点)に達し、前年から約2.8万人増加。実雇用率も2.33%となり、いずれも過去最高を更新し続けています。この数字は、企業が社会的な責務としてだけでなく、貴重な人材確保の一環として障害者雇用に積極的に取り組んでいることを示しています。

この全体の成長を牽引しているのが、精神障害者の雇用の伸びです。下のグラフは、民間企業における障害種別の雇用者数の推移を示したものです。身体障害者の雇用が緩やかな増加に留まる一方で、精神障害者の雇用者数が近年、急激な右肩上がりで増加していることが一目瞭然です。

出典:厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」各年版より作成

2023年度のハローワークを通じた就職件数を見ても、全体約11.1万件のうち、精神障害者が約6.1万件と半数以上を占め、前年度比で約12%という高い伸び率を記録しています。これは、精神障害者保健福祉手帳の所持者が増加していることや、障害に対する社会的な認知が進んだことに加え、後述する就労支援サービスの充実が、働く意欲のある精神・発達障害のある方々の社会参加を後押ししている結果と言えるでしょう。

一方で、課題も存在します。法定雇用率を達成した企業の割合は50.1%(2023年)と、まだ半数にとどまっています。また、就職後の「定着」も大きな課題です。特に精神障害者の場合、1年後の職場定着率が他の障害種別に比べて低い傾向があり、就職することだけでなく、「働き続ける」ための支援の重要性が増しています。

このような「機会の拡大」と「定着の課題」が混在する現状において、個々の特性に合わせたきめ細やかな支援を提供する福祉サービスの役割が、ますます重要になっているのです。

就労支援の法的根拠「障害者総合支援法」とは

障害のある方への多様な支援サービスは、個別の善意や任意の取り組みだけで成り立っているわけではありません。その根底には、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」、通称「障害者総合支援法」という強固な法的基盤が存在します。2013年に施行されたこの法律は、それまでの障害種別(身体・知的・精神)で縦割りだった制度を一本化し、障害のある人が地域社会で当たり前の生活を送れるよう、総合的に支援することを目指しています。

この法律が掲げる基本理念は、単に「保護」するだけでなく、障害のある方を権利の主体として尊重し、その自己決定を支えるという現代的な福祉の考え方を反映しています。

【障害者総合支援法の基本理念(要約)】

  • すべての国民が、障害の有無にかかわらず、個人として尊重される。
  • 相互に人格と個性を尊重し合える「共生社会」を実現する。
  • 可能な限り身近な場所で必要な支援を受けられるようにする。
  • 社会参加の機会が確保される。
  • どこで誰と生活するかといった自己決定権が尊重される。

この理念を実現するため、障害者総合支援法は多岐にわたる支援サービスを「障害福祉サービス」として体系化しています。このサービスは、大きく分けて2つのカテゴリーに分類されます。

  1. 介護給付:日常生活を支えるための支援。居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、短期入所(ショートステイ)、施設入所支援などが含まれます。主に身体的な介護や生活上の介助を必要とする場合に利用されます。
  2. 訓練等給付:自立した生活や社会参加(就労を含む)を目指すための訓練や支援。本記事のテーマである「就労移行支援」のほか、「就労継続支援」「就労定着支援」「自立訓練」などがこのカテゴリーに属します。

つまり、「就労移行支援」は、障害者総合支援法という大きな枠組みの中で、「訓練等給付」の一環として明確に位置づけられた、国が認める正式な就労サポートプログラムなのです。この法的背景を理解することは、就労移行支援が単なる職業訓練校や就職斡旋サービスとは異なり、個人の尊厳と自立を支えるという、より包括的で公的な使命を帯びたサービスであることを意味します。利用者は、法律によって保障された権利として、質の高い支援を求めることができるのです。

一般就労への架け橋「就労移行支援」とは?サービス徹底解説

障害者雇用の現状と法的背景を理解したところで、いよいよ本題である「就労移行支援」の核心に迫ります。このセクションでは、就労移行支援が具体的にどのようなサービスなのか、誰が、いつまで、いくらで利用できるのか、そしてその効果はどれほどのものなのかを、一つひとつ丁寧に解説していきます。

就労移行支援の目的と概要

就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づき、一般企業等への就職(一般就労)を目指す障害のある方に対して、その実現に必要な支援を総合的に提供する福祉サービスです。

その目的は、単に仕事を見つけることだけではありません。利用者が自身の障害特性を理解し、働く上で必要なスキルを身につけ、自分に合った職場を見つけ、そして就職後も安定して働き続けられるようになること、すなわち「職業的自立」をトータルでサポートすることにあります。

サービスを提供する「就労移行支援事業所」は、全国に約3,000ヶ所以上存在し、それぞれが特色あるプログラムを提供しています。主な支援内容は、以下の4つの柱で構成されています。

  1. 就労に向けたトレーニング:ビジネスマナー、PCスキル、コミュニケーション能力など、働く上で基礎となるスキルを習得します。
  2. 職場見学・実習:実際の企業で仕事を体験することで、働くイメージを具体化し、自身の適性を確認します。
  3. 就職活動サポート:自己分析、企業研究、応募書類の作成、模擬面接など、就職活動の各段階で専門的な支援を受けます。
  4. 職場定着支援:就職後も、職場での悩みや課題について相談し、企業との調整を行うなど、安定して働き続けるためのフォローアップを受けます。

このように、準備段階から就職後のフォローまで、一貫した伴走型の支援を受けられる点が、ハローワークなどの他の就職支援機関との最大の違いです。

利用対象者:どんな人が使える?

就労移行支援は、幅広い方が利用できるよう設計されています。主な対象者は以下の通りです。

  • 障害種別:身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、および国が定める難病(376疾病)のある方。
  • 年齢:原則として18歳以上65歳未満の方。
  • 意欲:一般企業等での就労を希望しており、訓練等によって就労が見込まれる方。

【重要ポイント】障害者手帳がなくても利用可能

就労移行支援の利用において、必ずしも障害者手帳は必須ではありません。医師による「診断書」や「意見書」など、障害があることを客観的に証明できる書類があれば、お住まいの市区町村の判断によってサービスの利用が認められるケースが多くあります。

これにより、「発達障害の傾向がある(グレーゾーン)と指摘されたが、診断名は確定していない」「適応障害で休職中だが、復職に向けて準備をしたい」といった、手帳の取得には至らないものの就労に困難を抱えている方々も、支援の対象となり得ます。利用の可否については、まずはお住まいの自治体の障害福祉担当窓口や、気になる就労移行支援事業所に相談してみることが第一歩です。

利用期間:いつまで使える?

就労移行支援を利用できる期間は、原則として最長2年間(24ヶ月)と定められています。この期間内に、必要な訓練を受け、就職活動を行い、一般就労を果たすことを目指します。ただし、利用者全員が2年間在籍するわけではなく、半年~1年程度で就職を決める方も少なくありません。

この「2年間」という期間には、利用者の状況に応じた柔軟な運用が認められています。

ポイント1:期間の「再利用」が可能

もし2年の利用期間内に就職が決まった場合、その時点で一度サービスは「卒業」となります。しかし、万が一その後に離職してしまった場合でも、残りの利用期間があれば、サービスを再度利用することができます

例えば、8ヶ月間サービスを利用して就職した場合、まだ16ヶ月(24ヶ月-8ヶ月)の利用期間が残っています。もし退職してしまい、再び就職支援が必要になった際には、この残りの16ヶ月間、就労移行支援を再利用して、じっくりと次のステップに備えることが可能です。この仕組みは、一度の失敗でキャリアが途絶えることを防ぎ、再挑戦を支えるセーフティネットとして機能します。

ポイント2:期間の「延長」が認められる場合も

原則2年間の利用期間を過ぎても、やむを得ない事情があり、かつ期間を延長することで就労の見込みが高いと市区町村が判断した場合には、最大で1年間の利用期間延長が認められることがあります。

例えば、「内定は出たが、入社日まで期間が空いており、その間も訓練を続けたい」「熱心に就職活動を続けているが、あと一歩のところで内定に至らない」といったケースが該当する可能性があります。ただし、これはあくまで例外的な措置であり、自動的に延長されるわけではありません。延長を希望する場合は、市区町村への申請と審査が必要となります。

利用料金:費用はかかる?

公的な福祉サービスである就労移行支援は、利用者の経済的負担を大幅に軽減する仕組みが整っています。利用料金は、サービス提供にかかる費用の1割を利用者が負担することが原則ですが、「負担上限月額」が設けられており、それを超える費用は請求されません。

この上限額は、利用者本人とその配偶者の前年度の所得(住民税の課税状況)によって、以下の4つの区分に分けられます。

区分 世帯の収入状況 自己負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯(※1) 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)(※2) 9,300円
一般2 上記以外(一般1に該当しない課税世帯) 37,200円

【重要ポイント】利用者の約9割が自己負担0円で利用

上記の表を見ると、「費用がかかるのでは?」と心配になる方もいるかもしれません。しかし、実際には就労移行支援利用者の大多数が、自己負担額0円でサービスを利用しています

多くの事業所が公表しているデータによると、利用者の8割から9割以上が「生活保護」または「低所得(住民税非課税)」の区分に該当しています。例えば、ある事業所では利用者の84.2%が自己負担なし、別の事業所では9割以上が自己負担なしで利用しているという実績があります。

これは、18歳以上の場合、世帯収入の判定に親の収入が含まれず、本人と配偶者の収入のみで判断されるためです。そのため、前年に収入がなかった方や、収入が非課税の範囲内だった方は、親と同居していても自己負担0円となるケースがほとんどです。経済的な心配をせずに、就職に向けた準備に専念できる環境が整っていると言えます。

ただし、事業所に通うための交通費や、昼食代などは原則として自己負担となります。自治体によっては交通費の助成制度がある場合もあるため、確認してみるとよいでしょう。

就職率と実績:本当に就職できる?

就労移行支援を利用する上で最も気になるのは、「本当に就職につながるのか?」という点でしょう。結論から言えば、就労移行支援は、他のどの就労支援サービスよりも高い就職実績を誇っています。

厚生労働省の2022年度のデータによると、就労移行支援のサービス利用を終了した人のうち、一般企業へ就職した人の割合(一般就労移行率)は57.2%に達しています。この数値は、年々上昇傾向にあり、サービスの質の向上を示唆しています。

個々の事業所レベルで見ると、より高い実績を上げているところも少なくありません。例えば、利用者への手厚いサポートを強みとする事業所の中には、就職率80%~90%以上、さらに就職後6ヶ月の定着率も90%近くという高い水準を公表している場所もあります。

【本編】精神・発達障害のある方が就労移行支援を最大限に活用するために

就労移行支援が有効なサービスであることはデータが示す通りですが、特に精神障害や発達障害のある方にとって、その価値は計り知れません。これらの障害の特性は、外見からは分かりにくく、体調の波や対人関係の困難さ、特定の環境への苦手意識など、就労において特有の壁を生み出すことがあります。このセクションでは、なぜ就労移行支援がこれらの課題に効果的なのかを深掘りし、サービスを最大限に活用するための具体的な方法を探ります。

なぜ精神・発達障害のある方に就労移行支援が有効なのか

就労移行支援が提供する多角的なアプローチは、精神・発達障害のある方が抱えがちな課題に的確に対応します。その有効性は、主に以下の3つの側面に集約されます。

就労移行支援では、まず「毎日決まった時間に事業所に通う」という行動を通じて、生活リズムを整え、基礎体力を向上させることから始めます。これは「健康管理」と「日常生活管理」を固めるプロセスです。焦って就職活動を始めるのではなく、まずは安定して活動できる心身の状態を作ること。この土台作りこそが、就職後の安定就労、すなわち「働き続ける力」に直結するのです。

自己理解と強みの発見:客観的視点による「自分の取扱説明書」の作成

発達障害のある方は「自分の特性を客観的に把握し、言語化すること」が苦手な場合があります。また、精神障害のある方は、症状の影響で自己肯定感が低下し、自分の強みを見失いがちです。これが、面接での自己PRの困難さや、入社後のミスマッチにつながる一因となります。

就労移行支援の大きな価値は、支援員という専門的な第三者の視点を通じて、自分自身を深く理解する機会を得られる点にあります。日々の訓練や面談、グループワークでの様子を支援員が客観的に観察し、「こういう作業は集中力が高いですね」「こういう指示の出し方だと分かりやすいですか?」といったフィードバックをくれます。この対話のプロセスを通じて、利用者は「自分の得意なこと(強み)」「苦手なこと」「ストレスを感じる状況」「パフォーマンスを発揮しやすい環境」「必要な配慮」などを、具体的な言葉で整理していくことができます。

このプロセスは、いわば「自分の取扱説明書」を作成する作業です。この取扱説明書は、自分に合った職種や企業を選ぶ際の羅針盤となり、就職活動の際には、企業に対して自分の特性と必要な配慮を的確に伝えるための強力なツールとなるのです。

実践的な対人スキルの習得:安全な環境での「試行錯誤」

職場での離職理由の上位には、常に「人間関係の問題」が挙げられます。特に、場の空気を読むことや暗黙のルールを理解することが難しい発達障害のある方や、対人ストレスに敏感な精神障害のある方にとって、職場でのコミュニケーションは大きなハードルとなり得ます。

就労移行支援事業所は、いわば「社会に出る前のシミュレーションの場」です。ここでは、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などのプログラムを通じて、「報告・連絡・相談の適切なタイミングと方法」「上手な頼み方・断り方」「意見が違う相手との対話の仕方」といった、職場で必須となるコミュニケーションスキルを、失敗を恐れずに練習することができます。

例えば、ロールプレイング形式で上司への報告を練習したり、グループワークで他者と協力して課題を解決したりする中で、利用者は実践的な対人スキルを体得していきます。たとえそこで失敗しても、支援員が間に入って振り返りを行い、次につながる学びを得ることができます。このような「安全な環境での試行錯誤」の経験が、実際の職場での孤立や人間関係のつまずきを防ぎ、長期的な定着を支える自信とスキルを育むのです。

精神・発達障害の特性に合わせた効果的なプログラム例

就労移行支援事業所では、利用者の課題や目標に応じて多種多様なプログラムが提供されています。中でも、精神・発達障害のある方の就労と定着に特に効果的とされる代表的なプログラムをいくつか紹介します。

自己理解プログラム

これは、前述した「自分の取扱説明書」を作成するための中心的なプログラムです。支援員との定期的な面談に加え、様々なワークシートや心理学的なアプローチを用いて、多角的に自己分析を深めます。

  • 特性の整理:自分の障害特性が、日常生活や仕事の場面でどのように現れるか(得意なこと、苦手なこと)を具体的に書き出します。
  • 価値観の明確化:仕事に求めるもの(安定、やりがい、人間関係など)の優先順位をつけ、キャリアの軸を定めます。
  • 配慮事項の言語化:集中できる環境(静かな場所、パーテーション)、指示の出し方(口頭より文書)、休憩の取り方など、自分が働きやすくなるために必要な配管慮を具体的にリストアップします。

これらの内容は、厚生労働省が普及を推進している「就労パスポート」という情報共有ツールにまとめることもあります。これは、自分の特徴や希望する配慮を整理し、就職活動や就職後の面談で、企業や支援機関と円滑に情報共有するためのツールです。

コミュニケーション訓練 (SST)

SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、社会生活で必要な対人関係のスキルを、具体的な場面を設定して練習する訓練です。精神科のデイケアなどでも広く用いられる手法で、職場での円滑な人間関係構築に直結します。

  • ロールプレイング: 「遅刻の連絡をする」「上司に質問する」「同僚に仕事を頼む」といった具体的な場面を設定し、参加者が役割を演じながら練習します。支援員や他の利用者からフィードバックをもらうことで、自分の言動が相手にどう伝わるかを客観的に知ることができます。
  • グループワーク:数人のグループで協力して一つの課題(例:イベントの企画、商品のプレゼン資料作成)に取り組みます。この過程で、役割分担、意見調整、他者への配慮といった、チームで働く上で不可欠なスキルを実践的に学びます。

ストレス・体調管理プログラム

精神・発達障害のある方にとって、自身のストレス反応を理解し、セルフコントロールする技術を身につけることは、安定就労のための生命線です。多くの事業所では、心理療法に基づいたプログラムが提供されています。

  • 認知行動療法(CBT):ストレスを感じた時の自分の「考え方の癖」に気づき、それをより柔軟で現実的な考え方に変えていく練習をします。例えば、「一度のミスで全てが終わりだ」という極端な思考を、「誰でもミスはする。次にどう活かすかが大事だ」という思考に切り替える訓練などです。
  • アンガーマネジメント:怒りの感情が湧いたときに、衝動的に行動するのではなく、その感情と上手く付き合うためのテクニックを学びます。
  • リラクゼーション法:呼吸法やマインドフルネスなど、心身の緊張を和らげる方法を習得し、日々のセルフケアに役立てます。

実践的職業訓練

基礎的なスキルを固めた後は、より実践的な職業訓練へと移行します。これは、業務遂行能力を高めると同時に、自分の職業適性を見極めるための重要なステップです。

  • PCスキル訓練:多くの事業所で、Word、Excel、PowerPointといったOfficeソフトの基本操作から、関数やマクロ、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)資格の取得支援まで、レベルに応じた訓練が提供されています。
  • 模擬業務(模擬就労):事業所内で、データ入力、書類のファイリング、郵便物の仕分けといった事務作業や、軽作業などを、実際の職場に近い環境で行います。時間を計って作業効率を意識したり、指示通りに正確に業務を遂行したりする練習をします。
  • 職場実習(インターンシップ):就労移行支援のハイライトとも言えるのが、提携企業での職場実習です。数日間から数週間、実際の職場で社員と共に働くことで、その仕事が自分に合っているか、職場の雰囲気はどうか、通勤は可能か、といった点をリアルに体験できます。実習先で働きぶりが評価され、そのまま雇用につながるケースも少なくありません。

自分に合った就労移行支援事業所の選び方【重要ポイント5選】

就労移行支援の効果を最大化する上で、最も重要なのが「自分に合った事業所を選ぶこと」です。全国に3,000以上ある事業所は、規模も方針もプログラムも千差万別。ミスマッチを防ぎ、2年間という貴重な時間を有意義に使うために、以下の5つのポイントを必ずチェックしましょう。

1. 支援プログラムの内容と専門性

まず確認すべきは、提供されているプログラムが自分の課題や目標に合っているかです。「PCスキルを基礎から学びたい」のか、「コミュニケーション能力を集中的に鍛えたい」のか、自分のニーズを明確にした上で、それに合致するカリキュラムが充実しているかを見極めましょう。

特に精神・発達障害のある方は、障害特性に特化したプログラムの有無が重要です。例えば、発達障害のある方向けに「段取りや時間管理の訓練」「視覚的なマニュアルの活用」に力を入れている事業所や、精神障害のある方向けに「ストレスコーピング」「再発予防プログラム」を専門的に行っている事業所など、専門性の高さも比較検討の重要な軸となります。

2. 事業所の雰囲気と支援員との相性

プログラムの内容が良くても、事業所の雰囲気が合わなければ通い続けることは困難です。これから長い時間を過ごす場所だからこそ、自分が安心して過ごせる環境かどうかを肌で感じることが何よりも大切です。

そのためには、必ず複数の事業所を見学し、できれば体験利用をしましょう。見学・体験では、以下の点に注目してください。

  • 事業所全体の雰囲気:活気があるか、静かで落ち着いているか。自分はどちらが心地よいか。
  • 他の利用者の様子:集中して取り組んでいるか、利用者同士の交流はあるか。
  • 支援員の対応:親身に話を聞いてくれるか、専門的な知識はありそうか(精神保健福祉士などの有資格者がいるかも参考になる)。「この人になら相談できそう」と思えるか。
  • 物理的な環境:清潔か、整理整頓されているか。個別ブースなど集中できるスペースはあるか。

パンフレットやウェブサイトの情報だけではわからない「相性」を、自分の五感で確かめることが、後悔しない事業所選びの鍵です。

3. 就職実績と定着率(「量」と「質」)

事業所の支援の質を客観的に測る指標が、就職実績です。しかし、単に「就職率〇%」という数字だけを見るのは不十分です。その「質」にまで踏み込んで確認しましょう。

  • 就職先の企業・職種:どのような業界・職種の企業に就職しているか。自分の希望するキャリアパスと合致しているか。事務職、IT系、軽作業など、特定の分野に強みを持っている事業所もあります。
  • 就職後の定着率:就職率と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが定着率です。「就職後6ヶ月」「就職後1年」の定着率を公表しているか確認しましょう。高い定着率は、就職後のフォローアップ(後述する「就労定着支援」)が手厚いことの証でもあります。

これらの情報は、見学の際に遠慮なく質問しましょう。誠実な事業所であれば、具体的なデータや事例を交えて丁寧に説明してくれるはずです。

4. 通いやすさと利用の柔軟性

継続してサービスを利用するためには、物理的な通いやすさも無視できません。自宅からのアクセス、最寄り駅からの距離、交通費などを確認しましょう。通勤の練習と割り切る考え方もありますが、過度なストレスは通所の妨げになります。

また、体調の波に対応できる柔軟な利用が可能かも重要なポイントです。

  • 最初は週2~3日から始め、徐々に日数を増やしていくといった、段階的な通所に対応してくれるか。
  • 体調不良で通所が難しい日に、在宅での訓練やオンラインでの面談に切り替えることができるか。

特に在宅支援の可否は、自治体の判断にもよりますが、対応している事業所であれば、体調が不安定な時期でも訓練を中断することなく、自分のペースで就職準備を進めることができます。

5. 障害特性への理解度と個別対応

最終的に、その事業所が自分の障害特性をどれだけ深く理解し、個別に対応してくれるかに尽きます。精神・発達障害と一括りに言っても、その特性や課題は一人ひとり全く異なります。画一的なプログラムをこなすだけでは、根本的な課題解決にはつながりません。

見学や面談の際に、自分の障害やこれまでの経緯、困っていることを具体的に話してみて、支援員がどのような反応をするかを見てみましょう。専門用語を並べるだけでなく、こちらの話に真摯に耳を傾け、共感的な態度で、具体的な支援策を一緒に考えてくれるような事業所であれば、信頼できるパートナーとなり得るでしょう。

利用開始までの具体的なステップと準備

「就労移行支援に興味が出てきたけれど、何から始めればいいの?」という方のために、利用開始までの具体的な流れをステップごとに解説します。手続きは一見複雑に見えますが、一つひとつ進めていけば大丈夫です。多くの事業所がこの手続きのサポートもしてくれるので、安心してください。

Step1. 情報収集と比較検討

まずは、どのような事業所があるのかを知ることから始めます。インターネットの検索サイト(「就労移行支援 〇〇市」など)で探したり、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所で情報提供を受けたりします。この段階で、いくつかの候補をリストアップしておくと良いでしょう。

Step2. 問い合わせ・見学・体験利用

気になる事業所が見つかったら、電話やウェブサイトのフォームから問い合わせて、見学や体験利用を申し込みます。前述の「選び方のポイント」を参考に、複数の事業所を比較検討することが非常に重要です。見学は1時間程度で、プログラムの説明や施設案内が中心です。体験利用では、実際にプログラムに参加して、より深く雰囲気や支援内容を確認できます。

Step3. 自治体への申請

利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口(福祉課など)で、「障害福祉サービス受給者証」の交付申請を行います。これが、サービスを利用するための「許可証」になります。

【主な必要書類】

  • 申請書(窓口で配布)
  • 障害者手帳(持っている場合)
  • 医師の診断書または意見書(手帳がない場合や、自治体から求められた場合)
  • マイナンバーが確認できる書類
  • 本人確認書類(運転免許証など)

※必要書類は自治体によって異なるため、必ず事前に窓口で確認してください。

Step4. サービス等利用計画の作成

受給者証の申請と並行して、「サービス等利用計画案」を作成する必要があります。これは、「どのような目標(ゴール)のために、どのようなサービスを、どのくらいの期間利用したいか」をまとめた、支援の設計図です。

この計画案は、市区町村が指定する「指定特定相談支援事業所」の相談支援専門員に依頼して作成してもらうのが一般的です(費用はかかりません)。もちろん、自分で作成(セルフプラン)することも可能ですが、専門家と相談しながら作成することで、より自分のニーズに合った計画を立てることができます。

Step5. 契約・利用開始

申請書類とサービス等利用計画案を自治体に提出し、審査を経てサービスの支給が決定されると、自宅に「障害福祉サービス受給者証」が郵送されてきます。申請から交付までは、1ヶ月~2ヶ月程度かかるのが一般的です。

受給者証が手元に届いたら、それを持って利用を決めた就労移行支援事業所へ行き、正式な利用契約を結びます。契約後、事業所のサービス管理責任者などが中心となり、より詳細な「個別支援計画」を作成します。この計画に基づいて、いよいよあなたの目標に向けたトレーニングがスタートします。

就労移行支援と他の選択肢:何が違う?就職後のサポートは?

就労移行支援は強力な選択肢ですが、唯一の道ではありません。自分にとって最適な道を選ぶためには、他の支援サービスとの違いを正確に理解し、さらに就職後の未来まで見据えることが重要です。このセクションでは、就労移行支援を他の選択肢と比較し、就職後のサポート体制、そして未来の新しい支援サービスについて解説します。

他の就労支援サービスとの違いを比較

障害のある方の「働く」を支えるサービスは、就労移行支援の他にもいくつかあります。ここでは、特によく比較される「就労継続支援(A型・B型)」と「ハローワーク」との違いを明確にします。

就労継続支援(A型・B型)との違い

就労移行支援と就労継続支援は、どちらも障害者総合支援法に基づく「訓練等給付」のサービスですが、その目的と対象者が根本的に異なります。

  • 就労移行支援:目的は「一般企業への就職」。そのための訓練や準備を行う場所。
  • 就労継続支援:目的は「働く場の提供」。現時点で一般企業で働くことが困難な方に対して、支援を受けながら働ける場所を提供する。

この目的の違いが、雇用契約の有無や賃金(工賃)の発生といった具体的な違いに繋がります。

サービス 目的 対象者(主なイメージ) 雇用契約 賃金・工賃 利用期間
就労移行支援 一般就労を目指すための訓練 一般企業で働きたい意欲があり、訓練により就労が見込まれる方 なし 原則なし 原則2年
就労継続支援A型 支援のある環境で雇用されて働く 一般就労は困難だが、雇用契約に基づき継続して働くことが可能な方 あり 給与(最低賃金以上が保障) 定めなし
就労継続支援B型 体調等に合わせ、非雇用で働く 雇用契約に基づく就労が困難な方。自分のペースで働きたい方 なし 工賃(生産活動の収益から分配) 定めなし

つまり、「いずれは一般企業で働きたい」と考えている方は就労移行支援、「まずは支援のある環境で、自分のペースで働く経験を積みたい」という方は就労継続支援が主な選択肢となります。また、就労継続支援を利用しながら、体調やスキルが向上した後に就労移行支援に切り替え、一般就労を目指すというステップアップも可能です。

ハローワークとの違い

ハローワーク(公共職業安定所)にも障害のある方向けの専門窓口があり、職業相談や求人紹介を行っています。就労移行支援との最大の違いは、そのサポートの範囲と深さです。

項目 ハローワーク 就労移行支援事業所
主な役割 求人情報の提供・職業紹介 訓練から定着までの一貫した支援
就労に向けた訓練 なし(職業訓練校の紹介はある) あり(PC、マナー、SST等)
職場定着サポート 原則なし あり(就職後も定期的な面談等)
利用期間 定めなし 原則2年
利用料 無料 所得に応じる(多くは無料)

就職したら終わりじゃない。「就労定着支援」で長く働き続ける

前述の通り、精神・発達障害のある方の就労における大きな課題は「職場定着」です。新しい環境への適応、人間関係の構築、業務上のプレッシャーなど、就職後には新たな壁が次々と現れます。この「就職後」の期間を支えるために、強力なサポート制度が用意されています。

まず、就労移行支援事業所は、利用者が就職した後も6ヶ月間、職場定着のための支援(フォローアップ)を行うことが義務付けられています。この期間、事業所の支援員は、定期的に本人と面談したり、企業の人事担当者や上司と連絡を取ったりして、問題が起きていないかを確認し、必要に応じて調整役を担います。

そして、この6ヶ月が経過した後、さらに継続的な支援を希望する場合には、「就労定着支援」という別の福祉サービスに移行することができます。これは2018年に新設された比較的新しいサービスで、最長で3年間、継続してサポートを受けることが可能です。

【就労定着支援の主な内容】

  • 月1回以上の対面支援:支援員が職場を訪問、または利用者が事業所を訪れ、仕事や生活上の悩みについて相談。
  • 企業との連携:本人の同意のもと、上司や同僚と面談し、業務内容の調整や職場環境の改善を働きかける。
  • 生活面のサポート:給与管理や体調管理、休日の過ごし方など、仕事に伴って生じる生活面の課題についても相談に乗る。

就職はゴールではなく、新たなスタートです。就労移行支援から就労定着支援へと続くシームレスなサポート体制は、「働き始め」の最も不安定な時期を乗り越え、長期的に安定してキャリアを築いていくための、心強いお守りとなるでしょう。実際に、就労定着支援の利用により、定着率が8割を超える事業所が多数報告されており、その効果は実証されています。

まとめ:最初の一歩を踏み出そう

本記事では、精神・発達障害のある方の「働きたい」という願いを現実に変えるための強力なツール、「就労移行支援」について、その全体像から具体的な活用法までを多角的に解説してきました。最後に、これまでの要点を振り返り、あなたの次の一歩を後押しします。

【この記事のキーポイント】

  • 高まる社会的ニーズ:法定雇用率の上昇に伴い、企業の障害者採用意欲は高まっています。特に、働く意欲のある精神・発達障害のある方は、今後の労働市場で中心的な役割を担う存在として期待されています。
  • 有効な公的サービス「就労移行支援」:就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく公的なサービスです。ハローワークや他の福祉サービスと比較して最も高い就職率を誇り、利用者の約9割が自己負担0円で、訓練から就職活動、就職後の定着まで一貫したサポートを受けられます。
  • 成功のカギは「自己理解」と「事業所選び」:特に精神・発達障害のある方にとって、支援員との対話を通じて自分の特性(強み・苦手・必要な配慮)を深く理解することが、安定就労の土台となります。そして、そのプロセスを支えてくれる、自分に合ったプログラムと信頼できる支援員がいる事業所を選ぶことが、成功への最短距離です。
  • 未来は続く:就職はゴールではありません。就職後の6ヶ月間のフォローアップ、さらに最長3年間の「就労定着支援」というサポート体制が、あなたのキャリアを長期的に支えます。

ここまで読み進めてくださったあなたは、おそらく「働きたい」という強い気持ちと同時に、多くの不安や迷いを抱えていることでしょう。「自分にできるだろうか」「周りに迷惑をかけるのではないか」「また失敗したらどうしよう」…。その気持ちは、決して特別なものではありません。多くの当事者が同じ思いを抱えながら、最初の一歩を踏み出しています。

大切なのは、その不安を一人で抱え込まないことです。就労移行支援事業所は、まさにそうした方々のために存在します。そこには、あなたの特性を理解し、可能性を信じてくれる専門家がいます。同じ目標を持つ仲間がいます。失敗を恐れずに挑戦できる、安全な環境があります。

もし、少しでも心が動いたなら、まずは行動してみませんか。それは、立派な申請手続きである必要はありません。気になる就労移行支援事業所のウェブサイトを覗いてみる。資料を請求してみる。そして、勇気を出して「見学・相談」の電話やメールを一本送ってみる。その小さなアクションが、停滞していた状況を動かし、自分らしいキャリアを築くための、想像以上に大きな前進となるはずです。

あなたの「働きたい」という尊い願いが、適切な支援と結びつき、輝かしい未来へとつながることを心から願っています。


【相談窓口情報】

就労移行支援に関する相談は、以下の窓口で受け付けています。

  • お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口:制度全般に関する説明や、手続きの案内を受けられます。
  • 相談支援事業所:サービス等利用計画の作成など、より専門的な相談が可能です。お住まいの地域の事業所は、市区町村の窓口で紹介してもらえます。
  • 各就労移行支援事業所のウェブサイト・窓口:最も気軽に、具体的なプログラム内容や雰囲気について知ることができます。多くの事業所が無料相談・見学を随時受け付けています。

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