「何か言わなければいけないのに、頭が真っ白になる」「タイミングが掴めない」「的外れなことを言ってしまうのが怖い」。会議の時間は、多くの人にとってプレッシャーのかかる場面です。特に、うつや不安、ADHDやASDといった特性を抱えている場合、その困難は一層深くなります。しかし、その悩みはあなた一人のものではありません。
この記事では、そうした困難を抱えるあなたが、少しでも安心して会議に臨めるように、具体的な準備方法と当日の対処法をステップバイステップで解説します。完璧な発言を目指すのではなく、あなたらしい形で無理なく貢献するためのヒントを見つけていきましょう。
効果的な対策を立てるためには、まず「なぜ難しいのか」を理解することが重要です。原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性は、会議でのコミュニケーションに特有の難しさをもたらすことがあります。
うつ病や社交不安障害なども、会議での発言を大きく妨げる要因となります。
これまでの職場で、ケアレスミスを厳しく叱責されたり、発言を遮られたりした経験は、深い傷となって残ります。「どうせまた失敗する」「黙っていた方が安全だ」という学習された無力感が、自己肯定感を低下させ、発言へのブレーキをかけてしまうのです。
会議の不安を和らげる最も効果的な方法は、徹底した準備です。準備は、あなたを不確実性から守る「お守り」になります。
会議の目的や議題(アジェンダ)が不明確なまま参加するのは、地図を持たずに航海に出るようなものです。まずは、会議の全体像を把握しましょう。
頭の中だけで考えをまとめようとすると、緊張で全て飛んでしまうことがあります。そこで、話したいことを「脚本」として書き出しておくのが非常に有効です。
会議という「公の場」でいきなり発言するのが怖いなら、事前に「非公式な場」で意見を伝えておく「根回し」が有効です。
信頼できる同僚や直属の上司に、「次の会議の〇〇の件ですが、私はこう考えているのですが、どう思われますか?」と軽く相談してみましょう。これにより、自分の考えが的外れでないか確認できるだけでなく、会議中に「先ほど〇〇さんが言っていた件ですが…」と、あなたの発言を後押ししてくれる味方を作れる可能性もあります。
どれだけ準備をしても、当日は緊張するものです。ここでは、会議の最中に試せる具体的な工夫を紹介します。
会議が始まったら、すぐに発言しようと焦る必要はありません。まずは積極的な傾聴者になることに集中しましょう。他の人の発言を聞きながら、誰がどのような立場で、どんな意見を持っているのかを把握します。メモを取りながら聞くことで、議論の流れが整理され、自分の意見をどのタイミングで差し込むべきかが見えやすくなります。
いきなり長文の意見を述べる必要はありません。貢献には様々なレベルがあります。以下の図のように、まずは心理的負担の少ない発言から試してみましょう。
図:会議での貢献度のステップ(難易度別)
まずは「相づち」や「うなずき」といった非言語の参加から始め、次に「〇〇さんの意見に賛成です」といった同調の表明、そして準備してきた簡単な質問へと、少しずつステップアップしていくことで、発言への抵抗感を和らげることができます。
発言だけが会議への貢献ではありません。発言以外の役割を担うことで、自分の存在価値を実感し、会議への苦手意識を軽減できます。
事前に準備した「脚本(メモ)」は、あなたの武器です。それを隠す必要はありません。「少し考えを整理してきたので、メモを見ながら失礼します」と一言断れば、むしろ真剣で準備周到な姿勢として好意的に受け取られます。メモがあるという安心感は、頭が真っ白になるのを防いでくれます。
その場しのぎの対策だけでなく、長期的な視点で働きやすい環境を整えていくことも大切です。
もし可能であれば、信頼できる上司や人事に、自分の状況を伝えてみましょう。病名や診断名を伝える必要はありません。「大勢の前で話すのが少し苦手で、考えをまとめるのに時間がかかることがあります。事前に意見をメールでお伝えしたり、1対1でお話しする機会をいただけるとありがたいです」のように、具体的な配慮としてお願いするのがポイントです。
一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも重要な選択肢です。
会議で発言できないという悩みは、決してあなたの能力が低いからではありません。特性や体調、過去の経験など、様々な要因が絡み合った結果です。
今回ご紹介したように、徹底した準備と少しの工夫で、心理的なハードルは大きく下げることができます。完璧を目指さず、まずは「簡単な質問を一つする」「議事録係をやってみる」など、小さな一歩から始めてみてください。
あなたの視点や意見は、チームにとって必ず価値があります。焦らず、自分のペースで、あなたらしい貢献の形を見つけていくことが、無理なく長く働き続けるための鍵となるでしょう。