コラム 2025年9月21日

職場での信頼関係構築|時間をかけて築く方法

「またミスをしてしまった」「周りに迷惑をかけているかもしれない」「今度こそ長く働きたいけれど、どうすれば…」うつやADHD、ASDなどの特性により、ケアレスミスやコミュニケーションの難しさから職場で孤立感や不安を抱え、早期退職を経験された方もいらっしゃるかもしれません。次の職場では無理なく、安心して長く働きたいと願うのは当然のことです。そのために不可欠なのが、職場での「信頼関係」です。しかし、信頼は一朝一夕に築けるものではありません。焦る必要はないのです。この記事では、自分のペースで、時間をかけて着実に信頼関係を築いていくための具体的な方法を、段階を追って詳しく解説します。

なぜ、職場での信頼関係がそれほど重要なのか?

信頼関係と聞くと、「仲良くすること」をイメージするかもしれませんが、それだけではありません。特に、働きづらさを感じている方にとって、信頼関係は安心して働くための「セーフティネット」そのものになります。

心理的安全性の確保

信頼できる関係性がある職場では、「こんなことを聞いたら馬鹿にされるかも」「ミスを報告したら激しく叱責されるかも」といった恐怖が和らぎます。これが「心理的安全性」です。心理的安全性が確保された環境では、分からないことを素直に質問でき、ミスをしても隠さずにすぐに報告・相談できるため、結果的に大きなトラブルを防ぎ、業務の質を高めることにつながります。

ストレスと不安の軽減

常に周囲の顔色をうかがい、完璧でいなければと気を張り詰めている状態は、心身を大きく消耗させます。信頼できる上司や同僚がいることで、「いざという時には助けを求められる」という安心感が生まれます。この安心感が、日々の業務に対する過度なプレッシャーや不安を軽減し、安定して働き続けるための土台となります。

業務パフォーマンスの向上と定着

信頼関係は、円滑な情報共有や協力体制を生み出します。例えば、「この件は〇〇さんの方が詳しいから聞いてみよう」「この作業は△△さんが苦手そうだから、少し手伝おう」といった自然な連携が可能になります。自分がチームの一員として認められ、貢献できているという感覚は、仕事へのモチベーションを高め、その職場に「定着したい」という気持ちを育む上で極めて重要です。

ステップ1:信頼関係の土台作り ―「自己理解」と「適切な自己開示」

他人との信頼関係を築く前に、まず最も重要なのは「自分自身を理解すること」です。自分の特性を客観的に把握し、それをどう周囲に伝えるかを考えることが、すべての始まりです。

自分の「取扱説明書」を作成する

これまでの経験を振り返り、自分の得意・不得意や、どのような状況でパフォーマンスが落ちるかを具体的に分析してみましょう。感情的に「自分はダメだ」と責めるのではなく、事実として整理することがポイントです。

  • 苦手なことの分析:
    • 例:複数の口頭指示が重なると、混乱して抜け漏れが発生する。
    • 例:騒がしい環境だと、集中力が散漫になりケアレスミスが増える。
    • 例:曖昧な指示(「いい感じによろしく」など)だと、何から手をつけていいか分からなくなる。
  • 得意なこと・強みの分析:
    • 例:一度ルールを覚えれば、誰よりも正確に定型作業をこなせる。
    • 例:特定の分野において、深く集中して調べ物をするのが得意。
    • 例:文章の誤字脱字を見つけるなど、細かいチェック作業は苦にならない。

伝える勇気を持つ「戦略的な自己開示」

自分の特性を理解したら、次にそれを「業務を円滑に進めるため」という前向きな目的で、適切な相手に伝えます。これを「自己開示」と言います。これは、単なる弱点の告白ではなく、自分の能力を最大限に発揮するための「協力依頼」です。

伝える相手は、まずは直属の上司やメンター、人事担当者など、業務上の配慮を相談しやすい立場の人から始めると良いでしょう。伝える際は、具体的な「状況」「困りごと」「希望する配慮」をセットで話すのが効果的です。

【自己開示の伝え方・例文】

「お忙しいところ恐れ入ります。業務をより正確に進めるためのご相談なのですが、以前の職場で、口頭でのご指示が複数重なった際に、混乱してしまいミスにつながることがございました。大変恐縮なのですが、もし可能でしたら、タスクのご依頼をチャットやメールなど、文字でいただけますと、抜け漏れなく確実に対応できますので、ご検討いただけますでしょうか。」

このように伝えることで、「できない」というネガティブな印象ではなく、「こうすれば、もっと貢献できる」というポジティブで建設的な姿勢を示すことができます。

ステップ2:時間をかけて信頼を築くための具体的な行動習慣

自己理解と自己開示の土台ができたら、日々の業務の中で着実に信頼を積み重ねていくフェーズに入ります。派手なアピールは必要ありません。当たり前と思われることを、誠実に続けることが何よりも大切です。

1. 基本の徹底:約束と責任を果たす

信頼の根幹は、「この人に任せれば大丈夫」という安心感です。以下の3つは、その安心感を育むための基本行動です。

  • 時間を守る:始業時間や会議の開始時間、約束の時間に遅れないことは、社会人としての基本です。もし遅れそうな場合は、分かった時点ですぐに連絡を入れましょう。
  • 納期を守る:任された仕事の期限は必ず守ります。もし、期限内に終わりそうにないと感じたら、ギリギリになってから言うのではなく、できるだけ早い段階で上司に相談してください。「このタスクですが、想定より調査に時間がかかっており、期日までの完了が難しいかもしれません。〇〇まで進んでいるのですが、優先順位や進め方についてご相談させていただけますか?」のように、現状と合わせて相談することが重要です。
  • ミスは正直に、迅速に報告する:ミスを隠すことは、信頼を最も損なう行為です。ミスに気づいたら、すぐに報告し、指示を仰ぎましょう。その際、感情的に謝るだけでなく、「申し訳ございません。〇〇の点でミスをしてしまいました。現在、△△のように一次対応をしておりますが、今後の対応についてご指示いただけますでしょうか」と、状況と現状の対応をセットで伝えると、問題解決に向けた前向きな姿勢が伝わります。

2. 丁寧で分かりやすいコミュニケーションを心がける

特に「報・連・相(報告・連絡・相談)」は、信頼関係を築く上で欠かせないコミュニケーションの基本です。自分の特性に合わせて、少し工夫してみましょう。

  • 報告(報):業務の進捗は、聞かれる前に自分からこまめに行いましょう。特にご自身の特性で記憶に不安がある方は、チャットや日報など「文字で残す」ことを習慣にすると、自分自身の備忘録にもなり一石二鳥です。
  • 連絡(連):自分に関わる情報だけでなく、チームメンバーにも関わる情報を適切に共有することで、「チームの一員」としての意識を示すことができます。
  • 相談(相):これが最も重要です。一人で抱え込まず、少しでも迷ったり分からなかったりした時点で、すぐに相談しましょう。「この業務の進め方について、A案とB案で迷っております。〇〇の観点から、どちらがより適切かご意見をいただけますか?」など、自分の考えを添えて質問すると、主体性も示すことができます。

3. 相手への敬意と感謝を示す

信頼は、一方通行では成り立ちません。相手を尊重する姿勢を示すことで、相手もあなたを尊重してくれるようになります。

  • 傾聴の姿勢:相手が話しているときは、途中で遮らずに最後まで耳を傾けましょう。相槌を打ったり、「つまり、〇〇ということですね?」と内容を要約して確認したりすることで、「あなたの話をしっかり聞いています」というメッセージが伝わります。
  • 「ありがとう」を具体的に伝える:何かを教えてもらったり、手伝ってもらったりした際は、ただ「ありがとうございます」と言うだけでなく、「〇〇さん、先日は△△の資料作成を手伝っていただき、ありがとうございました。おかげさまで無事に提出できました」のように、何に対して感謝しているのかを具体的に伝えましょう。
  • 相手の時間や仕事を尊重する:質問や相談をする際は、「お忙しいところ恐縮ですが、今5分ほどよろしいでしょうか?」と、相手の状況を気遣う一言を添えるだけで、印象は大きく変わります。

ステップ3:困難な状況への対処法 ― ミスや叱責を乗り越える力

どれだけ気をつけていても、ミスをしてしまったり、注意を受けたりすることはあります。大切なのは、その後の対応です。パニックにならず、次につながる行動をとることが、むしろ信頼を深めるきっかけにもなり得ます。

またミスをしてしまった時

  1. 冷静になる:まずは深呼吸しましょう。「またやってしまった」と自分を責める思考の渦に飲み込まれないようにします。
  2. 正直に報告する:上記「基本の徹底」で解説した通り、速やかに、誠実に報告します。
  3. 原因分析と対策を考える:報告後、なぜそのミスが起きたのかを客観的に分析します。「急いでいたから」「指示を勘違いしていたから」など原因を特定し、「今後はダブルチェックの時間を必ず取る」「指示は必ず復唱して確認する」といった具体的な再発防止策を考えます。
  4. 対策を共有する:考えた対策を上司に共有し、「今回のミスは〇〇が原因でした。つきましては、今後は△△という対策を取ることで再発防止に努めたいと思いますが、いかがでしょうか?」と相談しましょう。この行動は、あなたの責任感と改善意欲を強く示すことになります。

叱責されてしまった時

叱責されることは誰にとっても辛い経験ですが、感情的にならず、成長の機会と捉えるための心構えが重要です。

  • まずは傾聴に徹する:相手が感情的になっていたとしても、まずは言い分を最後まで聞きます。途中で口を挟んだり、言い訳をしたりすると、火に油を注ぐことになりかねません。
  • 事実と感情を切り分ける:相手の「怒り」という感情と、「仕事上の改善点」という事実を頭の中で切り離して聞くように努めます。「ご指摘ありがとうございます」と一度受け止める姿勢を見せましょう。
  • 改善点を確認する:相手の話が落ち着いたら、「今後のために、具体的にどのように改善すればよいか、改めて教えていただけますでしょうか?」と、次に取るべき行動について具体的に確認します。これにより、前向きな姿勢を示すことができます。
  • セルフケアを忘れない:叱責された後は、心が疲弊しています。一人になれる場所で少し休憩したり、信頼できる友人や家族、あるいは専門のカウンセラーに話を聞いてもらったりして、気持ちをリセットする時間を取りましょう。一つの出来事で自分の価値がすべて決まるわけではないことを、忘れないでください。

まとめ:焦らず、自分らしく、一歩ずつ

職場での信頼関係は、短距離走ではなく、長い時間をかけてゴールを目指すマラソンのようなものです。特に、これまでの経験から自信を失いかけている時は、焦りや不安を感じやすいかもしれません。

しかし、大切なのは、完璧であることではありません。誠実であること、そして、自分と相手を理解しようと努めることです。今回ご紹介したステップは、すぐにすべてを実践する必要はありません。まずは「自分を理解する」ことから、あるいは「ありがとうを具体的に伝えてみる」ことから、できそうな一つを始めてみてください。

その小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな信頼となり、あなたにとって働きやすい環境を築く礎となります。あなたらしい働き方で、長く安心して活躍できる場所は必ず見つかります。この記事が、そのための確かな一歩を踏み出す助けとなれば幸いです。

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