コラム 2026年2月28日

「文章問題が苦手」は克服できる。発達障害の特性を理解し、強みに変える就労移行支援のアプローチ

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就労移行支援 診断

「算数の文章問題になると、途端に分からなくなる」「マニュアルを読んでも、何が書いてあるか頭に入ってこない」「会議で話が長くなると、要点を忘れてしまう」。こうした悩みを抱え、仕事や学業で困難を感じている方はいませんか?

もしあなたが発達障害(ASD、ADHD、LDなど)の特性をお持ちなら、その「苦手」は、決してあなたの努力不足や能力の低さが原因ではありません。脳の認知機能の特性によるものである可能性が高いのです。私たち就労移行支援事業所は、そうした一人ひとりの特性を深く理解し、困難を乗り越え、自分らしい働き方を見つけるための専門的なサポートを提供しています。

この記事では、就労移行支援の視点から、「文章問題が苦手」という困難の背景にある発達障害の特性を解説し、具体的な対策から専門的な支援までを網羅的にお伝えします。この記事を読み終える頃には、あなたの「苦手」が「強み」に変わる未来への第一歩が見えているはずです。

なぜ文章問題が苦手なのか?発達障害の特性と脳の仕組み

文章問題が苦手な背景には、単に国語力や計算力の問題だけではなく、発達障害の特性と関連する脳の機能が影響していることが多くあります。特に「ワーキングメモリ」「実行機能」、そして「学習障害(LD/SLD)」の3つの側面から理解を深めることが重要です。

ワーキングメモリの課題:情報を一時的に記憶し、処理する力

ワーキングメモリとは、情報を一時的に記憶しながら、同時にそれを処理するための脳の機能です。よく「脳のメモ帳」に例えられます。文章問題を解く際には、このワーキングメモリがフル活用されます。

例えば、「リンゴが23個あります。大人8人で同じ数だけ分けて、余った数を子供3人に同じ数だけ分けてあげます。子供がもらえるリンゴの数を求めなさい」という問題を考えてみましょう。この問題を解くためには、「23個」「8人」「余り」「3人」といった複数の情報を一時的に記憶し、「23÷8」の計算を行い、その結果(余り)を次の計算に使う、という複雑な処理が必要です。

ADHDの特性がある人は、このワーキングメモリの働きが弱い傾向があり、情報を保持し続けることや、複数の情報を同時に処理することが苦手な場合があります。学術研究においても、ADHDと読解力の困難との間にはワーキングメモリが大きく関わっていることが示唆されています。その結果、文章を読んでいる途中で最初の内容を忘れてしまったり、指示が複雑になると混乱してしまったりするのです。

なお、ADHDの診断がある場合、ワーキングメモリの機能を助ける薬物療法も選択肢の一つです。あるクリニックの見解によれば、処方薬によってワーキングメモリの働きが改善されることが報告されており、特にビバンセやコンサータといった薬が比較的高い改善度を示すとされています。もちろん、服薬は医師との相談が不可欠ですが、こうした医学的アプローチも困難を軽減する一つの方法として知っておくとよいでしょう。

実行機能の課題:「思考の司令塔」の働き

実行機能とは、目標達成のために思考や行動を管理・制御する、いわば「脳の司令塔」のような役割を担う機能です。計画を立てる、段取りを考える、優先順位をつける、行動を切り替えるといった働きが含まれます。

ある当事者の方は、この実行機能をスマートフォンのOS(オペレーティングシステム)に例えています。ワーキングメモリがメモリ容量(RAM)だとすれば、実行機能はiOSそのもの。複数のアプリ(思考や行動)が同時に立ち上がったとき、どのアプリを優先して処理するかを管理するのがOSの役割です。実行機能に課題があると、この管理がうまくいかず、「相手の話を聞く」「要点を考える」「次に何を言うか準備する」といった複数のタスクが同時に発生する文章問題や会話の場面で、本来最も重要な「問題を解く」「要件を伝える」というタスクが後回しにされてしまうのです。

この特性により、ADHDのある人は話が脱線しやすかったり、物事を順序立てて考えるのが苦手だったりします。文章問題の複雑な条件や手順を整理し、計画的に解き進めることが困難になるのは、この実行機能の課題が影響していると考えられます。

学習障害(LD/SLD)の特性:読む、書く、計算する力の特異的な困難

学習障害(LD/SLD:限局性学習症)とは、全般的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」といった特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す発達障害です。

  • 読字障害(ディスレクシア):文字を正確に、または流暢に読むことが難しい。単語を飛ばして読んだり、読み間違えたりする。
  • 書字表出障害(ディスグラフィア):文字を正確に書くことが難しい。鏡文字になったり、形を思い出せなかったりする。
  • 算数障害(ディスカリキュリア):数の概念の理解や計算が難しい。繰り上がり・繰り下がりで混乱したり、図形やグラフの理解が困難だったりする。

これらの特性は、文章問題を解く上での直接的な障壁となります。例えば、読字障害があれば問題文を正しく読み取ることが困難ですし、算数障害があれば立式はできても計算でつまずいてしまいます。本人の努力とは関係なく、脳の機能的な問題であるため、「何度も読ませる」「たくさん計算練習をさせる」といった根性論では解決しません。専門的な支援や、後述するようなツールの活用といった合理的配慮が不可欠です。

苦手は克服できる!明日からできる具体的な対策とトレーニング

文章問題への苦手意識は、脳の特性に合わせた工夫とトレーニングによって、着実に軽減していくことが可能です。ここでは、個人で取り組める具体的な対策を3つのアプローチからご紹介します。

課題を「見える化」し、分解する

ワーキングメモリや実行機能への負担を減らす最も効果的な方法は、頭の中だけで処理しようとせず、情報を目に見える形に整理することです。

  • キーワードに印をつける:問題文の中の数字、登場人物、求められていることなど、重要な部分に下線を引いたり、丸で囲んだりします。これにより、注意を向けるべき情報が明確になります。
  • 情報を書き出す・リスト化する:問題文の条件や、やるべきことを箇条書きで書き出します。ADHDの特性で話がまとまりにくい人も、事前にポイントを書き出すことで、思考が整理され、落ち着いて説明できるようになります。
  • 図や絵にする:文章だけではイメージしにくい関係性を、図やイラストで表現します。視覚的な情報の方が整理しやすい人にとっては、問題の構造が直感的に理解できるようになります。
  • 課題を分解(スモールステップ化)する:複雑な問題は、一度に解こうとせず、「①まずAを求める」「②次にその結果を使ってBを計算する」というように、小さなステップに分解します。一つひとつのタスクを確実にクリアしていくことで、達成感を得ながら最終的なゴールにたどり着けます。

認知機能を鍛えるトレーニング

日常生活の中で意識的に脳を使うことで、ワーキングメモリや実行機能といった認知機能を鍛えることが期待できます。楽しみながら続けられるものを見つけるのがポイントです。

  • ワーキングメモリトレーニング:記憶力を鍛える脳トレは、脳の働きを活性化させると言われています。例えば、短いニュースを読んでその内容を要約する、買い物のリストを覚えて買い物をする、歌詞を覚える、などが手軽なトレーニングになります。専門的なプログラムとしては、科学的根拠に基づいた「Cogmed(コグメド)」などが知られています。
  • ビジョントレーニング:目の動きをスムーズにし、見た情報を正確に脳に伝える力を養うトレーニングです。特に、文字を順に追うのが苦手な場合に有効です
    • 追従性眼球運動:動く指やペン先を目でゆっくり追う。
    • 跳躍性眼球運動:ランダムに並んだ数字を順番に目で探す。

    これらのトレーニングは、読書スピードや正確性の向上に繋がります。

  • 語彙を増やす:知っている言葉が増えると、文章の理解度が格段に上がります。読書やクイズなどを通じて、楽しみながら語彙を増やすことも、文章問題の克服に繋がる大切なトレーニングです。

テクノロジーとツールを活用する

現代では、認知特性による困難を補うための便利なツールが数多く存在します。これらを積極的に活用することで、学習や仕事の負担を大幅に軽減できます。

  • 読み上げソフト・音声入力:読むのが苦手な場合は、教科書や資料を読み上げてくれるアプリ(テキスト・トゥ・スピーチ)を活用しましょう。逆に、書くのが苦手な場合は、話した言葉を文字にしてくれる音声入力が役立ちます。
  • UD(ユニバーサルデザイン)フォント:文字の形が分かりやすく、読み間違えにくいようにデザインされたフォントです。線の太さが均一であったり、濁点・半濁点が大きくデザインされていたりと、可読性を高める工夫がされています。書類やテストでUDフォントを使用してもらうことは、有効な合理的配慮の一つです。
  • 無学年式オンライン教材:個人の学力やペースに合わせて学習できるオンライン教材も有効です。例えば「すらら」のような教材は、学年に関係なく、つまずいたところまでさかのぼって学習できます。アニメーションや音声を使った多感覚的な学習は、ワーキングメモリを補助し、楽しく学習を続ける工夫がされています。

就労移行支援事業所だからできる、専門的サポート

個人での対策に加えて、専門家のサポートを受けることで、課題解決はさらに加速します。私たち就労移行支援事業所は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスとして、発達障害のある方が自分らしく働くための準備を、一人ひとりに合わせてオーダーメイドで支援しています。

ステップ1:自己理解と「自分の取扱説明書」の作成

支援の第一歩は、専門スタッフとの面談や各種アセスメント(評価)を通じて、「自分自身を客観的に理解すること」です。 どのような状況で困難を感じるのか、逆にどのような環境なら力を発揮できるのかを言語化し、自分だけの「取扱説明書」を作成していきます。

このプロセスを通じて、「私は口頭での長い指示は覚えきれませんが、箇条書きのメモがあれば正確に作業できます」といったように、自分の得意・不得意と、必要な配慮を具体的に整理することができます。これは、後の就職活動や職場で円滑なコミュニケーションを図るための重要な土台となります。

また、2025年10月からは、就労系の福祉サービス利用を希望する方などを対象に、自分に合った働き方や支援機関を見極めるための「就労選択支援」という新しいサービスが始まります。このサービスでは、アセスメントを通じて本人の希望や適性を明確にし、ミスマッチの少ない進路選択をサポートします。

ステップ2:課題解決スキルの習得と実践

自己理解が深まったら、次は具体的なスキルを身につける段階です。就労移行支援事業所では、個々の課題に合わせた多彩なトレーニングプログラムを提供しています。

  • タスク管理・時間管理:ToDoリストやスケジュールアプリの活用法を学び、模擬オフィス環境で複数のタスクを計画的にこなす練習をします。
  • コミュニケーション訓練(SST):報告・連絡・相談の仕方や、質問の仕方、雑談への参加の仕方などを、ロールプレイング形式で実践的に学びます。
  • PCスキル・専門スキル:基本的なPC操作から、データ分析やプログラミングといった専門分野まで、本人の興味や適性に合わせてスキルを伸ばすことができます。
  • 職場実習(インターンシップ):提携企業での実習を通じて、実際の職場で自分のスキルが通用するかを試し、働くことへの自信をつけます。

ステップ3:合理的配慮の整理と職場への伝え方

自分らしく、無理なく働き続けるためには、職場に自身の特性を理解してもらい、必要なサポート(合理的配慮)を得ることが非常に重要です。2024年4月からは、事業者に対して合理的配慮の提供が法的義務となり、より働きやすい環境を求めやすくなりました。

就労移行支援では、自己分析の結果を基に、どのような配慮が必要かを具体的に整理し、それを企業側に上手に伝える練習も行います。例えば、「曖昧な指示が苦手です」と伝えるだけでなく、「可能であれば、指示をチャットなどの文章でいただけると、間違いなく業務を遂行できます」といったように、前向きかつ具体的な代替案として伝える方法を学びます。

実際に、ある就労移行支援事業所の卒業生は、お菓子の補充業務で商品の種類が増えると戸惑ってしまう特性がありました。そこで、本人と職場が相談し、「什器自体を大きくして、細かく個数を決める必要をなくす」という環境調整を行った結果、スムーズに作業できるようになったという成功事例があります。このように、本人だけの努力に頼るのではなく、職場と対話し、共に解決策を見つけるプロセスを私たちはサポートします。

まとめ:一人で悩まず、専門家と共に「できる」を見つけよう

「文章問題が苦手」という困難は、決して個人の能力の問題ではなく、ワーキングメモリや実行機能といった脳の特性に起因することが多い、ということをご理解いただけたでしょうか。

【本記事の重要ポイント】

  • 文章問題の苦手さの背景には、ワーキングメモリ、実行機能、学習障害(LD/SLD)といった発達障害の特性が関わっている。
  • 「見える化」「分解」「ツールの活用」といった工夫で、認知機能の負担は軽減できる。
  • 就労移行支援事業所では、「自己理解」「スキル習得」「合理的配慮の整理」というステップで、専門的なサポートが受けられる。

あなたの「苦手」は、適切な理解とサポート、そして環境さえ整えば、問題ではなくなります。それどころか、一つのことに深く集中できる力や、ユニークな視点といった、他の人にはない「強み」に変わる可能性を秘めています。

もしあなたが今、一人で悩み、自信を失いかけているのなら、ぜひ一度、私たち就労移行支援事業所にご相談ください。専門のスタッフがあなたの話に耳を傾け、あなたの特性を理解し、あなたに合った働き方、あなただけの「取扱説明書」を一緒に見つけていきます。未来への扉を開くのは、ほんの少しの勇気と、専門家への「相談」という第一歩です。

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