「自分は周りの人と同じようにできない」「この短所があるから、仕事なんて無理だ」。就職活動や日々の生活の中で、ご自身の特性や障害について、このように悩んでいませんか?私たち就労移行支援事業所には、そうした不安を抱えた多くの方が相談に来られます。
しかし、私たちは長年の支援経験から確信しています。あなたが「短所」だと思っているその特性は、視点を変え、環境を整えることで、他の誰にも真似できない「長所」や「武器」に変わり得るのです。この記事では、就労移行支援事業所の立場から、障害特性を強みに変える「リフレーミング」という考え方と、そのための具体的なサポートについて、成功事例を交えながら詳しく解説します。
障害者支援の世界では、近年、支援のあり方そのものが大きく変化しています。かつては「できないこと」を補う「医療モデル」が主流でしたが、現在では本人の「できること」や「強み」に着目する「ストレングスモデル」が中心的な考え方となっています。
ストレングスモデルとは、支援対象者が本来持っている強み(ストレングス)、能力、才能、希望、そして乗り越えてきた経験などに焦点を当てる支援アプローチです。問題や欠点を分析するのではなく、「その人らしさ」や「その人が持つ力」を起点に支援を組み立てます。
ストレングスモデルでは「病理ではなく個人の強みに焦点を当てる」ことが原則の一つとされており、この点がストレングス視点の支援を特徴づける本質だとされています。つまり、問題よりも人の持つ力に注目し、そこを起点に支援を考えていくのがストレングス視点なのです。
この考え方は、厚生労働省も障害福祉サービスの基本として推進しており、制度的にも「できないことを補うだけでなく、できることを伸ばす」発想が重視されています。なぜなら、自分の強みを認識し、それを活かす経験は、自己肯定感を高め、就労へのモチベーションを大きく向上させるからです。
ストレングスモデルと密接に関連するのが「エンパワメント」という概念です。これは、人が本来持っている力を引き出し、発揮できるように支援することを指します。私たちは、支援者が一方的に「してあげる」のではなく、ご本人が「自分の人生の主役」として、自らの意思で選択し、決定していくプロセスを尊重します。
自分の強みを活かして課題を乗り越えたという「成功体験」を積み重ねること。それこそが、失いかけていた自信を取り戻し、「自分にもできることがある」という前向きな姿勢を引き出す鍵となるのです。就労移行支援事業所は、まさにこのエンパワメントを実践する場です。
「リフレーミング」とは、物事を捉える枠組み(フレーム)を変えることで、ネガティブな側面をポジティブに捉え直す心理学的なアプローチです。ここでは、代表的な障害特性をどのように「強み」として捉え直し、仕事に活かせるかを具体的に見ていきましょう。
ASDの特性は、一見するとコミュニケーションの難しさや柔軟性の欠如と捉えられがちです。しかし、これらは環境次第で卓越した能力に変わります。
このように、ASDの特性は「弱み」ではなく、特定の業務において非常に高い価値を持つ「ユニークな才能」なのです。
「落ち着きがない」「ミスが多い」と悩むことの多いADHDの特性も、見方を変えればビジネスの世界で求められる貴重な資質です。
ルーティンワークが苦手でも、変化に富んだ環境や創造性が求められる場面では、ADHDの特性が大きな推進力となります。
うつ病や不安障害などの経験も、仕事における強みに転換できます。辛い経験を通じて培われた能力は、他の人にはない深みと価値を持ちます。
これらの特性は、一見ネガティブに見えても、実は組織のリスクを低減し、思慮深い判断を促す重要な能力なのです。
では、就労移行支援事業所では、具体的にどのようにして「短所」を「長所」に変えるサポートを行っているのでしょうか。そのプロセスは、大きく4つのステップに分けられます。
まず最初に行うのは、支援員との面談や様々なプログラムを通じて、ご自身の特性を客観的に理解する作業です。これは、いわば「自分自身の取扱説明書」を作成するプロセスです。アセスメントシートなどを活用し、得意なこと、苦手なこと、ストレスを感じる状況、集中できる環境などを言語化していきます。目標は、「私は〇〇障害です」で終わるのではなく、「私は△△な環境で、□□という配慮があれば、☆☆の分野で高い能力を発揮できます」と具体的に説明できる状態になることです。
多くの事業所では、ビジネスマナー、PCスキル(Word, Excelなど)、コミュニケーション訓練(SST)など、就職に必要なスキルを学ぶプログラムが用意されています。重要なのは、ここが「何度失敗しても大丈夫なシミュレーション空間」であることです。自分のペースで学び、「できた!」という小さな成功体験を積み重ねることで、就労への自信を少しずつ育んでいきます。
自己理解とスキル習得が進んだら、協力企業での「職場実習」に挑戦します。これは、書類や面接だけではわからない「職場環境との相性」を実際に体感できる、就職活動において最も重要なプロセスです。実習を通じて、自分の強みが本当に活かせるか、どんな配慮があればもっと能力を発揮できるかを確認します。これは自分をアピールする場であると同時に、「自分がその企業を評価する場」でもあります。
就職活動が本格化すると、履歴書の添削や模擬面接といったサポートが中心になります。ここで鍵となるのが、自分の強みと、その強みを活かすために必要な配慮をセットで伝えるトレーニングです。これは「できないことへの言い訳」ではなく、自分の能力を最大限に発揮するための「前向きな提案」です。例えば、「高い集中力で一つの作業に没頭できます。その能力を最大限活かすため、マルチタスクを避け、一つの作業に集中できる静かな環境をご配慮いただけると、より貢献できます」といった形で伝えます。支援員が面接に同行し、この説明をサポートすることも可能です。
近年、企業側の障害者雇用に対する考え方も大きく変わってきています。単に法定雇用率を達成するための「受け身」の雇用から、障害のある社員を重要な「戦力」として捉え、その能力を最大限に活かそうとする「攻め」の雇用へとシフトしているのです。
その背景には、2024年4月から合理的配慮の提供が法的義務化されたこともありますが、それ以上に、障害のある方のユニークな能力が企業の成長に貢献するという認識が広がっているからです。例えば、ソフトウェアテスト事業を行うある会社は、発達障害のある方の「間違いを見つける力」や「集中力」を活かし、200を超える多様な業務を提供することで、85.2%という高い定着率を実現しています。
障害特性による突出したスキルや強みを持つ人材も少なくありません。能力の凸凹が大きい障害者は、これまでマイナス面だけに着目されるケースがほとんどでした。しかし近年では、能力の秀でている部分に着目することで、一般雇用よりも戦力になる人材を確保しやすいケースがあることも分かってきています。
強みを活かせる業務に配置された社員は、高いパフォーマンスを発揮し、仕事にやりがいを感じるため定着率が向上します。その活躍が周囲の社員の障害への理解を深め、組織全体の活性化につながる。このような好循環を生み出すことが、現代の企業にとって重要な経営戦略となっているのです。
あなたが「短所」だと思い、隠そうとしてきたその特性は、見方を変えれば、他の誰にもない輝く「長所」です。その事実に気づき、受け入れ、そして活かす方法を見つけることが、あなたらしい働き方を実現するための第一歩です。
しかし、この視点の転換を一人で行うのは簡単ではありません。過去の経験から自信を失っていたり、自分の強みが何なのか客観的に見えなくなっているかもしれません。
だからこそ、私たち就労移行支援事業所のような専門機関があります。私たちは、あなたの伴走者として、あなたの「取扱説明書」を一緒に作り、最高の「武器」に磨き上げ、その武器を最大限に活かせる「戦場(職場)」を見つけるお手伝いをします。
もしあなたが今、一人で悩んでいるなら、ぜひ一度、お近くの就労移行支援事業所に見学・相談に来てみてください。「働きたい」というあなたの気持ちを、私たちは全力でサポートします。