「仕事、もう辞めたい…」
毎朝、重い体を引きずって職場へ向かい、夜は疲れ果てて眠るだけの日々。ふと、そんな思いが頭をよぎることはありませんか。人間関係のストレス、終わりの見えない業務、正当に評価されないもどかしさ。理由は人それぞれですが、その苦しみは決して他人事ではありません。
私たち就労移行支援事業所は、障害や心身の不調を抱えながらも「働きたい」と願う多くの方々と日々向き合っています。その中で、「仕事を辞めたい」という切実な悩みが、新しいキャリアや自分らしい働き方を見つけるための重要な転機になり得ることを、私たちは知っています。
この記事では、あなたがなぜ「辞めたい」と感じるのかを深掘りし、退職を決断する前に考えるべきこと、そして、もしあなたが心身の不調を抱えているなら、次の一歩をどう踏み出せばよいのかを、専門的な視点から具体的にお伝えします。あなたのその苦しみが、未来への希望に変わるきっかけとなれば幸いです。
人が「仕事を辞めたい」と感じる理由は、一つではありません。複数の要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。多くの調査で、離職理由の上位には以下のような項目が挙げられます。
これらの不満は、仕事へのモチベーションを著しく低下させ、心身に大きなストレスを与えます。特に、真面目で責任感の強い人ほど、一人で抱え込んでしまいがちです。
しかし、近年の研究では、単なる不満の強さだけが離職の直接的な引き金ではないことが示唆されています。より重要なのは「この不満は将来的にも解消されないだろう」という見通し、すなわち「未来展望」です。
パーソル総合研究所の調査によると、会社への不満が「変わる見込みがある」と感じている人は、たとえ不満が強くても離職意向は低く抑えられます。一方で、「変わる見込みがない」と感じている人は、不満の強さに比例して離職意向が急激に高まることがわかっています。
これは、心理学者ヴィクトール・フランクルが『夜と霧』で描いた、強制収容所でのエピソードを彷彿とさせます。「クリスマスまでには解放される」という希望が打ち砕かれた時、多くの人々が生きる力を失ったように、未来への希望が失われたとき、人は現在の困難に耐えられなくなるのです。
つまり、人を離職に強く駆り立てるのは、不満そのものよりも、その不満が「どうせ変わらない」という諦めや絶望感なのです。
「辞めたい」という気持ちが強くなると、衝動的に退職届を出してしまいたくなるかもしれません。しかし、その前に一度立ち止まり、冷静に状況を整理することが、後悔しないための第一歩です。
まず最も大切なのは、あなた自身の心と体の健康です。うつ病などの精神的な不調を抱えている場合、「考え方が極端になり、実際よりも否定的に物事を捉えてしまう」傾向があります。このような状態で退職という大きな決断を一人で下すのは非常に危険です。
もし、不眠、食欲不振、気分の落ち込み、何事にも興味が持てないといった状態が続いているなら、まずは心療内科や精神科の専門医に相談してください。医師の客観的な診断と助言を得ることで、現在の自分の状態を正しく理解し、適切な次の一手を考えることができます。
退職後の生活を支える経済的な基盤も、事前に確認しておくべき重要なポイントです。休職や退職に伴い収入が途絶えることへの不安は、冷静な判断を妨げる大きな要因となります。幸い、日本にはセーフティネットとなる公的制度がいくつか存在します。
これらの制度を利用するには、会社や医師の証明が必要になる場合があります。退職を決める前に、会社の担当部署やハローワーク、お住まいの市区町村の窓口で詳細を確認しておきましょう。
心身の不調が原因で「辞めたい」と考えている場合、すぐに退職するのではなく、「休職」という選択肢があります。一度仕事から離れて心と体を休ませ、今後の働き方についてじっくり考える時間を持つことは非常に有益です。
そして、この休職期間中に活用できるのが「リワーク(復職支援)プログラム」です。
リワークとは、うつ病などの精神疾患で休職している方が、職場復帰に向けてリハビリテーションを行うプログラムのことです。単に職場に戻ることだけを目的とせず、再発・再休職を防ぎ、安定して働き続けることを目指します。厚生労働省の研究班の調査では、うつ病で休職した人の約47.1%が5年以内に再休職するというデータもあり、再発防止の取り組みの重要性がわかります。
リワーク支援では、主に以下のような取り組みが行われます。
リワーク支援は、実施主体によっていくつかの種類に分かれます。医療機関が行う「医療リワーク」、地域障害者職業センターが行う支援、そして私たちのような福祉サービス事業所が行う「福祉リワーク」などがあり、それぞれに特徴や費用が異なります。休職中の方は、主治医や会社の産業保健スタッフと相談し、自分に合ったリワーク支援を探してみましょう。
休職やリワーク支援は、基本的に「元の職場への復帰」を前提としています。しかし、「今の職場に戻るのは難しい」「環境を変えて再出発したい」と考える方も少なくないでしょう。特に、発達障害や精神障害などが原因で現在の職場に適応できなかった場合、自分に合った環境で再就職を目指すことが、長期的なキャリア形成において非常に重要です。
そのような方々のためにあるのが、「就労移行支援」という福祉サービスです。
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づき、障害や難病のある方が一般企業へ就職し、働き続けるために必要な知識やスキルを身につけるための訓練やサポートを提供するサービスです。
全国に3,000以上の事業所があり、多くの方がこのサービスを利用して、新たなキャリアをスタートさせています。
就労移行支援は、以下の条件を満たす方が利用できます。
重要なのは、障害者手帳の有無は必須ではないということです。医師の診断書や意見書など、支援の必要性が認められれば利用できる場合があります。
提供される支援内容は事業所によって特色がありますが、主に以下のようなサポートを包括的に行います。
「リワーク支援」と「就労移行支援」は混同されがちですが、その目的には明確な違いがあります。
端的に言えば、リワーク支援のゴールが「復職(元の職場に戻る)」であるのに対し、就労移行支援のゴールは「就職(新しい職場を見つける)」です。
現在休職中で元の職場に戻ることを目指す方はリワーク支援が、すでに離職している方や、現在の職場への復帰ではなく転職を考えている方は就労移行支援が適していると言えます。
| 項目 | 就労移行支援 | リワーク支援 |
|---|---|---|
| 目的 | 一般企業への新規就職 | 元の職場への復帰と再休職防止 |
| 対象者 | 障害や難病があり、一般就労を目指す離職中の方(休職中の利用も一部可能) | 主に精神疾患で休職中の方 |
| 主な内容 | 職業訓練、自己分析、就職活動サポート、職場開拓、定着支援 | 生活リズム改善、ストレス対処法、認知行動療法、コミュニケーション訓練 |
| 利用期間 | 原則最長2年 | 数ヶ月〜1年程度(プログラムによる) |
就労移行支援は福祉サービスであるため、利用料金の自己負担は前年度の世帯収入に応じて決まります。多くの場合、負担は少なく、安心して利用できる仕組みになっています。
具体的には、生活保護受給世帯や住民税非課税世帯の方は自己負担なし(0円)で利用できます。課税世帯であっても、収入に応じて月々の負担上限額が定められており、例えば世帯年収がおおむね600万円未満の場合は月額9,300円が上限となります。利用日数に関わらず、この上限額を超えることはありません。
多くの事業所では、利用者の約9割が自己負担なしでサービスを利用しているというデータもあり、経済的な心配をせずに、再就職に向けた準備に集中できる環境が整っています。
就労移行支援を利用することで、一人では困難だった就職を実現し、自分らしい働き方を見つけた方々がたくさんいます。ここでは、具体的な事例をいくつかご紹介します。
成功事例①:長年のブランクを乗り越え、社会福祉士の道へ
Aさんは、長年のブランクがあり、再就職に不安を抱えていました。就労移行支援事業所で支援員と共に自己分析を行い、過去の経験や興味を整理。その中で「人の役に立ちたい」という思いを再確認し、社会福祉士の資格取得という目標を設定しました。学習サポートやコミュニケーション訓練を経て自信をつけ、見事資格を取得。現在は社会福祉士として、支援を必要とする方々のために活躍しています。
成功事例②:面接への苦手意識を克服し、短期間で内定を獲得
Bさん(20代女性)は、一人での就職活動がうまくいかず、特に面接に強い苦手意識を持っていました。事業所で模擬面接を繰り返し実施。「質問に対して結論から端的に答える」練習を重ねることで、落ち着いて話せるようになりました。わずか数週間の訓練で自信をつけ、第一志望の企業から内定を獲得しました。
ある20代の女性は、発達障害とうつ病を抱え、約1年4ヶ月間、就労移行支援を利用しました。彼女の就職活動は、焦らずじっくりと自分と向き合うことから始まりました。
利用開始から約1年間は、生活リズムの安定とスキルの訓練に集中。その後、支援員との自己分析を通じて自分の得意・不得意を整理し、「職種」よりも「自分に合った働き方ができるか」を軸に企業研究を進めました。履歴書作成や面接練習を重ね、本格的な就職活動を開始してから約1ヶ月半で内定を獲得することができました。
この事例は、就労移行支援が単に就職活動のテクニックを教える場所ではなく、自分自身を深く理解し、長期的な視点でキャリアを築くための土台作りの場であることを示しています。
就職はゴールではありません。むしろ、新しいキャリアのスタートです。特に、障害や病気を抱えながら働く場合、就職後に新たな壁にぶつかることも少なくありません。「新しい業務についていけるか」「職場の人間関係はうまくいくか」「生活リズムが崩れないか」といった不安は尽きないものです。
こうした就職後の課題に対応し、長く安定して働き続けることをサポートするのが「就労定着支援」です。
これは、就労移行支援などを利用して就職した方を対象とした、もう一つの重要な福祉サービスです。就職してから7ヶ月目から利用を開始でき、最長で3年間、専門の支援員によるサポートを受けることができます。
具体的な支援内容は以下の通りです。
就労移行支援から就労定着支援へと、切れ目のないサポート体制があることで、利用者は安心して新しい環境に飛び込み、長期的にキャリアを継続していくことが可能になります。
「仕事を辞めたい」という思いは、あなたからのSOSサインです。そのサインを無視せず、まずは自分の心と体の声に耳を傾けてください。そして、決して一人で抱え込まないでください。
この記事でご紹介したように、あなたの状況に応じて活用できる様々な選択肢や公的支援制度があります。
特に、障害や心身の不調が原因で働きづらさを感じているのであれば、就労移行支援事業所はあなたの強力な味方になります。私たちは、職業訓練や就職活動のサポートはもちろん、あなたが自分自身の強みや可能性に気づき、自信を持って社会で活躍できるよう、一人ひとりに寄り添った支援を提供します。
多くの就労移行支援事業所では、無料で見学や個別相談を受け付けています。まずは一歩、話を聞いてみることから始めてみませんか。その一歩が、あなたの未来を大きく変えるかもしれません。